どうしようもないじゃない(2/5)
あんまり恋愛ものを書いていないな?
と書いてみた話の続きです。
サイコとかサスペンスにならないように気をつけました。(筆者にはそちらに偏る悪癖があります)
本項のタグ:「学生恋愛」「百合」「筆者には珍しい普通の恋愛モノ(自称)」「全5回構成。2回目」
「別れた」
「はえぇよ!?」
「マジかー!」
クラスの一角で上がった大声に、つい視線を向けると久しぶりに目があった。慌てて前を向き直したけれど、耳がそちらに向いてしまう。
「もーね、ガキよガキ。大人なあたしにゃ釣りあわねーのよ」
「大人ぁ?」
「あぁもう成長しないなー」
「おう、やんのか?」
そんなじゃれあいを交えながら、わずか二週間で別れた相手の愚痴が漏れ聞こえる。
そうか別れたんだ、と緩んでいく口元に自分の性格はこんなに悪かっただろうかと自問する。
「マジかー、ねーわー」
「うわぁ。そりゃぁねぇわ。なんでそんなんに惚れたんだぁ?」
「うるせーよバーカ」
軽口混じりでギャハハと大笑いする彼女が元気そうで少しだけ安心する。
恋人ができたと知ってから、なんとなく疎遠になっていた。
まぁ、元々同じクラスの友達という以上の関わりなんてなかったのだけれど。
「ということで、次の恋人はマジで狙っていこうと思う! さぁ、友よ!」
「よぉし、あたしが今どれだけ良い恋をしているか語ってやんよぉ」
「うわーうぜー」
「よし、お前も別れよう!」
「あぁ?イワスぞぉてめぇ?」
彼女がきっかけということでもないけれど、最近では少しずつ恋人っぽい塊が目立ち始めている。
その一方で、片思いを拗らせているように相手を見つめる姿も多い。
恋に夢中になれないで肩身が狭いだなんて、他のクラスメイトと溢したこともある。
だって好きな人に恋人がいたら、もうどうしようもないじゃない。
そんな風に諦めたフリができたのに。
少しだけ。
彼女が別れたと知ってほんの少しだけ、期待したがるバカな自分がいる。
笑っている彼女を眺めているだけで満足すればいいのに。
いつのまにか、また振り返っていたらしい。
目があった彼女が楽しそうな笑顔を浮かべて立ち上がった。
真っ直ぐにこちらに向かってくる。
戸惑いと嬉しさが混ざって混乱しながら、それでも目を逸らせずにいると両手が取られた。
「フリーだよね!」
「え……、え? うん。え?」
顔が熱くなるのがわかる。
期待したいバカな自分を抑えようとしても、包まれた手の温もりだけで叫びたいくらいに舞い上がっているのがわかる。
「よっしゃ! あんたら二人! ダブルデートすんぞ!」
「へぅっ!?」
「なぜ俺が」
「文句は認めねぇから!」
同じクラスの男子二人を指差した彼女に、つきりと胸が痛んだ。
あぁ、そうだよね。バカだなぁ。
なにを期待しているんだろう。
嬉しそうに笑う彼女を見ながら自分のバカさに笑ってしまう。
それでも胸の痛みがうずき続けて、手の温もりを振り払うこともできない。
「え、えぇ?いや、ぇぇぇ……」
「俺もこいつも、そいつも乗り気では無さそうだが」
「え! いやいや頼むってマジで! 奢っちゃうから恋人作り協力してくれって! もうマジで恋したいんだよ! 恋しようよ!」
つきりつきりと胸が痛い。
ほら、私の気持ちなんて彼女は絶対に気付いたりしないんだ。
私だって、彼女に恋人ができるまで気づいていなかったんだから。
だから、私も気付いていないのが当たり前なんだって、笑う。
今までのように、友達らしい言葉を選んで彼女に笑いかける。
「いいよ。四人でデートしようよ」
「いよっしゃあ!サンキューマジ愛してる!」
「はいはい、あたしも愛してる愛してる」
手を離して抱きついてきた彼女に震えそうになり、努めて普通にあしらうように言葉を返す。
愛してるという言葉がとても軽く流れて消えていくのがわかる。
「いよっしゃあ!お前らガチだかんな!マジでこいよ!妥協とか許さんかんな!」
「えぇ……?」
「む……」
楽しそうに笑いかけてくる彼女から目を逸らして、困り顔と難しい顔を見合わせている男子二人に笑いかける。
「それじゃあ四人でデート、よろしくね」
楽しそうに笑う自分の声を聞きながら、胸を締め付ける思いに泣きたくなってきたけれど、全然涙は出てこなかった。
あれも、これも、それも、どれも、きっと、たぶん。
そんな風に歌われる、それが愛。
(昭和歌謡にそんな歌詞の歌があります)




