求めたものは
童話や寓話をネタにしていますが、いろいろ原作を曲解している気がします。
お暇な方はぜひ原作も読んでみてください。
本項のタグ:「童話・寓話」「原作要素は薄め」「かぐや姫」
一等地にありながら広大な庭園と大きな屋敷を持つ、ある業界から隠棲した老人が一人で生活しているはずの場所に、訪れる者はもうほとんどありません。
老人も家を後にして、そこに出入りするのは庭園の手入れをする業者くらい。
だから、そこに一人の美女がいつから住んでいたのか、誰も答えを知りません。
彼女がいることを知っているのは、ほんの僅かの限られた人間だけです。
年齢は三十歳まで。年収は国民の上位一パーセント。健康上の問題がなく犯罪歴のない未婚者。一角の地位を築いていること。
それらのことは最低限の前提です。
色香に弱いこと。
バレないなら犯罪を厭わないこと。
自分のために迷わず他者を犠牲にできること。
そういった様々な条件に合致する男性だけが、彼女の存在を知ることが許されました。
国を陰から操るフィクサーの愛娘などと嘯く彼女を、もちろん男たちも容易くは信じません。
しかし通されたのは、かつてそう言われた老人が住んでいた土地の屋敷です。彼女が老人となんらかのつながりがある、そう期待させるには充分でした。
その恩恵が得られるかもしれない。
利用価値があるかもしれない。
なくても上質な娼婦と見れば暇つぶしになる。
そんな思惑を胸に、男は屋敷へと通されました。
男にとって予想外だったのは、他にも男が招かれていることでした。
それぞれ別の部屋に通された男たちは、窓越しでしかお互いを確認できません。
しかし彼ら自身が持っている情報網は、そこにいる男たちの素性へと辿り着きます。
違う世界で傑物と謳われている成り上がり。
そんな評価を男たちはお互いに抱きましたが、それが伝わることはありません。
男たちの顔に浮かぶのは、成り上がりに対する侮蔑ではなく、不快感でした。
他の男と同等に並べられることに、ちっぽけなプライドが軋みを上げたのです。
しかし、それは男たちにとってみれば自分が一番優れていることを証明するための、丁度良い機会でもありました。
美女が彼らに求めたものは容易なことではありません。
「全国民の管理履歴が欲しいわ」
「全国民の疾患履歴が欲しいわ」
「全国民の訴訟履歴が欲しいわ」
男たちが要求されたものは、おいそれと手に入れることも外に出すこともできません。
閲覧するだけでも必要な手続きが煩雑です。
それを丸ごと入手して持ち出すなど、不可能と言えるでしょう。
ですが彼らもそれなりに地位も財もなしている傑物です。
正攻法ではなくても手段は講じられます。もちろん、犯罪となる可能性もありましたが、彼らはバレなければ良いのだという思考の持ち主です。
そして他人を犠牲にすることも厭わない者たちです。
それを踏まえて集められているのですから、彼らがその入手を実践しようとすることは、必然でした。
それからしばらくの時が過ぎました。
求められたものを用意した男たちは、それぞれに自分が一番だと確信していました。
再び屋敷に招かれて、それぞれの部屋に通されます。
しかし、待っていたのは麻酔ガスでした。
男たちは一つの部屋にまとめられ、密談するような状態で意識を取り戻しました。
しかし影響が残っているのでしょう。すぐに立ち上がることは出来ず、揺れる視界でテーブルに広げられている資料に目を向けました。
そこには取りまとめた情報を基に国民を選別する計画が記されていました。少なく計算しても国民の三割が殺処分される計画書です。それは実に荒唐無稽な冗談のようなものでした。
所詮は女の浅知恵だ、と男たちはそれを見て嘲笑います。
その腹の中では、彼女を殴り倒すことや嬲り犯すことで憂さを晴らそうと欲望が蠢いています。
そんなお互いの嗜好が伝わったのか、男たちはお互いに似た者であると笑い合いました。
その笑い声に引き寄せられたのでしょうか。
突然、部屋の扉が開かれて、大勢の人々が押し寄せました。
突きつけられるマイクとカメラ。
それは男たちを集めた彼女が用意した、報道関係者たちでした。
男たちが囲んでいる計画書も。
非合法に手に入れたものも。
そのために犠牲者が出ていることも。
報道関係者たちは全て、彼女がリークした情報を元に知っていました。
全てが彼女の予定通りで、最初から嵌めるつもりだったと気づいても、全てが手遅れです。
男たちは彼女への復讐を誓いましたが、今は報道関係者への対処が先決です。
この報道が大きく国の根幹を揺るがすことは、誰もがわかっていましたが、男たちには止めることができません。
報道関係者たちも互いに出し抜かれないために、自国がどうなるのかなど考えることなく、国の根幹を揺らし続けるでしょう。
そんな彼らは、とうに彼女が自分の国へと帰国していたことなど、知る由もありません。
そして、それを知る余裕など全くこの国にはなくなっていくことも、今はまだ知る余裕も無いのです。
一等地を彼女に貸した老人は、この騒乱を昔の動乱に重ねて懐かしみながら、誰にも看取られずに笑いながら死んでいきました。
原作で最初に思いだすのは無理難題を吹っかけるところ。
結婚したくないから無茶苦茶言っている、とも思えます。
でも、情報収集力や兵力や財力などの情報を把握することで、その国(士族?)の能力把握を図っている諜報活動やハニートラップのようにも思えるのは偏見でしょうか。
原作における「かぐや姫」がどういった意図で無理難題を吹っかけているのか気になった方。
原作を見てみるのも、面白いかもしれませんよ?




