表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
66/287

世の中、殺し屋が多すぎる

世の中、フィクションでしかみたことの無い仕事が結構ありますね。

その中でもわりと身近(?)なものだと思うのですが、意外とありふれていたら嫌だなぁ。

という感じのタイトルが思い浮かんだので書いてみた話。



本項のタグ:「本業と副業」「需要と供給」「嘘と妄想」

 


 微睡の中に浮かんできた顔写真を破る。

 他人の眠りを妨げるような奴だから殺害依頼なんてことが起こるのだ。

 既に永眠しているはずの顔を踏みにじりながらそんなことを思う。



 殺し屋という仕事は眠るのも一苦労する。



 死んだ顔にうなされるなんて素人のような理由ではなく、少ない依頼に焦りを持っているという無自覚。

 それが目を閉じると浮かび上がってくるのだ。


 データ上でしか見ていない、あるいは受け取りさえしていないターゲットの写真。

 隠し撮りのピンぼけもあれば、幼い娘を抱いた家族写真もある。


 この仕事を長く続けるコツは、大物とは関わらないこと、殺せる時まで気長に待つこと、目立たない私生活を持つこと。


 大統領暗殺なんていうのは確かに大仕事だが、名が売れると今度は自分が狙われる。

 殺し屋を殺す依頼なんてものがあるのだから嫌な仕事だ。




 もちろん同業者が減ってくれるならそれがいい。




 しかし今のこの世界には殺し屋が多すぎる。


 低年齢化に低コスト化。

 インスタントでディスポーザブルな有象無象が、ボランティアじみた仕事をする。


 後始末なんて何もせず、足がついても顔バレしても気にも留めない。

 自ら動画配信を行う者さえ。


 首を絞めているならマシな方だ。


 走ってくる電車や車に飛び込んだり。

 ビルから飛んだり。

 わざわざ密閉してガスで満たすなんて気怠いものもある。


 乱造される劣化職人が自ら依頼を出してノーコストで殺しをすれば、劣化職人が少しだけ減る。





 そして大幅に基本価格ベースが下がるのだ。





 おかげで仕事をどれだけしても、生活は楽にはならない。


 カモフラージュの安穏とした私生活が殺し屋の収入を越えていくのに耐えきれず、足を洗った奴も多い。


 真っ当な生活に浸って真っ当な結婚をして、真っ当な人生を送っているような笑顔で帰宅する元同僚たち。

 お祝いを送ったのは何回だろう。

 そいつらへの依頼を受けたのは。

 そいつらから依頼を受けたのは。


 深くなった微睡にそんな顔写真が浮かんでくる。

 両手で足りなくなって数えるのをやめた。

 眠れなくなるだけだ。


 羊を数えれば眠れるなんて嘘っぱちだ。

 きっと弾が足りなくなる。

 唯一残った友人が微睡を揺さぶる。





 スヌーズ。





 もう少し眠らせてくれ。


 眠った気はしないけれど、まだ目覚めたくないんだ。

 そんな思いを込めて触れると、口をつぐんで微笑んだ。

 今日はショートヘアにした黒髪がよく似合う。

 少し若すぎて胸がないから性別がわからない。

 そんな悪態にさえ微笑みを返してくれる唯一の友人(イマジナリーフレンド)



 あぁ、もう起きないと。



 息を潜めて私生活をこなさないといけない。

 普通の人間のように振る舞って普通の生活を楽しむフリをして、でも自分を殺しすぎないように。

 劣化職人のように自分を殺す依頼は出していないのだから。


 いつまで殺し屋の夢を見ているのかとスヌーズが笑う。



 黒髪ショートの友人なんてどこにもいなかった。






スヌーズは優しい友人ですよね。

毎朝、何回も繰り返して起こしに来てくれます。

たまに諦めてしまうこともありますが。


優しく起こしてくれる相手

安らかに眠らせてくれる相手


皆さんは出会えるとしたら、どちらが良いですか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ