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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
かくれんぼ【夏のホラー2021】
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「もういいかい?」

【夏のホラー2021】の【かくれんぼ】という題材で書いています。

それ系の言葉を使っていればOKかなぁ、という緩めの基準なので、若干テーマとはズレているかもしれません。



本項のタグ:「夏のホラー2021」「かくれんぼ」

「もういいかい?」「鬼」

 

 山奥にある田舎旅館には、私以外の宿泊客は一家族しかいなかった。


 騒音とは無縁の大自然は都会とは違う雑音に満ちていて、落ち着いて過ごすには良い環境だと思う。

 茅葺き屋根の残る集落にある宿は大きな屋敷で、塀に囲まれた内側には庭園もある。


 ネット情報では座敷童がいる宿なんていう喩えをされるほど、古い宿にはいくつかの離れがあり、宿の人が住み込みで働いている。

 そのためか庭を散策していると、たまに子供を見かけた。

 ヤンチャそうな男の子はこちらを見ると逃げていく。

 従業員の家族なのだろう。籠に入れた野菜を運んでいる子もいた。



 旅館から出ると広がるのは、田園と山。



 それを包む一面の青空が少しずつ夕焼けに色づいていくのが見える。

 遠くでトンビが鳴いているのを聴きながら、舗装の荒い田舎道を少し散歩してみる。



 売店もない田舎の村には、人影もまばらだ。

 たまに田んぼの中で作業している人を見かけても、それは豆粒のように遠い。

 普段スマホくらいの距離しか見ていない視界では、この開けた世界は目眩を覚える。



 夏空に浮かんだ太陽が都会よりも元気なせいだろうか、日向にいるとすぐに汗が出てくる。

 携帯をいじってメッセージを送り、返事を待つ。

 道に沿って田んぼへと伸びている水路を見れば、魚が気持ちよさそうに泳いでいた。

 食事前にお風呂に入っておこうか。

 もう一度メッセージを送って旅館へと戻ると、館前にある駐車場の車の間から声がした。




「もういいかい」




 覗いてみれば、蹲み込んだ小さな女の子。

 旅館の子ではなく、座敷童でもない。宿泊客の娘さんだ。

 繰り返す言葉に、かくれんぼをしているのだとわかる。

 旅館のヤンチャな男の子と遊んでいるのだろうか。

 そんなことを思いながら女の子へと手を振った。




「もーいーかい?」



 宿泊客の家族の娘さんは一人娘で、人懐っこく微笑んでくれる。

 私も笑顔を返して答える。



「まぁだだよ」



 そっかー、と笑っている彼女の頭を撫でていると、こちらを伺っているヤンチャな男の子に気づいた。


 笑いながら追いかける彼女を見送りながら、御伽噺を思い出していた。

 座敷童という子供が、家に幸せをもたらすという話だ。

 楽し気に笑う彼女がいる家は、きっと幸せに満ちたものになるだろう。


 そんな確信を抱きながら、返ってこないメッセージに苦笑する。

 気づいていないのか、返事を打ち込む余裕もないのか。

 そんな純愛相手の顔を思い浮かべながら、もう一度メッセージを送る。



「もういいかい」



 待っているのは楽しくて声に出してみる。

 ずっとずっと待っていた時が、もうすぐそこまで来ている。



 純愛を邪魔する人が居なくなって、好きな人と家族になって、新しいママだと彼女に伝えたら、きっとみんな幸せになれる。



 逃げていく男の子の足が速すぎてやる気がなくなったのか、彼女はこちらを振り返っていた。

 鬼の役になって、二人で会いに行くのも楽しいかもしれない。

 そうして新しい家族となって、古い鬼を退治する。


 それがとても魅力的なことに思えて、私は彼女の手を取った。




「一緒にパパを捕まえに行こう」




 純愛をいつまでも隠しておける筈がないのに、メッセージの返事はまだ来ない。




 しょうがないなと笑いながら、もういいよ、とメッセージを送る。さぁ、幸せになるために鬼退治をしに行こう。







ホラーネタを目にする。

サバイバルホラーが思いつく。(前の話)

書いているうちにサスペンスの導入みたいな話に。(今回)


……ホラーってなんだっけ……?



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