精霊巫女は追放を言い渡される
章分けで作品を分けています。
大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、7話目になります。
たぶん15話くらい?になります。
前回までのあらすじ『戦士追放済』『僧侶追放済』『魔術師追放済』
本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」
「勇者は追放を重ねて忘却される」
「精霊巫女ビルキッタ!お前をパーティから追放する!」
勇者の声が響き渡ったが、それを耳にする人間はあまりに少数だった。
精霊信仰が根差す国にある国定森林。そこに蜘蛛の巣状に伸びた道の一角には、数えるほどの人しかいない。
響いた声も森に呑まれて描き消えており、他の道で気づいたものはいないだろう。
しかし名指しされた精霊巫女ビルキッタは、顔を青ざめて崩れ落ちた。
白と赤の巫女服は一枚布のような特殊な造りで裾が広い。そこから見える手足には刺青が見える。
それは勇者アランドラに出会った当初よりも随分と薄くなっていた。
それが精霊巫女の能力を失いつつある証明だと、勇者は理解している。その事実と冷め切った眼差しに、ビルキッタは目を逸らした。
「精霊の力を借りるためにこの森を訪れることを望んだのはお前だ。
だが精霊がその身に降りてこないのは、この数日で明らかになっている。
今も木々の影から様子を伺っているだけで、近寄ってさえ来ない」
その言葉にビルキッタは勇者アランドラを見た。
生まれ持った名も家も捨てて精霊巫女となり、精霊を憑依させて力を奮えるようになったビルキッタでさえ精霊の姿はおぼろげだ。
しかしまるで勇者アランドラはその姿を捉えているかのように、視線を森の端端へと動かしている。
「危険領域の復興のために精霊巫女としての力を使い果たしてくれたことには、感謝も崇敬もある。
だが今のお前は力を失い、精霊をとらえることもできない。
そんなお前がこの先の旅では役に立たないのが明らかだ」
彼女には反論する余地がない。
精霊の存在を信じられない者にはその力を借りることはできないが、勇者パーティはそこに疑念を持っていない。それは他ならぬ彼女自身の功績だ。
何より、今の彼女には精霊の姿を感じ取れない。
精霊が多く棲むこの森なら力が戻るかもしれないと思っていたが、それも叶わなかった。
だというのに、木々の合間や枝の上へと戯けたような仕草を返している道化師の姿がある。
道化師が時折、何かを抱くようにして見せに来ても、彼女には何も見えない。
赤い巻き髪を引っ張られるようなそぶりの道化師を見ても、それが普段同様の演技なのか実際に精霊がいるのかわからないのだ。
その事実を突きつけられ、精霊巫女ビルキッタは何の反論もできずに俯くしかできない。
そんな彼女を支えたのは同道していたパーティの一人だ。商人見習いだった彼の腕は旅の間に随分と逞しくなった。
ビルキッタを抱きしめた彼が睨みつけても、勇者アランドラは一瞥もない。そのままビルキッタに背を向けて、まるで手慣れた舞台をこなすように言葉を連ねる。
「かつてのお前は無心だった。
さらば、精霊巫女ビルキッタ。
お前の純真と頑迷が、知見を広めて一途さへと変わったことを祝福しよう。巫女の力も精霊の力の扱いも、決して失われてはいない。
それは勇者であるこの僕、アランドラの糧となった。
……ありがとう」
そんな耳慣れた言葉を自分が聞くことになるとは思っていなかったビルキッタだが、勇者パーティを追放されることに不安はなかった。
彼女を支えている青年の腕は逞しく、包まれていることへの安心感がある。それが精霊巫女ではなくなった自身の居場所となるのだから。
そんな二人へと不器用な祝福を残して、勇者アランドラの背中は遠くなっていく。
それを見送る二人の目の前に、道化師が踊るようにして現れて、転ぶ。
手にしていた花束を撒き散らして、二人へと降らせると、拍手しながら勇者アランドラを追うように走りだした。
「あなたたちは…………」
精霊が見えるのか。そんな疑問を投げそうになり、ビルキッタは口を閉ざした。
何かにぶつかって謝るような仕草をしたり、足元に驚き飛び跳ねたりしながら、勇者アランドラを追っていく道化師。
勇者パーティに最初からいた道化師の声を聞いた者はいない。素顔を見た者も。
そんな二人には余人の立ち入れない何かがあるように思い、そんな関係を羨ましくなる。
そんな気持ちが伝わったのだろうか、彼女を抱く腕が離れた。
「僕たちも行こう。あの二人みたいに、支え合っていくんだ」
差し出された腕を抱きしめてビルキッタがうなずき、勇者たちとは反対方向へと歩き出す。
木々の合間から精霊たちが祝福していたが、それは誰の目にも触れなかった。
四大精霊をモチーフにした魔術はよく見かけます。
そうした世界観でも大抵は神々が信仰対象で、あまり精霊信仰って見ない気がするけど気のせいでしょうか。




