あなたの猫はどこの猫?
通販番組って結構昔からあるような気がします。
ネットになってもプロモーションとか、CMという形で目にすることもありますね。
今回はそんな通販番組をネタにしてみました。
本項のタグ:「通信販売」「たぶん合法番組」「購入は自己責任です」
こんにちは。辺境星系固有種ペット通信販売のお時間です。
第830回目の今回は、前回の同星系に位置する『地球』固有種の『液状猫』についてご紹介していきます。
『金星』の『猫』は前々回のリンク、『木星』の『霧状猫』は前回のリンクから飛べます。
『猫』は皆様ご存知の通り、宇宙空間を渡り星々を旅する生物。宇宙船の描くフレアにじゃれつく姿を見て心を和ませることもあれば、じゃれつかれた宇宙船がブラックホールに弾き飛ばされた視聴者の方もいらっしゃるでしょう。
そんなあなたにこそおすすめしたいペット、それが『液状猫』です。
何とこの『液状猫』、宇宙空間で思索にふける習性があるのです。まるで驚愕に囚われたように一点を見つめるその姿。宇宙空間を漂っても決して揺らぐことのないフォルムは、まさに賢人の思索を思わせます。しかも、外的刺激を与えない限りその状態を維持するという特異性まで併せ持っているのです。もちろん個体差がありますが、『猫』による宇宙難波の発生件数を思えば、これが如何に驚愕の行動かおわかりいただけることでしょう。
それだけではありません。この『液状猫』、その名が表す通り、ただの『猫』ではないのです。
木星の『霧状猫』をご覧になられた? まだ見てない?
いいでしょう。そちらの特異性も簡単に触れましょう。
『霧状猫』は空気より軽くてどこにでも簡単に連れて行くことができる、いつでもどこでもペットと一緒に過ごしたい方に最適です。習性として狭いところに入り込みたがるのは『猫』に共通しているところですね。あぁ、寝ている時に肺に潜られた視聴者の方々がいらっしゃいますね。なかなか出てこないから皮膚呼吸で凌いでいる? もう三日も声が出せない? 大丈夫。ご注文はメールでも受け付けていますよ。
では『霧状猫』が気体の性質を持つならば、『液状猫』はどうか。そうです。液体の性質を持つのです。
燃料タンク、エンジンの隙間、ドアと壁の間、あなたのバディにできた心の溝にも、するりと入り込むこの軟体性。それでいながら通常は四本の支軸による驚異の機動性を併せ持った存在なのです。
ふむ? 支軸がある液状などあり得ない? なるほど。言葉だけでご納得いただけないのも当然のこと。そんな皆様にご納得いただくため、なんと今回、実物をこちらにご用意しております。
どうぞご覧になってください。こちらは『液状猫』の中でも特に珍しい三色の色を持った『ミケ』という種類です。
全く『猫』っぽくない? なるほど、確かに空間伸縮現象もありませんし、外殻に蠢く重力素子射出口もありません。これは『霧状猫』の場合と同様に、『地球』に定着して独自に環境適応を果たしたためと考えられています。見た目だけでもご理解いただけるこの流体性。それがどれほどのものか、指でなぞっただけでも、ほらこの通り。
まるで砂のような微かな抵抗感。そして水のように柔軟に戻る復元性。これは全て全身を覆う特殊な体毛による流体性の賜物なのです。
フェイク映像ではないかと疑われる方もいらっしゃる。詐欺との声も見えておりますね。
いいでしょう。それでは皆様に、さらに信じられない『液状猫』の特性をご覧にいれます。
用意しましたこの箱。容積比較いただけると明らかですね。
この箱に『液状猫』が入っている映像がこちらになります。どうぞ、気を確かにお持ちになってご覧ください。
皆様、まだご覧になられていらっしゃいますか。
もう一度見たい? なるほど、生物としての限界を超えた流体性を理解するには、一度の確認では不十分である。納得のご指摘です。
しかしながら先程の映像を再度ご覧になる前に、この『液状猫』の特異性について一つ、ご案内したく存じます。
この『液状猫』、『霧状猫』とは違い寝ているあなたの肺に侵入することがありません。あぁ、信じられないという声が多く聞こえますね。おや、びっくりした『霧状猫』が口から飛び出した方もいらっしゃる。
では、証拠の映像をお見せいたしましょう。
お待ちかね、当社販売員のプライベート映像です。本日はわかりやすくお伝えするため、睡眠時顎開放行動があるグサハ星系種属エトリ販売員の、決して人前では開くことのない大口葉が大開帳する様子からご覧ください。
ちょっと刺激が強すぎる映像でしたが、皆様にお喜びいただけたようで。え? もっと見せろ? 申し訳ありませんが、これ以上は放送法に抵触するため、以後の映像はプライベートブランドから御購入ください。先程の『液状猫』の映像と併せて販売させていただきますので、どうぞお楽しみください。なお購入用のリンクは番組の最後に表示させていただきます。
さて、『液状猫』が肺に侵入してこない様子をご確認いただきましたが、ご納得いただけました?
ご納得。ご納得。続き見せろ。ご納得。そこをかわれ。あ、こちら通報いたします。
概ねご納得いただきありがとうございます。
それでは今回ご用意しております『液状猫』ですが、数に限りがございます。また三色の配置や変更には応じることはできませんので、予めご了承ください。
ご注文のリンクはこちらとなっております。記載の注意事項承認後に送付先入力が可能となります。
なお、ご購入いただいたペットの行動に関して当方は一切責任を持ちません。
また返品や交換、廃棄引き取りは応じません。また輸入可否や罰則についてはお住まいの星域管理機構にご確認ください。
さて放送時間もそろそろ限界のようです。
それではまた次回の放送でお会いいたしましょう。皆様、良いペットライフをお過ごし下さい。
提供は
『あらゆる生物と共存する理想郷を目指して。危険生物保護飼育促進連盟』
『自然の姿が最も美しい。防疫検疫撤廃機構』
『良心に値段をつけよう。登録者売買互助組合』
の提供でお送りいたしました。
グサハ星系種族は植物系の容姿で、エトリ販売員の外見は体高7メートルのハエトリグサに近似しています。
え? ハエトリグサに肺があるのか……?
…………あ。
………えーと、作中にでてくる『猫』の名前はヤママヤーです。本当の『猫』なので。
あなたの家の猫も、実は『猫』かもしれませんね。




