115話『鳥山石燕秘境伝[河童、或いは川天狗の話]』
19世紀に生まれてイギリスで初のノーベル文学賞に輝いた作家、ラドヤード・キップリング。
著作としてインドのジャングルを舞台にした小説[ジャングルブック]は今なお世界的に有名だろう。
そんなキップリングは来日したこともあり、日本の風土などについて研究を行ったことでも知られている。
彼が残した言葉にこういうものがある。
『──奥多摩に入ったらそこはもう、神の加護も人間の掟も及ばない』
人とは隔絶された──いや、人を拒絶しているともいえる秘境、それが奥多摩である……。
*******
「嘘をつけ嘘を」
鳥山石燕の解説に九郎は冷静にツッコミをいれた。
この時代から先の未来人のことに関してもそうだが、
「どれだけ奥多摩が僻地なのだ。シベリアとかアマゾンか、奥多摩は」
「ふふふ九郎くん……似たようなものだよ!」
「花のお江戸からそう遠くない場所に、そんな魔境があったとはのう」
一応言いながらも、人間の手が入っているように見えない大自然の中を見回した。
左右は鬱蒼とした広葉樹林帯に囲まれていてほうぼうにシダなどの植物が生えて山歩きにはとても適しているように見えず、崖のように切り立った合間を流れる多摩川の河原に座って昼飯を食べているところであった。
船着場で伝手を使い、猪牙舟を借り受けて二人で乗り込んで多摩川をのんびり遡上して数時間が経過した。時折、渡し船の発着場があるが下流ほど行き来は無い。
多摩川は橋が掛かっておらず、渡し船で行き来をするのが常であった。
当初は関所のように幕府が管理をしようとしたのだが、往来の増加と多摩川上流の新田開発や村々からの行き来もあってかなり形骸化していたようで、さしたる理由も無いのに上流に向かう小舟を咎められることはなかった。
なお舟の動力には精水符を使っている。これを舟の後部に取り付けて常に一定水量を排出することで前方への推力としているのだ。低出力で構造も最大限単純なハイドロジェット推進である。
楽して進むためであったが、櫂を適当に水面に差しているだけなのにすいすいと上流へ向かう舟を何人かは怪しく思ったかもしれない。
「多摩川の上流あたりで河童の目撃情報があったというが……そこまで秘境ではなかろう」
「妖怪狩人の鳥山石燕としては近郊で起きた怪異を見逃せないね」
二人は妖怪・河童が出たという噂を聞いてそれを探しにやってきているのであった。
疫病風装の飛行能力で飛んで行くには目立ちすぎるので舟を使っている。どちらにせよ、河童ならば川沿いに居るはずなのである。
途中の休息として舟を川岸につけて、持ってきていた握り飯を食っていた。
「それにしても河童か。基本的な妖怪だのう」
九郎が呟いた。恐らくは日本人ならば誰でも知っている妖怪だろう。
東京生まれ東京育ちであった九郎も、子供の頃母親の実家である東北あたりに連れて行かれたときは、河童の話を聞いた覚えがあった。
(弱点は膝の皿だったか。いや、そこぶち壊されたら誰でもヤバイだろう)
記憶を辿って胸中でツッコミをいれる。その間に石燕の解説は続いた。
「とはいえ河童というのは普遍的な、川の妖怪をあれもこれも一纏めにしてしまっているのだけれどもね。よくある話だが」
「そうなのか?」
「考えてもみたまえ。水に引きずり込む。尻子玉を抜く。相撲を取る。釣り人を脅かす。馬を溺れさせる。奇妙な音を出す。人に化ける。手が伸びる。放屁で石に穴を空ける。ピザが好き──などと、様々な属性を一つの妖怪が持っていると考えるよりは、それぞれ別の地方で語られていた別の行動をする妖怪が、情報の共有により河童の仕業と一纏めにされてしまったと思うほうがありそうだろう」
「河童じゃなくて忍者亀が混じったぞ」
「様々な妖怪が統合されたが故に、河童の正体や起源として囁かれる説も同じように多様に存在し、恐らくは正解は一つではないのだね。ある意味姿は確立し有名だというのに、本質はどこまでも曖昧としている──そういう妖怪なのだよ」
そう言って彼女は川を見回す。まだ生憎と河童の姿は見えない。
急ぎの探しものでもないからのんびりとした行程である。日が暮れそうならば岸に上がり、甲州街道沿いの宿場町に宿を借りれば良いのである。故に石燕は話を継続して九郎に説明をする。
「河童の起源例として幾つか上げてみようか。中国から黄河の流れに乗って河童の集団が渡ってきた話は有名だからそれ以外で……[河童・平家の落人説]」
「落人……壇ノ浦の戦いで負けて全国に逃げた敗残兵か」
「そう。北は陸奥から南は琉球まで逃げていった平家の主流移動手段は舟だった。瀬戸内海での海軍が有名だったからね、もともと。それで土地土地の海から川へ上がり隠れ潜んだ者達を河童と呼んだのではないか……落ち武者の髪型はどことなく禿髪に見えるし、月代で頭頂部の皿のようであるしね。鱗や甲羅があるのは鎧だったのかもしれない」
「ほほう」
相変わらずの石燕のそれらしい考察に九郎は感心の声を漏らした。
真顔で嘘をつくのが難点なのだがこの妖怪絵師はそれらしい理屈で妖怪や怪奇現象を紐解くことが得意である。
(紐ではない)
一瞬頭に浮かんだ単語を否定する九郎。それはともあれ、理屈を分析しつつも石燕は怪奇は怪奇として受け止める。世の中には怪奇があって、それは不思議なことではないのだと喝破しているのである。
「河童が[かわ わらは]──川の童子だと呼ばれることも平家と関係がありそうだね。特に陸奥国では赤い河童が伝えられている。ふふふ、九郎くん! 平家・子供・赤い河童と繋げると自ずと平家物語で浮かんでくる記述があるだろう!?」
「赤いカッパを知ってるか、青いカッパを知ってるか……」
「歌って誤魔化さないでくれたまえ。危ないではないか」
「オリジナルの歌詞だ」
主張する。咳払いした彼女は件の記述とやらをそらで読み上げた。
「『その故は入道相国のはかりことに、十四五六の童部を三百人そろへて、髪をかぶろに切りまはし、赤き直垂をつけて召し使わけれる──』と、平家物語の[禿髪]にある記述だね。
これによれば平清盛は、髪の毛を房のようにおかっぱにした子供らに赤い着物を与えて京の中に自由な逮捕権を与えた。平家の悪口を言っているものを見つけたら集団でひっ捕らえていく役目だ」
「もう少し幼ければ利悟や伯太郎が大喜びだったろうにな」
「数え年もあるから実質十二歳ぐらいの子供警察と考えれば、その手の趣味の人には受けるのではないかね?」
「ポルポト政権を思い出す」
身も蓋もない感想を九郎は呟いた。
しかし当時の京を思うと、権勢にものを言わせた無茶な人事の結果が赤い着物で傍若無人に子供の残酷さを発揮していたとなると、そら恐ろしいものを感じる。
赤い河童が徘徊し、平家に従わぬ者に災いをなしていく。
まさに平安時代末の怪異であっただろう。
「その赤い童が直接的に地方へ逃げていったわけではないだろうが、平家のそれなりにいい血筋の人たちは陸奥に根付いたからね。そういった印象的な特徴と河童の特色を合わせて、赤い河童伝説があるのではないか、と考察されるわけだ」
「ほほう」
「全国に散ったから各地の河童伝説と繋がる、というわけだね。少し説としては弱いが、平家より前の起源の一つとして私の[河童・蝦夷説]を語ろうか」
「まだ続くのか」
石燕は自然な仕草で胸元から酒の入った竹水筒と猪口を取り出して、九郎にもわけて渡した。
やや釈然としないものを感じたがひとまず受け取る。河童探しで時間を潰すのも、石燕の河童談義で時間を潰すのもそう変わらないと思ったからだ。
「蝦夷を知っているね? 九郎くん」
「えみし……あれだろう、確か東北あたりに居た先住民というか狩猟民族というか……坂上田村麻呂が征伐したとかいう」
「そう。詳しく解説すると非常に長くなるから省くが、要はこの陸奥に追いやられていた異民族は、以前に魍魎の話で出したように妖怪や鬼と同じような扱いを受けていた。
そして田村将軍の頃から、帰順した蝦夷の多くは大和民族を陸奥に入植させるためと、団結しての反抗を防ぐために全国各地に送られてしまったのだね」
「全国に散らばる河童伝説と、全国に散らばった蝦夷か」
「奇しくも[魍魎]は水に関する妖怪だという説もある。それに、蝦夷には毛人と記述されることもあった。これは彼らの体毛が濃かったということかも知れないが、河童もその姿は猿のように毛に覆われているとされる地方も少なくない。
更に多くの河童は、童子や猿のように小柄だとされているだろう?」
「うむ」
「蝦夷という文字はつまり蛮夷を表現しているわけだが、それならば[夷]の一文字でも十分なのだよ。それに追加された[蝦]の文字は、蝦夷が腰の曲がった小柄な体型だったことを現すとされている。
実際彼らはどちらかというと小柄な印象が強いね。[日本書紀]にはこう記述されている。
『蝦夷は山に登ること飛ぶ禽の如く、草を行ること走ぐる獣の如し』
大柄な人間がそれをしているよりは小柄で飛び跳ねている印象を覚えるね」
「つまり、全国各地に送られた蝦夷は送られた側の土地の者からしても妖怪扱いで、集落に溶け込めずに野山に出て行った者などが川で
目撃されるようになって河童の伝説として残った、というところか」
「妖怪は実は異民族だった……は結構多い展開ではあるがね。九郎くんも聞いたことはないかね? 河童が伴天連の宣教師だったとか、天狗が赤ら顔の南蛮人だったとか」
「確かに」
酒で口を潤して説の妥当性を考えた。石燕の起源説が本当でも嘘でも、別に困るわけではないのだが。
河童の伝説の数だけ、正体がある。
だからきっと彼女の話も正解であり、間違いでもあるのだろう。
「ちなみに私が一押しな、河童の正体に関わる秘密はその多様な名前に隠されている!」
「本命の説か」
「うん。カッパ、ガラッパ、ガワッパ、カワコ、カッパ怪獣テペトなどと様々な呼び名があるが、河童の次に有名なのは[河太郎]という呼び名だろう」
「それも聞いたことはある気がするな──まて!? ウルトラ怪獣が混ざらなかったか!?」
無視された。
「河太郎に派生して[河太郎坊]と呼ぶ地方がある。訛って、ガータローやゲータローと呼ぶ地方もある。これを組み合わせると恐ろしい事実が……!」
「それは?」
眼鏡を光らせて拳を熱く握り主張する石燕に、一応は神妙に訊ねた。
「河太郎坊──ゲータロー坊──ゲータローボー──……ゲーターローボー……」
「今それ関係ないだろ!」
「そうか! わかったぞ! 河童とは! 河太郎とは──ゲーターとは!」
瞳に怪しげな光を灯してぐるぐるに回しつつ立ち上がった石燕。
同時にドワオと川から分厚く巨大な太鼓を鳴らすような音がして、突然ぼこりと水面が盛り上がった気配がした。
慌てて二人はそちらを振り向いたが、そこに何か居たのかは確認できなかった……。
******
「いやー居なかったねー河太郎坊」
「鱒か何か跳ねたのだろう。というかそこらの川に居てたまるか河太郎坊」
川からドワオと現れてゲーターウィングを広げる河太郎坊を想像して酷く微妙な気分になった。ああ、赤いってそういう。
時間を掛けて、河原でその怪しい気配の調査を行ったが目的の河童は見つからなかった二人は、日も暮れてきたので宿へと向かった。
何食わぬ顔で日野の渡し場所を通過して上流に舟をつけて、日野宿へと入り込む。
甲州街道に面するこの宿場町は現代でも──火事で立て直した後であるが──本陣(宿場町に立ち寄った公務中の役人や大名が泊まる宿)が残っていることで有名だ。
勿論二人はそのようなところに泊まらないので適当な旅籠に入った。
「邪魔するぞ……うん?」
入ると入口近くで、旅籠の主人らしき男と店の者が困った様子で話し合っていた。
客だというのに、九郎と石燕を見てどこか引きつった笑みを向けた。
「部屋は空いているかのう」
「い、いらっしゃい。ええ、お部屋の方は……ただ」
申し訳無さそうに主人が首元に手を当てながら言う。
「飯炊きの女たちが出払っちまっていて……なんでもどこぞの宿をお大尽が貸し切りにするって話で、人手として連れて行かれたんでさ」
「ふむ」
「さらに女房もぎっくり腰で寝込んでいて、ついでにそのお大尽が宿場町の食材を買い漁ったもんで……碌な食い物が今この宿では出せないんでさ。蕎麦の出前ぐらいなら頼めますが……」
「蕎麦かあ……」
「蕎麦はちょっとなあ」
蕎麦屋の居候と常連は微妙そうな顔をした。
つい昨日まで、六科の蕎麦熟練度レベル上げの為に延々と蕎麦打ちが行われていて、余った蕎麦を食べさせられていたのだ。
蕎麦と聞いただけで口の中にぼそぼそとした感触と蕎麦粉の匂いが復活する。
それにしても腹が減っていた。昼過ぎから酒ばかり呑んでいたので、呑み会の後の空腹感とでも言うべきものが二人には到来している。
夜自体はまた酒を呑んで寝てもいいのだがその前に腹に何か入れたい。そんな気分であった。蕎麦以外を。
「ちょっと炊事場を見せてもらっていいかね?」
「ええ、こちらですが……米と調味料ぐらいしか……」
宿なのに食料を切らすとは、と九郎は思うが現代日本のようにどこでも流通がしっかりとしているわけではない。
買い占められれば無くなるのは当たり前ではあった。江戸のように幾らでも店があって毎日野菜市が開かれるような場所は別だが。
石燕が炊事場に向かうと、確かに米はある。あとは醤油などの調味料と、出汁用に使っていたのか鰹節は置かれていた。江戸の当時、鰹節を使った出汁は専門書が出るほど普及していて、保存も効くので北前船で江戸に入った後で街道を通じて宿場町でも多用された。
「仕方ない。私が自分で食事を用意するが、いいね。それと酒を後で付けておいてくれたまえ」
財布から一分銀を主人に握らせて石燕は腕まくりをした。
喜色を浮かべた主人が丁重に礼を言って下がっていく。
「九郎くんも部屋で待っていてくれたまえ。飯を炊くからもう少し時間は掛かるよ」
「うむ。任せた」
「ふふふ、まあ、この材料では舌が落ちるほど美味しいというわけにはいかないがね」
そうして石燕は釜の準備を始めた。
こうも材料が無いとなると味付け飯に限る。となると[胡椒飯]を作ることにした。
水を張った釜の中に、砕いていないホール状の胡椒を見つけたのでそれをそのまま漬けて沸騰させる。
粉状にした胡椒を飯に混ぜ込む方法が胡椒飯の基本だが、こうすると尖った味の少ない胡椒の出汁が取れるのである。出汁としては旨味が少ないが、風味は充分に出てくる。
湯に味が移ったら胡椒粒を釜から取り上げて、濃く引いた鰹出汁をなみなみと加える。
よく研いだ米を入れて、薄く色が付く程度に醤油をかき回した。更に、手持ちの酒を幾らか入れる。酒には旨味が多く、元の材料が米だったこともあるので調味料として相性が良い。
それを炊き出して、残った鰹出汁を醤油で味付けし手持ちのおつまみ昆布を取り出した。
小さな昆布を薄く包丁で削いでおぼろ昆布にして汁に入れる。
薄い昆布から出汁が滲みでて、汁にとろみをつけた。
炊きあがった色の付いた飯に、その汁を湯漬けのようにかけ回せば出来上がりである。
「はい、九郎くんの分」
「旨そうな匂いではないか」
膳に載せてきた茶碗を受け取って九郎は喉を鳴らした。
粥を啜るように胡椒飯を口に入れると、胡椒は一粒も見えないのに確かに胡椒の香りがあり、それは舌を刺すような刺激はないというのに全体をビシっと胡椒の味が引き締めている。
辛さが煩くなくて、胡椒を振りかけると支配的にすらなる味ではなく醤油と出汁の味を引き立てていた。
醤油味に胡椒。九郎の脳内には、醤油ラーメンに胡椒を振りかけていた記憶が蘇る組み合わせだが、郷愁的でかつ胃に優しい味だ。
「うむ、旨い……」
「そうかね、うん。それはなによりだよ」
石燕は小皿にある小さな黒い粒の欠片を膳の上に置きつつ云う。
「こっちは出汁にした胡椒粒を粗く砕いたものだ。風味は薄まっているが、辛味は残っているからね。味の変化にどうぞ」
「単純な材料だというのにお主にかかれば旨いものになるのう。大したものだ」
褒められてまんざらでも無さそうに、彼女も自分の分を持ってきた飯櫃から茶碗に入れて、小さな鉄鍋から汁をかけた。
「ふふふ、お酒で減ったお腹にちょうどいいね。私も贅沢なものばかりではなく、質素な風にも作れるのだよ。飢饉対策に食べられる樹皮とか詳しいしね」
「妙な所で生活力があるよな、お主」
九郎が感心していると、彼女は目を細めて口元を茶碗で隠したままぼそぼそと告げる。
「ま、まあね。もしお互いに貧しくなっても大丈夫だよ。そう、ええと、糟糠のトゥマみたいな」
「トゥマ?」
自分をそう表現しようとすることで唇が震えて噛んだ。正しくは糟糠の妻だ。
「装甲の……妻?」
九郎はまだ正しく認識していない。装甲妻。一体何者なのか。
茶碗を置いてとりあえず震えを止める為に酒を口にした石燕が云う。
「糟糠の妻とは、中国の故事から来た言葉だね。貧しい頃に酒糟や米糠を一緒に食べていた古女房こそ出世しても大事にする、という」
「いい言葉ではないか」
「とりあえず私は粕料理も糠料理も作り方は知っているがね」
「旨そうだな……江戸に帰ったら食わせてくれ」
「任せておきたまえ! ……いや何かこの文脈で言われるとちょっと照れるよ!?」
「そうか?」
とぼけた顔をして九郎は胡椒飯のおかわりをよそった。
それから部屋で河童談義の続きを行いつつ酒を酌み交わし、夜を過ごした。
「──というわけで河童に相撲勝負を挑まれたら九郎くん頑張ってくれたまえ」
「ああ、確か皿を割ればいいんだったな──膝の」
「えぐいよ! というか頭の皿でも割ったら死ぬよ!」
「それよりお主も、不意を突かれて尻子玉を抜かれるなよ」
「ううむ、確かに恐ろしいね……尻子玉は魂のようなものだと云われていて、河童の好物だとか、或いは上司へ持っていく献上品だとか様々な説がある。奪われたら九郎くん、取り戻してきてくれたまえ」
「わかったわかった。お主の魂が奪われたのならば、どうあっても取り戻してやるよ」
そのような──妙なフラグが立つやり取りをしていたという。
*******
翌日、出発する前に旅籠の主人に河童の噂について聞いたところ、
「そういえば、上流の御嶽村あたりで馬が河童に盗まれたとか……」
と、情報を得たので改めて九郎と石燕は舟に乗り上流へと向かった。
相変わらず碌に漕いでもいないのに流れに逆らって進む舟は、すれ違う舟から二度見されたが気にせずに進む。
やがて幾つかの船着場を経由して左右に山と渓谷ばかり見え、川沿いの道すら整備されていないぐらい奥地へとたどり着いた。
(確かに秘境らしい)
九郎もそう思いながら、ひんやりと空気が冷えているので石燕に炎熱符を渡しておく。
彼女も玉菊程ではないが術符適正があり、自分の周囲を温める程度の出力で使用可能だ。
余談だが、術符適正は江戸の住人では玉菊>晃之介>石燕=お七>お房=お八>その他使用不能ぐらいである。使わせて試したことのある者自体が少ないのではあるが、雰囲気的に将翁などは使えそうだと九郎も思っている。
やがて小さな船着場についた。石燕が川霧でやや湿った地図を取り出して確認をし、
「そこが御嶽村の舟場のようだよ」
と、云うので舟をつけて降りる。
「この村は古くに牧(朝廷・幕府から馬の飼育を命じられた土地)が近くにあってね。今でもその名残として馬飼いが居る。ここで育てて他所に卸し売るのだよ」
「そうなると、馬を襲う河童は死活問題だのう」
「話を聞いてみよう」
見かけた宿坊に話を聞いた。
「私は確かに見たんだ。川沿いの山菜を積みに行って……夕方近くだったのだが、空が急に明るくなったな、と思って見上げると橙色の光る物体がジグザグに空を飛び回って……気がついたら私は家に居て、夜が明けていた。あれは間違いなく河童だよ」
農家の男は証言する。
「夜中だった。馬が妙に叫びながら逃げ出したんだ。俺は必死に追いかけると、草むらに居た馬の周りがぼーっと光ったと思ったら馬が宙に浮いていって……恐ろしくなって布団を被って寝ちまった。それ以来馬が帰ってこないんだ……おのれ河童め!」
老婆が怒鳴りつけるような勢いで訴えてきた。
「あたしゃ見たんだよ! 河童の乗り物が川にドワオと墜落するところを! 破片がそこら中に散らばって、それを幕府の役人が回収していったのさ! あいつらは河童の正体を隠してるんだ! こっちは馬の危機だってのに! 河童! 河童!」
九郎と石燕は暫く聞きまわって、額に浮かんだ汗を拭った。
「……貴重な証言だったね」
「なあこれ河童というか宇宙人……」
「一応、河童宇宙人説もあるよ」
「いや、あるのはいいのだが。こう目の前にするとなあ」
「とりあえず探そうか、河童」
二人はそう決めて、人も少ないので九郎は石燕を背負って、体を結んで落ちないようにして空を飛んで川周辺を探しまわることにした。
彼らが飛び去ったあとで通りかかった若者が熱心に主張していた。
「俺は見たんだ! 確かに河童が空を飛んで女を攫っていって!」
……迂闊に飛ぶと新たな怪談を招くことになるのである。
それはさておき、空に浮かび上がると人工物は集落と神社が見えるぐらいで周辺は鬱蒼とした森が多く、ところどころに草むらになっている空き地があった。
木を切り倒して木材にした跡だろう。
集落とは川を挟んで向かい側になっている、青々とした草が生えているその場所に石燕が眼鏡を押さえながら指を差した。
「九郎くん、あそこに何か違和感がある。向かってみてくれたまえ」
「はいよ」
近づくと、その開けたところで石燕が感じた何かは目に見えてわかった。
ほぼ均等に、脛ほどの高さに生えていた草むらがある。
その一部が──綺麗な円形になぎ倒されていて、その中心に馬の死骸が置かれていたのである。
どう見てもミステリーサークルである。
九郎がそこらにオレンジ色の光る物体が無いかキョロキョロ見回していると、石燕が考察をしだした。
「ふむ、これは聞いたことがある怪奇現象だ。興味深いね」
「イギリス人の農夫のイタズラでなく?」
「九郎くん。何事も外国の流行を取り入れたと思ってはいけないよ。これは日本の各所で話が残っている。[蛇食]や[水虎の草庵]、信州では[高月の輪]と呼ばれている」
「そ、そうなのか」
「[蛇食]は毒蛇が草を食った跡なので、毒で草が枯れて倒れているという。その草を食った馬は毒に感染して死んでしまう──こんな風にね。
[水虎の草庵]は、水虎に襲われた生き物をこうして草の真ん中に置いておくと、水虎はその周りをウロウロと回ってやがて死んでしまうという。だから草が円形に倒れているのだね。
[高月の輪]は、ほらこの前台湾ラーメンを作った尾張藩に居る天野信景という武士が記した[塩尻]という随筆に登場するね。同じく芝草が変色している円形の場で、馬には毒だと云われている」
「むう……思ったより土着の怪奇現象なのだな、ミステリーサークル」
毒、と聞いて九郎は念の為に疫病風装の能力を行使し、周辺の毒素を探ってみた。
幸いというべきか怪奇にというべきか、その円形になっている部分からは何の毒や菌も感知できない。
菌類などが繁殖して草を枯らし、その菌付きの草を食んだ馬が倒れるというのならばありそうな話なのだが、と九郎は一瞬考えた後に、
「んん?」
と、改めて目を凝らして毒素を探る。
やはり、大気中にある僅かな量しか感知できない──馬の死骸が置かれているというのに!
「なんか変だぞ、これ……」
「どうしたのかね?」
「少し下がっておれ」
九郎がサークル内部に近づいて馬を調べる。
よくよく近くで見ると、馬の体はカラカラに乾燥していて、適当に拾った棒で突いただけで体毛が崩れていく。
目はひび割れていて耳は煎餅のように薄く固まっていた。全身は強い紫外線を浴びたかの如く薄く脱色されている。
(紫外線……)
全身から水分という水分を全て抜き取り、強力な殺菌ライトか何かで乾燥させたならばこのように無菌の状態になるだろうか、と九郎は思った。
「キャトルミューティレーションだのう、まるで」
宇宙人は牛馬の酵素──何か重要な役目が彼らにはあるらしい──を採取するために血や内臓を抜き取ると云われているが。
「或いは尻子玉を抜かれた末路かもしれないね」
石燕が馬の尻側に回って覗きこむが、極限に乾燥された馬の肛門は固まりすぼんでいて尻子玉を抜かれた痕跡は残っていない。
「しかし九郎くん。噂だけではない、何かがここに居るということの証拠だよこれは!」
「ううむ、オレンジ色の光は見えぬから、もう一度川を探してみるか」
そして二人は再び空を飛んで、川の周辺へと向かっていった。
舟で進んでいては見えにくい地形も上からならばすぐにわかる。
目撃されてもこの辺りならば天狗扱いで大丈夫だろうとふよふよ浮かんだまま川を上がっていく。
そうすると──近くに村落も無く河原に続く道も無い、渓谷と川、そして岩場しか無い場所に、一人の男が座っていた。
一瞬二人が、すわ河童か、と思ったのは被っている平たい笠と、無造作に伸びた髪の毛が河童の姿を彷彿とさせたからだ。
服装はよれた麻織物を着ていて、旅装に近い。大きな背負える箱──これも河童の甲羅に間違われそうだ──を横に置きながら、釣りをしている。
しかし釣り竿には気もそぞろで、手元にある板に何か書き込んでいるようだった。
九郎と石燕は近くに降りて、声を掛けた。
「おーい、そこの人。少し良いか」
びくりと背中を震わせて、しばし動きが止まった。
不審に思っていると石燕がぼそぼそと囁く。
「向こうもこんなところで人に会うなんて思っていなかったみたいだね」
「ああ……確かに道もない場所に突然誰かやってくると驚くか」
納得していると、手元の板を背中に隠して男は振り向いた。
「な、なんだ。びっくりするだろ。土地の奴らじゃ……無いみたいだけど」
男は無精髭の生えた三十代ぐらいで、歯並びが悪く八重歯が見えた。垢抜けた顔立ちをしていて農民には見えない。
「いやな、己れらは河童を探して川を上がってきていたのだが……」
「河童? あ、ああー……馬泥棒を探してる役人じゃなくて?」
「官憲に妖怪を突き出すつもりはないよ」
「そっかー……秘密にしていてくれると助かるのだけれども、白状するとな」
男は指を立てて、名乗った。
「俺は[川天狗]って呼ばれてる。いひひ、馬はまあ残念だったということで」
*****
川天狗。
読んで字のごとく、川に居る天狗のことである。これもまた河童に統合されそうなぐらい、特徴が被っていて人を脅かすかのんびり一人で魚釣りをしているのを目撃される、或いは天狗火で川を灯す程度のほぼ無害な妖怪だ。
とはいえその笠を被った男が、まさに妖怪そのものというわけではなく、
「俺はタビノヒトって呼ばれる集団の一人でな、あちこちの川あたりを漂泊して生活している」
「ははあ、サンカという奴だね」
「さんか?」
石燕が頷いて九郎に説明した。
「山窩、或いは山家と書く。戸籍を持たず、社会に馴染まず、定住しない山の民だ。敢えて定義するならば、昨日の話に出た全国に散らばったものの村落から出て生活をした蝦夷のようなものだ」
「まつろわぬ民というやつか」
「それにタビノヒトとは河童の別名でもある」
「ふむ……」
様々な呼び名があり、全国各地に出没する人里に住まない不特定多数の人々。
存在そのものが確かに、河童や天狗と間違われそうではある。彼らは明治、昭和の時代まで数万人規模で存在していたと云われている。
説明に九郎が納得したのを見て、川天狗は云う。
「そういうわけで俺は近頃このあたりで生活をしていた。釣りや狩りをしてな。馬の血液はタビノヒトの間ではいい薬としてやり取りされるから拝借したわけだ」
「迷惑な話だのう」
「法的倫理が通用しないからね。法の庇護を受けていない集団というものは」
「いひひ、どうせすぐに次の場所に移動するから気にしないでくれ」
悪びれもせずに言う川天狗である。
九郎もことさら、馬泥棒を捕まえる依頼を受けたわけでもないしこのような住所もルールも異なる相手を罰するにも色々面倒な問題がありそうなので、そこまで気にはしないが。
「野盗って名乗るより川天狗って名乗ったほうが、そこはかとなく窃盗受けても諦めがつくだろ?」
「うーむ、あれだのう。妖怪の一部はこやつのような奴らなのかもしれんな」
「そうだね。例えば妖怪・地蜘蛛などは山の民の征伐を表しているとされている」
「悪い奴らばっかりじゃないんだぞ? 祭りになれば踊り子として雇われる旅芸人らも俺らの一員だったりする」
「そういう妖怪話も各地に残っているね。祭りになると山の神も集まり、いつの間にか人数が増えていて、祭りが終わると消えていく……」
「ついでにお供え物が無くなる」
「そこはほら、出演料?」
あっけらかんと川天狗は告げる。
「しかし馬の血が抜かれたり変な噂もあっててっきり宇宙人の仕業かと思っていたぞ」
九郎がそう言うと川天狗はそっぽを向いて両手を空に伸ばし早口で言う。
「いひっなにそれ宇宙人とかマジ受けるっていうかほらよく考えてもみなよこの広い宇宙で暮らす人ということならば君も俺も宇宙人そうみんな家族で友達みたいなものじゃない宇宙から見た地球に国境なんて無いんだよ住む場所で何が変わるってわけでもないんだから分かり合いお互いに仲間だと認め合うのが大事なんじゃないかなあ」
「さっきお主自分はタビノヒトで己れらとは違うって名乗ったばかりだろう……」
呆れて九郎は言うが、妙にそわそわと川天狗は、
「ともあれ、がっかりさせて悪いんだが俺もまたすぐに旅に出るでな。妖怪の仕業だったってことにしてくれい」
「今は何をしていたのだ?」
「荷物を積んでいた舟が岩に当たって沈んじまって、流された荷物や舟の破片を集めて修理してたんだ。もうそろそろ直る」
「ふむ、そうか。邪魔したな」
「妖怪の 正体見たり タビノヒト──といったところだね」
そう言って、九郎と石燕はあっさり納得した様子で男から離れていって、岸のヤブへと入っていった──。
********
──そしてすぐに、隠形符で姿を消してこっそりと戻ってくる。
男の様子が怪しいのだが、問い詰めても文化圏の違いを出してとぼけられそうだったので石燕と以心伝心、様子を伺うことにしたのである。
馬の血を抜いたとも言うが、単なる血抜きだけではあそこまで乾燥して無菌状態にもできないしミステリーサークルの謎もある。
それに露骨に男が置いてある背負子のような箱には──アンテナのようなものが立っていたのだ!
怪しすぎる。
九郎に手を繋ぐことで共に透明化した石燕と、川天狗の様子を伺う。
彼は完全に九郎達が居なくなったのを確認したようで、何度か二人が消えた藪に石を投げて確かめて再び岩に座った。
隠していた薄い表札ほどの板を取り出して指で板の表面をなぞるようにしている。
「ふぅー……早くタビに出ないと……危ねえ危ねえ」
そう呟いて、板を川に向ける。
一瞬だけ川の表面がぼやけたようにぶれて、そして。
ドワオ、と川の水を押し上げる音と共に──茶碗を二つ合わせ重ねたような立体の大きな異物が浮かび上がってきた。
その形を二人は見たことがある。
「あれは……」
「[虚舟]!?」
そう、九十九里浜で見かけた虚舟と酷似した形の物体が出現したのである。
川には一見何も見えなかったが、九郎の使っている隠形で隠していたかのように。
だが、声に出したことで男が露骨に驚いて二人の方を向いて叫んだ。
「光学迷彩だと!? ちぃ!」
「しまった! 見つかったよ九郎くん!」
「まずい、逃げるぞ!」
だが、背中を向けるより一歩早く、川天狗は持っていた板を向けてくる。
それから視界を真っ白な光が埋め尽くした気がして───。
天狗は古来、空より地に向かう流星そのものか、それに乗っているものであったと思われていたという……
*******
「あら、九郎。いつの間に戻ってきてたの?」
「うむ? ううむ……」
緑のむじな亭に帰ってきた九郎にお房がそう声を掛けて、九郎は曖昧に首を傾げた。
「先生と一緒に河童を探しに行ってたんでしょう?」
「ああ、河童に襲われた馬らしきものを見つけて……はて? どうしたのだったか」
どうも旅先のことが夢のように曖昧で九郎は頭を何度か振った。
石燕と胡椒飯を食べたことまでは覚えているのだが、翌日どうしただろうか。河童を探しに出て、何かを見つけた気はするが……。
「どうやって己れは帰ってきたのだったか?」
「やだ。九郎、老人の兆候が出てるんじゃないの。ほら、座りなさいよ」
「嫌だのう、歳を取ると……」
お房に手を引かれていつもの座敷に座り、ぼーっと考えるが何も浮かばなかった。
「大丈夫なの?」
「ああ……」
「本当に? ほらおでこ出して」
前髪を上げさせて、お房が己の額を触れさせた。
少し、間が空く。
「……熱は無いみたいね」
「己れよりフサ子の方が熱くなかったか? お主こそ大丈夫か」
「なんでもないの」
それを見ていたタマは軽く「おおう」と唸り、ちらりと六科の方を見る。瞳を光らせて録画でもしているように、じっと様子を見てい
た。
先生を助けられるのは自分しか居ない。
ただそれだけなのである。
そう信じてタマはひっそりと店を抜けだして石燕を連れてくることにした。
豪華に──その程度の給料はもらっている──駕籠でも呼ぼうかと外に出て通りを見回すと、ぼんやりとしたまま舟に乗ってこっちに
やってくる石燕を見つけた。
「ちょっと石燕さん早く来るタマ!」
「あ、ああ……」
やはり九郎と同じく、どこかぼーっとした様子の石燕を引っ張る。彼女はなにやら蓋をしっかり締めた五合徳利を持っていた。
連れて来て九郎の隣に座らせる。
「おう、石燕。どうした寝起きのような感じで」
「どうも河童探しに行ってから記憶が曖昧で……」
「お主もか……二人して飲み過ぎたかのう?」
しきりに首を傾げるが、ともあれ石燕は持ってきた徳利を机に置く。
「ともあれ、確か宿で私が九郎くんの糟糠の妻だとかなんだとか約束したよね?」
「糠料理を作ってくれるというあれな」
「……気がついたら屋敷で作っていてね。ご賞味あれ」
猪口を取り出して九郎の前に置く。
「いや、待て。なんだその糠料理って。徳利に入っているのか?」
「ずっと前に九郎くんに飲ませてもらったアレを再現して、糠で味付けを調整したのだよ」
「アレ?」
「名づけて[糠コーラ]!」
「……」
「……炭酸発酵をさせた液体を黒蜜で調整して──そして糠を投入!」
「石燕」
「はい」
「……一応呑んでやる」
悩んだものの、九郎は徳利を直接手に取ってぐいっと糠コーラを飲んだ。
口の中にヌカヌカとした風味と感触。そして甘い。甘酒を甘じょっぱくして炭酸を加えた味がする。そしてヌカる。
「ううう……味はともかくヌカがぁ……」
「惚れ惚れする呑みっぷりだね九郎くん! おかわりもあるよ!」
「お主が飲め!」
「ぐあー! ヌカー!」
どこからともなくもう一本取り出した徳利を石燕の口に突っ込んで、九郎は熱い茶を飲み口を洗い流した。
喉から胃まで、嫌な感じがする。そんな彼の前にぬか漬けの茄子が出された。
「よくわかんないけど、普通のぬか漬けならあるのよ。あたいとお母さんが漬けたもの」
「……ありがとうよ、お房」
もにゅっとした感触の、よく浸かった茄子のぬか漬けを口にして九郎はお房に微笑む。
「うむ、旨い」
「そうでしょ」
「ヌカァー!」
「先生頑張るタマ……ボクは応援してるタマ……」
ほのぼのした九郎とお房、苦しむ石燕を絶望的な顔で見ているタマ。
緑のむじな亭はいつも通りの日常である……。
******
「……糠コーラはネタ枠で、本命はこっちの糠クッキーだったのだよ」
「普通に旨いのだから普通に出せよ……」
「うーん、先生のお菓子美味しいの」
「どうしてその実力を普通に活かさないタマ……」
******
「ところで九郎も先生も、頭に毛が一房直立してるけどなんなの? 寝癖?」
「うむ? ……本当だ。アンテナみたくナッテオルノウ」
「そうだね。なんダロウネコレハ」
妙に片言になる二人だったが。
翌日になったらアンテナっぽい毛も片言も治っていたという。




