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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
童話や寓話のような何か
35/287

おのもきこりもありません

童話や寓話をネタにしていますが、いろいろ原作を無視している気がします。

お暇な方はぜひ原作も読んでみてください。


本項のタグ:「童話・寓話」「原作要素は薄め」「ヘルメスときこり(金の斧と銀の斧)」

 

 人里離れた山奥に有名な泉がありました。

 その泉には女神がひっそりと暮らしています。

 静かで穏やかに過ごす時間を邪魔するものは、滅多に訪れません。

 動物たちも水を飲むとすぐに立ち去っていき、争うことがないのです。

 泉の女神はそんな穏やかな時間を、泉の底に沈んだものを愛でながら過ごしていました。


 しかし、ある日その泉に、人間の死体が沈んできました。浮かばないように腹を裂かれて、石と一緒に袋詰めされた死体です。

 泉の中から水面を見上げると、死体を沈めた人物が一服しているのが見えました。

 女神は水面へとその姿を浮かび上がらせます。

 死体を沈めた人物が驚愕に固まるのを見ながら、女神は穏やかに語りかけました。



「あなたが落としたのは、全部覚えている傷だらけのこの人ですか。それとも何も覚えていない無傷のこの人ですか」



 タバコを落とした人物はその問いに答えることなく、慌てて車に乗り込みました。

 女神は再び同じ問いを投げかけましたが、その人物は見向きもせずに発車させます。

 車は山道へと向かい、すぐに見えなくなってしまいました。



「……正直者とも、嘘つきとも言えませんね。もう一度、機会を与えてあげましょう」



 女神はそう呟くと、傷のない人と傷だらけの人を泉の水へと戻しました。

 代わりに泉に沈んで来た、腹を裂かれて石を詰め込まれた死体を手にとります。

 泉から引き上げられた死体が、女神の手元で光に包まれて消えました。

 女神はそれを確認して、泉の中へと戻っていきました。


 光となって消えた死体は、フロントガラスを突き破り、包んでいた袋からはみ出して運転していた人物へと絡みつきました。

 そのまま車は山道を外れて、森の中へと飛び込んでいきます。

 身体が傾ぐほどの坂を、車体は滑るようにして落ちて行きます。

 とても車で走れるような場所ではありません。

 満足に運転する余裕もなく、やがて車は木にぶつかり、とても大きな音をたてて止まりました。

 その拍子に、車からは二つの人影が弾き出されて転がっていきます。

 それは山の斜面を滑り落ち、そうして崖から飛び出しました。

 二つの人影はひとかたまりになって空を飛びましたが、すぐに再び落ちていきました。

 とても大きな水しぶきが上がりました。


 女神は随分と早く、随分と高くから戻って来た人物へと目を向けました。

 痛みと衝撃で苦しそうにしながら溺れつつある人物と、裂かれた腹に詰まっていた石が溢れた死体です。

 女神は水面へと姿を見せて、違った姿の二人を泉から作り出します。



「……落としたのは、仲睦まじくラブラブイチャイチャな二人ですか。それとも指先が触れるだけでも恥じらいが溢れるもどかしい二人ですか」



 しかし、そこにいるのは泉の音に驚いて様子を見ていた獣くらいでした。

 泉の中へと目を向けて見れば、死体に絡みつかれた人物が死にものぐるいになって浮かび上がろうとしています。

 もちろん、どちらも答えを返すことはありません。

 退屈そうな女神の目が、浮かび上がっていく泡を見つめました。

 死体は何も喋りません。

 溺れている人物に無理矢理答えさせてみても、泡が浮かぶだけで言葉にはなりません。

 女神は諦めて、作り出した二つを泉の水へと戻しました。

 そうして残った二つとともに、泉の底へと戻っていきました。


 人里離れた山奥に、有名な泉がありました。

 そこに女神がいることなど、全く知られていません。

 訪れる者たちのほとんどが泉で心中をしているので、知られることがないのです。

 そんな泉の女神が愛でているものが何なのか、心中したものたちだけが知っています。






生活としてはともかく、収入のために斧で木を伐るという仕事風景は今は無くなっているかもしれません。

森林伐採用の車輌が泉に突っ込む、というのも考えましたが、泉の女神が「そんな重いもの持てません」と言ったので不採用になりました。

原作では悪用しようとした人物がいましたが、最終的には泉に引きずり込まれたんでしたっけ……?

結末が気になった方は、原作を読んでみるのはいかがでしょうか。


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