冬もアイスは美味しい
最近寒くなってきました。
コンビニでは肉まんあんまんも売られていますね。
寒い時は暖かいものが欲しくなりますが、甘味も欲しくなりません?
今回はそんなお話……かな?
本項のタグ:「冬場のアイス」「冬季限定」「コンビニスイーツ」
週末に彼が家に泊まるようになって、半年くらいが経つ。
昨今の環境から外出が躊躇われて家デートばかりになった。
それでも毎週心が浮き立つのを感じながら、彼の到着を待つ。
仕事上がりが私よりも遅いため、待ちながら迎える準備をするのが楽しい。
先週は香ばしいグラッセが秀逸なモンブラン。
先々週はシナモン香るアップルタルト。
その前にはとろけるほど滑らかなこしあんのあんころ餅。
思い出すだけでお腹が鳴った。
待ち遠しかった彼の到着を笑顔で迎えて、いつもよりちょっと遅くなったことを軽く責める。
年末が近くなって残業も増えているらしく、苦笑混じりに抱きしめられた。
少し怒っているフリをしたまま、スーツ姿の彼が持っているはずの紙袋を探して視線を巡らせる。でも持っているのは仕事用の鞄だけ。
ちょっと。紙袋は? いつもはどこかのお店の紙袋があるのに。
ないと言われたら追い出そうかと少し本気で思いながら、新しい紅茶をおろす。
お湯のなかで広がったローズヒップティーの香りが溢れて、少し気持ちは落ち着いた。
代わりにお腹がまた鳴ったのを、彼が笑う。
恥ずかしさに睨みつければ、彼は鞄を開いた。
取り出されたのは、コンビニで売っているアイス。
なんだアイスかと思うなかれ。
大人気の有名スイーツ店とコラボした限定品だ。
購入するどころか店舗で見つけることも難しい。
陳列されればすぐに売り切れるそのアイスをどうやって買って来れたのか。
私の目はアイスに釘付け。
お腹から唇までアイスを求めているのがわかる。
でもね。
冬にアイスはないと思うの。
だって寒いじゃない。冷えちゃうじゃない。とっても冷たいアイスは、今は食べるのはちょっと。
そう言って顔を背けた私。
それを彼は遅くなって拗ねていると思ったらしい。
アイスの蓋を開けて、真っ白なバニラ色が引き立つマーブル模様を見せつける。
この薄茶色はメープル&メープルだろうか、紅茶シフォンウィズホワイトチョコ? それとも石焼き芋入りバニラ? フランベキャラメルも捨てがたい。果たして4種類のどれだろうかと心が躍る。
専用のスプーンが目の前でアイスに埋まって、そのマーブル模様を掘り起こす。
目が離せない。
口元に寄せられたスプーンをひとくちにしてしまいたい。
躊躇っているうちにスプーンは彼の口へと消えていく。
悔しさに口を結んで、紅茶をカップへと注ぐ。
その間に彼はどんどんアイスを食べていく。
残っているアイスがみるみるうちに少なくなる。
ひとくちちょうだい。そう言ってしまいそうな口を紅茶で塞ぎ、赤い水面だけを見つめる。
カップを置いて彼を見れば、子供のような笑顔。
アイスはもう空っぽになっていた。
残念に思う気持ちに包まれて、それでも少しだけ安堵する。
ずっと口を開かずに顔も背けていた私の頭を彼が撫でる。
アイスが気にいらないという態度を見せていた私を、慰めるつもりなのだろう。
触れられる感触はとても優しい。
ちょっと甘えてしまいたくなり、彼の方へと顔を向ける。
首筋から顎をなぞるような指先に促されて、彼の笑顔が近くなる。
彼も私に甘えているのだと思うと、しょうがないなぁ、なんて可愛くなってしまう。お互いに甘え合うように目を閉じて、そっと唇が触れ合う。
優しくて甘いキス。バニラと芋のアイスの甘さが、口の中に広がって。
美味しさと甘さと柔らかさが染みこむような。
冷たくて甘くて染み、痛っ、あぁっ痛ぁだだだ!
口移しに押し込まれた限定アイスの美味しさと、彼の唇と舌の柔らかさと、虫歯に染みる痛み。
満足感と気持ちよさと痛みが混ざった感覚を一度に受けて、彼を叩いて口を離す。
悶えて暴れた私に、彼が笑いながら尋ねる。
ち、違うよ? 虫歯とか無いよ。何変なこと言ってんの。やだなぁ。
冬のアイスはとても美味しい。でも虫歯の時は無いから。ダメだから。今は我慢するしかない。そんな本音を隠しつつ、目を逸らしながら紅茶に救いを求める。
子供のような笑顔で彼が笑う。
鞄から、残り3種類のアイスを取り出して。
次はどれを食べたい? なんて。
全部食べたいに決まっているでしょう!
––––––––翌日、彼に連れられて泣きながら歯医者に行った。
限定食品を普段のものと食べ比べてみるのも楽しいかもしれません。
……気づいた時には販売終了しているのは、縁がないからなんですかねぇ……。




