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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
ボケバカリン(ラブコメ)
44/287

立てば芍薬座れば牡丹、中ではボケの花が咲く

全体的に投稿がホラーに偏ってきたような気が?

という理由で、じゃあラブコメでも書くか? となって書きました。

一応、4話連作となっていて今回は2話目となります。また、奇数話と偶数話で視点が違います。


本項のタグ:「ラブコメ」「高校生」「2/4:須藤誠一すどう せいいちの主観」

隣の席の木下花梨(きのした かりん)はボケでバカだ。見た目はお淑やかなぼんやり顔。幼少期からやっている水泳のせいかスリムな体型でスポーツは万能だ。それ以外の成績は中の下で史学や公共など暗記が多いものほど悪い。ちなみに常識もへんなところが抜けている。

見た目を裏切るように、大口を開けて大笑いする中身はバカの一言に尽きる。

授業中に隠れて動画を見ていたことを忘れている、という状況だけでもわかるだろう。

確かにその動画を教えたのは俺だけど、怒られたからって睨まれても困る。昔と比べて遥かに可愛くなったことをもっと自覚して欲しい。


昔はもっとやんちゃだったカリンのことを、最初は男の子だと思っていた。

幼稚園の頃。犬に乗ると言って追いかけ回すカリンを止めるのに苦労した。うちのおとなしい犬が、カリンが近寄ると吠えて逃げるようになった。

小学校では、血が出たけどいつ生えるのかと見せに来た。あまりのバカっぷりに本当に男の子ではないと確信したが、それ以来カリンのお父さんに凄い顔で睨まれるようになった。もはや軽いトラウマだ。

中学校では、全寮制の宗教系学校を目指していたので止めた。万一入学していたら学校のお嬢様方がかわいそうだと説明しても、全く理解されなかった。


おかげで高校でも同じクラスになれたけれど、自覚のない緩さと無防備さが虫を寄せ付けているせいで、毎日牽制するのが面倒くさい。

毎日のように告白しているのに。他の女子からの告白を断っていることも知っているのに。なんで全部都合のいい言い訳だと思い込んでいられるのか、カリンのバカさが信じられない。

どうやって伝えれば本気だとわかってもらえるのか。毎日その仕草に奪われている目には、授業が終わって力尽きた様子さえ愛おしく映るのに。

授業中のバカを友人に笑われている笑顔に見惚れていると、前席の山本が振り返って話しかけてきた。



「モカさんって幼なじみだっけ? 彼氏とかいる? どんなのが好みかな?」



その視線がカリンを捉えているのを見て、この虫は何を言っているのかと笑う。ろくに話しかけたこともないくせにカリンを渾名で呼ぶとか、どういうつもりなのだろうか。



「カリンは俺と付き合っているからダメだよ」


「付き合ってないっ!」



友人と話していたのに、なんで即座にツッコミが入るのだろう。やはりカリンは侮れない。

どうすれば告白が伝わるのか、告白された経験が多そうな演劇部と陸上部の先輩に相談したこともある。カリンのことも知っている先輩たちなら具体的な対策が出てくるかと期待したのだが、結果は出なかった。俺もカリンも物凄くかわいそうなものを見る目で見られるようになった。



「毎日毎日嘘をついてばっかり。なんでこんなに性格悪いのかなぁ。あ、山本くんも、嘘だからね! 信じなくていいからね!」


「あー、うん。そうだな」



俺が告白していることも上手くいっていないことも周知の事実だから、時折ちょっかいを出そうとするヤツが現れる。そしてカリンのこの言動に呆れて、俺に憐みの視線を向けていくまでがいつものパターン。そんな繰り返された経験が渇いた笑いを引き起こす。なぁ山本、どうすれば嘘じゃないって理解してもらえるのか教えてくれないか。

少し苛立ちを覚えながら笑いかければ、山本はお手上げだと言わんばかりにうなだれた。良い形の野球部頭を掴んで振り回したら、妙案が出ないかと試したくなる。

伸ばした手をカリンに掴まれて、教室から連れ出されるままについていく。幼い頃からずっと繰り返した行為に懐かしさと親しみと愛おしさが溢れて抱きついてしまいたい。

少し人が閑散としたあたりで立ち止まると、振り返ったカリンは眉を寄せていた。昔と比べれば少し背丈に差がついて、見上げる顔は以前よりも少しだけ遠い。



「毎日あっちこっちで嘘ばっかり言って回っているの、知っているんだからね。そのうち誰も信用してくれなくなるよ。って聞いてる?」



その距離が寂しくて埋めたくなり、柔らかい髪を撫でるようにして頭を引き寄せる。手の中にカリンがいる幸せを確かめるようにゆっくりと沿わせていく。食みたくなるほど柔らかい耳。口づけしたくなる細い首筋。鎖骨に舌を這わせられたらどれだけ幸せだろう。その胸に埋まることができたなら。そんなことを夢見ながら指先に伝わる感触に溺れていくと、手を掴まれた。



「ってこら! その癖まだ治ってないの? 他の人にやったら本気で怒られるから治せって言ったよね?」



名残惜しさに伸ばした手を掴まれて、手のひらを合わせるように指が絡み合う。握り締められた両手いっぱいに細い指がしがみつくのに応えて、壊さないように大切に握り返す。

でも少しだけ、カリンの物言いが俺を全く理解してくれていないようで、苛立ちに力がこもった。



「カリン以外には出ない癖だから大丈夫だよ」


「は? そんな変な癖あるわけないじゃん。ちゃんと治さないと、社会に出たらセクハラで訴えられちゃうよ?」



それを誤魔化すように漏らした言葉が一蹴されたた。強くなる苛立ちと、真近で語る唇に心が振り回されるのを感じながら、両手から伝わる熱に浮かされていく。

そのせいだろう。意図せずに願望が漏れた。



「カリンが最後まで自由にさせてくれれば治るよ」



そのよく動く唇を塞ぎたい。指先だけでなく、唇でも触れたい。髪や耳や首筋だけでなく。もっともっと全てでカリンを感じたい。

そんな欲望が滲み出ていることを全く予想もしていないのだろう。警戒心なんてかけらも持たずに真っ直ぐに見つめ続けられて、恥ずかしくなって目を逸らした。



「悪化させて治るなんてありません。全く、よくそんなに次から次へと嘘が出るよね?」



カリンの言う通り、一度でも最後までいったら何度でも繰り返してしまうという自覚もあったせいだろう。

それでも気持ちまで嘘として目を逸らし続けて笑うカリンの声に、俺の中で何かが限界を超えた。

これまで毎日繰り返して来た告白が本当に全く伝わっていない。今までの努力が無駄になっていることを再確認して、笑えてきた。

両手を握り締めて、カリンの目を見つめたまま身体を寄せていく。

逃げ道など与える気はない。壁との間に挟み込むように身体を押し付けて、カリンの顔を覗き込む。

大きく見開かれた目が困惑に揺れているのに気づいても、もう我慢する気にはならなかった。



「俺は本気でカリンが好きだ。付き合いたい。もっと触れていたい。ずっと一緒にいて欲しい」



周囲の目もざわめきも関係ない。

伝わるまで逃がさない覚悟で、何度でも繰り返して本気を言葉にしてやる。

そんな思いに汗ばんだ手が緩まないように、しっかりと指を絡めて握ると、少しだけカリンの握り返す力が弱くなっていると気づいた。



「俺は、本気で、カリンが、好きだ」



逃げ場を失ったカリンが悔しげにこちらを見上げている。言葉が出てこないのか、どうすればいいか迷っているのか。

何度キスをしたいと思ったか、全く理解してくれない唇が、震えるように開いた。そこから嘘だと決めつける言葉が出てくる前に、更に言葉を重ねていく。



「俺はカリンが好きだ。カリン以外と付き合う気はない。何度だって言うぞ。カリンが信じるまで、何度だって。俺はカリンが好」


突然カリンの顔が近くなって言葉に詰まった。

今までにないほど近くで見る顔は全く顔だとわからない。それでも視界を埋めているのがカリンだと直感して、言葉を紡ぎかけた口が塞がれているのをゆっくりと理解していく。

カリンの唇が、俺の口を塞いでいる。

そうわかってしまった瞬間、頭が沸騰した。苛立ちとか欲望とか言いたいこととか。そんなものは全部、柔らかな感触に蹂躙された。驚きに自覚せず離れようとしたのか、一瞬感触が消えて再び感触が舞い戻る。


逃げようとするたびにその感触が追いかけてくる。

驚きに困惑と嬉しさが混ざり合っても、抱きしめたい両手と逃げ出したい両手は握り締められたまま。

何度繰り返されたのか、驚きが薄れて嬉しさが溢れすぎて言葉もわからなくなった頃、ようやく両手が解放された。

いつのまにか逆転されて壁に押し付けられていた背中が、膝から抜けていく力に合わせてずり下がる。

ようやく本気で言っているのだと伝わったのかと、安堵と歓喜と羞恥がないまぜになった気持ちで顔が熱い。



カリンも同じ気持ちを少しは持ってくれているのかと見上げれば、胸を張って見下ろしているいつものバカが勝ち誇るような顔をしていた。

嬉しさが再び困惑に呑み込まれていくのを感じながら、思わず顔を伏せて見なかったことにする。



「嘘ばっかりつくから、そうやってやり込められるんだからね!」


「うるせぇ…………ボケバカリン……」



全く変わっていない言動が、信じたくない思いにとどめを刺した。溢れていく熱と流れていく熱。温もりが残った口から溢れさせたのは、幼い頃からのやりとり。数年ぶりの渾名呼びに積み重なった想いが込み上げて、砕かれて涙になる。

そんな打ち砕かれた思いに全く気づいていないのだろう、頭を撫でられる感触がする。慰めているつもりなのかと顔を上げると、いつもより少し赤く染まっている優しい笑顔があった。



「嘘つきは嫌いだけど、誠一のことは好きだよ」


「うっさいバァカ! ボケバカリン! おまえなんかきらいだぁっ!」



ギャン泣きしたまま走り去る以外に、できることなんてない。

大声で泣きながら廊下を走り、周囲で見守っていた人をすり抜けて、先輩方とすれ違う。



「いやぁ……ないわー」


「…………むごい」



何の慰めにもならない呟きが聞こえて、もっと涙が溢れた。








たぶん作者の癖なのですが、主人公(あるいは主観キャラ)には絶望とか諦観とかが無条件で付与される傾向があるようです。

そのせいでホラーっぽくなるのだなぁ、と思いつつ、あんまり直す気がありません。


べ、別に直そうとしてむりだったわけじゃないんだからねっ!!(雑で無意味なツンデレ風味)




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