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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
童話や寓話のような何か
29/287

シンデレラのように

童話や寓話をネタにしてみましたが、いろいろ原作を無視している気がします。

お暇な方はぜひ原作も読んでみてください。


本項のタグ:「童話・寓話」「原作要素は薄め」「シンデレラ」

 朝から今日も忙しい。


 ニワトリに餌をやり、卵を回収する。

 牛の飼い葉を替えて、乳を絞る。

 畑に行ってキャベツやニンジン、ピーマンなど様々な野菜を収穫する。

 それらをかまどで調理すると、野菜たっぷりのクリームスープになるので、出来上がりまでおいておく。

 小麦から作ったパン種を取り出して、オーブンへと入れる。これは昨夜寝かせておいたものだが、小麦の残りも少なくなったから仕入れないといけない。


 朝食の時間になると姉たちと義母がドレス姿で降りてくる。四人がけのテーブル席にパンとスープを給仕して、彼女たちの食事が終わるのを待つ。

 姉三人と義母が交わす会話は一切聞こえない。それでも歓談している彼女たちが、時折こちらを見て笑っているのがわかるので、なるべく顔を合わせない。

 食事を済ませた彼女たちは思い思いに出かけていく。今日は火曜日なので広場の戯曲を観に行くのかもしれない。

 そんな広告が出ていたけれど、家のことで手一杯で観に行けたことがない。


 見送りを済ませて、家の掃除を行う。

 慣れて時間が短縮できるようになった部屋の掃除は、レイアウトが変わってリセットされた。また必要な時間が戻ってしまったことにため息を漏らし、それでも目的のためと割り切って掃除を行う。


 義母の部屋と、姉たちの部屋三つと、物置が八つ。リビングと客間が二つ。エントランス。

 掃除が終わると昼食の時間を過ぎていた。昼市に出かけて小麦とフルーツを入手。

 簡易食の乾パンも入手して、それを口に運ぶ。今日も食事はこれだけで終わり。


 家に戻って小麦を製粉機に入れて、フルーツをしまう。フルーツは帰った姉たちが食べるためのもので、たまに食べ残しを貰うこともある。蔑んで笑うために。

 そんな姿を思い出して苛立ちを募らせながら、畑に行って水を撒く。

 ニワトリと牛の餌やりをして、軽くブラシをかけてやる。これをやらないと卵や乳の質が下がることがある。

 家に戻って小麦粉を練ってパン種を作って寝かせておく。これは明日の分だ。


 それ以外にもやることは多い。

 肥料の元の調達と作成。

 飼い葉の元になる草の採取。

 近隣への挨拶。

 時には街の外に出て、ノネズミや野犬狩りも。

 そのために使うプチナイフや鍋蓋の手入れも欠かせない。

 森で樹を薪にして運ぶ。そのための手斧の手入れも。

 燃料代わりの石の採掘。それに使うツルハシの手入れも。

 手入れに使うための布を作るため、元になる草の採取と加工もしなきゃいけない。

 そうした諸々をこなしていくと、いつのまにか日が落ちている。


 そんな風にして、毎日が積み重なっていく。

 それらの行動で得られる、ほんのちょっとのポイントだけがどんどんと増えていくのを実感しながら。



 ようやくそろそろ目的が叶って、初期アバターからの全修正が出来そうだ。




 課金前提のゲームなので無課金者の比率は低めだ。


 それでも無課金者がいないわけではない。

 イベントのたびに新規参入者優遇もあるし、無課金者への限定アイテムも出る。課金者にポイントで譲渡可能なアイテムだから課金者からの文句は少ないが、それによるトラブルは絶えない。


 生活維持のための採取や採掘、調理などで得られるポイントだけでは初期アバターからの脱却さえ困難だ。地道にやれば半年はかかるだろう。


 でも私の場合は課金勢の持つ(ホーム)で手伝いができる分、ほかの無課金者よりポイント獲得量は多い。三倍くらいか。

 月一イベントの王城ダンスパーティー。そこに行くためには初期アバターからの変更が必須だ。ヘアスタイルをドレス使用に変更して、ドレスを纏い、ドレスシューズを履いている必要がある。変更可能な箇所が三か所しかないのは運営の恩情なのか手抜きなのかは判断がつかない。


 それだけの変更を行うだけでも、課金だと五万くらいかかる。だが、入手したアイテムは何度でも使える。

 このゲームがクソゲー認定されながらもプレイヤーが多いのは、このダンスパーティーイベントで王子に見染められるとウェブマネー系で倍近く返ってくるという一点につきるだろう。

 ステージごとのダンスパーティーの様子や選ばれたアバターの履歴は公開されており、当選者コメントも見られる。


 百分の一が当選率だが、毎月その確率で約十万が当たると考えれば高確率と言えるだろう。百人毎に分けられたステージで、必ず一人が当選することが公開されていることもあり、その信憑性は高い。



 しかもこの運営は緩い。

 方法こそ違法ではあるがプログラムを盗み見れば、簡単に今後どのステージでどの組み合わせのアバターやアイテムが当選するのか、丸わかりなのだ。



 だからこそ気づいてしまうこともある。


 現状で入手できるアバターやアイテムでは、当選する組み合わせが作れないことに。

 過去のイベントで重課金している一部が所有するドレスが、ほぼ確定で使われている。ごく稀にそうではない組み合わせもあるが、それさえゲーム開始前の事前登録特典が半数を占める。

 純然と入手できるアイテムの組み合わせで当選する確率は、高く見ても十万分の一。

 現状の開催頻度とステージ数から換算して、約八十年続けて一度当たる計算。

 その確率を確認して、私は別の方法を取ることにした。



 名付けて『シンデレラ計画』。


 アバターやアイテムを別のものへと変える、プログラムの書き換えである。






 王城ダンスパーティーに参加登録を行い、割り振られたステージ番号を確認する。

 それに合わせてアバターとアイテムのプログラムを変更。このステージで当選するドレスとドレスシューズ、ヘアスタイルへと変更させる。

 ダンスパーティーと銘打ってはあるが、実際に踊っている人はそれほど多くない。課金モーションもあるが、課金エフェクトのほうが需要は高いようだ。そのせいでどこを向いてもキラキラピカピカして全体的に目障りである。

 とは言え、時間いっぱいまではイベントに参加している必要があるため、極力動かないようにしておく。同一アバターがいないという幸運もあり当選を確信したが、わざわざ事前に目立つ必要もない。



 そうして問題なくスポットライトが私のアバターを照らし、ステージに用意された王子が祝辞を述べた。



 通常はこの後メンテナンスに入り、メンテナンス明けに王子が当選プレイヤーを訪問。引き換えチケットを贈答して、受け取ったアイテムを使うとウェブマネー系選択サイトへのリンクが載ったメールが送られてくるのだ。

 その流れを公式がダンスパーティー会場に動画として流しているので、そうなることをこの時は全く疑っていなかった。

 だからスポットライトに照らされても、当然だとしか思わずにいた。






 疑問を持ったのはメンテナンス明け。



 再びいつものように課金勢の家でポイント稼ぎの作業を続けていた時、王子が来訪した。

 王子からの贈答品を受け取ろうとして、義母と姉三人が取り囲む。チャットも課金機能のため私には彼女たちの会話は聞こえないが、動作を見ているとカバディと繰り返しているようにしか見えない。

 アバターが持つ美しさなどなく、金欲しさに群がる醜さが溢れているように見えた。

 必死になって王子を説得しようとしている彼女たちの姿を蔑み笑い、そんな彼女たちを押し除けて、王子の前へと立つ。

 公式が王子用に作成しているだけあり、非現実的なイケメンだ。

 それがうやうやしく膝をついた状態から、捧げるようにして両手を差し出す。

 そこには何もないが、手を取ればメールが届くらしい。少なくとも昨日ダンスパーティー会場で見た公式動画ではそうなっていた。

 だから全く疑いを持たず、ハズレ課金勢どもが止めるのも無視して手を伸ばして、王子の手を取った。




 そして、全てが固まった。






 見えるのは王子の姿。周りにいる義母や姉たちの止めようとする姿。街の様子も全てが固まったまま動かない。

 BGMさえ止まっている。PCは稼働しているらしく、掲示板サイトなどの別窓は普通に動いていた。

 メンテナンス明けでたまに起きる再メンテナンスだろうかと、ぬるいことを思っていられたのは短い間だけ。




 画面に表示された文字を見て、背筋が冷えた。






『不正ツール使用のためアカウントを凍結しました』

『アクセス解析中。ユーザー情報を収集しています』






 慌てて電源を落として、ゲーブルを引っこ抜く。

 もちろん、そんなことに意味がないことはわかっているが、反射的に行動してしまった。再度電源を入れて、この後の対応を考える。


 まず、携帯を取り出した。

 運営にアカウントが一昨日から乗っ取られている旨のメールを送った。信用される可能性は低いが、無罪主張をしないわけにもいかない。

 再起動したPCを操作して、侵入するのに使ったツールや書き換えに使ったプログラムを抹消していく。

 一通り、見つかったら取り繕えなくなるものを処分して、掲示板を開いてみた。

 不正ツール使用などの対応に関して、履歴を探していく。

 そうして見つかったものは、とても現実的にはありえないようなことばかりだった。




『焼けた鉄板の上で踊らされる』


『かかとと指を切り落とされる』


『両眼を抉り取られる』


『首吊り刑に処される』




 どうやらモチーフになったシンデレラの結末を基に、罰則を想像してふざけているのだと気づいた。

 本当は魔法使いがいないとか、カボチャの馬車がなかったとか、どうでもいいことを読み進めていくうちに、少し落ち着いてくる。

 実害を出したわけでもないのだから、訴えられることもないだろうと考え、アカウントはしばらく使わない方がいいだろうと思う。


 とりあえず世話になっていた課金勢の義母や姉たちのプレイヤーにも、アカウントが乗っ取られていたのだと伝えておけば信憑性が増すだろうと思い、フリーソフトのチャットを立ち上げようとした。




 まるで魔法のように、部屋のドアが吹き飛んだ。




 炸裂音、いや爆発音か。

 部屋に響いた音が耳を馬鹿にさせて、入り込んできた集団の靴音も聞こえない。

 本物の突撃銃を押し付けられて、手をあげる暇さえ与えられずに組み伏せられた。後ろ手に捻られて縛られていくのがわかった頃には、もう既に縛られて身動き一つできない。


 携帯とPCが周辺機器もろとも無造作に箱詰めされていく。それに文句を言う間も無く猿轡さるぐつわを噛まされた。掴まれた両腕に全身の重さがかかって痛んでも、呻き声しか漏れない。

 痛みに暴れても手荷物のように運ばれて、自力で歩くことさえできない。そのまま靴も履けずに玄関から外へと連れ出された。






 そこにあったのは、真っ黒な護送車だ。

 ドアを吹き飛ばしたのが魔法なら、護送車はカボチャの馬車か。ネズミを変身させた馬は見当たらないが、遥かに馬力がありそうだ。




 非合法な処理を行うと明言している彼らの存在に、思考が半ば現実逃避を始めている。

 彼らに突撃銃(まほう)で吹き飛ばしてもらった方がよほど楽な死に方かもしれない。

 そんなことを思って必死になって抵抗したが、それも一瞬で殴られて終わった。

 痛みが強すぎて呼吸さえ苦しい。






 きっと、彼らの管理する強制収容所(おしろ)で過ごすことになるのだろう。




 おそらく、残りの生涯全てを。








作中にでてくる課金ゲームには特に元になるイメージはありません。

というか、ウェブマネーであっても十万とかもらえるゲームなんて知りません。

一瞬で十万とか溶けそうなゲームなら……。

あ、部屋のドアが消し飛んだ。魔法か?

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