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ふと、むかし読んだ小説を思い出したので書いてみた話。
本項のタグ:「【CAWシステム】リスペクト」「ライトSF」「サイエンスフィクション」「執筆フィクション」
一本の線を描く。
それだけでも顕にされる、表現力の違い。
それを極限まで近似させることを追求したことで今は亡き画家の作風を再現している。
そんな風に評されたAIが現れて数年。
当時革新的と言われた故人の作風を再現するAIも、模倣品が溢れるまでは早かった。精度は本家に比べれば鼻で笑う程度のものばかりだが、そんな劣化品が乱立して、本家に対する評価も地に落とされたことを知るものも多いだろう。
今では会社名を検索しても公式サイトに辿りつかない模造劣化品は多くなった。本家が未だ根強く活動しているのは初代としての矜持からか。
雑多な模造品の乱立は、結果として様々な派生形を生むきっかけになった。家庭用機器に派生して掃除の再現を行うスイープマシンも昨年度に販売されて、そこそこ人気が出ている。
そんな中で最も質がまばらで、最も手軽に入手できるのが執筆系アプリだ。
その中で作品完結アプリと呼ばれているものがある。
長平コーポレーションの神木2。
いま最も熱いアプリだ。大炎上という意味で。
神木無印はバグが多く残っていたためクソアプリと認識され、すぐに販売が終了した。
その履歴があったため、販売開始当初の神木2に手を出したものはほとんどいない。
それが変わったのは【小説で食おう】の大人気作品、通称【端役転生】にそれが使われたと暴露された時だ。
簡単に【端役転生】という作品について説明しよう。アニメ1クール、ゲームや飲食店とのコラボ、そして2クール目に向けた時期からエタるという、【小説で食おう】の王道を辿り半ばで沈黙した作品である。
エタった理由が作者が故人になったためだと噂が流れて、誰もが続きを諦めていた作品だ。
そのエタりが四年目になり、突然連載が再開した。
1話あたり1万字超を毎日投稿というペースで半年。アニメは4クール完結。映画化もされて、オリジナルゲームは2作品。その後に投稿されたスピンオフ【主役は転生できない】が【小説で食おう】の大看板となったのは誰もが知る話である。
その通称【端役転生】を海外実写映画化の話が出て、作者である【ポセイドンのアゴ出汁】氏がインタビューを受けることになった。
ありきたりな挨拶に始まり、執筆に至った経緯、停止していた理由、復活したきっかけへと質問は移っていく。
他にやれることがなかったから書いた。続きを書けという催促が強すぎて、かえってやる気がなくなった。未だに全然書けなくて狂いそうになりながら書いている。
そうして語られたのが、神木2だ。
エタるまでに投稿された文章を取り込み、展開や文章量などいくつかの設定をすることで、以後の文章を自動執筆するアプリ。その結果の中で使えそうな部分を摘んで繋ぎ合わせたものが、連載復帰後に投稿された【端役転生】だと語られたのだ。
これは爆撃のように、様々な方面へと飛び火した。
火種となった神木2だけではない。
投稿された【小説で食おう】も、映画会社も、スポンサーも、物書き全般にも。
そのアプリを持っていると呟いたことがあるユーザーさえ、燃やされている。
本当に自分でこの文章を書いたのか? と問いかける、まさに悪魔の証明だ。
神木2を使いパターン別の展開をいくつも並べて、実際に書かれたものと比較するユーザーさえいる。
自作品を自分で作り上げたと認められず、その作品そのものを改変されて晒し上げにされ、その出来が不完全だと貶められる。
そんな魔女狩りのような光景へと【小説で食おう】のランキングが変わっていくまで、然程時間はかからなかった。
未完、連載中を問わず、エタっていない物も含めて勝手に最終話まで作り上げられてしまった作品が無数に積み上がり、いまや本家が埋もれている。
本家である作品や作者が劣化版の烙印を押される。自ら作った話だと認められない。本家を読むことさえ嘲りの対象となっていく。
作者たちにとってはそこは地獄でしかなく、留まる理由もなかったのだろう。多くの作者が登録を抹消したが、それは悪化を更に加速させることになった。
他の小説投稿サイトにも飛び火していくのは自明の理。【リーディンライティン】【私本】【夜想詩篇】【AK】【常星】【うどん本舗】【マルクトマグス】【ネクスト】……数えあげればキリがない。
執筆という行為そのものが瓦解してしまう。
小説サイトが全て同じような物で埋もれてしまう。
いまやそうした懸念の声も上がるほどの事態に、終止符が打たれる発表が、つい先日行われた。
Copy And Write社の著述支援アプリ【専書館】の無料配布開始である。
従来のアプリと大きく違うのは、著名作家の作風を模倣して選択できること。
そして、全くのゼロから執筆が行えることだ。
それは投稿小説に限らず、ブログ記事、ニュースサイト、各種SNS……新聞記事やエッセイ、舞台脚本から啓蒙書に至るまであらゆる文章に対応している。
読むために作品を探す必要もなくなり、パーソナルな嗜好に最適なものがいつでも好きなだけ手に入るようになる。
アプリをダウンロードして必要な項目を選ぶだけで、人類は執筆における苦悩から解放されるだろう。
この動きは最早止まらない。
今はまだ執筆だけが大々的に注目されているが、楽曲や縫製、描画の分野でも同様になるのはそう遠くない。
人類が創作の苦しみから解放される日は、もうそこまで見えている。
(2032年04月22日、Copy And Write社公式サイト、【専書館】エッセイより一部抜粋)
【ロングピース社が開発した著述支援用人工知能CAWシステム】リスペクトなお話。
起こり得ない話でもないと思うのだけれど、現実にはなって欲しくないかなぁ。
個人嗜好反映して自動で執筆や描画するアプリが実在する場合、その作品も【自著】と呼ぶかはわかりません。
でも自力で作る方が楽しいとは思います。
騙されたと思って、あなたも何か作ってみませんか?




