「かくれんぼをしよう」
【夏のホラー2021】の【かくれんぼ】という題材で書いています。
それ系の言葉を使っていればOKかなぁ、という緩めの基準なので、若干テーマとはズレているかもしれません。
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「竹馬の友」「かくれんぼをしよう」
佐藤は和室にいた。
田中はベランダでタバコをふかしている。
ガキの頃みたいにかくれんぼでもしようや。
そんな誘いをしてきたのは一ノ瀬だった。今ではトイレにこもって唸っている。
どうやら供物のスイカに当たったらしい。
齢八十を越えて俺たちは昔ほど自由ではなくなった。
右足を引きずっていた椎名は階段が上がれずに座り込んでいるし、腰の曲がりきった遠藤は玄関で靴が脱げないと足掻いている。
総入れ歯になった木下はテーブルのおはぎが粒あんだったと愚痴っているし、緑内障の平井は固いアスパラガスだと言いながら箸をかじっている。
台所を見れば未だに背筋も伸びて歯も揃っている神田が汁物の味を確認していた。
人数分の碗が重なっているのを見て、後は誰だったかと考える。
田舎の村の竹馬の友。
この村はガキの頃から然程変わらない。
緑鮮やかな稜線。
そこかしこで鳴き喚くセミとカエル。
畦道を小走りに去っていく狸と、それを木陰から眺める猫。
そんな道を歩いて一時間ほどの山裾に学校が見える。今では改築されて老人ホームとなったそこに帰ってきたやつも多くいる。
片桐、河野、飯場、佐々木、堤下。あと坂口も。
いや佐々木は去年息子夫婦の家に帰ったんだっけか。
リビングのテーブルへと並べられていく碗から、温かく良い匂いが漂う。
それに誘われたのか、真島と新堂が天井から降りてきた。
床下にいたらしい三木と毛利、加賀谷も出てきた。
お前らそんなとこにいたのか。
そう声を掛けようと、弱った気道が押し広げられたが、満足に口が動かない。
ロッキングチェアと区別もつかないほどに枯れた老体が、弱々しく揺れる。
それが今の自分だということを思い出して、目を開ける。
見えるのは見慣れた家の中で、食事を運びながらこちらを見ている神田の姿。
数十年でシワが増えたが、昔の面影はそのままだ。
料理ができたと声を上げる神田が、今では神田ではないことを思い出す。
同じ苗字になって数十年を共に過ごした愛妻だ。
その料理にたむろするように、狭いリビングでひしめくのは帰ってきた友人たち。そこに佐々木の姿だけがない。
あいつはまだ元気でやっているらしい。
汁物をスプーンで与えようとする妻に、声にならない言葉を送る。
今までありがとう。
俺もかくれんぼに混ざってくるよ。
一足先に。
そう口を動かせたかわからないが、妻が静かにうなずくのを見て、俺は目を閉じた。
さぁ竹馬の友よ、かくれんぼをしようじゃないか。
竹馬の友。竹馬に乗るくらいの幼い頃からの古い友人のこと。
竹馬。竹を加工して足場を付け足して「ト」のような形にしたもので二本一組。足場に足を乗せて竹を掴み、左右交互に移動することで歩く、また走るという遊びをするためのおもちゃ。
竹馬って未だにあるのかわからないので、一応説明っぽいことを書いてみました。
なんだそれ? と思った方は、夏休みの自由研究課題にでもしてください。
たぶん親御さんは知っている……よね?
(竹馬って学校で作った記憶しかないが、今も作ったりするのか?)




