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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
54/287

高い依存性にご注意を

依存性のあるものに手を出すと、生活は簡単に壊れていきます。

この話がそんな戒めになることを願います。


本項のタグ:「高い依存性」「お買い得の二個セット」「ウェアラブル依存性」

 夕飯を久しぶりに外で食べよう。


 そんな約束をすっぽかした恋人に送ったチャットに、謝罪が返ってきた。

 とてもではないが外には出られないと言う。

 風邪だろうか。そんな心配をしたものの、どうにも反応がおかしい。

 はぐらかすような、ごまかすような言い訳が並び、まさか浮気では? という最悪の展開まで心配してしまう。



 そのため、そのまま直接恋人の家を訪問してみた。チャイムを鳴らして、チャットで到着を伝える。

 中で慌てた音がして、チャットには入ってくるなと強めのスタンプが圧をかけてくる。

 しかし中で倒れたような音が聞こえて、問答無用と合鍵を使ってドアを開けた。


 すぐに恋人の姿は見つけられた。

 倒れたまま、玄関へと這い進もうとする姿。

 チェーンロックをかけて閉め出そうとしていたのだろう。その視線が逸らされる。

 だが、問題はそこではない。


 それはあまりに依存性が高く、禁止していたもの。

 日常生活さえ阻害して、身動きすらできなくなって小便さえ垂れ流しにした去年の恋人の無様と、その後始末をした記憶が蘇る。


 あの時処分したはずなのに。

 そんな思いで睨みつければ、既に手遅れなのだろう。以前にも嗅いだことのある臭いがする。

 それでも未だに抜け出せない恋人を叱りつけると、自分ではどうにもならないのだと涙目で謝られた。去年と同じだ。


 だが、今年は更に悪化していた。一人では抜け出せないのだと、どうせハマったことがない私にはこの気持ちはわからないのだと。一緒にハマってくれればきっと一緒ならやめられると。

 そう言って恋人が、それを勧めてきた。


 一度だけ。一度だけやってくれれば、今度こそ二度とやらない。

 そんなことを言いながら這い寄ってくる恋人には、一種の狂気を感じる。

 やってくれないなら、この格好のままで外に出て素晴らしさを説いてまわるとまで言い出した。

 玄関から這い出ようとするのを抱き上げ、部屋の奥へと連れて行く。



 一度だけなら、大丈夫。



 そんな甘い言葉に、背筋の寒さを覚えていながら、それでも私はそれに手を出してしまった。

 結果は惨憺たるものだった。




 全身が包まれるような圧倒的な多幸感。

 背筋の寒さは完全に消えて、じわじわと身体中が侵食されていくような感覚。だがそれは決して不快なものではない。むしろ満たされるような、安らぎが染み渡るような感覚に身体が解れていくのがわかる。


 全身が動くことを拒んでいるのがわかり、それに抗ってまで動きたいと思えなくなる。

 這うのをやめて寝そべっている恋人の隣に、寄り添うように横になっていく身体を止められない。

 恋人が優しく髪を撫でてくれる。なんて心地よい感覚だろう。


 二人で寝そべり、動けなくなる。どうしよう。このままじゃダメになる。でも動けない。動きたくない。ずっとこのままでいたい。でもダメだ、抜け出せ、抜け出さないといけないのに。

 そんな葛藤を見抜いたのだろう。恋人の手が毛布を掴んだ。


 胸元から下が蕩けるような感覚に包まれている。そのわずかな逃げ場である、胸元から首筋まで。

 恋人は自身の首元までを隠すように毛布をかけて、そしてこちらを抱きしめるように、毛布の中へと引き摺り込んだ。

 爪先から頭のてっぺんまで、一分の隙もなく多幸感に埋め尽くされていく。じわじわと溶けていくように恋人にしがみつく。



 本当にごめんね。でも、わかるよね。こんなの絶対に抜け出せないでしょう。



 そんな言葉にまどろみながら、溶けていく身体に連れられて意識も溶けていく。






 こうして私たちは、着るコタツに溺れた。









この後、大きい方のトイレに行きたくなった恋人が、抱きつかれたまま身動きが取れず、泣きながら謝ったのは、また別のおはなし。


……皆さんも、依存性の高いものには気をつけてくださいね。

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