どうしようもないじゃない(5/5)
たまには恋愛モノも書いてよう、ということでその続きで最後です。
この恋は終わりになります。
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結局のところ覚悟なんて全くできなかった。
いつものように制服に着替えていつものように登校して、いつものように席に着く。
そんなルーティンめいた行動さえ不安で溺れそうになっていた。
彼女が私をどう思ったのか。
影で笑い者にするような性格ではないと知っていても、誰かに相談する可能性はあった。
それが誰かによっては、私は笑える珍獣に成り果てているだろう。
私に直接問いただすチャットがなかったのが見えないだけなのか、むしろ腫れ物扱いなのかわからない。
普段と同じようなノイズだらけの教室内が、私を笑う声で埋まっていくように思えて息苦しい。
教室の扉が開くたびに身体が震えて、そこに彼女の姿を探してしまう。
そうして安堵と不安に揺さぶられることを繰り返して、また不安に沈んでいく。
無意識に逃避したくなって携帯を弄っても、何一つ頭に入ってこない。
ファッションページで笑う人が彼女ではないことだけ確かめて、ただページをめくる。
そうしているうちに、その作業に没頭していたらしい。
前の席に誰かが座ったような気がして顔を上げると、ふてくされたような顔の彼女がいた。
ページの中に彼女を探しすぎて幻覚を見ているのかと思って、もう一度携帯に目を落とす。
いつのまにか男性向けスーツのページが映っていた。
漏れるような弱々しい咳払いに顔を上げる。
見慣れた顔に迷いが溢れていた。
告白が冗談だったのか、どうやって切り出すか迷っているのだろう。
私の中でも、逃げたい気持ちがそれが良いと泣いている。
叫びたいほどだった胸の痛みは何故か全く感じられなくて、それなのに口を開いたら泣き出しそうで。
ただ私は困り顔の彼女を見つめながら、笑え、笑わなきゃ、なんて自分に言い聞かせるしかできない。
「あの……ごめん」
その一言だけでもう泣き崩れそう。
結局、私には彼女みたいに好きを貫く覚悟も強さもなくて、側で見ているだけだったくせに勝手に期待して、勝手に絶望して勝手に泣いただけだった。
それしかできなかったことを謝らせている。
そんな惨めさと申し訳なさ。
それでも少しだけ期待していた浅ましい自分が大嫌いだ。
こんな私が好きになって貰おうなんて、お笑いだよね。
だから笑って冗談だったからと、こんな気持ち全部、軽く吹き飛ばしてしまえ。
そう思っているのに声が出ない。
口を開くこともできない。
もう大声で泣き叫びたい。
そんな気持ちが抑えきれない。
「本当に、ごめん。すっごい身勝手だとはわかっているんだけど」
彼女が私の両手を握ってくる。
それだけで躍りたくなるほど嬉しい気持ちが、泣き叫びそうな気持ちに混ざってぐちゃぐちゃになっていくのがわかる。
あぁ、もうダメだ。
もう耐えられない。
きっと彼女の次の言葉が何であっても、私は泣き叫んでしまう。
それでも彼女から目を逸らすこともできず、手を離すこともできない。
もうヤダ。
なんでこんなに好きなんだろう。
「あたしと付き合ってください!」
「ひぇぁっ」
しゃっくりのような音が私の喉から飛び出した。
びっくりして見開いた目が涙で滲んで、彼女がぼやけて見える。
「あたしマジ最低なこと言ってるのはわかってんだけど! 全く考えたことなくって、全くわかってないんだけど、それでもあれからずっと考えて。そんで、いやマジでありえねえとか思うかもなんだけど、めっちゃ嬉しいってなってんのに帰ってから気づいて! あんな泣くほどってマジで嬉しくって。泣いてるとこ見たのも初めてで。もうめっちゃ好きで! たぶん本当に泣かせることばっかだって、スッゲェ勝手で馬鹿なこと言ってんのもわかってんだけど、付き合ってください!」
驚きすぎてしゃっくりが止まらない。
投げつけられる言葉が、どんどんしゃっくりを起こさせる。
そのせいで私は言葉が出ないし、彼女の顔もまだぼやけたままでちゃんと見えていない。
それでも彼女が真っ赤になっているのがわかって、しゃっくりと一緒に笑いが溢れてきた。
叫びたいほどの胸の痛みが一瞬だけ返ってくる。
それはしゃっくりと笑いに押されて弾けて、胸の奥を染めるような温かさに変わっていく。
彼女が不安そうに見つめているのが、しゃっくりを繰り返すほどにだんだんはっきりと見えてきた。
「ばーか」
しゃっくりと笑いと涙が溢れて、もうそれ以上は言葉がでない。
大好きな笑顔を見つめながら、幸せに笑い転げよう。
とても一言では表せない気持ちは、これから何度でも伝えていけばいいから。
泣けるほどの思いが湧くことはたぶん貴重なことなんだろうなぁ。
皆さんは泣きたいときに、素直に泣けますか?
泣けない人も大丈夫。
年取ると涙腺が緩くなって泣く気がなくても泣いたりしますよ。
(そういう話とはたぶん違う)




