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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
勇者は追放を重ねて忘却される
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狂信の僧侶は魔術をふるう

章分けで作品を分けています。

大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、4話目になります。

たぶん15話くらい?になります。


前回までのあらすじ『戦士追放済』『僧侶追放』


本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」

「勇者は追放を重ねて忘却される」

 

 僧侶ベルンは勇者パーティを追放され、教会にある神像の前で過去を思い返していた。





 教会を離れて勇者に同道する。

 それは勇者の助けとなるためではなく、勇者という広告を餌にした布教だとベルンは理解していた。

 勇者とその隣で踊る道化師に、教会は同程度の価値しか認めていない。そのため高位司祭でもない、ただの僧侶を遣わすのだ。



 それでもベルンは教会に身を置く者として、為すべきを為すのだと心得ていた。



 勇者アランドラの旅路は魔物や盗賊、犯罪人などと戦うことが多いものだった。教義によれば魔物は殺すしか救う手段がない存在である。

 また犯罪者を人間として扱わない国も多く、教義にも庇護対象だと明言する箇所もない。


 ベルンは教義に則り、それらもまた魔物であるのだと解釈するようになった。



 人間相手であっても殺さなければ殺されるのだ。


 戦闘中に右往左往してたまに投石しているだけの道化師とは違い、勇者アランドラや戦士バルドゥルは呼吸するように命を刈り取っていく。その他のパーティもまた、自らの命を天秤にかけて迷いを持つことはない。


 ベルンの攻撃手段は乏しく、拙い。

 元々が人々に癒しを与えることに特化した経歴だ。


 手にしたメイスを振り下ろすよりも、戦士の剣が早く魔物を屠っていく。勇者に至っては剣閃すら見えない。魔術師が魔術で魔物を殲滅するのを羨んでも、そんな魔術は扱えない。当然、倒せた魔物の数はほとんどなかった。



 その不甲斐なさを克服させたのが、凍血魔術だった。


 ベルンは凍血魔術により多くの魔物を屠るようになった。それは更なる激戦へと勇者パーティが至るきっかけにもなる。



 その最高峰は危険領域で繰り広げた激戦。

 ゾンビ化した仲間に対しても魔術を放たなければ仲間が死んでいく。


 その激戦を経て、ベルンのタガが外れた。



 魔物を屠れることをベルンは喜んだが、それとは裏腹に魔術師や戦士は不満を口にした。

 僧侶なのだから回復魔術だけに専念すればいい。そんな物言いを、ベルンは単なるやっかみとしか思えない。

 その度に道化師が凍血魔術の真似をして戯け、大きく頷いて赤い巻き髪を揺らす。そんな姿が少しだけ頼もしく思えたが、それを口にすることはなかった。



 そうして旅を続けて、方々で仲間と別れを重ねながらこの街へと辿り着いた。



 逗留している間に、街中で幼い子供が勇者に花を売りにきたことをベルンは思い出す。

 バルドゥルがまだパーティにいたなら、怯えて寄ってこないだろう幼い子供だ。



 魔術師は酒に夢中で興味を示さない。勇者アランドラが優しく笑いながら花を買うのを見ていたベルンは、ふとその子供の歯が気になった。


 魔物のような鋭い歯の並びだ。そのうちいくつかは抜けている。聞けば親もなく、拾われた先で花売りの仕事を与えられているという。粗末な服では隠しきれていないアザが、あちこちに見えた。



 ベルンは子供の頭を撫でつつ、頑張って働いていることを褒め、そのまま迷いなく凍血魔術を使った。



 その行動に勇者パーティが驚いたのを、彼は理解ができない。




「ベルン、なぜあの子に魔術を使った?」


「魔物の血が混ざっているならば、その命を絶ってあげるのがあの子のためだからです。何故そんなわかりきったことを問うのですか?」




 勇者にそう答えたベルンには何の迷いもない。

 道化師に手を振りながら走り去るのを、ベルンは優しい笑みで見送る。殺そうとしたその手を振って返しながら。




「力が強い魔物だと、まだ私の凍血魔術は通りにくい。あの子がそんな魔物の血を継いでいなければいいのですが……。人の姿をとるような強力な魔物が世界には溢れています。私もまだまだ未熟ですからね。神の意図に添えるよう努力しなければ」




 回復魔術を用いるという発想が彼にはカケラもない。それを勇者は感じ取ったのだろう。それ以上、ベルンに追求することはなかった。

 その結果、勇者パーティを追放されたベルンは旅路を振り返る。

 勇者アランドラの叱責に反論しようとして、詰まった言葉を心に思い出す。




「救うために殺すのだと……そんな言い訳に、私は取り憑かれていたのですね……」




 魔物よりも残虐な行いをする人間がいる。ゾンビ化した仲間には効果を為す凍血魔術は、魔物のように振る舞う人間には効果を為せなかった。

 力不足を感じて試したのだと、今更ベルンは自覚した。弱ければ殺せるかもしれないと、罪のない子供に凍血魔術を使ったのだと。


 己自身の悍しさを自覚して、ベルンは血の凍る思いだった。握りしめた胸元から激しい鼓動が全身を責め立てている。耐え切れず逃げるように、ベルンの口から教義が漏れる。




「為せることを……為せ」




 その言葉は魔力を帯び、一つの魔術を描いていく。

 凍血魔術。


 魔物よりも悍しい者を殺すための魔術は、しかし効果を為さなかった。

 為せることは他にもある。為さなければいけないことが、明確に残っている。




「為せることを、為しましょう」




 自らの意思ではっきりと言葉にして、ベルンは立ち上がった。


 花売りの子供に出会うために。詫び入れて、傷を癒し、二度と傷を負うことが無い様にその雇い主を説得するために。



 胸を張って去っていく背中を、教会の神像は何も言わずに見送っていた。





僧侶追放はこれでおしまい。

さて、次は誰を追放しようか。



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