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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 サエイレム建国
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招かれざる客

離宮で催されるフィルの誕生日を祝う宴。そこに乗り込んできたのは…


※50,000PVを超えました。ご愛読ありがとうございます!

誤字の指摘ありがとうございます。気をつけます(汗)

 再び時は進み、離宮前庭で催されているパーティの会場。

 たくさんの市民たちが詰めかけ、次々に料理や酒が振る舞われている。


 会場には、一般の市民たちばかりでなくアルテルメに滞在していた貴族たちの姿もあった。

 ユーリアスを支持する、皇帝派と呼ばれる者たちだ。

 彼らは市民たちの輪に入って共に宴を楽しんだり、ユーリアスやフィルたちのところに挨拶に訪れる者も多かった。


 ユーリアスがまだ若いだけに、皇帝派には自ら功績を上げて出世した高官や軍人たちが多く、世襲で議員の地位を占有し続けている元老院派とは反発する関係にある。

 さすがに魔族に対する見方は一様に好意的というわけではないが、ユーリアスが客として扱っているリネアやパエラに対して、無礼な言葉をかける者はいない。


 フィルに負担をかけることにやや気落ちしていたパエラも、いつもの明るさを取り戻していた。

「パエラ、もう平気みたいだな」

 フィルの側に付いている時はあまり飲食をしないエリンが、珍しくワインの入ったゴブレットを両手に持っていた。片方をパエラに差し出す。

「…気にはなってるよ。でも、フィルさまの考えることだから、きっとうまくいくとも思ってる」

 ゴブレットを受け取ったパエラは、ワインを口に含む。


「ならいい。発端は気に入らないが、私もいい機会だと思っている。…私を含め、エルフォリア軍は帝国の軍ではなく、あくまでエルフォリア家に仕えている。フィル様のためなら命を賭して戦うが、元老院の差し金でまた戦争に駆り出されるのは御免だ」

 エリンもゴブレットをあおった。 

 

 帝国と、魔王国と呼ばれた魔族たちの連合が戦った戦争、本来は帝国の正規軍がその最前線を受け持つはずだった。

 だが、蓋を開けてみれば、最前線のサエイレムへ送られたのはエルフォリア軍。帝国軍も派遣はされたが、補給を食い散らすばかりで、戦況に貢献することは少なかった。帝国軍の消耗を嫌った元老院とその息のかかった将が、まともに戦おうとしなかったからだ。エルフォリア軍と魔族をぶつけてすり減らし、その力を削ぎたい意図が見え見えだった。そんな状況で士気が落ちなかったのは、ひとえにフィルの父であるアルヴィンの人望故だ。


 その戦争が終わり、エルフォリア家の当主であるアルヴィンが亡くなると、元老院はあろうことかフィルを亡き者にし、エルフォリア軍を自分達のものにしようとした。もう二度と、そんなことをさせるつもりはない。帝国がフィルの敵となるなら、エリンは喜んで戦うつもりだった。

 

「エリン、パエラ、何か気になることがあるのか?」

 振り向くと、ユーリアスが微笑んでいた。


「ユーリアスさま、フィルさまがやろうとしてること、本当にいいの?」

 いくらユーリアスがフィルを可愛がっているとは言え、フィルがやろうとしていることは、本来、帝国皇帝としては歓迎できることではないはずだ。

「それは、この何日かでしっかり話し合ったじゃないか」


「これって帝国の歴史を変えるようなことだよね?…そんな大それたことの切っ掛けがあたしだなんて、ちょっと責任感じちゃう…」

「別に責任を感じることはないんじゃないかな。フィーは、きっと前から考えていたんだろう。今回のことがなくても、いずれ同じことを言い出したと思うよ。必要な事だと僕も思う」


 パエラは、メリシャと一緒に料理を頬張っているフィルの姿をちらりと眺め、大げさに肩をすくめた。

「なーんか、あたしだけ緊張してるのがバカらしくなってきちゃった…」


「あぁ、パエラも楽しんでくれ。本番まではまだ時間がある」

「ありがとう、ユーリアスさま。じゃ、あたしもフィルさまのところに行ってくる」

 手を振ってフィルの側に行くパエラを、ユーリアスは微笑んで見送る。


「陛下、帝都のティベリオ様より書状が届きました」

 近衛兵の一人が持ってきた書状を広げて目を通したユーリアスは、満足そうにうなずく。

「うむ…これで準備は整った。…間もなくボルキウスたちが動く。警戒を怠らないようにしてくれ」

「はっ!」

 近衛兵は一礼して下がり、ユーリアスは素知らぬ顔で宴に戻った。


 宴もたけなわとなってきた頃、離宮の正門から、ローブをまとった数人とそれに続く20名ほどの護衛兵の一団が入ってきた。

 彼らは無言のまま、周囲を無視するように宴席の会場を横切り、ユーリアスの前に膝をついた。


「陛下、宴の最中に失礼いたします」

 一団の先頭にいた元老院議長、マルクス・ボルキウスが口を開いた。

「ボルキウス議長、そなたもアルテルメに滞在していたのか」

「いえ、急な用向きにより帝都より急ぎ参上いたしました」


 続いて、ボルキアスの隣にいた男が言う。

「サキア属州総督、ダルガ・ビルスでございます。陛下」

「うむ、ビルス卿、久しいな」


 ユーリアスは、やや目を細めて二人を見る。

「ボルキウス議長、ビルス卿、今宵はエルフォリア卿の成人を祝う席だ。ぜひそなたらも楽しんでいってもらいたい」


「お言葉ですが、陛下、その前に少々お時間を賜りたく」

「それは、今必要なことか?祝いの席に水を差そうと言うのか」

 眉を寄せたユーリアスに、ボルキウスは顔を上げて言った。


「陛下は、エルフォリア卿を少々特別扱いしすぎではありませんか?」

「彼女は余の妹も同然、当然であろう。余が幼少の頃、エルフォリア将軍のもとに預けられていたことは議長も知っているはずだが?」

 声を荒らげてこそいないが、ユーリアスの様子は明らかに不機嫌そうだ。


「我らがまかり越しましたのは、エルフォリア卿のことでございます」

「なに?」

「卿の配下の魔族が、あろうことか、避難の混乱に乗じて貴族の屋敷を襲い、略奪を働き、屋敷にいた使用人を殺害しました。そして、卿は総督の身分を盾に、その魔族を捕縛しようとした屋敷の主人と警備兵を脅し、その魔族を匿っているのです」

 ユーリアスは黙ってボルキウスを見下ろしている。

 即座にフィルを擁護しなかったユーリアスの反応に、事の真偽を判断しかねているのだと察したボルキウスは、言葉を続けた。


「陛下、帝国の法では、魔族が人間を殺害した場合には、理由の如何に関わらず、重犯罪者として闘技場送りか絞首刑に処されることとされております」

「その魔族が殺害に関わったというのは、確かか?」

 ビルスが護衛兵に合図すると、小太りの男に連れられた女性が進み出た。男は徴税官のブラーノスだ。


「陛下、襲われましたのはこのブラーノスの屋敷、そして生き残った使用人の一人が、事件の様子を証言しております」

 無言のユーリアスに、緊張しきった様子のブラーノスが平伏し、甲高い声で挨拶を述べる。


「こ、皇帝陛下のご尊顔を拝し、誠に…」

「挨拶は良い。…事件の様子を見たというのは、そなたか?」

 ユーリアスは、ブラーノスを無視して、彼の隣で顔を伏せる女性に問うた。


「は、はい…私はブラーノスさまの屋敷で給仕女中をしております。ブラーノスさまやご家族が避難された後、獣の魔族とともに、蜘蛛の身体を持つ女の魔族が屋敷に押し入り、残っていた屋敷の者を次々と殺しました」 

 やや青ざめた顔で、女性は言う。

「確かか。もしも嘘偽りを言うのなら、そなたが極刑に処されると心得よ」

「間違いございません」

 ユーリアスが厳しい表情を浮べ、ボルキウスとビルスは、神妙な表情を維持しながらもわずかに口角を上げる。


 もちろん証言は事実ではない。だが、女中は自分が嘘を言っているという自覚はなかった。

 彼女は、同僚たちが目の前で次々と殺され、自分も人質にされかけたところで気を失った。そして目覚めた時にはパエラと警備兵が対峙している場面だった。


 彼女は、気を失う前にパエラが犯人たちを捕らえようとしたのを見ているはずなのだが、ショックによる記憶の混乱と、元々刷り込まれていた魔族とは恐ろしく悪辣なものだという先入観によって、パエラも襲撃者の仲間だという誤った記憶が作り上げられたのである。

 

 ボルキウスらはそれを利用した。警備兵たちはパエラが人を殺すところは見ていないと証言していたのだが、真実などどうでもいい、フィルとその仲間に罪を着せられればそれでいいのだ。


「兄様、何かありましたか?」

 何気ない様子で、フィルがユーリアスの側にやってきた。その後ろにはリネア、メリシャ、エリン、そしてパエラもいる。


「あぁ、フィー。…いや、エルフォリア卿」

 口調を改めたユーリアスに、フィルもその場に膝をつく。後ろの一同もそれに倣った。


「陛下、何かございましたでしょうか」

「エルフォリア卿、そなたの配下にアラクネ族の娘がいたな」

「はい。アラクネ族のパエラは確かにわたしのもとにおります。それが何か…?」

 淡々とした声でフィルは答える。


「エルフォリア卿、そのアラクネ族の娘に、この街の貴族の屋敷を襲い、使用人たちを殺害したという嫌疑がかかっている。申立人は、ここにいる元老院のボルキウス議長と、サキア属州のビルス総督だ」

「そんなはずはございません」

 即座にフィルは反論した。


「ボルキウス議長、ビルス卿、わたしの配下にそのような嫌疑、あろうはずがございません。そこにいる徴税官の男は、先日、わたしに言い掛かりをつけて来た無礼者。その者がお二人に世迷言を吹き込んだのでしょう」

 フィルは、冷たい目でブラーノスを見やると、傍らのエリンに命じた。


「これはわたしに対する侮辱です。エリン、今すぐその男の首を刎ねなさい」

「御意」

 すらりと腰の剣を抜いたエリンが、ブラーノスの方へ踏み出し、刃を頭上に振り上げた。


「ひぃっ!」

 腰を抜かして這いつくばるブラーノスに、剣が振り下ろされた。が、ギィンという耳障りな音と共に、その剣が受け止められる。剣を防いだのは、ユーリアスの近くに控えていた近衛兵であった。


「陛下、どうして邪魔をなさるのですか?」

 フィルは、睨み付けるようにユーリアスを見上げた。

次回予定「フィルの反乱」

パエラの嫌疑を申し立てるボルキウス。ユーリアスとフィルの関係に、遂に亀裂が…?

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