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【RE江戸書籍化】異世界から帰ったら江戸なのである【1~4巻発売中】  作者: 左高例
第四章『別れる道や、続く夏からの章』
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58話『九郎お悩み相談所』


 火盗改の使う十手は黒塗りで鍛鉄を使った、まさに実戦向きの鋼鉄棒である。

 鈎で絡み取れば生半可な刀などはあっさりへし折れる上に、打たれると骨にまで衝撃が響きとても我慢してはいられない。江戸にいる悪党──特に累犯の者はことさらその黒塗りの十手を恐れたという。

 九郎は最近、非公認の密偵としてその十手を借り受けた。

 見せびらかすわけでも無かったが、彼がそれを預かった話は広まって長屋では若旦那の九郎から、御用聞きの九郎と呼ばれるようになった。

 御用聞きというと、儲けこそ無いが町内でも大工の棟梁と同じぐらい頼りにされる身分である。 

 今でこそピンと来ないかもしれないが、当時の江戸では大工の棟梁はそれこそ町奉行や同心などよりも身近で相談事や名主への口利きなどで信頼される立ち位置にあった。喧嘩が起きても棟梁がくればすぐに収まり、不倫だ借金だという細かな諍いも調停していたという。

 ともあれ、九郎はそれと並ぶような十手持ちになったのだから、自ずと彼への印象も良くなる。やれ、後家を誑し込んで豪遊している怪しからぬ男だの人斬りと大の友人だのという根も葉もない悪い噂も収まるだろう。

 

 さて。

 公儀の民間協力者となった九郎であるが、犯罪以外にも日常の相談も来るようになった。

 江戸は自治の町でもあるため、町内の事は町内で解決するのが常である。そういう時に、いつも暇している御用聞きがいれば便利だと、誰から聞いたか長屋のみならず近所からも時折店に訪れてくる。

 スリや引ったくりが出ただの、空き巣が出ただのという話を聞くのが御用聞きなのであるがもはや日常のお悩み相談さえやってくる。

 九郎の方も、気性が世間話を好む老人めいているので、かつて役場で地域相談係をやっていたことを思い出しながら持ち込まれた話に助言するのであった。

 この日も、近所の屋台で出している煮売屋で──辛気臭い話は外でやるように、とお房に言われている──棒手振りの男が九郎に云うには、


「うちの女房とおっ母の仲が悪くて……」

「世界中で年間百万件ぐらい発生しそうな悩みだのう」


 と、どうでも良い家庭の不仲を聞いていた。


「やれ、飯に鰯を出したのは骨を喉につっかえさせる為だとか、飯時になっても帰ってこないで膳を無駄にしたとか、そんなくだらねえことで毎日ぎゃあぎゃあと喧嘩してるので、もう近所中の評判が悪くて」

「ううむ、お主は棒手振りだったか。なら明け方から夕方まで家を留守にしておるから余計に騒ぎに手が出せぬなあ」

「これが困ったもので……」


 ため息混じりに男は酒を口にする。

 棒手振りと言うと天秤棒を持って盥を下げ売り歩く商売のことだが、江戸では特に魚売りがそう呼ばれた。夜も明けぬうちから日本橋の魚河岸へ行き、魚を持って声を張り上げて売り歩きながら馴染みの長屋や店を回って、捌いたりしながら売り切れるまで歩く。

 日の長い夏になるとまた夕方に再度魚の仕入れ市が立つ事もあったので、一日中仕事が忙しいのだ。

 それでも稼ぎは良いので暮らしは悪くないのだが、休みに家で喧嘩をされていてはどうも居心地が悪い。


「それで、お主はどう対応しておるのだ」 

 

 九郎の問いに男はうんざりと応える。


「女相手に、口喧嘩で言われちゃどうにもなりませんで。おっ母に同意を求められりゃそいつぁ大ェ変だなとか、女房に愚痴を聞かされちゃ苦労をかけてすまねぇなと」

「それが悪いのだ、それが」

「へえ?」


 煮染めを食いながら九郎は云う。


「お主がどちらにも肩入れするものだから、母親は嫁に取られたと思うし、嫁も母親に取られたと思うて諍いが起こるのだぞ」

「はあ……しかしどうしたら」

「母親と嫁を並べて二人にきつく説教しろ。両方の敵になるぐらいの気持ちでいけばお互いに思いやるようになる。亭主留守で元気がいいと云うだろう」

「言いますかね?」

「……亭主元気で留守がいい、だったか?」

「いえ、知らねえですが」


 うろ覚えの標語に、云った九郎の方も首を傾げた。

 なおこの言葉は昭和に生まれたのでことわざのように使っても通じるわけではないのだが。


「ともあれ、叱るときは二人同時に。片方の欠点をあげつらうのではなく、両方が喧嘩することで起こる面倒を怒ってやれ。自分の味方にならぬと母嫁が悟ったら一々喧嘩するのもばかばかしくなる」

「わかりやした」


 そう言って男は頭を下げて飲み代を払い、家に帰っていった。

 九郎はその背中を見送りながら酒をぐいと飲む。煮売屋で出される安酒だが、そう悪い味ではない。濃い目の醤油で煮付けた昆布の味を引き立てて中々に良い。

 そして、


「じゃあ次」


 と、言うと外で並んでいた他の者が隣に座ってくるのであった。

 何せ、ざんばらの髪に大太刀を腰に下げて日がな遊んでいたという近所でも目を引いていた九郎が御用聞きになったというのだから、せっかくなので色々話を持ち込もう、という連中が通りかかっては順番待ちをしていたのである。

 内容はまあ、生活の細々とした内容であったが意外と九郎、面倒がらずに対応するので世間の反応は良かった。

 

「長屋の庭で作った葱なんかを勝手に取っていく人が居て……」

「[人糞肥料]と書いた麻袋を見やすい位置に置いておけ。食欲が失せて取らなくなる」


 とか、


「軒先で雀蜂が巣を作って……」

「長野県民……いやええと、信濃者なら取って食うだろう。出稼ぎに来たやつを探して教えてやれ」


 や、


「鍵屋って花火屋をやってるものですが、ちょいと変わったやつを作ろうと思うのですが発色の良い混ぜ薬は知らんですかね」

「火薬はさすがに知らぬのう……阿部将翁に聞いてみよ。妙に物知りだから」


 などと効果があるのか無いのかはともかく、相談には乗っているのであった。

 助言も九郎自身がどうこうとするのではなく、自ずから解決させるか専門の人間を動かさせるという方法を取るあたり、悪い意味ではなくお役所仕事が堂に入っている。

 こう云う身近な近所付き合いが、風評被害を抑える重要な事である。何せ九郎は他所から見たらいつも蕎麦屋で酒を飲んでいる居候である。店の改良などを彼が行っているとは、同じ長屋の連中しか知らぬことであった。

 中には知り合いが冷やかしの相談などにもやってくる。


「やは、九郎氏」

 

 そう言って軽く手を上げて、やつれた顔に軽薄な笑みを浮かべながら無精髭も伸びた浪人が隣に座った。

 

「どうしたのだ、浅右衛門」

「相談所を開いたって鳥山先生に聞いて、さ」


 どことなく死人に見えるのに、怨念めいた生気に溢れている首切り役人、山田浅右衛門は機嫌がよさそうに笑いながら酒を注文する。

 夜中に後ろ姿を見たならば十人中八人は幽霊だと思うだろう。

 実際に最初に出会った時は両国のお化け屋敷で幽霊の格好をしていた。本職は首切り代行、試し切り、死体の腑分けなどだが合間に作家業も営んでいるので、版元で時折原稿の催促なとも行っている九郎はそれ以降も何度か会っている。

 彼は半紙の束を懐から取り出して九郎に渡してきた。


「とりあえず新作が出来上がったから為出版に持って行って於いてくれないかな。某が行くとその場で怒られることもあるから」

「内容が問題なのだろうよ」


 憮然と九郎は言う。

 山田浅右衛門の書く黄表紙は、一見日常での細々とした武士のやりとりを描いているのだが唐突に残虐場面へ移行したりする異色のものである。

 しかしながらこの盗賊火付けは絶えないとはいえ太平の世の中、そう言う生々しい話も結構好まれて怪談のような扱いで売れたりする。

 彼はしまらない笑みのまま手をひらひらとさせて、


「大丈夫大丈夫、今度は鳥山先生にも原案をお願いしたから」

「余計心配になってきたのだが」

「某は詩の才能は限りなく無いからなあ……彼女に親しみやすい題名句を貰ったんだ。ほら、この一枚目にあるの」


 九郎が半紙をめくると、そこには彼の代表作である[アサえもん]という主題の下に一句書かれていた。


が照かり 冴えてぴかりと アサえもん』


「……」

「依頼をされーるとー首切りやくーにんー、どーんなもんだいぼーくーアサえもんー」

「やめろ。歌うな」

「えー」


 何故か不満そうにする浅右衛門。

 妙に親しみのある拍子を付けて歌うものだから、九郎は軽く頭を抱えた。

 鳥山石燕は自分で物を描く分には妖怪現象を擬人、視覚化するという試みが成功しているというのに、他人に助言をした作品は盗作の臭いがするのは何故だろうか。

 天爵堂が書いている[暴れん坊旗本三男]などもそうだが。

 ともあれ彼は良い物が書けたと乗り気で解説に移る。


「今度は設定を一新して、町人に受けるように主人公の伸太郎も商家のだめ息子と言う風にしてみた」

「ほう」

「うだつのあがらない日常を過ごしていたある日、箪笥からにょろりと主役が登場する。『こんにちは、ぼくアサえもん』。そこから伸太郎の日常は徐々に奇妙な冒険へ」

「箪笥から首切り役人が突然出てきた時点で出家しかねん奇妙さだぞ!?」


 にょろりと出てきているアサえもんがあからさまに妖怪画なのである。

 ともあれ、話の筋としては相変わらず世間で笑いものにされたり失火したり大名行列に小便を引っ掛けたりする伸太郎の苦難を、アサえもんの不思議な刀で解決するという単純なものであった。

 今更、書いてしまったものは仕方ない。

 九郎は一応政治風刺などに気をつけるようにと言付けして、ひとまず原稿を受け取るのであった。


 やがて、相談者も最後になり、九郎は煮染めに味の変化を求めてかけ過ぎた唐辛子に舌をひりつかせているところであった。


「ええと、それでは九郎お爺さんよろしくお願いしますよーぅ」

「ああ、お雪か」


 すっと静かな動きで杖をつきながら屋台の隣の席に座ってきたのは、同じ長屋に住む女按摩のお雪であった。

 伸ばした前髪を切りそろえて目元を隠しているが、そこは火傷の痕が残っていて彼女の視力は失われている。しかしそれでも、若くして按摩で大奥にすら行ったことのある腕が良く、天然の──時折お房とタマが髪の毛などを手入れしているが──美貌を持っている乙女であった。

 彼女は座るなり、うっとりとした様子で言葉を紡いだ。


「それでは、今日の六科様が見せたときめくところ番付を十番から──」

「いやそれはまったく興味が無いが」

「えー?」


 妙な話題を出した彼女の言葉をきっぱりと遮った。

 お雪という女、男の趣味が変わっているのと昔に助けられた恩が変質したので、あの擬人化した嘴広鸛のようなむっつり鉄面皮の親父である佐野六科を好いているのであった。

 其の感情を隠そうともしていないのだが、当然だが当然のように、スカイネットに作られた殺人アンドロイドの方が幾分かマシと云った感情機能しか持ち得ないと九郎が評している六科には通じていない。

 

「そういうわけで九郎お爺さんにも、六科様と仲を深めるいい知恵があればと……」

「ううむ、難関だのう」


 と、言う。

 何せ六科である。

 恐らく人類は娘とそれ以外ぐらいにしか大まかに分類していないように見える。 

 そして彼の脳内では自分は別段周りの人間と何ら変わることのない思考回路をしている──もしくは、周りの人間が自分と変わらない──と思っている節があった。

 

(どんなディストピアだ、それは)


 と、九郎が自分で勝手に想像しておいて失礼な感想を覚えた。

 いかなる気の迷いがあったら彼がかつて嫁を持てて子を作れたのか、この一年ほど居候をしていてもまるで想像がつかなかった。

 そんな相手の後妻になろうと頑張るお雪はやはり、


「変わっておる……」

「六科様は素敵な人ですよーぅ?」

「悪い男ではないのは認めるが。何せ多分悪事プログラムが入力されておらぬから」

「?」

  

 暴力回路は搭載されていて、問題を起こす馬鹿には発揮されるのであったが。

 大家としての六科は相談事にはまるで無価値だが、争い事は双方殴って解決したりする。もともと町火消をやっていたし辻相撲も取るので荒っぽい能力の行使には躊躇いがない。

 むしろ、一番の問題は、


「お雪は娘に分類されておるからのう……あやつの中では」

「うう……やっぱりそう見えます?」

「まあなあ」

 

 悲しそうに顔を震わせるお雪に、九郎はため息混じりに応えた。

 彼の認識の、娘とそれ以外という分け方で前者がお房とお雪なのであった。

 それもこれも、お雪が幼いころに火事にあった時に、家族に火災現場に置いて避難されてから目が見えぬ事もあってすっかり元の家族が信用なら無くなってしまったことがあった。

 家族の元を離れて盲人が集まり琵琶などの音曲や揉み療治を教える検校の元で修行をするようになった時も、親には合わずに六科と彼の妻お六のところから通っていたのである。いくら盲人ばかりが暮らす屋敷とはいえ、女按摩は通いで習いに行くのが常であったのだ。

 夫婦に懐き、冬場などは三人団子になって布団に入って過ごしていたのだが、本来の親の事を一切口にしないお雪を気の毒に思ったお六が、


「六科さん、お雪ちゃんは娘みたいなものだと思うのよ。幸せにしないと駄目よ」

「わかった」


 と、いう遣り取りがあって以来彼は妻の指示に従って、お雪を娘と認識しているのであった。

 お雪もそのことは知っていて、最初は本当の娘になった気持ちであり彼女が按摩の位を貰う為に必要な四両という金まで都合して貰って感謝しても足りない気持ちだったのだが。

 少なくとも、母代わりであったお六が生きていたならばお雪も抑えて生きていただろう。


「六科様は頑固といいますか……一度こうと思い込むと中々修正が効かない一途なお方なので……蕎麦打ちを教えていても思ったのですが」

「気がつけばいつもの打ち方に戻っておるものな……搭載されている回路が古すぎるのだろう……」


 六科は飛んでいる蝿を指でつまんで捕まえる速度と精密動作性はあるのだが、教えた内容を自分なりの処理機能で最適化して、結果半端に再現してしまうという癖があるのであった。

 それが料理で発揮されると、本人の味音痴もあって非常に大雑把なものが出来上がる。

 そして色恋沙汰になるともはや概念が存在しているか怪しい。本人の機能一覧から削除してしまっている可能性も少なくない。


「六科の奴はお主を大事に思っておるし、お主とフサ子との仲も悪くない上に、まだ嫁を貰っても可怪しくはない歳なのだがなあ」

「わたしが悪いのでしょうか」

「あやつがポンコツなのが酷いのだと思うぞ」


 六科に対する人外認識が強い九郎である。

 彼とイモータルを並べてどちらが人間らしいかと聞かれたら迷わずメイドロボを選ぶだろう。

 九郎は思案顔で、


「まあ、ああいう感情が薄いやつでも……そうさな、三十年ほど付き合えば人間らしくなるものだがのう」

「九郎お爺さんはそう云う人と付き合いがあったのですか?」

「……? そういえば……魔女、いや、孫がそんな事を言っておったのだが……あやつは何故そんなことを……?」


 首を大きく傾げる九郎である。

 魔王城で暮らし、様々な魔導の研究を行っていたイリシアがある時少し人間らしい機械人形であるイモータルの話題でぽろりと零したのだったが、イリシアがイモータルと居た期間は三十年も経っていないしそれまでの彼女の暮らしでもそんな相手は居なかった筈である。

 とはいえ、魔女化すればこれまでの過去生における長い時間の記憶を思い出す。それの何処かでそう云う知識を得たのだろう、と今更考えても仕方ないことだと九郎は疑問を閉ざした。


「しかし女ざかりのお主にこれから三十年我慢せよというのも酷ではあるなあ」

 

 幸せは人それぞれだが、まるで気のない相手を思い続けて生きていくのはどうも可哀想だと九郎は思う。

 お前がそれを言うのかと何処からか呆れたような幻聴が聞こえてきた気がして、少し周囲を見回した。酒の飲み過ぎだろうか。

 お雪が思いつめた顔で袂から手のひらに収まる小さな壷を取り出しつつ、


「やはりこれを使うしか無いのでしょうか。按摩で稼いだお金で阿部先生から買った、使えば、いきりたつますらおになる精力薬[金瓶梅]……!」

「いや待て早まるな。というか意味判って言っておるか?」

「じ、実はあんまり……」


 顔を赤らめてうつむくお雪である。

 まるで雑誌の巻末に広告が載っていた催眠眼鏡やモザイク消し機を買ってしまった少年のようなその気恥ずかしい態度に、九郎はどうしたものやらと頭を掻く。

 視覚が無いという状況と按摩として一人前で働いている常識、そして恋する乙女としての精神が混ざって彼女の心は微妙な状態であるようだ。

 薬を持って仲を深めるというのは少し賛同できない進め方である。体内の血流を操作したり無駄に頑健な心気をしている六科だが、年に何度か食中りを起こすことからも分かる通り、薬毒の類は効果があるのであったが。

 もし昏睡か朦朧な状態であるのをいいことに関係してくるような女が居たらそれは相当アレな性格をしていて碌でもないと思う。当事者じゃなくとも軽く引く。

 そんな目に合わないように男もしっかりとしないといけないのだが、六科に心の機微を期待するのはアロエに悩みを打ち明けるよりも無駄に思える。

 

(ある程度までお膳立てしてやれば勝手に流れでどうにかなりそうではあるが……)


 あまり急に事を進めても不都合が出ると思うので、一応の提案をした。


「なんだ、お主は何もせずとも器量よしなのだが、そうさな、今度タマとハチ子に頼んで綺麗な服と化粧をしてみよう。美人ではあるが、少し子供っぽいところがあるからのう、いつもは。大人びて変わった姿を見せれば、六科とて見直すだろうよ」

「お願いします! ありがとう九郎お爺さん」

「よい、よい。飾りを頼むのは子供達だしのう……おっと」


 九郎は手を伸ばしかけて、止めた。

 なんというか、一番孫らしい子供の頭でも撫でてやろうかと思ったのだが、目の見えない相手にいきなり触れるのは怖がらせるだろう。

 と、思っていると煮売り屋台の火に釣られてきたのか、一匹の金蚊かなぶんが彼女の目元に垂らした前髪に止まった。

 

「ひあ」


 突然かかった何かに声を上げるお雪。

 九郎は落ち着かせるように、


「ただの虫だ……っと潜り込んでいく」

「と、取ってくださぁい」

「うむ、すまぬな、触れるぞ」


 そう断って、九郎はお雪の前髪に触れてひっぱるように上げ、鮮やかな緑色をした金蚊を捕らえて離す。

 前髪が上がり、自然と火傷痕の目元が見えるが、白く変質した皮膚になっているその箇所も不思議と醜くは思えず、変わった模様のように見えた。

 実際顔に傷跡があるのに彼女に見惚れる男は少なくない。オークの青年が[妖精のように]と称したのもわかる、妖しい魅力を放っているのだ。

 まあ、無論九郎は特に惑わされないのだが。

 

「よし、大丈夫だ」


 言いながら滑らかな肌をしている額を撫でてやった。安心したようにお雪は息を吐く。

 そして、九郎は軽く彼女の頭に自分の額をこつんとぶつけて僅かに触れさせ止まった。

 ついでなので魔女の魂が入っているかどうか確かめたのである。

 

「九郎お爺さん?」

「──いや、ただのまじないだ。六科とうまくいくと良いのう」

「うふ、うふふ」

「……時々妄想に耽って身悶えしているのが無ければ、本当に純なおなごなのだが……」


 言って、お雪は杖をつき長屋へ帰っていった。

 九郎はそれを見送りながら、自分の頭を掻いて徳利に酒を飲み干す。


(やはり違ったか。しかしなんだ、山葵大盛りの罠菓子を探している気分だのう)


 と、お雪が魔女で無かったことに若干安心しつつもため息をついた。

 煮売屋の親爺が新しい酒を出しながら、


「いやしかし、九郎の旦那も人気なもので」

「物珍しいから皆が寄ってきておるだけだよ。ま、面倒事はごめんだが口を出すだけなら幾らでも出来るからのう」

「ははあ……」


 白髪の混じった親爺が顎に手を当てながら思案顔で言う。


「それにしても、あのお嬢ちゃんが化粧やら衣装やら着たところで、六科の親父は気づくもんですかね? 正直あんまりそうは思えねえんですが」

「うむ……」


 九郎も頷きながら、


「恐らくは格好を変えて奴の前に出ても、『体表面の色の割合が変化した』程度にしか認識しないだろうな」

「発想が鳥獣並ですからねえ」


 世間一般からも、六科という男はそう云う朴念仁を通り越した扱いであるらしい。

 木の股から生まれてきたどころか、石の根から生えてきたような男と思われているのである。

 

「その辺はまあ、己れがなんとかしてみるかのう……まったく、女心のわからぬ奴は手がかかる」


 しんみりと言った時、どこかで壁を殴るような音が聞こえてきたような気がして九郎は暗くなった通りを見回した。




 *****




 後日の事である。 

 九郎が化粧と着物に関する知識に長けたタマとお八に言ってお雪を着飾らせることになった。

 お八の実家である藍屋は、六科の亡妻お六の実家でもあるのだが、若くしてお六を亡くしてから子育てまで男一人であった六科の事は一応気にかけていたようで、主人などは、


「六科もまだ老けこむには若いし、お房ちゃんも小さいのだから後妻をとっても文句は言わないのですが」


 と、言ってお雪に合う着物を用意してくれたという。

 お雪は鏡も見れないので一人では化粧も髪結もできず、いつもは手に馴染んだやり方で髪を纏めているだけだったのだが、元太夫であったタマが綺麗に整えてやる。

 しかしそれにしても、


「むう……なんか卑怯臭いぐらい上質な髪タマ」


 などといじる度に唸るのであった。

 己の顔もわからないから美容の仕様も無いというのに、お雪の造形は奇跡めいて美しいのである。

 髪だけでなく肌も染みもなく、荒れた部分もない。白粉を塗っているわけでもないのに日にまるで焼けていない白い肌で瑞々しい。

 

「女郎のお姉さんとか塗糞してまで肌を保ってるというのに……」

「え……? 塗る……なにを? 肌に?」

「うぐいすの糞は高級な洗顔料なんですよー? まあ、ぼくは使ったこと無いけど。若かったから」


 化粧品や紅の種類なども、お雪はさっぱりと分からない事であった。

 顔形を整えようにも目が見えぬので要領が分からぬし、お六の亡き後に姉のようだった鳥山石燕に聞いても、


「……他の女に聞いたら嫌味だと思われるから止めたほうがいいよ」


 苦々しい声で言われるのであった。

 ともあれ、桔梗模様の描かれた涼し気な着物に化粧を施したお雪を見ようと、休みである緑のむじな亭にて長屋の住人らも集まっていた。

 にこにこしたタマと、口元を抑えて動揺を隠せぬ目をしているお八に連れられてお雪が店の勝手口から中に入ってくる。

 その姿を見た瞬間──長屋の連中は膝を地面についていた。

 若い男も指物職人のやくざ崩れも、女房も子供も腰を抜かしたようである。


「天女か……」


 誰かが呻いて、誰もが同意する美しさであった。

 目元こそ前髪で隠れている──そこは重要な属性なので変えないようにと石燕から厳しく通達があった──ものの、白菊の花と蜜だけを口にして生まれ育った妖精が天に召され星の輝きを得て地に戻り、歩く足元には花が咲き乱れ目にしただけで今生の業が禊がれて涅槃寂静へと到れる……いや、言葉を並べても表現不可能な至高がそこにあった。

 男はあまりの美を目にしたことにより脳が死に際の幻だと錯覚して脳内麻薬を過剰分泌して酩酊し、枯れた老人は回春の思いに血圧を上げ発作を起こしたように心の臓の辺りを抑え、女はお雪の背後から差す後光ハロー・エフェクトに泪を流し、子供は今後の好みに目隠れ属性を植え付けられる。

 もはや披露宴ではなく、事件現場であった。

 メイクアップアーティストとして関わったタマも涎が垂れっぱなしでふらふらしている。お八も口元を抑えて顔を赤らめているのがわかる。お房もぽーっとお雪を見ていた。

 冷静なのが、精神抵抗値の高い上に枯れっぷりが江戸時代当時の世紀末鳥取砂丘並である九郎と、危険を察知して──自身と比較する事を恐れ──目を逸らした入口近くにいる石燕、そして六科のみであった。

 石燕が眼鏡の硝子に墨を塗りたくりながら言う。


「これはあれだろう。三千世界一の美女に化けてお釈迦様を堕落させようとする魔王かあま・まあらとかそういう危険な」

「なんでそんな遠くにいるのだ石燕」

「ふふふ、同じ視界に収められたら比べられてしまうからね! 九郎君! 正気を保つ為に私を褒めてくれたまえ!」

「はいはい美少女美少女。ちょっと年増の美少女石燕」

「腹立つよ!」


 投げやりな褒め方に抗議するが、やはり彼女は近づこうとしない。

 黒に染めた眼鏡を正しながら、慄くように石燕は言う。


「店の中に集まった連中だけでこれだよ、決して外に出してはいけないね」

「確かに目を引くであろうな。怪しからぬ事を考える輩が現れてもおかしくはない」

「それどころじゃないよ。月が美しさに嫉妬して発狂光線を町に降らせるかも」

「どこの魔界都市だ」


 決して過剰とは思わぬ評価をする合う九郎と石燕である。 

 そして一方で、お雪究極形態を見せるべき相手である六科だったが、


「うむ?」


 お雪と他幾人かから伺うような視線が集まっている事に首を傾げながら、周囲だけ色彩が違い色立つ匂いが甘い風となっているお雪を見て、


(お雪の色……と体温が変わった……か?)


 と、非常に残念な狩猟型地球外生命体めいた思考をしていた。何故か見ただけで物質の温度をある程度感知してしまっている。

 何も通じていなかったのか。いや、いつもと違う着物を着て、化粧をしており緊張から体温が上がっているという事は理解しているのだが、理解だけで終わってしまっている。

 他人によく思われる為に着飾っている、という発想に至らない。

 彼の亡妻も特に竹を割ったような性格と歯に衣着せぬ言動だった為に、だいたい女性の基準がそれになっているのである。つまり言わねばわからないのである。

 一度プログラミングされた情報は悲しいほどに中々修正されない。

 

(まあ、そんな反応であろうことは予想していたが)


 九郎は声に出さずに半紙を取り出す。

 現段階ではいかにお雪から彼に誘惑をかけてもほぼ通じないことはわかっていた。

 だがひとまずは、彼女をある程度進展しているのだと満足させることが大事なのだ。薬物を使われる前に。

 生憎と六科は嘘をつけるほど器用な男ではないが、お雪に対する家族愛に似た感情は確かに持っている。それをいい具合に伝えてお雪を安心させようという魂胆であった。

 お雪には半紙は見えぬが、六科に見えるように掲げた。

 そこには『似合っていると褒めろ』と指示が書いている。


「……? うむ。お雪。新しい着物か。似合っているぞ」

「はううう」


 それにしても褒め方が下手糞な男である、と関係者一同酸っぱい顔をする。

 彼女に対する情報が新しい着物を身につけている、しか存在しなかった。綺麗だとか、可愛らしいとか、髪型とかまったく言及していない。

 だというのに、身をくねらせて喜んでいるお雪である。

 次に九郎は苦みばしった顔をしながら、『美人になったとか褒めろ』と書いて見せた。

 事情が分からぬ六科は首を傾げつつも別段おかしいこととは思わずに、


「うむ。あれだ。美人になったな」

「まあ六科様……ど、どの辺りがよろしいでしょうか」

「わからん」

「あらうふふ」


 真顔で言う六科に一斉に床や机に顔を打ち付ける皆である。

 指示を出した九郎もその指令を反芻するだけの六科にげんなりとする。草間博士が作った音声認識操縦型巨大ロボットですらもっと命令をファジーに理解するというのに。

 だというのにお雪は幸せの絶頂とばかりに悦んでいる。色恋に焦がれているその姿は神秘的な印象から、妖しくも美しく見えて長屋の男の精神に毒であった。

 業を煮やした石燕が九郎から半紙を取って、さらさらと文字を書いて見せる。 

 次の指示はより具体的に、『良い嫁になれそうだと云え』とある。

 ごくり、と唾を飲み込んで皆が見守る。六科も真顔のまま頷き、


「そうか。そろそろお雪も嫁になる年頃だったな」

「は、はぁい……」

「良い嫁になるだろう」

「あふぅ」


 頬を赤らめて顔を抑えているお雪はすっかり茹だってしまっているようだ。

 これならいけるか……観衆が拳を握る。

 六科は相変わらずの皮膚の下に歯車でも回っていると思しき鉄面皮をぴくりともせずに言う。


「旦那を探してやらねばな。今の所、お勧めは九郎殿あたりだが」

「違うだろうが」


 さすがにツッコミで九郎が飛び上がり六科に頭突きをかました。

 分厚い鉄の扉に流れ弾丸が当たったような激突音を出して、九郎の方が頭に直接響く痛さに頭を抑える。

 六科は真顔のまま打たれた方向に首を曲げつつ、


「むう」


 と、言うのみであった。痛みにも鈍いのである。

 この唐変木の仏頂面な朴念仁様に、一同はため息混じりに目元を覆った。

 娘のお房も呆れて肩を落とし半眼で睨んでいる。

 彼女からしても、随分昔に亡くなって記憶のない母親の事を大切に思っている父の事は一途で良いとは思うのだが、さすがに家族同然に育ったお雪の気持ちに一切気づいていないというのは可哀想であった。

 殆ど家族のようなものなので、別に父とお雪が夫婦になっても良いとさえ考えているのだが、当人同士の問題だと小さいのに達観していたのだがさすがにこれは酷い。

  

(もしかしたら六科は悟りの境地にいるのかもしれない)


 このような人を狂わす無邪気な美しい生命体に一切の反応を起こさない彼に、諦めのような考えさえ誰と無く浮かぶ。

 あんまりといえばあんまりな六科の対応に、敵愾心をむき出しにしている者や涙ぐむ者、柏手を打って賽銭を投げつける者まで出る混乱ぶりであった。

 九郎は思っていた以上に──というかこうだったら相当ロボだと思った結果の如く──駄目な対応を六科がするもので、引き受けた手前お雪にバツの悪い気分であった。

 が、彼女は相変わらず、口元をゆるめて嬉しそうにしている。

 六科は何を思ったか、お雪の前まで歩いて行き彼女の頭を見下ろして、ごつごつとしたその手を髪の上に乗せた。


「しかし確かに……大きくなったな、お雪」

「──はいっ」

「幸せか?」

「はい」

「そうか。幸せになっていてくれて、ありがとう。お雪」

「……はい!」


 六科の声は硬質ないつものものだったが、応えるお雪の声は元気な、心地よく響くものであった。

 


 お雪は知っている事がある。

 六科は他人から無愛想で無感情な男だと思われているが、そうで無い。 

 彼の声はお雪の耳にはいつも色々と思いを込めて言っている事を聞き分けられる。


 客に不味いと言われた時の「そうか」は低く怒っていて、お房の料理を食べた時の「うまい」は嬉しそうに僅かに弾んでいる。タマが馬鹿をした時の「やめろ」は少し楽しげで、九郎が新しい料理を考案した時の「うむ」は感心した響きがある。


 自分が風邪を引いた時の「寝てろ」は起こさないように小さな声を出して、蕎麦打ちを手伝う時の「助かる」は優しそうに言う。酒の酌をした時の「ああ」はどこか懐かしげで、時々何がなくとも聞いてくる「どうだ」は心配しているのがわかった。


 他の者が聞いてもまったく聞き分けの付かない程度の小さな変化だが、目が見えていないからこそお雪はそれを知っている。

 言葉が短く相槌のように進めるのも、彼の亡き妻との間ではそれだけで充分通じていたからであった。

 下手糞な褒め方でも、彼が彼の思ったまま、似合っていて美人だと六科が思った事は、確かにお雪に伝わった。

 そして一番嬉しかったのが、「大きくなった」と認めてくれたことである

 お雪は自分の体が見えない。触って確かめる事はできるけれどそれがどれだけ成長しているか把握することができなかった。

 だから、六科から見れば己はまだ火事の中から助けた小さな子供のままなのではないか、と不安に思っていたのだ。

 そうではなく、彼が認めてくれる程に大きくなったことが嬉しかった。


 お雪は泪を流さない。

 火事で目が焼けてから涙が出なくなったのである。だが、もし泣けていたのならば泣いていたかもしれないが、きっとそれはよく他人の心を分からない六科を悩ませるだろうとやはり思い直して──

 六科に微笑んで、幸せを伝えるのであった。

 


「これで良かったのかのう……石燕? 石燕……死んでる」


 純な気持ちの波動に浄化されて死に頻している妖怪先生が居たが、なんとか一命は取り留めた。





 *****




 それとなくお雪も日々花が咲いたように嬉々として過ごしているので解決したのだが、九郎御用聞き相談所は相変わらず続いている。

 喪服の女がちらちらと見ながら煮売屋で九郎に言う。


「鈍感でまったく女性的魅力に興味が無い男が居るのだがどうしたらいいのかね?」

「それはお主の行動や言動が悪いのではないか?」

「うあああん!」


 呉服屋の少女もそれとなく尋ねる。


「女の子が頑張ってるのにまったく女心のわからない男ってどうなんだぜ」

「それはいかんな。相当阿呆だろう、その男は。何なら己れがちょっと説教してやろうか」

「そうしてもらえ!」


 丁稚の少年が気落ちした様子で言う。


「お房ちゃんのお気に入りの湯のみ割って謝ったけど凄い怒られたタマ……身売りして湯のみ代を弁償するしか……」

「そうやってすぐ深刻になるな。小遣いをやるから今度の休みにお房と一緒に食器問屋に行ってくると良い」

「ううう、許して欲しい……」


 気まずそうに少女も聞いた。


「湯のみを割られてちょっときつくタマを叱りすぎたの……でもあれは、お母さんが使ってたやつだって云うから大事にしてたのに」

「石燕のところに欠片を持っていって接着する膠か何かで形を直そうか。それと、タマも悪気は無かったのだから許してやってくれ」

「……うん」


 などと、日々九郎は世間話のついでに誰かの悩みを聞いて、それとなく手助けをしてやる生活をしているのであった。

 面倒だ、しんどい、年寄りを働かせるな、出来ることと出来ないことがある、他を当たれ──などと彼は口にするが。


「次は誰だ? ま、話だけなら聞いてみよう」


 御用聞き相談所の九郎は、基本的にお人好しなのである。



「やはー九郎氏。[アサえもん]の掲載駄目だったんだけど」

「だろうよ」


 

 突っ返された原稿を手にやってきた山田浅右衛門に冷たい視線を投げかけた。





 *****





 両国橋の端で、ひょろりとした男が絵の描かれた紙を広げて朗々と文章を読み上げている。


「伸太郎は言った。アサえもーん、お静ちゃんと間男を重ねて四つに切ったら奉行所に罪に問われたよ助けてー。ずしゃあ」


 言葉と同時に紙をめくると、艶かしい女人に被さった男が胴のところから両断されている血腥い絵が描かれている。

 地面に座って黒飴をしゃぶりながら見ていた町人の年端もいかない子供たちが目を覆いながらも見ている。

 浅右衛門は薄笑いを浮かべたまま話を続ける。


「莫迦だなあ伸太郎氏は。その男が間男だって確たる証拠もなしに切ったら捕まるのは当たり前じゃないか。示談七両半で済ませておけば良かったのに。泣き喚きながら縋る伸太郎。そんなこと言わないで助けてよー」

 

 再びめくると、今度はやけにディテールの細かく描かれた刀の絵が手に持ったアップで描かれた絵だ。


「てけてけん。助弘村雨ー」


 アサえもんが事件を解決するために取り出したるは架空の刀である。前は村正を使った所酷くお上に怒られたので、九郎をあやかってこれを使うようになった。

 山田浅右衛門がやっているのは紙芝居である。安くで仕入れた黒糖を黒飴にして子供に売り、舐めさせている間に紙芝居として[アサえもん]を読み聞かせる商売を九郎からの提案で始めたのだが、客の感想や反応が直接伝わるし話自体に興味が無くても飴を舐める為に集まった子供が聞いてくれるので、中々に面白い商売だと気に入った。

 日本で路上における紙芝居と云うものが始まったのは正式にいつからか不明だが、いわば琵琶法師の語り聞かせのようなものであり、また芝居小屋では声の綺麗な者が古典物語を読み聞かせる出し物も既にあった。

 とりあえず飴を売って日銭程度は稼げる為に、多くを求めない彼にはうってつけの仕事なのである。

 版元が出版してくれないならこうしろと助言したのである。

 今日の分の話は終わり、歌で締める浅右衛門。


「ほんわかぱっぱーほんわかぱっぱー、アーサえーもーん」

「歌うな」


 見物に来ていた九郎から厳しいツッコミが入るのであった……。





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