部族長会議 1
ヒクソスの未来は果たして…メリシャは自分の能力を使います。
「リネア、『見て』もいいかな?」
夕暮れ近く、メリシャは少し遠慮がちにリネアに訊いた。
フィル=妲己は、少し勘を取り戻すと言って、王城の屋根の上で大刀の鍛錬中。部屋にいるのはメリシャとリネアだけだ。
「未来視を使うのですか?」
窓際に立って外の風景を眺めていたリネアが、不思議そうに振り返る。
「うん、ヒクソスの未来がどうなるのか。もしかしたら、ボクが王になっても…何も変わらない…みんなを助けてあげられないんじゃないかと思って…」
「はい…それでメリシャの気持ちが晴れるのなら、いいですよ。でも、たくさんの血が流れる未来もあるでしょう。大丈夫ですか?」
リネアは微笑みながらも心配そうな口調で言った。
メリシャとて、もう幼子ではない。フィルもリネアも、メリシャが未来を『見る』ことに、以前ほど神経質にはならなくなっていたが、それでもやはり心配ではある。
「ありがとう。大丈夫だよ」
にこっと笑ってメリシャは頷く。
「メリシャ、こちらへ」
リネアは、長椅子に座るメリシャの隣に腰を降ろしてメリシャの身体を引き寄せる。ぽてんと倒れたメリシャはリネアに膝枕されている格好になった。
「私が付いています。安心して『見』なさい」
「うん」
リネアの温もりを感じながら、メリシャはゆっくりと全身の目を開いた。孔雀の羽根を模した模様に紛れていたメリシャの百眼は、それぞれ虚空を見つめ、メリシャの脳裏に未来の出来事を映し出す。
ある未来では、ヒクソスがメリシャのもとにまとまれず内戦状態となり、多くの民の命が失われた。
ある未来では、ヒクソスがメネス王国を支配して傲慢な支配者と化し、メネス王国の民たちから憎まれることになった。
ある未来では、ヒクソスとメネス王国の戦争が長期化し、双方の民が長年に渡って苦しむことになった。
ある未来では、ヒクソスとメネス王国がひとつの国としてまとまり、かつてのサエイレムを思わせる賑わいを見せていた。
ある未来では、フィル達がメネス王国を屈服させたものの、ヒクソスは部族同士の内乱に陥り、その隙を突いて別の国からの侵略が始まった。
ある未来では、メネス王国との争いの最中にメリシャが暗殺されてしまい、怒り狂ったフィルが両国を滅亡へと追い込んだ。
ある未来では、……
どのくらい見ていただろう。どちらかという良くない未来の方が多かった。
元々、メリシャの未来視は良くない未来を見る方が多い。未来がどうなるのか不安な状況で『見る』のだから、それも当然なのかもしれない。だが、良い未来も幾つもあった。
メリシャの未来視は『見る』だけだ。まるで演劇でも見るように、第三者の視点で未来の出来事が克明に見える。だが、得られるのは見てわかる情報だけだ。望む未来に行き着くために、どうすればいいのか、何が必要なのか、全てがわかるわけではない。
これまでには、メリシャが自分の見た未来と同じ行動をとったにも関わらず、なぜか全く違う結果へと繋がってしまったことだってある。
「メリシャ、大丈夫ですか?」
薄く目を開けたメリシャを、琥珀色の瞳が心配そうに見下ろしていた。
「うん。大丈夫」
優しく髪を撫でてくれるリネアの手の感触に安心する。
「どうでしたか?」
「悪い未来も多かったけど、……ヒクソスとメネス王国がひとつにまとまって、昔のサエイレムみたいな国になる未来もあったんだよ。ボクは、その未来を目指したい」
「そうなったら私も嬉しいです。きっとフィル様も」
「うん。…いい未来があって、ちょっと安心した」
「メリシャ、このまま少しお休みなさい」
気が抜けたように小さく欠伸をするメリシャの頬に、リネアは優しく手を添える。メリシャは気持ちよさそうに目を閉じ軽い寝息を立て始めていた。
スタッと床に着地する音がして、屋根から妲己が飛び降りてきた。
「久しぶりに動いたら気持ちいいわ」
「妲己様、お疲れ様でした」
リネアは少し抑えた声で言い、人差し指を立てて唇に当てる。
「あら、…メリシャは寝てるの?」
手にしていた大刀をフッと消し、リネアに膝枕されているメリシャに金色の瞳を向ける。
「はい。久しぶりに未来視を使ったので……これからどうなるか、自分が王になって、本当にヒクソスを救えるのか、メリシャも心配だったみたいです」
「でも、何かいいものが見えたみたいね」
メリシャの寝顔が少し笑っているのに気付いて、妲己も口元を緩める。その瞳が、すぅっと金から紅へと色を変えた。
「この国が、サエイレムのような国になる未来も見えたそうですよ」
フィルはリネアの隣に座り、メリシャの寝顔を見つめる。
「…サエイレムみたいな国か…そんな国ができるのなら、しばらくこの世界で生きてみてもいいかもね」
「はい」
フィルとリネアは顔を見合わせ、懐かしそうに微笑んだ。
次回予定「部族長会議 2」
メリシャたちは、集められたヒクソスの部族長たちの前に立ちます。




