すぐに見つかる変な奴
【夏のホラー2021】の【かくれんぼ】という題材で書いています。
それ系の言葉を使っていればOKかなぁ、という緩めの基準なので、若干テーマとはズレているかもしれません。
本項のタグ:「夏のホラー2021」「かくれんぼ」
「すぐに見つかるやつ」「ホラーってなんだっけ……?」
かくれんぼなのに鬼の前で立ったまま。
隠れたとしても顔が覗いていて、すぐに目があう。
だからすぐに鬼の役になる変な奴。
話しかけたのは、ちょっとからかってやろうという気まぐれ。
最初に何を言ったのかはもう覚えていない。
でも、何を言われてもぼんやりした顔に笑みを浮かべる。
それを見るたびに蹴りつけてやった。
子分に気合いをいれるようなつもりで。
そんな関係だった。
ある日、なんでそんなにかくれんぼが弱いのか聞いたことがある。
「見つからない場所には、絶対に行かないってママと約束しているから」
ぼんやりした顔に笑みが浮かぶ。
意味がわからなくて、なんだか腹が立った。
顔を殴りつけても笑みは消えない。
それがやけにイラついて殴り続けたけれど、殴り返されることはなかった。
その日、そいつが母親と一緒に頭を下げにきた。
なんで殴られた方が頭を下げていたのか。
そいつの母親が私のママに怒られているのか。
意味がわからなくて、気持ち悪い。
だからそいつに近寄らなくなった。
私のママも関わらないように言っていたけれど、それはどうでもいい。
ある日、近所のおばさんたちが笑っているのを聞いた。
父親がジョウハツした。
他所にホンサイがいる。
フギノコで恥ずかしい。
影で笑う声が気持ち悪くて、蹴りつけてやった。
なんだか凄く腹が立って、泣くまで蹴り続けた。
なんで私が泣いていたのか。
意味がわからない。
その日はまママにめちゃくちゃ怒られたけど、そのことは今でも謝っていない。
その日から少しして、久しぶりにそいつと一緒にかくれんぼをした。
相変わらず全然隠れようとしないのを蹴りつけて、木の影に引っ張り込む。
そいつを置いて他の場所に隠れようとして、手を掴まれた。
初めて見る、笑顔じゃない慌てた顔で。
なんでかそれを蹴りつける気にならず、殴る気もしない。
二人でずっと隠れて。
鬼が「もういいかい」って呼ぶのを聞きながら、黙って座って。
隠れているツツジの匂いがして。
握られたままの手が暑くて。
でも、そのまま黙って座っていた。
「ありがとう」
そう言って笑った顔を、今でも思い出す。
「うん」
その時はとても暑くて。
なんだか見ていられなくて。
そう言ってうなずいて、目を逸らして。
鬼が飽きて帰るまで、ずっとそうして二人で座っていた。
その翌日、そいつはいなくなった。
ママに聞いたら、あんな家のことなんか知らないと怒られた。
友達もどこに行ったのかは知らなかった。
そいつの家に行ってみたけれど、誰もいなくなっていた。
できたのは、ヨニゲしたんだと笑うおばさんを蹴りつけることだけ。
それ以来、私の初恋は見つからない。
いや、かくれんぼでホラーを、というテーマだと言ってんだろうに。
「かくれたら消えてしまう」というネタを書こうとしてた筈だろ? どこを間違えてこうなった。いや確かに消えているんだが、これはホラーなのか?
ホラーってなんだっけ……?




