元騎士の戦士は傲慢に振る舞う
章分けで作品を分けています。
大筋としては「勇者が追放を重ねて忘れられる」という話の、2話目になります。
たぶん15話くらい?になります。
本項のタグ:「ファンタジー」「追放もの」「勇者」
「勇者は追放を重ねて忘却される」
バルドゥルが勇者アランドラに同道するきっかけは、部下の不甲斐なさが原因だった。
初めは勇者を名乗る若人が王族に謁見を求めたこと。
それを諫めて追い返すのではなく力量を見せろと揶揄った見習い騎士がいた。
王城の門番が取る行動ではないのだが、負けたことはもっと問題だった。それを罰しようと修練場へと連れ込んで負けた準騎士も。
その不甲斐なさのせいで上級騎士から監督責任を押し付けられた。
その責任を彼は即座に払おうと剣を抜いた。
「テメェら手足の二、三本落としてやる」
不甲斐ない姿を晒していた部下への剣撃は、しかし勇者に受け止められた。それならその首を落とそうと振った剣は紙一重で躱された。
追撃で放った鳩尾への突きもいなされ、距離を取られる。
倒れたままの部下を踏みにじり、バルドゥルは落ちていた剣を蹴り飛ばす。剣は勇者の足首を薙ぐ高さで舞い、踏みつけられて止まった。
観察力も反応速度もある。
そう認識したバルドゥルは一撃で屠るよりも手数で削る方法を選んだ。
反撃するだけの余裕はないが、しっかりと目で追い負傷を小さくする姿に、バルドゥルは笑った。
所属している騎士団と比べても上位の実力があると認め、心ゆくまで殺し合いを楽しみたくなったのだ。
しかし最初の騎士見習いが負けた時点で話が広がっていたのだろう。
剣術稽古の時間だった王太子が、いつもより早く顔を出して静止を叫んだ。
流石に王族を無視して斬り合いを続けるわけにもいかない。
勇者が上級騎士達に囲まれて連れて行かれ、話が纏まるまでは早かった。やらかした騎士見習いと準騎士にとっては、バルドゥルに延々と叩きのめされる長い時間だったが。
勇者への同道は勅命の体裁を取っていたが、事実上の騎士団からの追放だ。
彼の部下たちはシゴキが減ったと喜んだ。家柄で肩書を得ただけの上級騎士は厄介者が消えたと祝杯を上げた。
その様子を尻目にバルドゥルは勇者に同道することにはなる。
原因となった勇者へ剣を向けることを、バルドゥルは一切迷わなかった。
建前であれ同道の任務だが、その首が落ちれば任務は打ち切りとなる。さっさと役目を終えて戻り、安堵した面々の顔を叩き潰すつもりでいた。
躊躇いもなく勇者当人に語り、斬りつける。
眼球を削ぐ牽制から指を落とす。兜割と見せて姿勢を崩し足の指を削ぐ。急所狙いはブラフを大目に、凌ごうと身構えた体の表面を削ぐ。関節を狙う。
緩急とブラフを混ぜて殺すことよりも戦力を奪う剣術は、勇者には不慣れなものだった。
そうして出来る大きな隙を突いて急所を抉る。そんなバルドゥルの剣が勇者アランドラの命を奪う前に、パーティにいた僧侶が傷を癒してしまった。
死に至らない軽症では、僧侶が回復してしまう。
そう理解したバルドゥルが戦闘中にも仕掛けるようになるまではすぐだった。
しかし勇者は自分で回復魔術を使うようになり、殺し切るのは容易ではなくなっていった。その度に道化師が嘲笑うようなそぶりをしていたのが、より苛立ちを根強くさせた。
そんな苛立ちをバルドゥルは街中で発散していく。人里から離れた期間が長いほど、戦いを重ねるほど、彼は暴力性を増していた。
「手足なくしてから抱かれるか? そのまま抱かれるか? 俺ぁどっちでもいいぞ」
そんな言葉で脅し、またその言葉通りに、彼は好き勝手に楽しんだ。
泣き叫んで宿から走り去る女性に何があったか悟った勇者たちに、彼は悪びれもせず答えている。
「あぁ? どうやって抱かれるか選ばせてやってんだろうが。なんの問題がある?」
それを聞いた勇者アランドラは、バルドゥルの蛮行を防ぐ手立てを得た。どこかから道化師が見つけてきたらしい。
狂獣の面。装備者の口を塞ぎ、解呪なしでは外せない呪いの装備だ。
そんな本質に気づくこともなく、勇者アランドラからの普段の働きへの特別報酬だという言葉に騙された。紙吹雪を撒いて祝福している道化師の喜びように流されたというのもある。
そうしてバルドゥルは呪われて喋れなくなり、更に苛立ち行動が荒ぶるようになった。
しかしそのせいで一般人は近寄りもせず、姿を見ると逃げていく。バルドゥルなりの基準ではあるが口説くこともできず、それを笑う道化師を襲おうとしてもつかず離れずでからかわれる。
魔物を殺す事でしか発散できない日々が、次第に彼の心を削っていった。
そうして会話をする気さえ湧かなくなった頃に、バルドゥルはパーティを追放される。
久しぶりに喋ることができるようになっても、彼の口からは悪態しか出てこなかった。
ただその頃には暴力性が人に向かうことは無くなっていたのだが、それに気づくのは随分と後のことになる。
戦士追放はこれでおしまい。
さて、次は誰を追放しようか。




