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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
勇者は追放を重ねて忘却される
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勇者は追放を言い渡される

章分けで作品を分けています。

大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、11話目になります。

たぶん15話くらい?になります。



前回までのあらすじ『戦士追放済』『僧侶追放済』『魔術師追放済』『精霊巫女追放済』『道化師追放済』


本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」

「勇者は追放を重ねて忘却される」

 


「勇者アランドラ!

 お前をその座から追放する!

 そしてその身を糧とするがいい!」




 勇者の声が枯れた森に響く。その声に反応して領兵たちが槍を握る手に力を込めた。

 しかし勇者アランドラは跪き、俯いたままで動こうとはしない。





「魔王退治後の跡地の管理者に奉り上げられ、無縁だった治政に翻弄された生涯には憐みも同情もある。

 だがお前は愚物に過ぎた!

 命という資源の活用を、その実験の重要性が理解できぬ痴れ者だ!」





 アランドラはまるで慣れた台詞のように声を上げる。

 その声はこれまで勇者パーティを追放した時と同様に、耳にした者たちをアランドラの言葉へと意識を向けさせた。


 その声に応える者はいない。そもそもが勇者アランドラは彼自身の名だ。自らを追放するという理解できない宣言を、どのような立ち位置から述べているのか。



 だが、その真意を理解できる者はしっかりとそのときの情景を思い起こしていた。



 領主ブルースフィール。


 領兵の戸惑う視線を受けながら、彼だけは殺意を漲らせていく。

 それはかつて魔王を倒した勇者へ向けたものと重なり、彼の心の暗がりを炙り出していた。





「かつてのお前は愚直だった。

 疑念も迷いもなく、ただ目の前の敵を屠るだけの暗愚だった!

 だが今のお前は実に滑稽だ。実験を中止して罪を公開するだと?

 贖罪などという小賢しさに目覚め、自ら命を散らす道化と成り果てた!」



「……黙れ。それ以上の妄言は、かつての勇者と賢者を侮辱する行為にしかならん」





 絞り出すように静止して、緩やかに手をあげる。それだけで意を汲み取ったように、領兵たちは槍をアランドラへと突きつけ、動きを封じる。


 それでもアランドラは跪いたまま顔を上げさえしない。焚き火に照らされた横顔が僅かに笑みを浮かべる。




「魔王が持っていた、魔物を作り出し支配する能力。

 魔物の持つ特殊能力や環境適応力。

 それらを人の身に組み込むことの意義も理解できぬ凡愚め!

 魔物も衆愚も糧として、偉大な者を不変不朽とすることが人の繁栄には不可欠だと理解できぬ迂愚め!

 お前も衆愚同様、我が糧となるがいい!」





 薪が崩れた音は微かで、その声に埋もれて耳にした者はほとんどいなかった。


 それでも焚き火から吹き出た猛る炎を目にした者もいただろう。炎は多数の頭を持った蛇のように蠢くと、全ての鎌首を持ち上げた。



 手にした槍をどちらに向けるべきか、領兵たちにその答えを出す暇はなかった。

 全身を呑まれるように焼き尽くされていく領兵たちが悲鳴をあげ、一瞬で灰となって崩れていく。



 唯一アランドラだけが身を跳ねて猛る炎を躱したのを、目で追うのは者もまた唯一人。



 領主ブルースフィール。




 いや、かつて魔王を倒した勇者の仲間であった賢者ブルースフィール。彼は、明確な殺意を以てアランドラを睨みつける。




「各国で勇者パーティから追放して巡ったのは、醜聞が狙いか?

 戯言も流言となり語る口が増えれば事実と化す、と?

 だが凡愚が集ったところで無駄なことだ。

 この通り、衆愚など一撫でで灰と化す。所詮は愚者の浅知恵だったな」




 猛る炎は未だ這い回り、枯れた森を照らしている。ブルースフィールがアランドラへと視線を向けると、炎がうねりながら彼へと襲いかかっていく。



 一つ二つと剣で打ち払っても、次々と焚き火から蛇のように炎は這い出てくる。炎はブルースフィールに操られているのは明らかだった。

 そうして焚き火自体がほつれるようにして、更に多くの炎の蛇と化して広がっていく。



 反撃の機会を伺うアランドラの視線に警戒したのだろう。遠距離であっても魔術はそれを問題にしない。

 アランドラに魔術が扱えても対応できるように、ブルースフィールは炎の蛇のいくつかを自身の周囲に舞い上がらせて防御に回した。



 その際に炎の蛇が含み損ねた薪が落ち、火の粉を散らす。僅かにブルースフィールの衣類に焦げ目をつけたが、攻撃魔術を受ければその程度では済まない。




 しかしアランドラは魔術を充分に練ることもままならず、迫る炎を打ち払っては距離を詰めあぐねている。



 炎の蛇で手数を奪い、距離を取らせれば攻撃手段がアランドラにはない。ブルースフィールはそう判断して冷笑を漏らした。



 多少魔術が使えて剣技に長けているとしても、アランドラは一人。満足に実力を振るう余裕を与えなければ、それだけで簡単に始末できると甘く見ていたのだ。





 だから炎の蛇がその身に薪以外のものを含んでいることなど、完全に意識に残っていなかった。










勇者追放はこれでおしまい。

さて、あとは忘却されるのみ。

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