14話『さつま娘の入居で狐に抓まれた話』
無骨な男が多くいる薩摩の店[鹿屋]では、店主の姪とはいえ年頃の女一人で働くのは居心地が悪い。
それは隠れて女装しなければいけなかったことからも察せたので、鹿屋黒右衛門と交渉して九郎はその薩摩娘を引き取った。
夕鶴が行っているふりかけ屋などは需要を伸ばし続け、作れば作っただけ売れる商品であるので手が足らなかったのだ。それの奉公人として預かり受けたのだが──
「どうぞどうぞ九郎殿」
「いや待て。なんで己れが無理云って預かるのに金を渡してくる。むしろ普通逆じゃないのかこれ」
「奉公人となれば主人は親も同然──ついでに姪ちゃんの婿も見つけて頂けるとありがたいなぁ──!! と思いの詰まった持参金でございます」
「なんだその意味深な声は! 受け取らんぞ!」
結局受け取った。
塩漬けにせざるを得ない金が増える九郎である。
そんなこんなで屋敷に連れ帰った九郎が皆に紹介することとなったのだが、
「こやつは鹿屋から預かった薩摩の……ええと、サツ子だ。住み込みで夕鶴の仕事を手伝って貰う」
九郎はまず名前を聞いていなかったが適当極まりないネーミングを施した。サツマだからサツコ。それ以上でもそれ以下でもない。
とはいえ、江戸時代には奉公人となれば──本来はサツ子よりも何歳か若いときに最初の奉公に行くのだが──店の主人から呼びやすい名前を名付けられることは珍しくなかった。
丁稚奉公のことを[子供]と呼ぶぐらいなので名付けにも気にせずに、サツ子は深々と頭を下げた。
屋敷に住む一同は、
「九郎がまた女を連れて来やがった」
「もう慣れたものよね」
「まー私は居候じゃしなんも云わんが」
などと諦め顔で受け入れたり、
「大丈夫……! 私は九郎くんの味方だよ……!」
「なんだその擦り寄り方は。意味のわからんフォローをするでない石燕」
訳知り顔で生暖かい目線を送ったりした。
「それにしても……」
じろじろとスフィが連れてきたサツ子を見やっている。サツ子は鹿屋からそのまま渡された小袖と前掛けを身に着けているが、江戸でも見ない髪の毛を短くしただけの髪型をしている。短めなお八でもお団子風に結っているのだが、サツ子の場合は剃ってこそ居ないが前髪の少年のようだ。
裕福な商人の姪であるので健康状態はいいのか、胸だけは年齢よりも大きく育っている。鹿屋に居た頃はぎゅっと押さえつけるように晒布を巻きつけていたが、息苦しいなら無理はするなと九郎の意見で軽く巻くようにしたので着物の上からでもわかった。
スフィの目線を受けて、サツ子は四白眼気味にきょろりとした目を瞬かせていた。
(九郎の好きそうな容姿の娘じゃのー。デコと巨乳じゃったか。[絶対暴露魔獣ヴァルドッキー]に暴かれた好みじゃから間違いないと思うが)
まさか九郎が好みの娘を選んで連れてきたなどとは誤解するような付き合いの長さではないが、妙に感心した。
九郎とスフィ、そして数名の仲間と共にダンジョンを潜っていたときに現れたユニークモンスターが[絶対暴露魔獣ヴァルドッキー]だ。心の奥底にある何かを暴露して精神攻撃を仕掛けてくる魔物である。まだ好みの属性を暴露された程度の九郎はセーフだったが、スフィを除く他のメンバーは暫く精神的な後遺症を受けるほどであった。スフィだけは自分が暴かれる前に、強制無音聖歌を発動させて無音空間にしてヴァルドッキーを仕留めさせたのだ。
ちなみに九郎が好きな属性は[デコ][巨乳][黒髪ロング][マイペース][ちょっと抜けてる]などの項目であった。全くスフィがかすっていないことには思わなくもないところがあったが。
云われたことは全て忘れよう、と決めたが九郎の好みがそうであったことはしっかりと記憶されたのだ。
「どげんしたとです?」
「なぁーんでも無いのじゃよー」
サツ子から聞かれて、スフィは笑って誤魔化すように応えた。
一々九郎の好みがどうのこうのとこの場で言っても、小娘らが慌てるだけだろう。それも見てみたい気がしたが、九郎に悪い。
「つまり自分の手下になるでありますか!?」
びしりと手を上げて夕鶴が尋ねた。
「うむ。基本的にはな。お主のふりかけ作りもこれで増産できるだろう」
「うわーうわー! 手下が出来たでありますよ! はっはっは、薩摩なんて田舎からよく来たでありますな!」
「萩も田舎だろ……」
ご機嫌そうにサツ子の肩を叩く夕鶴に、九郎が呆れ顔で突っ込んだ。
戸惑った顔をしているサツ子だが、彼女は九郎の方を向いて聞いた。
「そいで旦那様」
「む? 己れのことか?」
「おいはこん夕鶴殿にお仕えすっどじゃけんど、他ん女子んしぃはなんち呼べばよかか。どなたがご新造さんじゃろかい?」
この屋敷には謎の関係で集まっている女が多すぎる。
とりあえず屋敷の主を──居候から主人に成り代わっている妖怪めいているが──九郎として、他はどういう扱いで接すればいいか他人からは難しいところなのだろう。
これがふりかけ屋ならまだわかりやすいのだが、絵師や歌唄いに薬師も住んで好き勝手に皆が働いているのだ。
とりあえず関係性をわかりやすくするためにサツ子は旦那である九郎の嫁は誰かと聞いたのだが、
「いずれわたしなの」
「いずれあたしだぜ」
「ふふふ或いは私かもしれないね」
「名乗りを挙げるな」
頷いて当然のように言い出す豊房とお八、石燕に九郎は苦々しく否定した。少なくとも今のところは違う。なおスフィはあわあわとしてノリに出遅れた。
そしてサツ子へと向き直り、
「お主は店の従業員として雇ったわけだから、夕鶴の部下というだけで他はあまり気にせんでいいぞ。長屋が一つの屋敷になったようなものだ。一番年下だからそこら辺の気を使えばな」
「よごわっしか」
素直に頷くのを九郎は「感心、感心」と満足そうに見た。
とても堅苦しくて暑苦しい上に突然キレる薩摩人の仲間とは思えない。自然界では雄と雌で気性に大きな差違がある動物も珍しくないが、九州南部で見られるこれらもそうなのだろうか。
「それにしても、人も雇ったのだから夕鶴のふりかけ屋も屋号でもつければどうだ?」
「屋号でありますか?」
「うむ。類似商品も出ておるから、夕鶴の店で作ったものという名称があった方が良いだろう。[わかめしそ]では材料そのものみたいな名前だしのう」
「なるほどであります……」
「どうせだから専用の紙包みでも用意して入れて売れば? 湿気らないし、屋号の字ぐらいは書いてあげるわよ」
「うちには紙が沢山あるからね!」
豊房と石燕も賛成したので、夕鶴は「むむ……」と少し考えてから手を叩いた。
「思いついたであります! 紙と筆を」
「はい」
渡された紙にさらさらと簡単な、江戸の町人ならば大抵は読める漢字で店名を書いて見せる。
夕
九
屋
「……タカ屋!」
「違うであります! 夕九であります!」
迷わず読んだスフィに夕鶴はすかさず訂正した。
「なんか甲斐性のなさそうな字が入ってる気がするぜ」
「せぬわ! どういう意味だハチ子!」
心当たりがありそうな九郎が渋面を作ったが、お八はにんまりとして告げる。
「いやいや、あたしが云ったのは[夕]の方なんだけど? これはスフィが読んだみたいに[タ]って字に似てるだろ? 商売ってのは他より抜きん出るものがねーと駄目だから、他を抜く──つまりタヌキが商売繁盛の縁起物なわけだ」
「ぐぬっ」
お八の実家は二店舗を持つ呉服屋だけあってそういう知識には詳しいのだ。九郎は気まずそうな表情になる。
「しかしここにはしっかり[タ]みたいなのがあるなーと思ったわけだが……九郎? 何が気に障ったんだぜ?」
「己れの名前の一部である[九]の字は己れに似てとても甲斐性がなさそうだからだ」
「素直に認めやがった!」
開き直る九郎であった。
時には認める勇気も必要である。
咳払いをしてやおら夕鶴が説明を始めた。
「夕飯でも米が九杯食べれてしまえる美味しさのふりかけ、という意味であります。それにこれを売り出すようになったのも九郎君のおかげでありますからな。その恩を忘れぬように自分と九郎君の名前をくっつけて屋号にするであります」
「そこまで恩義を感じずとも良いのだが……」
「いえいえ、九郎君は萩から出てきた自分を、立派なふりかけ屋にしてくれた恩人であります……!」
「そうか……」
九郎の手を掴んで、心底感謝している様子で云う彼女に九郎も思わず目頭を熱くする──
「……いや、夕鶴くんが来たのはふりかけ屋になるためではなく、仇討ちのためではなかったのかね?」
「そんなこともあったような気がするであります」
「今では何もかも懐かしいのう」
「終わってないからね!?」
お家を守るための使命を帯びて、父の仇を追い求める過酷な旅が仇討ちであるのだが。
弟と実家近所の剣術道場の次男坊が組んで新たな仇討ち部隊が出発してる上に、普段が充実していると生来の呑気な性格もあり仇討ちへの熱意も冷めようものなのだ。
貧しく辛い、宛もなく金も乏しく足は棒のようになり雪道も灼熱の夏日も只管歩いて日本全国めぐり仇を探すとなれば、その大変さを恨みへと転嫁させていつまでも飢えた獣のような気分になるのだろうが。
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「さて! ともかく自分の手下になったというのならばビシビシ教育するでありますよ!」
ひとまず紹介の場も解散して、夕鶴はサツ子と向き合い腰に手を当てて胸を張りながら威張ったように宣言した。
石燕と豊房は季節モノの絵である[閻魔賽日]の閻魔絵を描く作業をし、スフィは日課の歌托鉢に、お八はサツ子の着物を何着か縫ってやるために実家に布を取りに行った。
将翁は割りと忙しく薬草の栽培や大名・武家屋敷などへの薬売りに出ているので居ないことも多いので、後は暇そうに九郎が寝そべって夕鶴とサツ子の教育をぼへーっと見ているだけであった。
「よろしくごわす」
「手下と云っても実はサツ子君が最初の手下ではないので、手下同士上下関係を気にしながらやって欲しいであります」
「?」
九郎が首をかしげると、夕鶴は縁側に出て「わおー!」と呼んだ。
すると玄関先からのしのしと大型犬と中型犬の間ぐらいの、がっしりとした肉付きをした紀州犬が歩いてきた。
番犬として飼っている[明石]である。
夕鶴は近づいてきた明石の頭をぺしぺしと叩きながら半笑いでサツ子に告げる。
「一番目の手下はこの明石君であります。オラッ! 新入り! 先輩に挨拶するでありますっ!」
「いきなりいびり出した!?」
「明石君を先輩と仰いで、しっかりと彼の云うことを聞いて真似するでありますよハァーハハハ! って痛ァ──!! 明石君なんで手に噛み付いてるでありますかァ──!」
「ぶふっ」
「お主の心に邪悪があるからだろう。ほれサツ子。助けてやれ」
「かんつけばよかと?」
「? ああ、よかよか」
雑に返事をする九郎。彼女の方言は、他のさつまもんが使う重度薩摩弁よりも汚染濃度は低いが時々聞き取れない。
すたすたとサツ子は近づいていき、手のひらを軽く噛んでいる明石の反対側に座り。
もう片方の夕鶴の手を掴んで噛み付いた。
「んぎゃあああ──! な、な、なんで噛むでありますかァ──!!」
「真似ばすいごと云っちょったけえ。おいは議は云わんから従っと」
「んん……!? いやちょっと何か噛まれ具合が程よい感じに……♥♥」
「これこれ。お主ら落ち着け。あと目覚めるな夕鶴」
九郎が妙な記憶ごと目覚められると困ると考えて明石とサツ子を夕鶴から離してやった。両手とも、血も出ない程度の甘噛であったようだ。
とりあえず離されたサツ子はしゃがんだまま明石を正面から見た。
そして首根っこをずいと掴んで顔を固定させ、じっと目線を合わせて云う。
「……中々食いでのありそな犬じゃ」
「先輩を食うなであります!?」
「こやつヨダレのせいで喋り方が若干じゅるじゅるしてきておる!」
「ぶふー」
明石がぶんぶんと首を振ってサツ子から離れていった。
正面から浴びせられた食欲の気配で尻尾が丸まっている。後ろから襲ってこないか警戒するようにして、玄関へと戻っていった。
「おかしいであります……新入りの周布さんもサツ子も犬を手懐けてるのに、なんで長い付き合いの自分はまだ噛まれるでありますか……」
「いやほら……馬とかは噛むのが愛情表現というし」
「犬でありますよ!」
「親犬が子犬をしつけるときは噛みつくこともあるし」
「自分が完全に下に見られてるじゃないでありますかそれ!」
夕鶴と九郎がやり取りをしていると、それをぽかんと見ていたサツ子がくすくすと笑った。
「あ゛ー! ほら手下にも笑われたでありますよ! 自分の面目丸つぶれであります!」
「うんにゃ、旦那様と夕鶴殿は仲がよかち思うて」
「自分と九郎君が仲良しなのは当たり前であります! とにかく仕事を始めるでありますよ! 何を云われても返事はハイで実行するであります!」
「ごわ……ハイ」
そうして本格的に、夕鶴の新人教育が始まった。念の為に九郎も付き添いで見ることにしたが、
(ここは一つ夕鶴の顔を立てて、なるべく口を挟まぬようにするか……)
と、考えていた。
「まずは庭掃除であります! ワカメを干す際に砂埃が舞い散ったらいけないので水も撒いておくであります!」
「ハイ」
「家庭菜園の水もついでにやるであります。あ、ほらそこ雑草が生えてるので抜くであります」
「人が増えて家事は持ち回りになってるでありますが、洗濯物を干すのは干し場をワカメで占領したりする関係上自分らがやるであります。というわけでこの洗濯物を全部洗って干すであります」
「ハイ」
「時々石燕さんのとか高いのが混じってるから気をつけるであります。前も自分、三百両ぐらいする黒い着物を洗濯板でガシガシ洗って叱られたでありますからなあ」
「ふー……ちょっと疲れたでありますな。今日は暑いであります。盥に水を汲んできて自分の足を綺麗に洗うであります」
「ハイ」
「うひひひ、人から足を洗われるとこそばゆくいいでありますなぁ~」
「一休みするから腰のあたりを揉むであります。強くでありますよ」
「ハイ」
「あ~効く効く……」
「お茶を入れてお菓子を戸棚から持ってくるであります」
「ハイ」
「いやあ極楽極楽。ついでに爪も切って耳掃除もして────」
「仕事をしろ」
九郎はマッハで怠けだした夕鶴の頭を掴んでチョークスリーパーをかました。
頸動脈ではなく気道を締めるようにしているので意識は失わないが非常に苦しく、夕鶴は足をばたつかせて手でタップしながら顔を赤黒くした。
暫く苦しめてビクンビクンしだしたので開放してやると、げほげほと咳をして恨みがましく夕鶴は云ってくる。
「な──何をするでありますかぁ~!」
「仕事を教えぬか、仕事を。パシリにするでない」
「かぁ~! 九郎君は商売の厳しさがわかっていないでありますな! 仕事を始めて三年は追い回し──あれをしろこれをしろと上からの指示を聞くだけの修行期間でありますよ?」
「お主そんな期間置かずに商売始めたであろう。昔は苦労したものだみたいな顔で云うことか」
「あ痛たたたた! ほっぺが伸びるであります!」
いきなり一端の商人みたいなことを云い出した夕鶴の頬を抓んで伸ばす。
茶と菓子を持ってきたサツ子がちゃぶ台に置きながら小首を傾けた。
「奉公人っちゃそげんもんじゃなかか」
「そげんもんでも何でも、己れはふりかけ作りの手伝いにお主を雇ったのであって、家事はともかく夕鶴を怠けさせるためではない」
「痛いでありまふ~……乙女の肌を傷物にすると責任を取ってもらうでありますよ!」
「責任? ちっ。ほら、金だ」
「九郎君外道でありますーっ!!」
「冗談だ」
喉を鳴らして九郎は笑った。他の女衆にやると冗談で済まないか説教が待っているが、夕鶴をおちょくるのはそれなりに楽しい九郎である。
それを見てサツ子も「おかしか人らじゃ」と面白そうにしていた。
じゃれ合いを止めて夕鶴は茶を飲んで一息付き、
「仕方ないから仕事を教えたいところでありますが、実はもう今年一番に馬鹿みたいに忙しい時期は終わってしまっているのでありまして」
「そうなのか?」
「春先から初夏がワカメの旬なのであります。その時期になると市場に出るワカメを買いまくっては干し、買いまくっては干しと一年分の干しワカメを作る時期なのであります」
「確かもう7月だったのう」
「暑いとワカメが海中で腐ったみたいになるでありますからなあ。使えるのがあったときは頼んで持ってきてもらうでありますが。というわけで、夏場は基本的にふりかけの調合と販売を行うのであります」
夕鶴は不敵に笑って、背の低いサツ子の頭をぐしぐしと撫でながら云う。
「くくく……ここからは職人芸の見せ所であります。新入りィ、目ん玉かっぽじってよぉく見てるでありますよ……?」
そうして夕鶴は乾燥ワカメを保管している、庭の一角に作られた高床式倉庫へ向かった。
九郎とサツ子も後ろからついていく。
「とりあえず去年の使い切れていない分から先に材料として消費していくであります」
「使い切れないのもあるのか」
「なにせ一人だと、買い付けと調合と販売にそれぞれ日数を割かれるでありますからなあ。念の為に材料は買えるときに大量に仕入れるでありますし。カビさえ生えていなければ一年二年は大丈夫でありますが、雨が続いたときには晴れたときに干し直すので結構大変であります」
「ふむ……」
九郎が念の為に調べたら、確かに体に害があるほどの細菌は倉庫に無いようだ。
古い方の乾燥ワカメを笊に入れて持ち出し、調合用の大きなすり鉢がある台所へ行く。
「いざ!」
そして夕鶴が手本に作り方を見せて。
サツ子に代わってやらせると。
大体同じ味の、商品として使えるものが出来上がった。
「もう自分が教えることは何もないであります……! 免許皆伝……!」
「いやまあ、乾燥ワカメと乾燥シソを砕いて塩とゴマを混ぜるだけだからのう。板海苔でも混ぜると味わいが増しそうだが……」
「板海苔~? あんなバカ高い食べ物混ぜるなんてとんでもねーでありますよ!」
「だよなあ。この時代、やたら板海苔が高くて困る」
江戸時代、浅草で紙漉きの技術を応用することで生まれたとされる板海苔であるが。
海苔自体の取れ高がかなり運任せなところがあり、値段は高価だった。
[海苔一枚、米一升]という言葉が残っているぐらいで、そのまま単純に価格換算すると海苔一枚が米一升の約100文、2000円で売られていたとなれば、とてもおむすびに巻くどころの話ではない。蕎麦屋で焼き海苔をつまみに一杯飲むとかかなりの高級志向だ。海苔の高価格さはかなり近代──1949年にイギリスの学者が海苔の生態を解明して人工栽培ができるようになるまで続く。
というわけで少なくとも、安い材料で作る夕鶴のふりかけには使えないのである。
「ワカメが一升で8文。青紫蘇は買うより野山で取ってくる方が良いであります。ゴマは高いので量はちょっとにして、塩は一升10文で安いからたっぷり効かせ、出来上がった[わかめしそ]は十匁(約37.5グラム)ずつにして売るであります。大体これで9杯の米が食えるのであります」
「わかいもした」
「一袋あたりの原価が6文ぐらいで、販売時は56文で売るであります」
「結構高かとね」
「いや……分量からすると高そうに見えるが、9杯分の飯のおかずを考えなくていいというのならば妥当だろう。江戸の者は米をよく食うからのう」
庶民はおかず無く米だけという者も珍しくなかった。そこに一杯あたり6文でモリモリと食えるのだからありがたいだろう。腐らないし場所を取らない保存食であるのも利点だ。なお、商品の値段は4の倍数にすることで購買意欲が高まるとされている。
なおこの場合の飯一杯の分量は、山盛り飯のようなものである。
「何よりここ数年売り続けてたおかげで、愛好者が増えまくって食わずにはいられないってお客が多いので問題なく売れるであります。一つ売れば50文儲け、百売れば5000文の儲けになるであります。これはボロい! わははーであります!」
「案外稼げておるな……」
何せ持って出ればその分だけ売れるのだから、一日20人分売るとして月に5日も出れば一両以上稼げることになる。
おまけに住んでいる屋敷は家事をすれば家賃が掛からない上に食事も出るという高待遇。いや、下女なのだが。
「ま、とにかく作ったものを食べてみるでありますよ。そろそろお昼でありますし」
「わかりもした」
そして飯櫃を用意して、朝に作った味噌汁の残りと沢庵漬けを用意した。金のある家の割に貧相な料理だが、昼食は大抵皆が各自で取るので適当なことが多く、夕食で集まったときに豪華になるのだ。
絵師の作業部屋から石燕が顔を出して呼びかけた。
「すまないが手を離せなくてね。握り飯を作って持ってきてくれると助かるよ」
「あー! だからお姉ちゃん! なによこれ[閻魔様戦闘形態]って! 巫山戯た絵を描いてると版元が出してくれないわよ!」
「だって閻魔は[死の魔神の杖]と[時の魔神の杖]を持っているのだよ!? これは絶対厨二っぽい武器ではないか!」
「名前が売れてないからって奇抜な絵で目立とうとしないの!」
などと騒いでいる様子であった。
咳払いをして夕鶴が云う。
「あの二人の世話も仕事の一つであります。とりあえず云うことは聞いて、酒でも出しとけば満足するのであります」
「また酒寿司作っか。今度は地元ん濃さで」
「うむ? この前食べたのはまだ薄いのか?」
寿司酢の代わりに地酒で酢飯を作ったので相応に濃く、また米と海産物の発酵も加わり醸された匂いは子供ならばそれだけで酔っ払いそうであったが。
サツ子は頷き、
「六合ン酒寿司を作った後で、四合ン地酒を更にぶっかけるのがよかちされとる」
「どんだけ酒欲しがりなんだよ薩摩……」
「ハレの日の飯じゃっど、そげん食わなか」
ひとまずサツ子がわかめしそを混ぜた握り飯を四つほど作って二人の部屋に運び、食事を居間のちゃぶ台に並べて座った。
「ふりかけて混ぜ込むとワカメがふやけて丁度良くなるであります」
言われたとおりにサツ子が飯に混ぜて暫く置き、そして口に入れた。
「! うまかなー」
むしゃりこむしゃりこと咀嚼しながら目を輝かせるサツ子。
迂闊に塊で舐めると舌がひん曲がりそうな塩気だが、それが大盛りの飯の甘さを引き立てている。わかめの潮の香りとシソの爽やかさ。そして時折歯に当たるゴマの感触が心地よかった。
ばくばくばくと夢中で掻き込む。確かにおかずは要らない。噛むのさえ忘れるぐらいに、喉を米が滑り落ちていくようだ。
「うんまか」
そんな彼女の様子を九郎と夕鶴が並んでニコニコと見ていた。どことなく自慢気な夕鶴の表情が輝いて見える。
それにしても、飯茶碗を下ろさずにちらりとサツ子は二人を見ながら思った。
この屋敷での人間関係はまだ掴めていないので単に今日過ごした印象みたいなものだが、
(仲のよか夫婦みたいな二人じゃっど)
店に豊房と一緒に来ていたときもサツ子は見たが、その関係は妹か娘に思えたものだが。
遠慮のない気安い関係がそう感じたのだろうか。
そう思っていると屋敷にぺたぺたと上がってくる足音がした。
「ふひー。外は暑かったのじゃよー。お、昼飯かえ? 私も食うのじゃー」
スフィだ。上がりながら着物を緩めて胸元をぱたぱたとし、屋敷の中の冷気を取り込もうとしている。
腰に下げた巾着袋にはじゃらじゃらと小銭の重い音がしていた。托鉢で儲けたのだろう。
続けて、阿部将翁も玄関から入ってきた。
「将翁とも途中で会うてな」
「どうも、どうも。おや、貴女が噂の……」
サツ子はぺこりと頭を下げて、二人の食事を用意に向かった。
スフィと将翁は勝手知ったるとばかりにちゃぶ台に置かれたままの茶壺と湯のみを取って、冷えた茶を淹れた。茶壺は釜などで沸かした湯茶を注いでおく小さな水瓶のようなもので、急須のような注ぎ口がついている。
「一息ついたのー」
「今日はどうであった? スフィよ」
「うみゅ。日替わりに公演場所を巡回しておるのじゃが、どこでもいい感じだのー。割りと大道芸に寛容というか、噂を聞いて暇して見に来る人が多いのじゃな」
「いえいえ、スフィ殿の歌が大したもので。もう一部では、小町だなんだと騒がれているほどですぜ」
将翁が褒めるのを九郎は「流石だのう」と相槌を打った。
「何小町と呼ばれておるのだ?」
「三味線も弾いているので[撥弦小町]とかなんとか」
「鬼女の集まる駄目っぽい相談所みたいな呼び名だのう……」
微妙そうな表情になる九郎であった。
「ところで、」とスフィが夕鶴へと向きなおり聞いてくる。
「仇討ちがどうとかお主云って無かったかのー?」
「ああ、そういえば周布さんには云ってなかったでありますね。実は昔に父が殺され──」
夕鶴は簡単に、江戸に出てきた経緯を話した。
獣娘というと獣耳尻尾で十分か、全身体毛でマズル有りかの諍いにて、後者を強く主張した夕鶴の父・杉藤馬は獣耳尻尾派の玉木右内に斬殺された。
それで子供の中で一番の年長者であった夕鶴が江戸に出て来たものの、全国を巡る宛も金も無かったのでここで仕事をしながら網を張って待つことにしている。
今ではまだ幼い弟と、近所の剣術道場の次男坊が助っ人として旅をして周り、時折江戸で連絡を取り合って活動費を夕鶴が工面するという分担になったのであった。
「──というわけであります」
「そうか……大変じゃのう」
「大変なのは弟の方でありますが……ここで自分が付いて旅をしたところでお金に苦しんで共倒れするだけでありますからな。自分は色気でどうとでもなるでありますが」
「色気?」
「うっふーんでありますのーんた♥」
くねり、と夕鶴がそれっぽいポーズを取って見せると、スフィが口をへの字にして苦しそうな顔になる。
気まずい空気だが、目の前に冷汁と白飯が出されて静かに汁を啜り、溜息をついて話題を変えることにした。
「それにしても獣耳尻尾か。そういえばそんな道具があるぞ。確か仲間との記念品として旅の道具入れに放り込んでいてな……」
のそのそと張って部屋を移動し、スフィが屋敷に運び込んできた道具袋を漁ると中から狐面を取り出してきた。
女将翁のつけている、目元の開いた半面ではなくて狐のマズルも伸びているが、顔に付けるには小さい玩具のような面だ。主に顔からずらして側頭部などに付けるのだろう。
「これこれ。これを付けると……」
スフィが装着してみせると、ぼわんと薄い水蒸気が待って彼女の頭と臀部にきつね色の耳と尻尾が生えていた。
「のわー!? なんでありますか!?」
「妖術じゃ」
「なんだー。妖術でありますかー」
「一瞬で納得しおった……」
それは随分昔にスフィが仲間から貰った魔法の道具で、着用すると獣耳尻尾が生えるパーティグッズである。
「どうじゃどうじゃクロー! スフィちゃん狐モードじゃよー」
「うむ。可愛い可愛い。スフィたんイェイイェイ」
「そうじゃろー! あはは、懐かしーのー」
九郎に褒められてご機嫌にその場でステップを踏んでみたりするスフィである。
そこへ。
スフィの隣で座ってた将翁がすっくと立ち上がると。
対抗するように、いつの間にか彼女にも耳と尻尾が生えていた。どこから、どうやって出したのかはわからない。
そしてはにかんだように笑みを浮かべ、わずかに頬を紅潮させて聞いた。
「……どうですかね」
「うわキツ」
「……」
「熟女系コスプレ風俗店みたい──あっ! すまぬ将翁つい!」
口から滑り落ちるように流れた言葉は消えない。しかし子供容姿で愛くるしいスフィが獣耳コスプレをするのはともかく、妙齢の女性である将翁がするのは似合っていても何かまろび出る雰囲気的なものがあったのだ。
将翁は目を瞑って、後ろを向き、足音を立てずに部屋の外へ去っていった。
非難するように視線が集まる。
「クローが悪い」
「非道であります」
「いや己れもそこまで云うつもりは無かったのだが……わかった。誠心誠意謝るからそんな目で見るでない」
などと言っていると、再び部屋に入ってきたのは──十三歳ぐらいに見える、狐の半面を被った少女であった。
阿部将翁少女形態である。
そしてやはり主張するように、狐耳と尻尾が生えている。
「どうですかね」
「そこまでするお主にびっくりだが、まあ似合っておるぞ」
「可愛い?」
「はいはい可愛い可愛い」
そう言われるとそこはかとなく満足したようで、スフィと並んで立ってみた。
獣耳少女二人でバランスが良い。有り体に云えば九郎も素直に認める可愛さではあった。
興味深そうに夕鶴が感想を云う。
「しかしこれは玉木が飛びつきそうでありますなあ」
「飛びつかれても困るがな」
などと話し合っていると、どかどかと玄関から上がってくる足音が二つ聞こえた。
「おーい九郎。今日は伯太郎を連れてきたから挨拶だけでも──」
一応九郎の上司となる、菅山利悟が小山内伯太郎を連れて部屋に入り……
利悟の視界に、スフィと少女将翁が入った瞬間に彼は耳から変な汁を出してぶっ倒れた。
「利悟!? うわ汚っ! どうしたのだ! 臭っ!」
「だ、駄目だ……拙者は脳をやられたぜよ……」
「なんで土佐弁に!?」
「でも悪くない気分だ……なあ九郎……子供はいいだろう……?」
「おいここで死ぬな! 死ぬなら外の通りまで歩いて行ってから死ね!」
獣耳ロリ美少女二人の情報が一気に脳に入った為にオーバーヒートを起こし、変な汁まで出して死にかけている。
一方で、彼についてきた伯太郎はぽかんと部屋の中のスフィと将翁を見て口を半開きにしたがまだ冷静で、
「は、はははどうしたんだい利悟くん。確かに可愛い子たちだけど人の頭に獣耳が見えるなんて、当然じゃないか。触れられない幻だけど神様が与えてくれた小さな幸せ的な──」
自分を納得させるように云う伯太郎。
彼は怪我を負った後遺症で脳の識別機能に障害が残り、老若男女問わず頭に耳が見えるようになっていたのだ。
最初は町奉行が真面目に獣耳でやっているのが笑えるやら、大好きな子供の耳に元気そうなそれがあることに興奮するやらしていたのだが。
あくまで脳が認識してくれるのは視覚のみ。手を翳せば透けて見える、幽鬼のような存在であったのだ。見えても振れられないことが次第につらくなるまでそう時間は掛からなかった。それでも、多くは望まないのだと納得しようとしていたのだが。
スフィと将翁が倒れた利悟に寄ってきた。
「大丈夫かのーこやつ。私の歌で脳を揺らしてみるかえ?」
「治療したら町方にツケておきましょうかね」
ぴこぴこと。
目の前で揺れる獣耳。
獣としては犬と狐は近い存在であり、耳や尻尾も犬とそう変わらない。
伯太郎は不意に、その二人の耳を片手づつで優しく抓んでみた。
手指には柔らかい軟骨と短い毛並みのふわりとした感触が──
「ぐああああ!」
「今度は伯太郎か! うぜえなお主ら!」
電撃を浴びたように倒れこむ伯太郎。
本物だった。
本物の犬耳っぽい少女だった。それに触れてしまったのだ。彼の人生が根幹から揺るがされかねない大変動は走馬灯すら呼んだ。
「もう駄目だ……僕も脳をやられたぜよ……」
「だからなんで土佐弁になる」
「残された犬たちには……柔らかい肉を与えてやってくれ……」
そう云って意識を失った。九郎はこの不気味な死体の処理に、心底からげんなりしてきた。焼いてしまおうかとさえ思う。
だが非常に面倒ではあったが、以前に石燕がよく使っていた近所の駕籠屋を呼んで代金を弾んでやり、歩きで構わないのでこの二人を奉行所近くに捨ててくるように頼んだ。男二人なので重たいから担ぎ手も四人になったから余計な金まで掛かってしまった。
余談だが、この時の衝撃で伯太郎は以後、他人の頭から獣耳の幻覚が消えたそうである。
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「とにかく、迂闊にスフィやちっこい将翁が変身すると変な輩に絡まれるので止めておこう」
九郎は狐面を弄びながらそう結論づけた。
迂闊に二人を外に出して、襲ってくるのは夕鶴の仇だけではなく変質者も多く含まれそうだ。
おとり捜査にしても危険がある。
「誘い出すには良い手段に思えたでありますけれど……お二人が危険なのは怖いでありますな」
「まあ、確かにな。いっそ己れが付けるか? 天狗だ何だと言われておるから多少のアレは平気かもしれんが……」
危険な囮をスフィや他の女にやらせるぐらいならば自分がやる方を選ぶのは彼として当然ではあった。
そう云いながら、九郎が狐面を側頭部に当てて細長い縛るアレを巻きつけて固定してみる。
するとひょこりと彼の頭から狐耳が生え出た。
「あはは可愛い可愛いのじゃよー」
「きゅーん♥♥♥」
「ええい、これスフィ撫でるでない。やはり少し恥ずかしいな──いや待て! 将翁から変な音がしなかったか!?」
慌ててそちらを見ると、汗を浮かべた少女将翁が腹を押さえて苦しそうに見てきた。
「すみません……つい──発情期が」
「ついで発生するのかそれ!?」
「いかんぞクロー。敵は身内にありじゃ。そうじゃ! もっと若返ればいいのではないかえ? 子供なら狐の格好してても微笑ましいじゃろ」
「そういうもんかのう」
云いながら九郎は胸に手を当てて肉体年齢の操作を試みてみる。
体をより小さく。小学生程度の年齢に若返らせれば、背もスフィと変わらず、喉仏も引っ込み、割りと面影が変わって見えた。
将翁は倒れた。
「ううっ♥」
「今度はなんだ!?」
「母性本能が刺激されて……」
「面倒くさいなこやつも!」
「そもそも九郎殿が狐っぽくなるとか子作り了解の印では? 合意の上ですぜ」
「全然了解していないのだが!?」
「今度は自分も変身したいであります!」
わいのわいのと騒ぐ皆を見て。
サツ子は夢心地でぼんやりとしていた。まるで狐に抓まれたかのようだ。
金稼ぎに食事に妖術に変態。
彼女が勤め奉公にやってきたこの屋敷はかなり──これまでの常識とは違う、妙なところなのだと実感するのであった。
こうして、屋敷の新たな住人が増えた。
*********
その夜。
夜風が涼しいので戸を開けて、蚊帳に入って九郎が寝ていると誰かが蚊帳に入ってきた。
そのまま布団もかぶっていない九郎に覆いかぶさると、半分寝ぼけ眼の九郎が目を覚ます。
開けた戸からの月明かりで見るに──狐耳の阿部将翁であった。
着物が肌蹴て、肌が青白い光を反射している。
「誠心誠意、謝ってくれるのでございましょう?」
指で九郎の体を撫でるようにして、着物の結び目を解していく。
にい、と笑う彼女に何かを云う前に、将翁は捕食するように口を近づけて────
「やれやれ。枕元に油揚げを置いていなかったら危なかった」
「むう」
近づいた将翁の口に、たっぷりの醤油と砂糖で煮付けた油揚げを放り込んでそれをむしゃむしゃと咀嚼させている内にマウントポジションから脱出した九郎は座り直しながらそう云った。
念には念を入れている男である。
「……」
不満そうに黙って俯く将翁に、九郎は困り果てた顔で頭を掻いてから抱き寄せて、耳の生えてる頭を撫で回した。
「可愛い可愛い」
「はう……」
とりあえず満足するまで撫で回してやっていると、廊下から戸の影に隠れてサツ子が目を皿のようにして見ていた。
厠に起きたときに気配を感じてやってきて、思わず目撃してしまったのだろう。薩摩人には刺激の強い場面だ。
「わっぜか……」
すごい、という意味の薩摩弁を呟いてふにゃりと倒れた。
何もしていないのだが、雰囲気による興奮と眠気で脳をやられたぜよ状態になったのだ。
九郎と将翁はそれを見ていて、ぽつりと呟く。
「……今日はよく人が倒れる日だのう」
「なあに、起きたら元に戻りますよ」
将翁はサツ子に近づき、頬を軽く抓んで笑った。
「狐に抓まれたように──ってね」
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「やばいよ利悟くん。あそこは聖域だ。迂闊に入ったら外の現実との差違に耐え切れずにそれ即ち死してしまう!」
「九郎めええええ!! 来世には拙者が初恋になる呪いを掛けてやる……!」
「なんで僕はあの時あの屋敷に明石を送ったんだ! 僕が犬にさえなっていれば……!」
「九郎の目の前で無残な怪我をして一生心残りになる呪いを掛けてやる……!」
稚児趣味同心らは、あまりに脳の負担が強すぎてむしろ足が遠のくことになったという。




