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47話『第七の封印』

 今日もどこかで出張る番、とばかりに江戸では毎日のように起こる喧嘩に木戸番も自身番もうんざりとしている。

 火事と喧嘩は江戸の華と言うが、実際それの対応に追われるものは迷惑な限りであった。

 異世界から江戸にやってきた九郎も、喧嘩を見かけることは珍しくなかった。

 余程、弱者に無体をしているという状況でもなければ彼も一々首を突っ込んだりはしない。


(喧嘩など何処にでもあるものだからな、他人に構うほど酔狂な──)


『クロウ、クロウ。見てください痴話喧嘩ですよ』

『ああ、自分の何がわかるんだ、とお互いに連呼してるパターンだのう』

『面白いですね。あ、いいことを思いつきました。あの二人を融合させてみました』

『奴が思いついた時には既に手遅れすぎた……すまぬ見知らぬ元二人……』


(……)


 下手な解決法で喧嘩の仲裁を面白半分に行う魔女を思い出して、九郎は僅かに顔を歪めて記憶を振り払った。

 ある日の昼下がりである。久しぶりに[件屋]の天麩羅蕎麦を食いに来て、その帰りに近くの茶屋で団子を食っていた時のことであった。

 団子に掛かっている餡に、僅かに潰した梅が混じっていて甘酸っぱく旨いと舌鼓を打っていると、


「てめえこのあばずれ! おれから財布をスりやがるとはいい度胸じゃねえか!」

「いやいらねーから返すぜおっさん。もうちょっと懐に金入れてたほうがいいんじゃねえの? 何歳だよ、あんた」

「余計なお世話だ! スった挙句『うわ少なっ』とか言いやがって許さねえ!」


 と、路地で怒鳴り声が聞こえてきた。

 片方は女──それも少女のようだったが、掏摸をしてそれが見つかったのだと遣り取りからしれた。

 基本的に碌でもない女という種類の生物は実在すると重く受け止めている九郎は、別段その少女が喧嘩に巻き込まれようが手を出す気はなかったのだが。

 聞いたことのあるような声だったために、緋染めの席に団子の代金の銭を置いて近づいた。

 

「だーかーらー。スられた間抜けさより明日からの生活でも考えろよおっさん。こんな小銭じゃ蕎麦も食えねえぜ?」

「うるせえ! なんで掏摸にそんな事まで言われにゃならんのだ!」


 言い合ってる女は──三白眼を睨んでいるような顔をした、十四、五ほどの細身な少女である。

 服装がいつもよりやたら古ぼけた柿色の浴衣を一枚、もろ肌が見えるぐらいだらりと着ているだけであるが、呉服屋の娘お八であるようだった。

 いつもは茜色の着物か道着をびしりと──少なくとも服屋の娘として恥ずかしくない程度には──着こなしているが、胸元が開きっぱなしのだるだるな着こなしである。その胸は相変わらず平坦であった為、九郎も疑問に思わずお八と断じた。


(いや、なんで普通に掏摸してるのだお八よ。反抗期か。非行少女か)


 思いながらも様子を見ていると、彼女はにやにやと笑いながら腰に手を当てて意地悪気に、身なりはまあ貧乏そうでない町人の男に云う。


「はあ、あたしも貧乏人からは金を盗らねぇようにしてんだが、悪ぃな、きひっ」

「このあまっ!」

「あぁ?」


 男が掴みかかろうと手を伸ばして、九郎はさすがに止めようかと思ったのだが──。


(ぬう……!?)


 少女の目に光る剣呑な色と嫌な気配に、男の襟首を掴んで思いっきり後ろに引っぱる。

 息を詰まらせて急な後ろ方向への力に男は動転しつつも通りに投げ出されて転げた。

 男の顔が一瞬前まであった場所に、少女の手が横一閃で振り切られたのを九郎は確認して目を見開いた。


「あん?」


 手応えがなかったのが意外だったのか、少女も疑問の声を出した。

 彼女が振ったその手は、顔面を張る平手ではなく──刃先が親指ほどの長さの小さな刃物が握られていた。

 顔を切るつもりだったのだ。


「おい、ハチ子や。何をいきなりぶっ飛んだことをしておるのだ」


 九郎が彼女に問いかける。

 乱暴なところはある娘だったが、掏摸をした上に白昼堂々短刀で斬りかかるような子ではなかった筈だ。

 何が彼女を歪めたのか。子供の教育か社会制度か資本主義の限界か。やはり倒幕しか無いのか……と諦めに近い感情すら覚えるのは、九郎も混乱しているからなのだろう。

 話しかけられて一瞬きょとんとした彼女はにっこりと笑って九郎に近づいた。


「はちこ? ああ、ええとなんだ。そうそうはちこ。いやーひっさしぶりだな」

「……?」

「そういえばあれどうしたんだぜ? 兄ちゃんの飼ってた猫、りりがんぶるげりおすとかそんな名前の──」


 九郎が動いたのは本能的なものだった。手を九郎の顔に伸ばしていた少女は、本当に九郎の髪に埃でもついていたから払ってやろう、そのような雰囲気で悪意も殺気も脅威も感じなかった。

 だが、九郎が上体を逸らして躱した時、まさに眼前を銀の軌跡が通り過ぎていたのである。

 認識外の攻撃であった。前髪が何本か千切れ飛んだ。

 殆ど勘で避けたようなものだ。

 

「何を──!?」

「おっ! 矢っ張り避けやがった。すげえぜ見知らぬ兄ちゃんよ」


 ひょいと軽い動作で九郎から離れた少女は、だるだるの着物から出した手に刃物を光らせながら、無邪気に嗤っている。

 ようやく九郎は違和感に気づいた。

 お八と違う服装、違う雰囲気、違う性格。

 だいたい、顔と声と貧乳さで判断していたが、


「誰だ、お主は……」


 警戒したように構える。相当に節穴めいた判断力だったが、老化による痴呆と思って良いかもしれない。

 お八に見られていたら殴られたであろうことは想像に難くない。

 人に化けた猫めいた雰囲気を感じる謎の女は、にたにたとしながら、


「名乗るほどのもんでもねえが、あたしはお七っつーんですけどよ──あばよ、殺しにくそうな兄ちゃん」

 

 そう言い残して、身を翻し跳ねるように路地から路地へと走り去り、姿を消した。

 まさに猫のような素早さである。痩せた体つきからは考えられぬ瞬発力だ。

 九郎は手を伸ばしたまま、呆然と呟く。


「お八にそっくりなお七……」


 その正体に気づいて、唸った。


「2Pカラーか……!」


 そして続けて、


「ん? いや別に逃がす理由はないな」


 この後滅茶苦茶追いかけて捕まえた。


 



  

 *****






「んっだよ、あんた死ぬほどしつこくて足速ぇな。あたしこれでも仲間内で一番逃げんの得意だったんだぜ?」

「はっはっは。そうかそうか」

「樽の中とか川の中に逃げても見つけるしよー」

「なに、一次元の点に変身したりマインドコントロールで認識不可にしてくる連中の隠れっぷりに比べれば……」


 言いながら九郎は、猫を捕まえるようにお七の襟首を持って運んでいた。

 彼女の髪や体は川に潜んだので濡れているが、浴衣だけは濡らさないように工夫されていたので乾いている。

 話を聞くにしてもこのままでは風邪を引きそうなのでお七の宿へと案内させているところであった。


「あーそこの右の、週に一度は連れ込んだ男女が死にそうなボロい宿」

「うむ、寝るときに客の枕元から財布を奪うのが主な収益めいた怪しい宿だな」


 と、九郎も称するのは駒形の川沿いにあるうらぶれた木賃宿であった。

 近くには何十年も補修していなく見える崩れかけの長屋があり、そこらに放置された廃屋には無宿人が泊まっているのか町人が住んでいるのかわからぬような土地だ。敵とのエンカウント率とか絶対高そうである。

 いかがわしいことに利用する客か後ろめたい事情がある客か犠牲者かしか利用しないような宿に、なんら気後れする事無くお七と九郎は入っていった。

 こういう場所だからこそ、年若い上に身なりも悪いお七のような一人客さえ泊まることが出来たのだろう……。

 ともあれ二人が宿に入るのを偶々、川を下る船の上から見ている人物がいた。

 流れの鳥山石燕である。

 彼女は宿の前で立ち止まる二人を見て、眼鏡を外し高い拭き布で硝子を拭き、掛け直した。

 視界を疑ったのだが二人が怪しい宿に入っていくのが鮮明なハイビジョンでご覧いただけただけであった。


「な、なんだ、と……!?」

 

 慌てて彼女は船でごろ寝をしていた同乗者を揺り起こす。


「た、大変だよはっちゃん! はっちゃんと九郎君がいかがわしい宿に入って縁結び的な行為略してエンコウをするつもりだ!」

「なにい!? 九郎があたしとエンコウするだと!?」


 がばりと起き上がって目を見開き周囲をきょろきょろ見回したのはお八である。

 この日は暇だったので九郎のところに遊びに行ったのだが、既に九郎はどこか出かけていたために同じく遊びに来てすっぽかされていた石燕と負け組同盟を組んで舟遊びにでも出かけていたのだった。

 お房のように師弟関係には無いが、個人的な年の離れた友人関係としては仲が良い二人なのである。

 ともあれお八も通りの先にある宿に入っていく自分と九郎の姿を認めて、


「本当だ! あの野郎あたしと何をするつもり……」

「まったく、はっちゃんの淫奔ぶりにも困るね! 早く邪魔しに行くよ、はっちゃん!」

「……いやいや、待てよ石姉。なんかおかしいだろ。なんであたしがあっちに居るんだぜ」


 半眼でお八に指摘されてようやく石燕は違和感に気づいたようだ。

 それほどまでに、似ていたのである。

 彼女は腕を組んでやや考えて、非難がましくお八を見た。


「……まさか分裂してまで九郎君に手を出そうとするとは……それほどまでの覚悟、一体何を犠牲にすれば……」

「あたしは何の能力者だ!?」

「もしくははっちゃんの精神の力が可視化したとか……はたに立つ奴だから、名づけて[素端奴すたんど]……!」

「なんで得意げな顔なんだぜ!?」

「ともかく、あの宿へ向かおう。船頭さん近くで頼むよ」


 と、指示を出すと「あいよー」と棹で漕いでいる船頭から返事があったが、続けて、


「ただ、この辺りは悪いやつも多いから気をつけてな、お客さん。あんたらみたいな若い──うん若い嬢ちゃん達は特にな」

「ふふふ何かね今の間は。しかし心配は御無用だよ。なにせはっちゃんが護衛についていてくれるからね!」

「あたし頼り!? 地獄先生なんだろ!?」

「地獄先生は休業したんだ……怒られたから……晃之介くんから聞いた話でははっちゃんの実力はもはやそこらのチンピラなら不意打ちで倒せるぐらい……いいかねはっちゃん。一人倒せるということは、百人倒せるということなのだよ……!」

「ちげーから! その理屈おかしいだろ!」

「その点私は百人に分裂しようとも気の昂った子猫一匹に完敗する程度の戦闘力なので期待されても困る」

「弱すぎるぜ……」


 羽虫のようにか弱い姉貴分を哀れんだ目で見るお八であった。

 旅や取材によく出かけているようだが、見栄え良く、金を持っていて、それでいて凄まじく弱いこのボーナスキャラみたいな彼女がよくこれまで無事だったものだと思った。

 ともあれ、二人は船着場に降りて九郎とお七が入った宿──番頭が覆面という怪しさ丸出しだった──に続けて入っていき、ニ分銀を渡して九郎と素端奴お八の隣の部屋へ潜入することに成功した。このように金次第で客の事情など何も構わないのも、違法めいた宿の特徴である。

 案内する女中も泊まった客の指を落として蒐集するのが趣味ですといった雰囲気の女だった。目を合わせたら狂気に飲まれる。心の目を開くのだ。

 

 宿の二階、奥まった部屋に九郎とお七は来ていた。お七が部屋に置いているのは手拭いぐらいである。

 濡れた体と髪を改めて拭いて、虫でも湧いてそうな座布団を九郎に進めたが、彼は畳に直接座った。

 春先ではあるものの水に浸かった少女は薄着な事もあって寒そうに感じる。

 九郎は術符フォルダから[炎熱符]を取り出して、部屋の空気だけでも暖めようとした。


「うん? なんだぜそれ」


 術符を目ざとく見つけてお七が尋ねたので、九郎はそれらしいことを云う。


「うむ、高僧の書いたお不動さんの有り難い札でな、妖怪じみた風水系の修験力で熱を発して実際暖かい」


 江戸ともなれば信心深く、不思議な超常現象でも仏僧か妖怪の仕業であると説明すればそれとなく納得してくれると九郎はこれまでの経験で知った。

 あまりに適当な解説に隣の部屋から盗み聞きしていた石燕が遮る薄い壁に頭を打ち付けた。

 ともあれ、九郎が術符に意識をやり部屋を暖める程度の熱を出そうとする。

 付与魔法によって作られた術符というものは、込められた魔力があるかぎり作成者以外でも意志を込めれば使えるものだが、使用には多少は術式構成を読み取る技量が必要である。

 これは殆どの人種が魔力を持つ九郎が居た異世界の者なら割りと簡単なのだが、本人に魔法の素質が一切無い九郎は感覚的に使うしか無いので細かい調節は少し難易度が高い。

 使用説明書は付いているものの、九郎などには読めない言語で書かれている家電のようなものといったところだろうか。それでも慣れてはいるのだが。

 特に[炎熱符]は名前の通り炎を出す魔法が込められているので、火を起こさずに熱気だけ生み出すのはあまりやらないので少し集中した。単純に炎を起こすよりは難しい。

 ひょい、とまたしても九郎が警戒する暇も無く、お七が細い指で九郎の手から[炎熱符]を抜き取る。


「へーそりゃすげえな。おらっ! 暖まれ!」

「玩具ではないぞ」

 

 九郎が気軽に使おうとしたお七に眉を潜める。

 更に言えば、九郎のように直接使用に魔女の指導を受けたような者ならともかく、術式を理解できないものが使用出来るものではない──店で使っている火元の管理として六科やお房で試してみたが、発動は不能だった──のであるが、暴発などしないように念のためである。

 例えばこの術符を最初に作った時に試験で発動出力を間違えた魔女は海を海岸から蒸発させて行くという環境への悪影響が出たという事があったからだ。もちろん深刻な漁業被害が起こり懸賞金が跳ね上がった。ソッコで逃げたのに何故かバレた。こんなことをするのは魔女に違いないらしい。あってる。

 しかし、


「ん……っとこうだ!」

「だから──っと、おや?」


 お七が振っていた術符に描かれた群青色の魔術文字が輝いて、魔力が発動した。

 爆圧的な炎でも生じれば危険だと九郎は腰を浮かせたが、術符の効果は部屋を暖めるだけに終わり再び魔術文字の光は消えた。

 隙間風が吹く部屋でも、からりとした暑さを感じるようになっている。

 隣の部屋で「はーくしょん、えーいちくしょー」と声が聞こえてくる程度に今日は風が強く肌寒さすら感じる日なのだが。


(まさか感覚的に発動させたのか?)


 理論上は出来なくないが、ランダムで指定されたストップウォッチの数字を下二桁まで連続で揃える程度には難しい。ましてや持っている人間は機械を触ったことがない条件で。

 九郎が目を見開いて驚くが、なんてこと無い表情でお七は興味を失ったように[炎熱符]を九郎に投げ返した。

 

「なんか知らねーけど確かに暖まったな。きひひっ」

「ああ。そうだな……」


 ぼんやりとそう返して、九郎は術符フォルダに炎熱符を仕舞った。

 お七もべたりと床に座り胡座を掻いて、頬杖を突きながら九郎に笑みを向けたまま言ってくる。


「そういやなんだっけ? あたしの事が聞きたいとか実はあんた人生相談士だったりすんのか? そういや名前も知らねえ──ああ別に覚えねーから言わなくていいぜ」

「人生相談士か……一時期似たような事はやってたなあ。淫魔種族だからって上司にセクハラされるとか、嫁と娘が居て幸せな生活だと思ってたら記憶を埋め込まれて疑似体験してただけだったとか」


 役場の相談コーナーに持ち込むよりは労働基準監督署とかメンタル系の教会の管轄だと判断し、愚痴に付き合った後で紹介の文書を作成するのが主な仕事だった。下手に付き合うとお前も心を病むぞ。そう告げた先輩はどう見てもスケルトンだった。骨にこそ、心は宿るものなのだ……!

 思いつつも、このお八に非常によく似た娘に興味が湧いているのも確かであった。

 

(人間似ている者がこの世に三人は居るというが……)


 そういえば前には、影兵衛に似た男を仇討ちで狙う兄弟も居たが──よくよく見れば影兵衛とその男とも細かい違いがあったというのに、どうも目の前にいるお七からはとてもお八に似た気配を感じる。

 まだ半分ぐらい九郎はお八の別人格か何かではないかと疑っているほどである。

 彼女は両手を頭の後ろで組みながら、


「ま、いーけどよ。あたしの人生つってもそう大した事ないぜ? 生まれはよくわかんねーけど、赤ん坊の時大鷲に何処からか攫われてたらしく巣で見つけられたって」

「いきなりの急展開だな」

「それであたしを拾ったのが隠れ里に住む元暗殺忍び教団だったからそこで育ったな。呪われた干し首とか売って暮らしてる連中だぜ」

「多分日本でも有数に濃い集団に拾われておるぞ」

「最近ちょっと江戸に集団遠征する用事あったんだけどよ、なんか飽きたから抜けてきたんだぜ。名前も無かったんだけどよ、里では[七人目]とか呼ばれてたからそっから名前とってお七にした。そんで適当に掏摸したりしながら気ままに暮らしてるってわけだぜ。そのうち金溜まったら旅にも行きてえな。きひひっ」

「ううむ」


 唸るが、けらけらと笑いながら無邪気な顔をして、お七は両手を上げてひらひらと振る。


「あたしは好き勝手自由気ままに生きるぜ! 人生最高!」


 隣の部屋で二人、壁に耳を付けて聞いていた石燕とお八は小声で言い合う。


「はっちゃんに似ていたから九郎君が事情を聞いているようだったね。ふう、九郎君が貧しい胸の会に入門したのかと思ったよ」

「別に無駄に巨なりの胸派でもねえぜ。っていうか年食ったら垂れるだろ間違いなく確実に」

「ふふふまだ青いねはっちゃんは。世界の法則を教えよう──美女は胸が垂れない」

「横暴な法則すぎるぜ……」

「そもそも垂れるとは重さの概念で胸とは揉む概念だ。揉んでいる時は垂れている事はわからないし垂れているまま揉む感覚がわかるまい。即ち垂れると胸という二つの概念は両立しないという。これは趙の思想家、公孫竜の有名な論理[垂乳非乳説]で古代から言われている理屈なのだよ」

「そ、そうなのか……よくわからねーが石姉は物知りだな」


 ぺらぺらと話す石燕に思わず思考を放棄して頷くお八。中々にちょろい少女である。

 胸の話題で盛り上がりかけたが、


「しかし、はっちゃんによく似た少女──それも親は不明。はっちゃん、君に生き別れの姉か妹が居たとは聞いていないかね?」

「いや……あたしも上がお六姉だから間の七は居ねーのかって親父とお袋に聞いたことはあるけどよ、お七って名前は縁起が悪いから飛ばしたとしか言われなかったぜ」


 お七、と言うと井原西鶴の書いた物語[好色五人女]で取り上げられた八百屋お七という人物が有名であり、放火の罪で火炙りにあった女という話は本だけでなく芝居や浄瑠璃でも江戸で評判を浴びた。

 そのことから少なからず、同じ名前は自粛しようという流れはあったのである。

 生まれた子供の名前を長男から順に数付けていたお八の親が、七のナンバリングを飛ばしたのもわからないでない理屈であった。まさか飛ばした(物理的に)というわけではないと思いたい。

 しかし、石燕は眼鏡を外して、じっとお八を見た後に壁を向いて穴が空くほど睨んだ。

 眼鏡越しでない石燕の特に黒々とした右目は何か、別のものを見られているようでお八はそれを向けられるとどきりとしてしまう。

 日本人は黒髪黒目と言うが、実際のところ瞳の色は暗い濃褐色であるのに対して彼女の右目はどんな明るい場所でも瞳全体が黒々としていて、時折何かを見ている時だけ光って見える。

 お八は怖いとは思わないが、不思議な感覚であった。


「──いや、私の阿迦奢の魔眼が見るに、やはり何か君とあの子は関係があるようだ」

「見るにって、壁があって見えてないよな」

「魂の近似を感じる──二つの魂はとてもよく似ているのだね。というか姿形そっくりで鳥に攫われた生き別れ伏線があるからあれだよ。双子とかだよ多分。話の展開的に。これでまったくの別人だったら私は筆を折る」

「推理方法が物語を基準にしてるすぎる」


 呆れて肩を竦めるお八。


「それにいきなり双子とか言われても困るぜ」

「ふふふつまりあれだね? まだ修行途中だから邂逅すれ違い系でこの状況は済ませておいて未来に真の敵役として立ち塞がる……!」

「何に塞がるんだよ」

「『姉さん! 姉さんなんだろ! 思い出してくれあの曼珠沙華咲き誇る土手の小川で水遊びしたことを……!』みたいな」

「それは多分臨死体験だぜ」


 言い合う二人を他所に、九郎はお七の掏摸話や、喧嘩話を聞いて相槌を打っていた。

 血の気が早いのは似ているのだが、お七の場合育った場所が、呪われた干し首(猿の首である。一応)なんか作ってる暗殺忍びサバト教団なので物騒になりがちなのである。

 先程路上で、九郎と掏摸相手に小さな刃物を振ったのも瞼の上あたりを切り裂いて目潰しをするつもりだったのだという。

 

「まあ……己れは別に役人でも保護者でもないからなんとも言えんが……」

「きひひっ。これでも殺さねーようにはしてるんだぜ?」

「ふむ……」


 九郎が会話しながら、この少女を見た時の違和感と共に思うことは、


(もしや此奴、イリシアの転生体では……)


 と、考えたのである。

 魔女の魂を探すのを忘れていたわけではない。ただ手段が無いので手をこまねいていただけである。

 そして今日偶然──魔王ならば魂の引力によってかもしれない──あったこの少女。魔女の作った術符を感覚的に扱えて、それでいてやたら自由な性格も似ている……気がする。

 確かめてみる価値はあるかもしれない。


(だがどうやってだ……?)


 生憎と九郎には魂の形を明確に見極める方法は無かった。魔女との類似を見つけて確信を得るしか無い。

 丁度この時、お七の背後の壁に小さな穴が二つ針で空けられて、石燕とお八がこっそりと覗き始めたのだが九郎にもお七にも死角になっていた為に見えなかった。

 九郎はふと思いついたことを行ってみた。


「シチ子や、少しいいか?」

「あ? なんだ?」


 いうと、九郎は彼女の両肩を抑えて近距離に顔を寄せてじっとお七の目を睨むように見た。

 お七は意味がわからんとばかりだが、特に抵抗もせずに三白眼で九郎を睨み返すだけだった。


(ふむ……近距離で目を合わせて怯まぬ女はイリシアと魔王ぐらいのものだが……目付きはともかく、動じないのはイリシアに似ている気が……)


 九郎の経験上、恐らくじっと見ていたら己の何を考えてるか読み取りにくいと言われる半眼は怖く見えるのか、スフィや他の異世界の女衆、また石燕なども目を逸らしてくるのを学んでいた。魔王は自分の目から虹色防護レインボウ・エフェクトという魔力放出を行っていてあらゆる恐怖情報をシャットアウトしているので竜に睨まれようが邪神を目撃しようが効果はない。

 ところで隣の部屋から覗いていた二人からは凄まじく積極的にかつ長く九郎が接吻しているように見える。

 がくがくと頭を震わせて壁から離れ、泡を食いながら畳に倒れ伏す石燕とお八。


「細い其の肩をそっと抱きしめてやがる……」

「涙、きすで拭って、だだだんなんだね……」


 打ち拉がれる気分になりながらものろのろと再び覗きに戻る。

 お七は首をかしげつつ、


「なんだぜ?」

「ううむ。そうだな、単刀直入にいうと──己れの呪いを解け」

「……? 呪いの干し首が欲しいのか?」

「いや、そうでなくてだな」


 九郎も軽く頭を抱えながら云う。

 術の解き方など彼もわからないのだ。というか、魔女が自身を不老化するときに言っていた不吉な言葉がリフレインされる。


『そういえばクロウの魂に刻まれた術式と私が使うの違う術なんですよね』

『は?』

『と言うかどんな術式なのか無我夢中で使ったものだからクロウの奴ってさっぱりわかりません』

『……いや、それ解けるのか?』

『まあ多分……うふふ、ほうら町長が飛んでますよ。ちょうちょ、ちょうちょ、利権に止まれ』

『誤魔化すな。そして下ろしてあげなさい』


 思い出したくなかった。

 九郎はげんなりしつつも僅かな光明に縋るように、


「なんか、こう……己れから感じる魔力的なあれをどうにかできそうとか、そんな力が湧いてきたりしないか?」

「あんたが何を言ってるのかさっぱりわかりませんぜ?」

「だろうな。己れもわけがわからん」


 ため息と共に大きく頭を落とした。

 それを見ながら隣の部屋で、


「九郎君がやたら精神的な謎の要求をした挙句断られてがっかりしてる……」

「どんな特殊な行為なんだぜこれ……」


 自分でも馬鹿なことを言ってるとは自覚しているのだろうが、九郎は強硬策に出た。

 術式を止めるには理解よりも感覚だ。この娘は先程感覚のみで術符を使えたではないか。刻んだ魂が一致しているのならば多少は融通がきくはずだ。


「よし、お主。止まれと念じながら己れをぶん殴れ」

「そういうのはそういうお店で頼んで欲しいぜ」

「無料とは言わぬ。これをやろう……」


 そう言って九郎が胸元から取り出したのは札束である。

 百枚丁度を一纏めにしたそれをお七の目の前にどさりと落とした。

 彼女は胡乱げにそれを拾ってみる。


「[緑のむじな亭]の蕎麦割引券だ。そろそろほとぼりが醒めたからまた配ろうと思っていてな」

「……報酬がしょっぱいんだぜ」

 

 店の宣伝用であった。九郎自身の腹は一切傷まない礼である。

 しかしそれでも、お七は「きひっ」と笑って立ち上がった。


「意味はわからんけど別に断る理由もねーですから、やってやろうじゃねえか」

「そうか、助かる」

「ほら、あんたも立てよ。あ、それと目ェ瞑っててくれ。避けられても面倒臭え」


 言われた通り、九郎は向い合って目を閉じた。

 こんなことならば術を解く方法も魔王に聞いておくべきだった。異界物召喚士改め、異本召喚士となった彼女ならば、失われた付与魔法の術書を召喚し取り寄せて読むことが出来た筈である。

 魔王が夢に出るか出ないかは運次第だ。過去の夢を見ることも多いが、恐らく魔王側から一方的に観測されてるような気もして気分も悪く感じる。

 思いながらも一縷の望みを掛けて九郎は魔女転生候補の一撃を待った。

 

「きひっ、きひひっ。止めるっていうとよー」


 ──ここだよなあ、普通。

 お七は音もなく刃先の短い愛用の刃物を取り出して、九郎の心臓の上に殴りつけるように突き立てる。

 見ていたお八が言葉もなく、壁から体を離して部屋の外に飛び出し、隣の現場へ戸を開けて突入した。


「九郎!!」

「ん?」


 九郎は畳に倒れていた。

 彼女が縫って渡した着流しの、胸を血で染めて仰向けに倒れていた。

 血の滴が垂れる小刀を、自分と鏡で合わせたように同じ顔の女が持っている。

 暮らしも食っていた食べ物も違うはずなのに、不思議なほどそっくりで頭がおかしくなりそうだ。

 

 ──殺した……死、死、死死死死死。


 精神の箍が外れたように、口から笑いが漏れた。


「手前──ぶっ殺してやるぜ!」

「きひひっ誰だか知らねえが上等じゃねえか!」


 一方でお七の精神的動揺は無い。もとより倫理観の破綻した環境で育っているために殺人、傷害も『面倒だからあまりやらない』というだけな点と、そもそも彼女は鏡を見る習慣は殆ど無いのでお八の顔が自分に似ているとさえ思わないのである。

 お八も懐から短刀を取り出して右手に持ち、構えを取る。

 お七は自然体にだらりと手を垂らして足の位置を変えて体重移動の体勢に入った。


「六天流──お八。行くぜ」

「あんたの名を覚える気はねえがな」

 

 踏み込む一瞬前、お八の頭は澄み渡り晃之介からの教えを反芻していた。

 まだ体が少女であるお八では多種多様な武装を時に同時使用したりする六天流は十全に扱えない。故に教えられたのは主に弓と拳、それと短刀だ。

 弓はともかく、拳と短刀はそれぞれ重なりあう点のある超近接戦闘になる。

 様々な技があるが、極めるとその間合いからの戦闘は二択になると六天流は教える。

 一撃で殺すか、殺せないならば距離を取る。仕留める技が打てるならばよいが、そうでなければ当然ながら相手の間合いに入っている為に反撃を受けるので離れて別の間合いから戦えということだ。

 つまり、攻め入ろうとするお八は、致命の一撃を放つ意志がある。

 意志は力となり胸から足へと圧を伝え、地面を蹴りだす勢いに変換される。

 相手がゆらりと体を揺らした。もとより狭い部屋だ。一歩で互いの間合いに入るだろう。

 進──


「おーいハチ子や」

 

 いつの間にか起き上がって立っていた九郎から声が掛かり、お八はぎょっと横を向いた。

 それを見てにやりと笑ったお七は、後ろ跳びに窓から屋根に飛び移り、


「それじゃあなお兄ちゃんよ。用が済んだならもう追ってくるんじゃねーぜ?」


 言葉を残して、塀や屋根の上を飛び跳ねて何処かへ逃げていった。

 とりあえず軽く窓に向かって手を振る九郎であったが、幽霊でも見たようなお八にバツが悪そうに、


「あー、いや。多分心臓までは刺さって居らぬからな。いや、それでも危ないことは危ないのだが」

 

 言い訳がましく告げる九郎。傷口は小さく、出血も少ない。お七の持っている刃が短いか、そもそも彼女に明確に殺す意志は無かったか──或いは九郎の体を守る[存在概念]の魔法の効果か、大きな怪我ではないようだった。

 彼の不老化を齎している魔法には、致命傷から復活を行ったことから分かる通り、命に関わる傷が発生した場合は急速に生命維持を優先して回復する効果があるのであったが。

 ともかく、生きている。

 お八は頭に来て、腹が立ち、大声で怒鳴ろうとしたが、目からぼろぼろと涙を流して、


「馬鹿」


 と、九郎に告げた。酷く九郎は罪悪感を感じて頭を下げる。

 その時、


「やめるんだ二人共! 君たちは生き別れの──」


 完全にタイミングを遅れ、用意していた台詞を使いながら石燕が部屋に踏み込んできた。

 そしてお七が居なくなっていることを確認して、すっと部屋から出て、何事もなかったかのように入り直した。


「ふふふ、やれやれ。とんだ修羅場に居合わせてしまったようだね。九郎君、あれほど女に刺されないようにと注意したのに……」

「いや、無理やり無かったことにするなよさっきの台詞」

「それより九郎君、血が出てるよ。私なら失血死しそうな量の」

「どれだけお主の血は少ないのだ。大したことはない、唾でも付けておけば──」


 とりあえず九郎は手拭いで血を抑えようかと思い、そのへんに先程お七が使っていたものが落ちているはずだと見回した。

 すると急にお八に、


「馬鹿九郎。こんぐらい舐めとけば治るんだろ」

「むっ?」


 そう言われて、体を引っ張られて押し倒されるような形で、九郎の胸元にお八が顔を近づけ──傷口を舐めた。

 行灯の油を舐める猫のように、舌を這わせて、吸い付く。

 九郎は呻きながら、


「ぬう……実際の対処として血液からの感染症等の場合も考えられるので決して真似しないで貰おう」

「え。はっちゃんの次の順番で私は待ってるのだけれど」

「待つな。ハチ子も、いい年した男の胸を舐めるな。こそばゆい」

「むー。うー」

「ああもう、己れが悪かったから。ほら、すまぬな。後でお菓子を買ってやる」


 言いながら手でお八の頭を掴んで体から剥がす。

 実際に胸の血は滲む程度に止まっていた。もとより大きな血管は傷ついて無く、出血も服に染み込んだ分で殆ど終えていたのだろう。

 立ち上がった九郎に、目を赤くしながらお八は告げる。


「もうあいつに会うなよな」

「悪いやつだが、まあそれほどではないぞ?」

「会うな! あれに会うぐらいならあたしに会え! 何か頼み事があるならあたしにしろ!」

「ううむ……」


 九郎は困ったようにお八を見る。

 確かに刺してきたのは危険なことだが、本気ではないようだったしそもそも九郎も迂闊すぎた。

 会う会わないの用事は別段お八とは関係無いことなので、代わりがどうとか云う問題でもないのだが。

 だが九郎は経験上こういう感情的になっている女への対処は知っていた。

 

(後の事はともかく、ここは良い返事をしてやり過ごしておこう)


「うむ、そうだな。特に用も無いからシチ子とはもう会わぬ。これにて一件落着、合衆国よ永遠なれだ」

「なんか白々しいな……」


 怪しんだ目で見てくるお八である。

 落ちていた手拭いを石燕は九郎の胸元に当てながら、いつもの人を喰った調子の声音で問いかける。


「さっきのあれは、いつだったかに話してくれた魔女の不老の呪いとやらを解こうとしたようだね」

「うむ。まあうまくはいかなかったようだがな。そもそも相手が合っていても条件がわからん」


 転生体がお七という根拠も無いのだが──

 なんとなく九郎は体に刃を突き入れられた感覚に、


(違う気がしたな……)


 と、思った。似ている気はするのだが、違う。根拠はなかったけれども。

 少し考えていると石燕が九郎の胸を軽く布で抑えながら云う。


「そうだね……その呪いが、九郎君が老いたり死んだりすることを[止めて]いるのだとしたら、止まれと命じて消えるようなものではないと思うよ」

「……そうなのだろうか。己れにはよくわからんのだ。魔女にも果たしてわかっていたのか……」


 石燕は九郎の鼻先に指を突きつけて、不敵な笑みのまま言った。


「だから、もしお呪いを掛けた者に、君が解こうと言ってきたならば──」


 

     ──……もう、いいの? <クロウ>。



「──さて、なんと言うかな。生憎と呪術者ではないからわからないけれどね」


 そう言って、石燕は肩を竦めて離れた。


 九郎は──誰かの声が聞こえた気がして、あたりを見回したが何も無かった。

 

 木戸も付いていない開けっ放しの窓から、早咲きの桜の花びらが風で飛んで来て舞っている。





 *****





 翌日のことである。

 緑のむじな亭にて、九郎はなんとなく石燕に魔女の居所を占って貰った。別にそんなことを頼む気はなかったのだが、彼女がわざわざ占い様の御神籤を作ってきたからであった。

 御神籤で探し人を探すとは当たる気がしない……そう思いながらも暇つぶしによって仕方なく付き合っているのである。

 風貌、職、吉日の三つが書かれた箱の中から取り出して総合した相手が探し人だという。


「的中率は五割!」

「……本当に?」

「当然だよ九郎君。なにせ一度選んで当たるか当たらないかの二択しか無いのだから確率は半々に決まっているではないか」

「……」

「ちなみに将翁の陰陽師としての占い的中率は十割だよ。なにせ当たる占いしかしないからね」


 ともあれ、九郎は面倒そうに半眼でひょいひょいと選び石燕に渡した。


「ふむ。出たよ──なになに、顔形は禿頭にて目鼻厳つし」

「魔女の条件だよな? 魔女の条件で占いの籤作ったんだよな?」

「ふふふ九郎君。転生しているのだとしたら男が女に、人が虫に、虫が人になってもおかしくはないのだよ」

「あーマジか。イリシア、変わったなあ。お主の青い髪は綺麗で好きだったが忘れぬぞ」

「ええと次。職業は……やくざ、無法の輩」

「これはあまり変わってないな。納得」

「吉日は……北斗七星の隣に小さく輝く星が見えた時」

「おいおい瞬殺だよ」


 なにせ石燕の作ったものだ。当たるとか当たらないとか深く考えてはいけない。むしろ当たるなと九郎は願った。多分その条件を満たせるのは腐敗と自由と暴力の真っ只中な世紀末か水戸ぐらいだ。

 そうしていると、店に客がやってきた。

 だるだるの肌蹴ている浴衣を着た三白眼の少女──お七である。


「あ」

「……何故ここに」

「いや、あんたがこの店の割引券くれたんだぜ?」


 そう言って普通に席に座り、普通に蕎麦を頼んで食うのであった。

 まだまだ彼女の割引券は残っている。もしかしたら暫く通われるかもしれない。

 その間、お八が来店して無駄な騒ぎが起こりませんように、と九郎は先ほどの占いに重ねて願った。誰も知らない知られちゃいけない。



「おーっす九郎遊びに来たぜー」



 九郎はとりあえず禿頭を探しに店から脱出した。 


 

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