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33話『仇討ちの終わりと、鶴の恩返しの始まり』

 闇夜を独り、杉右兵が進む。

 肩と脇腹に突き刺さったままの刀身が非常に冷たく重く感じたものの、それを抜くと血が余計に出てしまうことはわかっていた。ただ、もう抜くか抜かぬか判断する気力も残っていない。

 体が冷え切っていた。寒いのに熱に浮かされているようで、しっかりと目的地に向かっているのかすら曖昧になりながらも彼は歩き続けた。 

 

(死んでたまるかよ……)


 その思いだけが彼を動かす燃料となっている。自分が死んだら、故郷に残してきたまだ手も出していない許嫁はどう思うであろうか。

 仇討ちに手を貸す代わりに差し出した自分の身という約束を守る必要がなくなって安堵するか?

 否。非常に気まずい思いになるだろうと右兵は想像した。

 

(うだつの上がらねえ道場の次男だけど、嫁になってくれる女の笑顔ぐらいは守らねえと……)


 歩く。幸い、神楽坂はそこまで離れていない。追手も撒いたようであった。 

 右兵は襲いくる眠気に耐えながら、決死に進んだ。




 *******




 ──夜中に犬の吠える声ですぐさま九郎が目を覚ましたのは、例の黄金を手に入れたことで若干被害妄想にも似た警戒心をまだ保っていたからかもしれない。

 ともあれ外から番犬の明石が吠えて唸っていることに気づいた九郎は、迷わず布団を跳ね除けてどうたぬきを手に飛び出していった。

 真夜中のことである。冷え切った床を滑るように走り、戸を閉めている縁側から外に出て玄関へと回る。完全に締め切っている室内よりも、月明かりがある外の方が明るい。術符で体を温める間もおかずに九郎は何者かが居る方へと裸足で向かった。

 明石は大きめの犬で足が太く肩幅ががっしりとしている、闘犬にも使えそうな犬種だ。四年前から飼っているので年は食っているが、そこらの悪党では噛みつかれて悲鳴をあげるはずである。

 しかし明石は吠えているだけで相手を攻撃しようとしていないようだった。九郎は走りながら奇妙に感じる。

 月明かりの下、玄関先に誰かが倒れているのが見えた。それの隣で明石は困惑したように佇んでいた。少なくとも噛み付く相手ではないと認識しているようだ。

 

「おい、どうした」


 その誰かに語りかけながら九郎は慎重に触れた。一応、罠かもしれないと警戒したが冷え切った体温が手から伝わり死にかけていることに気がつく。

 顔を見ると、知った男だった。何故こんなところに倒れているのか? 嫌な予感が脳裏をよぎる。


「おい!」


 暗くてよく見えないが、目を閉じたまま返事をしない。気絶しているようである。

 九郎は抱き起こした手に、冷たい汁気に触れた。着物に染み込んでいる液体だ。当たりにも零れて、よく乾いた地面を濡らしていた。

 緊急の事態だ。九郎は今すぐ引っ張って屋敷に連れ込もうと逸る気持ちを抑えて、炎熱符で光源となる火を出現させた。すぐに動かしてはいけない状態かもしれない。確認しなければ。

 明かりに照らされた相手を見ると────


「……これは」


 想像していた状態とは異なる形が明かりにてよく見えた。

 玄関先に倒れていた小山内伯太郎(・・・・・・)は何故か全身ずぶ濡れで、頭にコブを作って気絶していやがったのである。

 町奉行所に勤める稚児趣味で犬好きな同心が何故夜中にこんなところに居るのだろうか。

 頭部への怪我となれば見た目よりも深刻かもしれないが、その原因らしい木桶が近くに転がっているのでどうもそれほど重体には見えない。


「おいこら。起きろ」


 どうせ碌でもないことだろうなあと思いながらも九郎はペシペシと頬を叩く。

 倒れていたのがもう一人の稚児趣味野郎・菅山利悟ならば放置するが、流石に元飼い主だけあって明石が心配そうに鳴いているので放っておくのも犬が可哀想であった。


「松の内も終わらぬ正月から厄介な男だ」


 電流でも流してみるかと九郎が考え始めた頃合いで伯太郎は呻きながら目を開けた。


「う、ううう……寒い。僕は一体……」

「それはこっちが聞きたいのだが」


 起き上がって頭を押さえながら伯太郎は周囲を見回し、木桶が落ちていることに気づいた。

 伯太郎は目を見開いて、自分の着物が濡れている部分に触れながら云う。


「思い……出した!」

「何があったのだ?」


 伯太郎は中が空になっている木桶を無念そうに取って呟く。


「実は……ここの屋敷でスフィちゃんと石燕ちゃんが一番風呂に入ったときには残り湯を桶に掬っておくように以前明石に訓練をさせていたんだ」

「……それで?」

「で、今晩になって明石から他の犬へ成功したって連絡がされたみたいで、その桶を夜中に回収に来たんだけど滑って転んで頭を打ったみたいで……いやぁー参ったな」

「馬鹿かお主は」

「痛ァ──!?」


 九郎はたちの悪い変態に拳骨を落としながらそうバッサリと告げた。

 たんこぶの上にたんこぶを作って激痛に悶えている伯太郎に冷たい目線を送りながら、


「稚児趣味野郎の間でも、利悟が変態方向でお主は性犯罪者方向の趣向だったのだが……すっかり変態的になっているではないか。残り湯を集めるなど引くわ」


 どちらかと云うと、利悟の方が遠距離から匂いを嗅いだり妄想をしたり飴を舐めた後の棒を回収したりといった行動をしており、伯太郎はその爽やかな雰囲気と可愛いらしい犬を使って言葉巧みに少女と接近するという手法を使っていたのだが。

 利悟が嫁と子供まで出来て社会的にはまともな部類に入ったことで、未だに独り身で稚児趣味を続けている彼に更なる低いステージへの変遷が行われたのだろうか。

 見てないところならまだしも、我が家の少女を狙われるとなると九郎は去勢という単語が頭に浮かび始めた。

 その危険な気配に気づいたのか、伯太郎が慌てて弁解してくる。


「ま、待ってくれ! これにはちゃんとした理由があるんだ!」

「ほう?」

「正月には『若水』を飲むと寿命が伸びるって云うだろう? しかし敢えて、極上の美少女から抽出した若水ならばより効果があるのではないかという僕の自説による宗教的な儀式なんだ!」

「若水とは別に若い娘の残り湯ではないわ!」

「あ痛ァ──!」


 軽く叩くだけで伯太郎の頭はコブにより大ダメージが追加されるようだ。

 実際に、正月に若水を飲むと良いという風習は江戸中で信じられていたが若水というのは新年一番に汲んだ井戸水のことであり、当然ながらロリウォーターのことでは無い。

 更に言えば前々から明石に調教をして汲ませるように仕立て上げたというので、正月を狙った犯行ではなく場当たり的に言い訳をしているのは間違い無かった。


「ちょっとお主には本気で人生の改善が必要な気がするな。稚児趣味を止め嫁を探して真っ当に生きろ」   

「スフィちゃんをお嫁にくださいお父さん!!」

「本気でブチ殺す必要があると……己れに思わせようとしておるのか?」

「ごめんなさい」


 九郎から確認するような怒気が漏れたのを悟って即座に伯太郎は頭を下げた。

 正直言って獣耳が生えて寿命が長くずっと少女のままなスフィという存在は彼にとって、深く考えると夜も眠れずに身悶えしてそれと触れ合えぬ世の不条理に嘆いて涙するほどに諦めがたいものはある。

 だがまあ、命は大事だ。生きていればこそ少女と触れ合えるし、手には入らなくとも遠くから見て愛でることは可能だ。あと歌麿に金を払ってこっそりとスフィの春画を描いて貰うことも。見つかったら九郎に殺されるかもしれないが。


 と──その時。

 明石が鼻先を外に向けて、軽く一吠えした。

 二人がそちらに視線をやると冷たい風と共に新しい血の臭いが僅かにする。

 すると引きずるような足取りで誰かが近づいてきており……膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


「おい!? どうした……お主、右兵か!?」 


 新たに現れて倒れたのは夕鶴の弟と共に仇討ちの旅をしていた、杉右兵という若者である。

 つい先日に仇討ちの相手が見つかり、日取りが決まったと報告に来ていた。

 自分だけでやるよりは他人を積極的に頼るという右兵の方針で、早速萩藩に協力を要請して正々堂々と仇討ちの勝負が行えるよう、玉木右内が逃げぬように見張っていて決闘場に引っ立てて貰える約束まで取り付けたという。やたら手際が良くて効率的な右兵に、話を聞いた九郎も感心していたのであるが……

 九郎の呼びかけにも、真っ青になった顔のまま応えない。体が相当冷えているし、凍ったように張り付いている血が半ばで折れた刀身と共に見えている。

 深刻さを見て九郎は指示を出す。


「伯太郎! こやつを屋敷の縁側から担ぎ込め! 己れは将翁を起こしてくる!」

「わ、わかった!」


 先んじて九郎は屋敷に入り、将翁の一人部屋──薬草などの保管も兼ねているので個人部屋が用意されている──へと踏み入る。

 仰向けになり浅い眠りに付いていた将翁は尋常ならざる勢いに目を開いた。夜這いだったら寝ている振りをして楽しもうかと彼女は思っていたのだがそうではないようだ。


「急患だ! 手助けを頼む!」

あい、わかりましたぜ」


 むくりと起き出してまず狐面を被り、薬箪笥を引っ張り開ける。


「どのような様態で?」

「とりあえずパッと見てわかるのは刀傷が二箇所と、血が流れて体が冷え切っておる」

「なるほど……とりあえず患者は明るい部屋に寝かせておいてください」


 将翁が準備をしている間に、右兵を肩に担いで縁側から中に入ってきた伯太郎がきょろきょろしているところへ九郎は戻った。


「こっちだ。居間に寝かせよう」

 

 呼び込んで広い部屋に連れ込み、突き刺さったままの刀に干渉しないように仰向けに寝かせた。

 行灯二つに火を付けつつ伯太郎に戸棚から蝋燭をあるだけ持ってこさせ、それにも灯して室内を明るくした。

 明るい部屋に置いたことで様態がよく見えて九郎も伯太郎も顔を顰める。肩の付け根と脇腹に深々と鉛色の刃が突き刺さっていてその周辺は真っ赤に染まっていた。肌の色は蝋燭の明かりを受けても青ざめて見え、呼吸も浅い。

 

「あ、温めた方がいいのかな?」

「うむ……」


 九郎が炎熱符を取り出す。細かい調節をすれば部屋中を暖炉で温めたような温度にもできる。

 だが九郎の手に、ひんやりとした白く細い指が触れてそれを止める。


「おっと。温めるのはちょいと待って欲しい」


 将翁だ。彼女は寝間着の白襦袢を着たまま必要な道具を持ってやってきた。

 指をつい、と右兵の方に向けながら告げる。


「あの傷でこれまで失血死していないのは、体が冷え切って血の巡りが悪くなっているからでしょうぜ。折角なのでそのまま、温める前に傷を縫ってしまいましょう」

「あ、ああ」

「なぁに……刺されただけで引き斬られても、捻られてもいない素直な傷だ。縫うのはすぐですぜ」


 そして将翁の指示の下、伯太郎は右兵の体を押さえて、九郎は突き刺さった刀身を摘んで一気に引き抜いた。まずは脇腹からだ。

 ごぶ、と傷口から血が溢れ出る。将翁はその血の色と量を見て、


「心の臓や腸には刺さっていない。あばら骨がどうやら切れたか砕けたかしているが……まあ、死ぬほどではない。だがこの傷から病の元が入っていなければ良いんですがね」

「ええい、できるだけ取り除く。ちょっと将翁。傷口を開いて見せよ」

「はい、はい」


 伯太郎が目を覆う。将翁が右兵の傷を指で押し広げると、九郎は僅かに赤くなった目で内部の細菌を見た。疫病風装とブラスレイターゼンゼによる視覚能力だ。

 自然に生活している限り無菌という状態はほぼ無い。旅をしていた右兵の着物は着たきりで汚れていて傷に触れていただろうし、彼に刺さっていた刀もその前に誰かを切ったことがあればそこから感染症のリスクがある。

 とりあえず危なげなものを手元に出した小さなブラスレイターゼンゼに吸収させて、傷口を閉じさせた。

 苦しげに右兵が身を跳ねさせるが、伯太郎がどうにかこうにか押さえ込む。歯を噛み砕かぬように、口には手ぬぐいを丸めて噛ませている。

 そして傷口の表面を洗い、将翁が繊細な手つきで絹糸を使い縫った。

 続けて肩の傷も同じように治療し、縫い目に軟膏を塗りつけてあて布をしてから包帯を巻いた。その頃には右兵も痛みで気絶をしているようだ。

 それから九郎が部屋を温め、右兵に快癒符を貼り付ける。大きな傷や感染症などは治せないが、体力は徐々に戻る術符である。まだ右兵も若いので暫くすれば問題なく目覚めるだろうと判断し、布団に寝かせた。

 将翁が手を水桶で洗っている横で九郎と伯太郎が安堵の息を吐いていた。


「ふう……」

「何とかなった……」

「ところで小山内殿はどうしてこちらに?」


 将翁の当然な疑問に彼は顔を背けた。


「……世のため人のため、かな?」


 彼は正義の風烈廻り同心。江戸の街にて火事が起こらぬか昼夜見張って巡回しているのだ。何処に現れても不思議ではない。

 そう主張するが、九郎からは半眼で睨まれた。


「まあ……少しは人助けをしたから今宵のは不問にしてやるが。もうするなよ」

「はい」


 夜中に急患でドタバタと騒いでいたからか、屋敷の奥から何人かこちらに様子を見にやってきたようだ。

 家主である豊房と聴覚が敏感なスフィ、それに夕鶴が訝しげに居間へと入る。


「ちょっとー……こんな夜中に何があったのよって……どうしたの?」

「なんじゃ。怪我人かのー。まあ、音で大体わかっておったが」


 眠そうにしながらも豊房は居間に残された血痕やべったりと血糊がついた刀身を見て軽く引いたようだ。スフィは長生きしている分だけ慣れているからそうでもないが。

 一方で夕鶴は死にかけているように見える知り合いの顔を見て固まり、目を白黒させた。


「うぇえ!? あ、あれ!? 右兵くんでありますか!? この死にそうなの!」

「いや、まあ死なぬとは思うが。どうも刀で刺されたようでな」

「大事でありますよ!? ちょ、ちょっと!! 右兵くん起きるであります!」


 布団で寝ている右兵の肩を掴んで起こそうとする夕鶴を九郎が慌てて止めた。


「ちょっと待て! 一応は治療したが、重傷なんだぞ! ここにやってくるまでに血もかなり流れたから朦朧としているだろうし、無理に起こすな!」

「だ、だって……右兵くんがやられてたなら、一緒に居るはずの太助はどうなっているでありますか!?」


 夕鶴の言葉に九郎もはっと気づいた。

 まだ十にもならない子供である夕鶴の弟、太助と共に旅をしていたのが右兵である。そんな彼が重傷を負わされたのならば、太助も心配になる。

 場合によってはすぐに探さねばならない。九郎は将翁へ尋ねた。


「気付け薬で何とかなるか?」

「完全に気絶していたら効果が出ないかもしれませんぜ。死ぬほど苦い薬で意識を戻すものなので」

「むう……微妙だ」

「うーみゅ。なら私が起こしてみよう」


 スフィが胸を叩いて進み出た。

 歌神司祭である彼女の持つ異能力は、歌に魔力を乗せて味方を援護するというものであった。その中には戦闘中に眠ったり気絶したりしたものをすぐさま復帰させるという技もある。

 異世界ペナルカンドで十全に発揮できる能力であり、地球世界では効果が薄れているが……


「一人ぐらいなら何とかなるじゃろ。近所迷惑にならぬように、声を潜めて……」


 と、口元に手で囲いをしながら寝ている右兵の耳に近づける。


「聖歌『時告げる空神の軍楽隊』より──『目覚めのヘタクソ喇叭』。せーの!」


 間の抜けた管楽器の音が高らかに鳴り響いた。突然、楽器もないのに発生した音に九郎以外の皆は驚いて反射的に耳を塞ぐ。

 別の部屋で寝ていた皆もその音ですぐさま目を覚ましたが、周囲を見回しまだ夜中とわかるとまた布団に入ったようだ。一応、範囲を限定したので別の部屋に居る者たちの眠気まで完全に取るものではなかった。

 しかし直に受けた右兵は上体を起こして目覚め、


「いってェ!?」


 と、肩と脇腹から発せられる、焼け火箸を押し付けられたような痛みに背筋を引きつらせながら硬直する。

 目が覚めるだけで痛みが消えたりするわけではない。右兵は涙が零れそうになりながら歯を食いしばった。


「右兵くん! 目が覚めたでありますね!」

「うへあああ!? 触んなクソアマ!!」


 がしりと肩を掴んだ夕鶴にマジギレしながら怒鳴る右兵。


「うるせーであります! そんなことよりうちの弟はどうしたでありますか!? 無事でありますか!?」

「太助は四谷にある東長寺の宿坊で預かって貰ってるから襲われねーって!! 俺だけ出歩いてて襲われたんだって!!」

「そ、そうでありますか……良かった」

「うへぇ……なんも良くねえけど痛ぇ……」


 痛みに呼吸も苦しげな右兵は、肩から手を離されてそのまま布団に倒れ込んだ。

 東長寺といえば四谷にある中でもそれなりに大きく立派な寺で、一般人からの信頼も厚い。仇討ちという名目だがいわば殺生を行おうとしている二人組の宿泊に良い顔をしないかと思いきや、大衆及び武士が多く参禅するこの寺では仇討ちという耳目を引く行いをしている太助と右兵はむしろもてなされた。

 右兵が大々的に仇討ちを申し込んだことで江戸では既に噂が立っているのだ。正月早々から仇討ちとは縁起が良いと、ニュースや娯楽に飢えている町人らも話し合っている。

 そうすることで藩としてもこの仇討ちをどうしても行わせねばならないという空気になり玉木右内への見張りにも力を入れてくれて、更に成功した場合には少年と娘が見事に父親の仇を討ち果たしたという名誉を広く知らしめ、太助の杉家再興に有利な状況にするのが右兵の策であった。

 しかし決闘前の襲撃により、重傷を負わされた右兵は悔しそうに顔を歪める。 


「くそ……仇討ちの期日まで、あと三日だってのに……傷、塞がるか?」

「ふむ。太助が無事ならばお主はとにかく安静にしておくのだな。事情は明日聞こう。寝て起きれば、少しは良くなっているはずだ」


 まだ縫ったばかりな上に体も芯まで温まっていない。そんな状態で強制起床させたのだから酷く疲労困憊している様子だった。

 大きく息を吐いて、右兵は目を瞑って再び眠り始めた。

 

「とりあえずは明日だな。ああ、そうだ伯太郎。お主帰るときに東長寺に寄って、寺の者に右兵のことを伝えておいてくれぬか。太助も心配するであろう」

「ええ~……帰るの反対方向なんだけど」


 微妙に渋ると、立膝をついていた伯太郎の頭をぽふっとスフィが撫でた。


「これハクタローや。一つ頼まれてくれんかのー」

「やります。何処へでも行きます。博多の弘法大師が建てた東長寺でも行きます」

「いや、四谷にいけよ……」


 ロリから頼まれてシュバッと背筋を正し、伯太郎は機敏な動きで屋敷を出て四谷へと向かっていった。

 スフィはそれを見送りながら哀れんだ表情で頷く。


「ロリコンこじらせておると大変じゃのー」

「わかっててやるスフィもスフィだが」

「まー私からすればお姉さんに憧れる少年を見ているような感覚じゃからな。少しは優しゅうなるのじゃよ」


 凄まじく違和感を感じる言葉ではあるが、スフィは眠そうに欠伸をして寝室へ戻っていく。

 

「将翁も休んで良いぞ。こやつも朝までぐっすりだろう。多分」

「それでは念のため、包帯などを近くに置いておきましょう」

「夕鶴も。心配だろうが……」

「自分は……暫く起きているであります」

「いやお主が居ると右兵が落ち着かん気がするが……仕方ない。隣の、己れの部屋で起きておれ。己れも少し目が冴えた」


 と、不安そうにしている夕鶴と共に九郎も自室へ行くのであった。

 そして四半刻(30分)もしないうちに。


「すかぴー」

「すぐに寝おった……こやつ、図太いのう」


 九郎の布団で寝息を立て始めた夕鶴を見て、九郎は酒を少しだけ飲むのであった。





 *********

 




 翌日、多少は良くなった右兵に聞き取り調査を行った。

 

「襲ってきたのは玉木の居る[辰心(しんしん)流]って看板を出してる道場にたむろしている浪人達だな」

「道場なのか?」

「いや、単に浪人が集まっていても自然なようにそう看板を出しているだけで、何かを教えているわけじゃないみたいだ。数も結構居て、ゆすりの真似事をしながら酒代を稼いでいるらしい」

「碌でもないのう」


 そして、夜に一人で歩いていると取り囲まれ、そのうちの一人が使う敢えて刀を折り飛ばして相手を殺傷する技に掛かったことを説明した。

 しかしながらその恐るべき術を使う相手は、逃げる際に切り倒している。

 

「決闘前に襲うなんて卑怯千万であります!」

「まったくだ。己れが報復してきてやろうか……ところで右兵よ」

「ん?」

「なんでお主は一人で夜に歩いておったのだ?」

「……」


 右兵の目が泳いで、九郎は察した。

 いや、まあよくある話である。

 生きるか死ぬかの決闘前に男が一人で夜に出かける先など決まっている。九郎が若い頃に見ていた仇討ちモノの時代劇でもおいろけシーンとしてあった記憶があった。ヤクザでも若い鉄砲玉にカチコミに行かせる前は高級なゾクフーを奢ってやったりもする。

 それをどうして責められようか。いや、むしろ当然の行為ではある。傭兵団や騎士団などでもよくあったことだ。


「何処に行っていたであります?」


 きょとんとしながら夕鶴が九郎の質問を継いで尋ねた。

 九郎と同じく察した将翁はくすくすと口元を隠して笑っている。


「うへぇ……そのぉ……」

「もしかして何か緊急の事態でありますか!? 夜にわざわざ一人で出かけるとは尋常じゃないであります!!」

「い、いやあそういう……」


 ちらちらと助け舟を求めて九郎に視線をやる。

 右兵の立場としても、夕鶴の妹を許嫁として貰う予定ではあるのでいわば義理の姉に「決闘前に遊郭に行っていた」とは非常に言いづらい。

 男ならばわかってくれるかもしれないが、相手はおぼこ(・・・)である。どう罵られるかわかったものではなかった。

 九郎は頷いて声を掛けた。


「右兵は勝利祈願のため、お稲荷さんにお参りに行っていたのだ。そうだろう?」

「お稲荷さん?」

「そ、そうそう!」


 靂をだまくらかしたのと同じ設定で語ると右兵もぶんぶんと頭を縦に振って肯定する。

 将翁が僅かに笑い声を漏らしながら、


「くく……随分と巫女が多そうな稲荷神社で……」


 などと云っていたが素直な夕鶴は「そうでありますかー」と納得した様子であった。


「まあ、とにかく休んでおけ。戦えるかはわからんが、立って歩けるぐらいには回復すると思うぞ」

「うへぇ……なんか知らないけどあれだけ死にかけてたのに、一晩でやたら治っているのが怖い」


 呻きながらも右兵は起こしていた上体を寝かせた。

 傷は体中、骨の髄まで泣きたくなるほど痛むものの、こうして自発的に体を起こして会話をすることができるぐらいには回復していた。低体温症と出血多量を引き起こしていて一晩でこの回復である。

 

「さて……ちょいと己れは出かけてくる」

「何処へ?」

「その[辰心流]道場とやらだ。やられたらやり返す。道場にごろつきが居たらどうせ向こうの助っ人になり兼ねんから、片っ端から殴り倒してこよう」

「いやあの……仇本人には手を出さないようにな?」

「大丈夫だ。……そう言えば、その玉木何某はどんな姿をしていたかのう?」


 聞くと右兵は手を己の頭に当てながら告げた。


「そりゃ見ればわかる。頭に獣の耳が生えているおっさんが玉木右内だ」

「……」

「……」

「……マジで?」

「マジで」


 釈然としないものを感じながら、九郎はその道場へと向かうことにした。




 *******




 高輪、白金台の百姓地近くにその道場は存在していた。

 元々誰かの屋敷だったのだろうか。土塀で囲まれているがひび割れ、敷地内も草がぼうぼうと生え伸びていて廃屋のように見える。

 高輪にて浪人の集まり、というと九郎は天一坊事件を思い出す。

 将軍吉宗の落胤を自称した天一坊が家来とする浪人を集めて、江戸近くまで来ていたのが芝・高輪界隈であり、その事件から一年と経過していない。

 集まったは良いものの行く宛の無くなった浪人らが集まり、碌でもないことをしているのがこの道場なのであった。

 

「さてと……」


 九郎は物陰で術符を使い透明化し、ふわりと浮かんで道場に近づいた。

 道場の表と裏からやや離れたところで、茶屋と木陰に武士の姿が見える。きちんと袴を履いて二刀を腰に下げた身なりをしていて浪人には見えない。

 恐らくは萩藩の見張りだろう。右兵の働きかけは「これで逃したら萩藩全体の恥」とまで向こうに思わせることで、仇討ちの正当性を証明しつつ上手く味方に付けている。

 見張りの目をスルーして九郎は敷地内に入る。

 入り口も裏口も締め切っている道場では中に侵入するために開けると非常に目立つだろう。九郎はひとまず中の様子を探るために、木格子が掛かっている窓から中を覗き込んだ。


 道場の中では一人が正座をしている。

 中年の太ましい男だ。顎髭を茂らせ太い眉に厳しい顔をして、じっと動かずに居る。

 月代も剃らずに伸びたその頭には──猫耳のようなものが生えていた。

 九郎は抑えられぬ胸のむかつきを憶えた。

 猫耳おっさん。そんなものが当然のように生息しているのは一体どういうわけだろうか。

 聞いた話では萩藩に居た頃にはそんなもの生えていなかったという。ならば逃亡生活のうちに生えたのか。生えるものなのか。

 或いは猫耳のような形をした、伸びた髪の毛が癖で纏まったものかもしれない。

 そういうことにしておこう。九郎はひとまず頭痛を堪えて自分を納得させた。


 さて。問題の他の浪人だが……

 道場の中には彼一人しか見当たらない。かと言って、この屋敷の周りを回ってみても何人も居るような気配は見えなかった。

 人の痕跡はある。厠からは大人数がひり出した糞の臭いがするし、道場の近くの足跡も多い。

 ただこの場には現在、誰も居ないようであった。


(面倒な……)


 居た場合は肉体年齢操作で姿を変えて、道場破りを押し付けて片っ端から殴り倒してやろうかと思っていたのだが。

 流石に仇本人を殴り倒すわけにはいかない。

 他所に出ているのだろうか。九郎は暫く待機して帰ってくるのを待つことにした。

 そうしながらも考える。


(果たして浪人たちは、この猫耳おっさんにどうして味方をするのか)


 猫耳おっさんと、それを仇と追いかける少年と姉。恐らく百人に聞いたら百人は後者を支持するだろう。この仇討ちも、互いに譲れぬ事情があっての仇討ちというより完全に善と悪の戦いと皆は認識している。

 この状況で浪人らが協力するのは友情だろうか?

 或いは金か。その両方かもしれない。

 複数人の浪人を雇うだけの金が、この猫耳おっさんにあるのかは疑問だが。

 



 *******




 夕暮れ時になっても誰も帰ってこない道場から九郎は諦めて去っていった。


(萩藩の者から見張られているというのは、そこで寝泊まりする浪人達からも面白くないものだろう。一時的に宿を変えておるのかもしれんな)


 そう判断して屋敷へ戻った。 

 とりあえず何も無かったと右兵に報告していると、慌ててお八が駆け込んできた。


「おい九郎! 夕鶴のねーちゃん見てねえか!?」

「いや……そう言えばおらぬな。何処へ行ったのだ?」

「昼前に、弟のところに顔を出してくるって出かけたっきり帰ってこねえんだよ! 気になってあたしが今、東長寺まで走って行ったら夕鶴のねーちゃん寺に来てねえって……!」

「まずい」


 九郎が立ち上がった。昼間だからと油断をしてしまったか。

 助っ人である右兵を襲った相手が今度は夕鶴が一人で居るのを見て拐かした可能性がある。

 だが攫われたとなれば何処にだろうか。まさか見張っている白金台の道場に連れていくはずはない。手がかりが無い。

 そのとき、玄関で吠える声がした。九郎が居ても立ってもいられずに向かうと、明石と伯太郎が居る。呑気に団子などを手土産にやってきている同心を見て、九郎は云う。


「伯太郎! 夕鶴が攫われた! お主の犬達を使って居場所を探せぬか!?」

「うん。そうやって犬の能力を買ってくれるのは嬉しい限りだ。その娘の着物か何か用意してくれ。九郎は明石を連れて探索に。見つけたら明石に連絡を向かわせる」

「頼んだぞ」


 九郎の意図を受け止めて、心得たとばかりに伯太郎は胸を叩く。

 犬というのは畜生とも呼ばれ江戸では評判の悪い生き物であった。咬傷事件は起こすし、保護をした生類憐れみの令による嫌悪感もある。だが伯太郎は犬の賢さと、人と協力し合える絆を信じて多数の犬を育てているのである。

 それを活躍させる場が現れた。伯太郎は犬笛を吹き鳴らし、犬を呼び集める。

 その間に九郎は明石と共に屋敷を飛び出して、一足先に探索を始める。

 まずは神楽坂から四谷へ向かう途中を片っ端からだ。しかし、と九郎は顔を顰めた。

 空からぽつぽつと雨が降り出していた。





 ********





 ここは何処だろうか。目隠しをされたまま、夕鶴は不安に押し潰されそうになっていた。

 酷く冷えるが屋外ではないようだ。風がないし、埃の臭いがする。目隠しをされると声が出せなくなった。口を僅かにでも開くと、がちがちと歯が打ち合う音が口腔内で響く。

 怖い。震える体は縄で縛られている。腰のところを何重にも巻き付けられ、どうやら天井近くの梁に結ばれているらしい。ぶら下げられているわけではないが、座ることもできずに中腰のままでいて体が痛かった。

 神楽坂から東長寺に向かう途中に夕鶴は、すれ違いざまに腹を殴られて身をくの字に折ったところで目隠しをされ、口に猿轡を噛まされてた。少し暴れた気がするが、すぐさま足を強く蹴られて動けなくなり荷車に載せられて筵を被され移動させられたのだ。

 痛かった。腹を殴られてことを思い出せば嘔吐感が襲い、足はまだじんじんと熱を持ったように痛む。涙が目隠しに滲み、冷たかった。

 殺されるのだろうか。仇の手下である浪人達に。そう思うと、震えが止まらない。

 言葉は出せなかった。息が乱れる。歯の根が合わない。

 ただ助けて欲しかった。すぐ後にでも、いつものように、お助け人の男が解決してくれると思いたかった。あの弟のように可愛く、兄のようにつっけんどんで、父のように頼もしい彼が来てくれる。

 頼みの綱はそれしか無いのだ。


(九郎くん九郎くん九郎くん九郎くん九郎くん……)


 呪文のように心の中で唱える夕鶴の背後で、木戸が開けられる音が聞こえた。

 ざあざあと雨の音も外から聞こえる。夕鶴はハッと顔を上げるが、小屋の中に無遠慮な足音が複数響いた。


「寒ィ寒ィ。ったく、この寒ィのに雨まで降りやがる」

「全くだ。酒でも呑んでねえとやってられねえぜ」

「酒代だけは玉木から貰っているのが良かったが……」

 

 自分を攫ったごろつきの浪人共だ。夕鶴は心が萎んでいくのを感じた。

 背中の方で連中は囲炉裏に火を入れたらしい。僅かな熱の感覚があった。

 安酒の臭いがぷんとする。徳利ごと火に当てて燗にしているらしい。夕鶴は何も音を出さないように、自分が居ないものとして扱われるように願って動かずに居た。

 だが、疎い彼女にも想像力は働く。

 自分が殺されずに捕まっている理由。

 少なくとも後で殺すか──酷いことをする為にこうして捕まえているのは間違いが無かった。

 何も見えないのだが、ねとりとした視線が向けられている気がした。


「それにしても、でけえ女だな。女相撲取りかと思った」

「相撲取りにしちゃ細っけえだろ。抱き心地もよく無さそうだ」

「ま、壊してもいいってんなら楽しみ方があるってなもんだが」


 下卑た笑い声が聞こえた。夕鶴の足が震える。

 緊張が限界に達していた。攫われていてから我慢していたものも。

 気づかれるな気づかれるなと願いながらも、生暖かいものが中腰になったままの太腿と膝の裏を伝って足袋を濡らした。

 

「ん? おい、見ろよお前ら! この女、小便を漏らしてるぜ!」

「ははは! 拙者らの話を聞いて期待でもしたか?」


 震えながらも声が出せなかった。


(違うであります……単に我慢の限界だったのであります……)


 恐怖で失禁したのではないと自分に言い聞かせながらも、怖さと情けなさで息が詰まり、嗚咽が漏れた。


「それじゃあ一つ、俺が最初にやるぜ。へへへ」


 着物に手が掛けられた。着物の上から結ばれているので脱がせられないが、捲し上げられて腰から下が露わにさせられる。

 太腿を強く閉じて震えを堪える。だが、固い手の皮が荒々しく夕鶴の尻肉を掴んで秘所をさらけ出した。

 僅かに尿で濡れている肉の割れ目が見知らぬ男に見られている。夕鶴は恥ずかしさで死んでしまいそうになった。いっその事舌を噛みたいが、口が震えているし自殺するのも怖すぎた。

 がさがさと音がするのも嫌な想像しかできなかった。

 続けて、股を乾いた何かで擦られた。見えないので頭がパニックになるが、この感覚は知っている。

 股を紙で拭われたのだ。厠でそうするように。

 やたらとしつこく乱暴に拭かれる。紙越しに浪人に触られ、気持ち悪さで背中は鳥肌が浮かぶ。

 だが何をしているのだろうか、とも夕鶴は思うと更に最悪な内容が後ろから聞こえてきた。


「予め教えておくが──こうやってしっかり拭い、濡らさねえで無理やりぶち込むと……お前のここはズタズタに裂けて血だらけになるわけだ」

「……!?」

「血でぬるぬるして気持ちいいんだよなあ。その血まみれのまま五人で犯し続けるともう使い物にならなくなるだろうぜ。ひゃはははは!」


 想像しただけで夕鶴は心が壊れそうになった。

 寒い。がちがちと震えてしまう。いっそそんなことされずに殺された方がマシだ。

 暴れて殺されようかとも思うが、既に男は両手でがっしりと夕鶴の腰を固定していた。


「それじゃあ早速──って寒ィな。おい、もっと囲炉裏に薪を───」


 声が止まった。


「手前ッ誰」

「黙れ死ね」


 くぐもった悲鳴。壁にぶつかる音。室内は酷く冷えていて、倒れ伏した男達は一様に寒さに苦しんでいた。

 腹を押さえながらとてつもない気分の悪さに、その場に嘔吐しようとする男達だが胃液すら胃から零れてこない。ただ立ち上がることもできずに、原因不明の恐るべき寒気に倒れている。

 捲し上げられた着物が戻り、夕鶴の尻が隠された。

 彼女の目隠しが取られる。明かりが戻った視界には、安心させるような優しい顔をした九郎が居た。


「見つけたぞ。遅れてすまなかったな。夕鶴」

「く、く、くろうくん……」


 彼の姿を見て夕鶴は涙が溢れて、鼻水まで垂れてきた。九郎はどうたぬきを一閃して天井と結んでいる縄を切り解き、夕鶴を床に降ろす。

 

「うわああああ!! 怖かった!! ほんとうにもう際どい死ぬほど危ない状況でありましたあああ!!」

「うむ。そのようだのう。もう大丈夫だ。ほら、鼻水を拭け」

「ちーん! ……ってうわ! 九郎君! このちり紙、自分の股を拭いたばっちい奴でありますよ!? おしっこ臭い!」

「そうか……ばっちいのか」

「ばっちくないであります!!」

「どっちだよ。まあ、とにかく無事で何よりだ。ほれ、明石が他の犬と頑張って探してくれてな」


 九郎が入ってきた入り口には、体から湯気を立てている明石が座っていた。ずっと探すために走り続けて体温が上昇しているのだ。

 

「ううう……駄犬だと思っていたのを謝るでありますうう……ありがとう……」

「皆も心配しておるから帰るか……歩けるか?」

「こっ腰が抜けてるであります」

「わかったわかった。背負ってやるからちょいと待て」


 九郎は告げると、夕鶴を背負いやすいように肉体年齢を上げて体付きを大きくした。二十代の体ならば、細身な夕鶴は問題なく背負える。

 夕鶴は室内を見回して、まだ生きて呻いている浪人らを見つけてがくがくと体を震わせる。危うく取り返しのつかない体にさせられるところだったのだ。怒りよりも、根深い恐怖がある。がちがちと歯が鳴り始めた。

 大きくなった九郎に抱きつきながら夕鶴は叫ぶ。


「九郎君! 九郎君! こいつら、非常に危険人物でありますよ!」

「そうだのう。だが安心しろ。もうお主を狙うようなことは絶対にないよ」

「だけど……」

「絶対だ。己れが保証する。信じろ」

「ううう、九郎くんがいざという時は守ってくださいであります……」

「当たり前だ」


 そう告げて、九郎は夕鶴を背負ったまま小屋を後にする。

 彼らが逆恨みをして襲ってくることは、確実に無い。

 まだ息をしていたが、誰一人として生き延びることはできないからだ。

 小屋に踏み入った九郎は手早く全員の腹を殴りつけた。同時に氷結符を発動させている。

 効果として、内臓を凍らせてしまったのだ。一気に体温を失い、また臓器不全に陥り例え溶かしたとしても生き延びることは不可能だ。

 最後の、夕鶴を犯しかけた一人など内臓を凍らすと同時に殴り砕いていて、彼の腹の中は臓器がかき氷のように粉々になっているだろう。

 女を攫って犯そうとしている連中など生かしておいては後々厄介になるだけであるという判断からだ。

 本来ならば八つ裂きにしても良いとさえ思っているが、夕鶴にショックを与えてはいけないと咄嗟に考えてある程度綺麗な殺し方をしたのだが。


(不安になるのならば、ざっくり斬り殺した方が良かったかのう) 


 そんな物騒なことを考える九郎であった。彼はときに、容赦をしなくなる。


 




 さて、後にその現場では凍死体が五つ発見されたものの、現場検証をした役人や小者らは首を傾げた。

 明らかに寒さで死んでいるのだが、室内は薪が囲炉裏に焚べられていてまだ温かく、追加の薪も沢山あった。酒や食い物もあり、もしや毒物かと医者を呼んで調べられたがそれも検出されなかった。

 そんな中で男が五人も凍死しているのである。中の一人などは、揺らした拍子に口の中からあられ粒のような氷をざらざらと吐き出したほどである。

 妖怪の仕業。そんな噂が、小者から街へ齎されるのもすぐであったという。

 

 そして江戸の悪党というのは多くが横の繋がりがある。

 死んだ者らの知り合いも居て、その小屋に行く前に合っている者も何人か居た。

 こういった屑の悪党というのは何かに付けて悪事を自慢するものだ。それが同業者なら尚更である。

 彼らは知り合いに告げていた。体のデカイ、ふりかけ売りの女をとっ捕まえてこれから犯すところだと。

 それは江戸の一部で有名な天狗だか助屋だか、町奉行所だか火盗改メだかと関わっている九郎のところに住む女であるのは噂を辿ればすぐに判明した。


 暫くして悪党の情報網に注意事項が流れたのは当然のことである。

 内容は……九郎という男の女に手を出したが最後、この世とは思えぬ死に方をさせられるので注意。

 割りと本当のことだが、九郎のあずかり知らぬところで警告となって広がるのであった。







 **********






 連れて帰った夕鶴に温かい食事を与え、安静に寝かせて翌日のことである。

 明日には仇討ちの決闘が迫っているのだが、問題がまたしても発生していた。


「ゆ、夕鶴よ。平気か」

「あばばばばばであります」


 悪党に攫われて強姦一歩手前までやらかされた夕鶴が、恐怖心で外にも出れなくなっていたのだ。 

 九郎の服の裾を握ったままおどおどとして、普段の明るさは鳴りを潜めていた。特に男に恐怖を感じるのだが、助けてくれた九郎だけは別というよりも離れると不安になるようだ。


「まあ死ぬような思いしたらそうなるよな」

「小さかったけど死ぬかと思ったわ」

「九郎くん居なかったら何度も死んでたと思うね私も」


 実家を盗賊に襲われること数度のお八や、橋が崩れ落ちて川に投げ出されたり開腹手術を受けたりした豊房、もうなんかちょくちょく死にかけて結局モチで死んだ石燕などが同情的な眼差しを夕鶴に向けていた。

 死にかけ過ぎである。彼女らも大抵九郎と関わったことで生き延びているのであったが。


「ほうら夕鶴よ。外は良い天気だぞー。今日は己れと共にふりかけでも売りに行くかー?」

「狙われるであります!!! 世間は自分を殺そうとしているであります!!!」

「いやお主……そんな調子で仇討ちの決闘場に立ったら失神するぞ」

「仇討ちは英雄ごっこじゃないでありますよ!!!!」


 どうにか九郎が宥めさせてやろうとするが、恐怖心のあまりにがくがくと首を振りながら涙目で叫ぶ夕鶴であった。

 これは困った、と九郎も夕鶴と近い視点でおどおどとしている彼女の、泣きそうな顔を見る。

 

(……強姦未遂被害者を翌日から元気にさせようとしても難しいものはあるのだが……)


 九郎は視線を、布団から半身を出している右兵に向けた。


「いや……まあ、仇討ちは俺と太助が居ればいいんでそこのねーちゃんは家で療養というあたりで」

「駄目であります!!! 太助がえほげほっ!! 強姦されるであります!!」

「むせるな。藩の家老まで出張ってる仇討ちの現場でそんなことしたらレジェンドだろ」

 

 九郎が諭そうとするが、色々と可哀想な目にあった夕鶴は不安でいっぱいになっているようだ。


「お姉ちゃんが守らないといけないであります……が、が、頑張ってついていくであります。盾にでもなんでもなって、太助を、守らないと……」


 うわあ、と九郎と右兵が顔を見合わせる。

 このままどうにかして連れて行ったら、余計危ない目に合いそうだった。

 少なくともどうにかして夕鶴を宥めないといけない。九郎は医者である将翁の方を向いた。

 彼女は当然のように指を立てて説明をする。


「これは一つ、しっかり心の治療が必要ですぜ。そうしないと夕鶴殿は元の性格に戻らないかもしれない。怖い目にあったことを一生引きずって生きるのは辛いことだ」

「ううむ、しかしどうすれば良いのだ」

「九郎殿の協力が不可欠だ。本来ならば家族などに頼るべきだが、ここに居る夕鶴殿の家族は弟だけ。彼女には抱擁してくれる年上の家族が心の傷を癒やしてやらねば」


 九郎の顔に軽く苦悩の色がよぎった。

 他の女たちも頷いてそれを勧める。


「そうよね。このままじゃ可哀想だわ。九郎、何とかしてあげてよ」

「年長者の功で何とかできねーか?」

「ふむ……私が元の体ならば引き受けたところだが、この幼女姿では難しいだろうね。九郎くんに任せた!」

「おいからもお願いしもす」

「私はまだ付き合いが浅いからのー」


 気軽に云ってくれる、と九郎の顔が何か非常にまずい事態が進んでいる気がして引きつる。

 将翁が手を叩いた。


「というわけで、ここは九郎殿が夕鶴殿を甘やかして癒やすという方法でよろしいですね?」


 確認を取っている将翁の口元は、明らかにこれからの展開に予想がついていて薄く笑みが浮かんでいた。

 

「ではこちらに」


 しかしどうすることもできずに九郎は、将翁の案内で怯える夕鶴の手を引いて屋敷から連れ出す羽目になるのであった。



 稲荷、伊勢屋に犬の糞というのは、江戸時代何処の町でも目につく三大風景という。

 あちこちに小さなお稲荷様の社があり、神楽坂の近くで人通りの無い誰も参拝していないような場所に九郎と夕鶴は連れてこられた。

 社の小さな長屋の一室ほどのお堂を開けて将翁が云う。


「ではここで二人っきりでお話などをして、夕鶴殿の心を癒やしてやってください」

「な、何故このような離れで?」


 九郎が脂汗を額に浮かべながら尋ねるが、彼女は無視する。


「酒などを酌み交わすのもいいでしょう」

 

 将翁が渡してくる徳利は生臭いような酒の臭いがぷんとした。

 中を覗き込むと赤まむしと薬草などが入っており独特の薬効を感じる芳香を放っていた。


「九郎殿の考案した『波布銘腎』を参考に作った赤まむし酒です」

「おいこら将翁?」

「後は九郎殿の心がけにかかっております。ではごゆるりと」


 将翁はするすると立ち去っていき、境内には九郎と夕鶴が残された。

 まずい、と九郎は汗を拭う。

 右兵が遊郭に行って帰りに切られたのを笑っている場合ではない。あのときに思った通り、仇討ちモノの時代劇ではお色気シーンがつきものなのだ。

 翌日の仇討ち決行に怯える女が、助太刀の男に抱かれるなどよくある展開であった。

 

「ううう、よくわからんでありますが……このままでは狙われるであります! 九郎君! お堂の中に入るでありますよ!」

「え? あ、ああうん」

「こうなれば、お酒もあるから怖いことを忘れる為に飲むであります! 九郎君と一緒に!」

「そ、それは良いのだが……」


 もしこれが単純に色気のあるだけの展開ならば逃げ出すのも躊躇いはない。

 相手が将翁や玉菊ならば阿修羅閃空すりぬけいどうを駆使して逃走するだろう。

 しかし、今は仇討ち前日とかどうとかではなく、夕鶴の精神をカウンセリングしなければならないのが問題であった。

 ここで九郎が逃げると精神バランスの危うい状態な彼女がどうなるか……少なくとも良くはならないだろうことは想像がついた。



(よ、よし。こうなれば。これまでの長い人生で相談ごとなどを受けてきた経験をフルに使い、お色気展開に持ち込まずに夕鶴を元気づけねば────!)



 

 



 ********





 翌日、決闘当日。



「うしゃー!! 憎き仇であります! やってやるであります!」

「あ、姉上。なんか攫われたとか聞きましたけどやたら元気でありますね……」

「九郎君分をたっぷり補充したでありますからな! むしろ注ぎ込まれたでありますからな! 勇気凛々でありますよ!」

「……注ぎ込んだんですか?」

「注ぎ込んではおらぬから。注ぎ込んでは」

「なんで二度も繰り返して云うんで?」


 超元気になって、怖いものが無くなったとばかりにハッスルしている夕鶴を連れて九郎は何処か諦めたような表情をしていた。

 決闘場は泉岳寺の境内。赤穂浪士が討ち取った吉良の首を持って凱旋してきた寺である。萩藩は赤穂事件とも深い関わりがあるのでここが選ばれた。仇討ちには相応しい場所だ。

 決闘に参加するのは夕鶴と太助、そして助太刀に九郎と右兵である。右兵はまだ動くと痛みが激しく、傷口が破れることもあると忠告されたがそれでもどうにか参戦した。

 相手は猫耳おっさん、玉木右内に助太刀の浪人が十名。

 立会人として萩藩の者らが集まっているが、皆は玉木の無茶っぷりに顔を顰めている。

 傍から見れば、仇討ちを申し込む子供と娘に、助太刀としての同郷の若者ともう一人である。九郎は子供の見た目よりはということで大人の体型で来ているので偉丈夫として迫力はあるのだが。

 それを迎え撃つ、脱藩した相手が自分と十人も助太刀を連れてきているのであった。

 正々堂々にはとても見えない。いっそ自分も杉姉弟の助太刀にでようと、何人も藩士が考えた。


 だが、右兵が九郎に目配せする。


「では、云ったとおりに」

「その、大丈夫なのか? お主らだけで玉木とやるというのは」

「これでも意地がありますんで」


 痛みに耐えているだろうが、右兵は笑みを浮かべて九郎に返した。

 そういうことならば、危なくなったらいつでも駆けつけようと決めつつ九郎は進み出る。


「おい、そこの浪人共。貴様らは己れがやる。こっちの三人と玉木とが勝負だ」

「なんだと?」

「それとも何か。女と子供と怪我人の三人すら倒せぬか、腰抜け」


 九郎が挑発を入れる。予め決めていたことであった。

 これだけ大々的にやっているのだ。江戸で見つけた強い助っ人一人で倒しては、仇討ちとして微妙な感じにみなされる。

 なので九郎が行うのは有象無象を近寄らせぬこと。玉木右内を仕留めるのは、三人で行う。

 その宣言に、見守っている萩藩の藩士らはハッとして強く右内を睨みつけた。審判をしている家老も「そうせよ」と重々しく告げる。

 九郎としては皆が酷く心配ではあるのだが、三人がそう決めたのならば仕方が無い。さっさと相手の助太刀を倒して、いつでも庇えるように準備をしておかねば。


「始めるぞ」


 衆人環視の元、流石に妖術は使えない。どうたぬきを抜き放って片手に持ち、九郎は浪人の集団へ突っ込んだ。

 片手に刀、もう片手は素手で殴り飛ばすスタイルである。剣術というより拳術を、刀を握ったまま行うようなものだ。

 乱戦が始まったのを見てそれからやや離れて、右内と三人が対峙した。


「杉家嫡男、杉太助!」

「同じく杉家の娘、夕鶴であります!」

「助太刀だが、親戚でもあるもんでな。杉右兵だ。参るぞ」


 太助、夕鶴が短刀を抜き放ち、二人の前に右兵が腰に刀を帯びたまま立った。

 対峙している中年の男の頭には猫耳がある。真面目な場面なのに、審判までもが「度し難い」と呻くようなふざけたものである。

 右内はゆっくりとした口調で余裕を見せて名乗りを返す。


「玉木右内だ。一つ云ってやろう……わしは長らくこの芝にて鍛錬を積んできた。今、それが発揮されるときだ」

「なに?」


 疑問の声を返す右兵に対して、彼は胸元から小瓶を取り出し握りつぶした。

 血ではなくもっと明るい紅色の顔料が手に付着し、右内はそれを頭から被り塗りつける!


「獣の如き身のこなしを得るために、獣になりきる剣──秘技『猫耳猛奴(ネコミミモード)』!」


 もう片方の手で白い顔料を顔塗りつけつつ、右内は刀を抜いて叫んだ。


妖怪魚市(ようかいウォィチ)──芝にゃんだにゃあああああん!!」

「なんだこいつ!?」


 そう、獣属性の女の子が現れたらその獣度はどれぐらいが良いかで仇持ちになった右内は!

 とうとう拗らせて自らを獣耳属性へと進化し、芝雑魚場を荒らす妖怪として過ごしていたのである!

 それを横目で見ながら「あの時殺処分してなくてよかったのか悪かったのか」と九郎は呟いた。彼が相手をしている浪人は既に半分以上地面に転がっている。 

 猫の素早さで飛びかかってくる芝にゃん。まずは右兵から始末する算段だ。彼さえ居なければ、後は女子供のみである。おまけに右兵は怪我をしている。容易いものだ。


キス……したくなっちゃった」


 言いながら右兵へ鱚を投げつける! 周りの藩士がそれを見て口々に叫んだ!


「馬鹿な! 鱚の旬は夏ではないのか!」

「だから美味しくないぞ!」


 一方で不意に投げつけられた右兵は生魚を避けつつ、自らも芝にゃんへ近づいて駆け出す。

 だがその刀はまだ抜いていない。彼は居合抜きをして仕留めようとしているのか?

 いや、違う。右肩を突き刺された傷からまともに刀が振れる状態ではないのだ。

 

「うにゃー!!」


 化物の斬撃を避けれるかは、右兵の賭けであった。

 だが獣の如き前傾姿勢から放たれる一撃は読みやすく、どうにか横っ飛びに攻撃範囲から逃げる。 

 そのままお互いすれ違うようになりながら──


 右兵は、芝にゃんが腰に帯びたままだった刀の鞘を掴んで、柔術で投げ飛ばした。

 彼の使う新陰流は組み合いになった際の実践的な柔術も取り入れており、相手の鞘を掴む技もあったのだ。本来ならば掴んで体勢を崩させ、一気に斬り殺すのだが今は刀が使えない。

 投げ飛ばした芝にゃんは猫の身軽さで体勢を整えるが──どうしても四つん這いに着地せねばならず、刀も相手に向けられない無防備を晒した。

 すぐ目の前には太助と夕鶴が居る。


「今だ!! 太助!!」

「えええい!」


 右兵から合図があり、太助は短刀を振るった。背が低い分、四つん這いの芝にゃんにも当てやすい位置である。

 旅に出ている間、何百回も右兵に訓練された動きである。刀が短い分、どの方向へも振れるが必ず刃筋を立てるように延々と教えられた。

 芝にゃんの首から、ぴゅっと血が噴水のように吹き出た。

 

「ぐう……!」

 

 首を押さえながら、急な出血で力を失いつつも横薙ぎに仇は刀を振る。

 短刀の間合いに入っていた太助には当たってしまう。


「危ないであります!!」


 夕鶴が太助の前に出て庇う。長い足の太腿あたりに当たったが、ほんの少し肉に食い込んだだけで止まる威力だった。

 九郎が最後の浪人の顎を砕きつつ、心配して呼ぶ。


「夕鶴!」

「だっ大丈夫であります! 玉木右内! 思い知るでありますううう!!」


 傷を負ったにも関わらず、夕鶴は進み出て立ち上がった右内の胸を短刀で突き刺し、離れた。

 首と心臓の出血から、彼は幽霊のように青ざめてその場に倒れていく。

 家老から声が掛かった。


「見事、仇を討ち果たしたぞ、杉姉弟!」


 見守っていた藩士などからも歓声が上がる。

 足の痛みでふらつく夕鶴を、駆けつけた九郎が支えてやると彼女は泣き笑いの顔を見せて、彼に体を預けた。ほっと安心する体の温かさだった。怖いことも痛いことも彼に触れていれば全部大丈夫になってしまう。


「ありがとうであります」

「おめでとう」

「うん。本当に……これで良かったであります」



 



 ***********





 正々堂々とは云えぬ、不利な条件下でも仇討ちを見事に果たした杉姉弟と、杉右兵は大いに褒め称えられた。

 祝いもそこそこに、故郷に帰って仇討ち達成を伝えたいというので太助と右兵は萩へと戻ることにした。

 一方で夕鶴は足を怪我していることもあるが……


「自分は九郎君への恩返しのために江戸に残るであります! もう仇討ちだけじゃなくて命の恩人って感じであります! 返しきれないであります! 長州人は義理堅いのであります!」

「いや、気にせんで帰っていいのだぞ。うん。かなりマジで」


 押しのけるように九郎は告げるが、夕鶴はあっけらかんと笑いながら云う。


「大体、自分が帰ってもそれほど意味はないでありますからなー。太助は家の跡継ぎ、右兵君はあの調子だと藩から禄を与えられそうでありますし。自分が帰っても行き遅れデカ女の帰還でしかないであります」

「ほら……故郷で婿を探すとか。引く手あまたかもしれんぞ有名人になって」

「ここに残って九郎君分を注がれるからいいでありますのーんた♥」

「調子に乗るなよ」

「げ、外道発言であります! あの夜は凄い優しかったのに!」

「待て。他の者に誤解を招く」

「ゴカイもイソメも無いであります!」


 ばたばたと暴れて過激な発言をしようとする夕鶴の口に手を突っ込んで塞ぐ九郎であった。


 こうしてなんか知らないが、彼女は江戸に残って相も変わらず九郎達と同居することになるようである。




「めでたし、めでたし……ところで九郎殿。今度はあたしとお稲荷さんにお参りに行きませんか」

「隠語のように使うでない」 

「あたしなら注ぎ込んでも安全ですぜ」

「いや、だから注ぎ込んでおらぬから」



主人公がセーフだと云っているので無実です

ノクターン行為は無かった・・・!



九郎「ギリギリセーフ……だと思うのだが」

ヨグ「くーちゃんのセーフラインが時々わからなくなるよ……」

九郎「……認知しなければ」

ヨグ「外道ォォ!!」

九郎「いや待て今のは冗談だ! なんだそのDNA検査紙は! 見せるな!」

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