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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
夏のホラー2020
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ホームの仕事

夏のホラーイベントということで、ホラーネタです。

今年(2020年)のテーマは【駅】とのこと。

ということで、「何がこわいだろうか?」と考えてみました。

共感できる人は少ないかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。


本項のタグ:「夏のホラー2020」「ホームの仕事」「※実際の業務とは異なる場合があります」

 夜の暗いうちに職場に出て、日の高いうちに寮へと戻る。

 職場には怒声と侮蔑、罵詈雑言が溢れている。



「なんでこんなに混んでるのよ! もっと本数増やすとか対応できるでしょう!」


「なんで優先席が埋まっているのよ! ちゃんと注意しないのは怠慢よ!」


「勝手に発車しやがって! 客が乗るために走って来てんのが見えねえのか!」


「安全確認だかなんだか知らないけど、そのせいで遅刻したんですけど? 本当迷惑だからちゃんと時間通りに走らせてくれません?」



 仕事をする上で、できることとできないことがあるが、『おきゃくさま』はそんなことは気にしない。

 だから私はできることをするしかない。



「申し訳ございません」

「申し訳ございませン」

「申し訳ございまセン」

「申し訳ございマセン」



 延々と繰り返し頭を下げる。

 仕事の時間が食いつぶされて、仕事はどんどん慌ただしくなって、相乗的に疲労も増える。

 それでも仕事をしないわけにはいかない。

 職場に溢れているストレスが、物理的なものであっても。


 ベンチに捨てられた生ゴミを片付ける。

 用途以外に使われたトイレに残った名残を片付ける。

 ホームと線路に撒き散らされた吐瀉物を片付ける。

 車輌から降りることもできないほど泥酔した『おきゃくさマ』を片付け……いや、介抱する。場合によっては救急搬送の手配も行う。


 そんなときにも、私の口は言葉を漏らす。たぶんもう口癖になっているのだろう。



「申し訳ごザイませン」



 たまに同僚が救急搬送に連れて行かれることもある。

 ひひっ。

 引き攣ったように歪んだ笑顔を張り付けて、変な笑い声をあげながら、同僚は運ばれて行く。

 とても楽しそうだ。

 同僚が減れば当然仕事は増える。仕事量は加速的に増えていく。

 当然、『おキャくさマ』の対応も増えていく。

 職場に溢れているストレスは、物理的に身体を痛めつけていく。


 自販機で買った飲み物が不味いと、中身をひっかけられる。

 チャージ金額が尽きたと金を要求される。

 売店に欲しいものがないから買ってこいと蹴りつけられる。

 終電に乗り損ねたから送っていけと殴られる。

 痴漢被害にあった駅で立っていた駅員として動画にあげられて痴漢と同罪扱いされる。

 理由をつけて怒鳴られる。理由もなく殴られる。わけもなく蔑まれる。絡まれて罵られる。突然蹴られる。殴られて蹴られて罵られて蔑まれて刺されて怒鳴られる。


 それでも毎日、ちゃんと電車が運行されるように仕事をしている。ホームに立っているだけで射撃場の的になった気分を味わいながら。

 毎日。

 毎日。

 ストレスと仕事と罵詈雑言と暴力と仕事で毎日を過ごしていル。


 でも、たまに思ってしまう。

 一人も『オおキャくさまマ』がイいなければ、仕事はもっとやりがいがあるがもしししれないと。



 ホームから突き落とセば。

 ラッシュに押し込ムときに刺してシまえば。

 ガスや爆発物といっショに詰めて発車させてもいい。

 二度と電車に乗リタくくくなくなれレれば良い。


 そんなことを考えテ、それでも仕事はなくならなイ。

 だから今日も私は駅に立って、『オキャくサマ』から罵詈雑言と暴力とストレスを受けなガら生ゴミと吐瀉物とドラッグと糞尿を片付けテ頭をサゲてアタまを下げて頭をサげげて頭ヲをアタまをサさげる。



「申シ訳ゴざいマせん」



 そうして電車が運行さレている。

 あシたも。

 あさっテテも。

 ライねんも。

 サらいねンも。

 いつまマまでも、仕シ事は続くくく。

 今日もこれから満員電車に『おきゃくさま』を詰め込むのだ。罵られて殴られながラ。






 ……ひひっ。






駅のホームで仕事をするのなら、一番怖いのは「客」だろう。という話でした。

現実にも駅員さんへの暴行事件は多いらしく、年間で600件近く発生しているとか聞いたことがあります。


「正気を保って仕事をしている」ということは、存外貴重なことなのかもしれません。


シャレにならない気温が続いておりますが、皆様も正気と命を失わないよう、お気をつけてくださいね。



……ひひっ。



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