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106話『芝浜にて、贈り物と失せ物の話』



 色々と誤解を受けそうな贈り物ではあったが、九郎はとある日に鳥山石燕へと財布をくれてやった。

 断じて石燕を財布代わりにしているとか、そういう意味合いのあるものではない。 

 お前は俺の財布だという暗喩でもない。

 勿論ヒモの男が女に、博打かなにかで勝ったあぶく銭で機嫌取りをしているつもりもない。

 

(本当に、だ)


 念入りに九郎は胸中で呟いて、革製の濃い青色をしたそれを石燕に渡した。

 

「く、九郎くん……もしや……」


 石燕の屋敷にて。

 彼女は驚いたようで座ったまま身を引いて眼鏡を押さえ、唸る。


「良い財布を手に入れたから見せびらかしに来たのかね!? 私はもう不要という意味で!」

「どんな嫌な奴だ己れは」

「だって九郎くんにはまだ、私に贈り物を買う用のお小遣いを渡していないのにこんなものを買ってくるなんて……」

「どんな贈り物だそれは!」


 九郎から石燕になにか物を買って与えること──飲食物が多い──は時折あるのだが、それらは石燕から金を貰って九郎が彼女用に買うというパターンであった。

 変則的に石燕から金を貰っているのに他の女に渡すこともある。まあ、他の女と云ってもお房とかお八とかその辺りだが。

 何度も云うようだが、石燕から金を貰っているというのは九郎が預けている彼自身の金を引き落としているだけで、ATMみたいなものだ。九郎も把握していない程度に預金は石燕が勝手に水増ししているけれども。

 動揺している石燕に、苦々しく九郎は云う。

 

「この前、夕鶴のことでちょいと魚市場のヤクザを懲らしめたのだが、その関係者が詫びにくれたのだ。死んだ鮫と格闘させる出し物が取りやめになったものでな、その鮫の革をなめして作った鮫革の財布。革製品だが水にも強いのだぞ」


 広げたら結構な銭が入りそうな長財布をひらひらと揺らした。

 丁寧に作られたそれは鮫革とは思えない艶かしい手触りと柔らかさをしている。刀の柄などに使う場合は、滑り止めの効果も含めてある程度鮫肌が残ったまま加工しているのであるが、この財布は皮に木酢液を塗って表面の凹凸を溶かし柔らかくしているのだ。

 折りたたんで糸(紐ではない)でぐるぐるに巻けるようになっており、中がこぼれない工夫がしてある。

 当時に財布というと、その漢字の通りか巾着とでも云うように布製が殆どであった。一部、革製のものもあったが獣の革を使っていてそう数は無く、普通は刀などに使う鮫革を使った財布などは特注の贅沢品である。

 

「というわけでお主にやる。こういうのは金持ちが持っていてこそ映えるものだからのう」

「……それだけ?」


 ちょっと残念そうに、窺う視線を向けてくる石燕に対して九郎は面倒だと思いながらも掌を向けて業務的に告げる。


「かわいいせきえんにぷれぜんとをおくりたくなったのだ」

「ふふふ! 超嬉しいではないか! 九郎くんありがとう!」

「露骨な棒読みにひるまないのでありますな……」


 嬉しがってくねくねと正気ではない動きで悦びの感情を表している石燕を縁側の外から見て、ワカメを干していた夕鶴が呆れたように云った。

 とりあえず喜んでいる石燕を見て九郎は満足気に目を細めた。


(昔、ホストの仕事をしていたときも客から貰ったブランド品を右から左に流して別の女を誑かしたり、質屋で儲けたりしたのう……)


 かなり駄目な記憶であったが、懐かしくはある。あと幼馴染から貰ったぬいぐるみやアクセサリーは盗聴器や発信機対策に念のため電子レンジへ入れたりと、イマイチ男女間の贈り物に夢がない九郎だった。

 

「まあ、それのついでに仕事を頼まれたのだがのう」

「なんだね? ふふふ、ここは九郎くんの美人助手である私も手伝おうではないか。幾らで解決する問題だね? 十両? 百両?」

「金で解決しようとするでない。まったく……しかし、お主向けの案件かもしれんな」


 勿体振って九郎はそう云うが、確かに財布をくれたことで手伝わせる算段がなかったわけではない。

 

「打算で女に贈り物をするのね」

「そこうるさいぞ、フサ子」


 縁側を通りかかったお房がぼそりとそう告げるのを追い払って、九郎は要件を述べた。


「実は妖怪が魚市場に出たと噂があってな、それの調査を依頼されたのだ」




 ******




 江戸で魚市場と云えば、日本橋から江戸橋のあたりまでにある魚河岸が有名である。有名な講談に出てきて、江戸っ子の代表的キャラクターでもある一心太助もここから魚を仕入れて棒手振りをしていた。

 違った。書いてから気づいたが一心太助が仕入れをしていたのは神田鎌倉町だった。鎌倉町は江戸でも初期の頃にできた魚河岸である。

 現代で有名な、牛丼カレー発祥の地と云われている築地の市場は1923年に関東大震災を期に移転して作られたのだ。


 しかし九郎が調査を頼まれたのはそれらの有名所ではなく、品川の手前にある芝雑魚場魚市場しばざこばうおいちばと云う現代には残っていないが当時は盛況していた魚市場である。いや、一応こっちも有名ではあるのだが。

 

「その依頼者の興行主は、魚河岸の組合でもお偉いさんでな。そいつによるとこの魚市場に夜な夜な、化け猫が走り回っていると云うのだ」

「化け猫とね?」

「うむ。腕っ節の強い男を見廻りに出したのだが、どうも化け猫を見て精神をやられたようでな……」


 鬱ぎ込んだ者やその晩の記憶に強い心理的瑕疵を抱えた者、更にはそれが長じて身体の病にまでなった者まで出たという。

 九郎は芝へ向かう駕籠の中で石燕と向かい合いながら、説明をしていた。

 折角財布を貰ったのだからと意気揚々に石燕が財布に金貨銀貨を詰めて、財布を出したりしまったりと使う為に駕籠を呼んだのである。

 半畳程で膝をくっつけるような狭さで密着して、揺れたときに体勢を崩さないように駕籠の中央に垂れた縄(紐ではない)を掴んでいる。

 さすがに暑いからか勝手に九郎は自家冷房で涼しくしていて、担いでいる駕籠かき達が首をかしげているが。

 石燕がずい、と九郎に顔を寄せながら云う。


「ふむ、成る程。化け猫は中々凶暴なものが多い妖怪だからね。本邦では人に化けていたところを魚や行灯の油を舐めて正体が露見するという滑稽な話も多いのだが、大陸ではそのまま生命力を吸収する能力を持つ猫妖怪が多い。

 恐らくやや間抜けな猫妖怪は、長生きした動物が妖力を持つようになる経立ふったちの方の猫版といったところなのだろう。関係ないが孔子は怪力乱神かいりょくらんしんを語らないと云うのに儒学の大先生である天爵堂は猫又に関しては存在を認めているんだね。前も云ったかな? まあいいか。案外、昔遊女に化けた猫又にでも引っかかったのかもしれないね」


 饒舌に語る彼女の話を、九郎はあぐらをかいて頬杖を付いたまま聞いていた。

 

「そういえば子興のやつがまた新しい絵を出して変な流行を作ろうとしていたのう」

「猫耳巨女図だね。猫画は魔除けに鼠除け、美人画は人気の路線、巨女にすることで妖怪っぽくして三つの層を取り入れようとしたのだろうけれど……」

「迷走してる感じだったな」

「うん」

 

 そこでまた、同居しているお七と晃之介がフォローが下手くそなものだから涙目で石燕の屋敷に駆け込むことになった。

 ズケズケとものを云うお七はともあれ、晃之介は絵を褒める語彙が少なすぎるのである。本人は懸命に子興を応援しているのであったが。

 九郎は単純な疑問を、子興の師匠である石燕に尋ねてみた。


「今更だが、何故子興は巨女などが好きなのだ」

「ふむ……昔に私が仏の話をしていたのだがそれが妙に心に残っていたようでね」

「仏?」


 石燕は思い出しながら腕を組んで、目を瞑って語る。


「あの子は何気に不幸なのだよ。武家の生まれだが父親はクズの碌でなしで、母親は自害。一家は離散で親類からは厄介者扱い。それで拾ったのが私なのだが……当初は落ち込んでいてね。なにか面白い話でも聞かせようかと、愉快で為になる仏教物語でも聞かせていたわけだ」

「ほう」

「それで子興の興味津々だったのが須弥山の四方に広がるこの世界とは異なる世界のことだったね。ちなみに我々が居る世界は南瞻部洲なんせんぶしゅうと云う普通の世界で、四天王の増長天が司る」

「普段は聞かん世界名だのう」

「まあ、あまり使わないよね日常会話では。それで他の三方に広がる世界なんだが、それらは住人達の誰もが善人の平和な世界でね。そういう優しい世界に憧れた深層意識が夢に現れてつまり欲求不満」

「後半適当すぎてフロイトの夢占いみたくなっておるぞ」

「それらの世界の住人が巨人なんだね。東西南北身体の大きさが違うのだが、我らの世界が一番小さい」


 石燕が懐から取り出した手紙にさらさらと筆で簡単な人の図を描いて大きさの比較を見せた。

 東の勝身州の住人は4メートル程。ロボでいうとスコープドッグのレッドショルダーカスタムぐらい。

 西の牛貨州の住人は8メートル程。ロボでいうとビルバインぐらい。

 北の倶盧州の住人は18メートル程。ロボでいうとガンダムぐらい。

 図を見て九郎は悩ましげに唸った。


「なんでこうデカくしているのだろうなあ仏教設定……特に北」

「面白話として語ったのだがね。北はさすがに大きすぎて身体に掛かる負担とか考えたのか、地面がコンニャクのように柔らかいという設定もある」

「妙なリアリズムを感じるのう」

「西の牛貨州はその名の通り、何故か貨幣として牛がやり取りされているという牛本位制度だったり」

「謎だ……」

「なお、日本での仏教と云うと猫とも馴染み深くてね。経典を齧る鼠への対策として、今から千年ほど前に唐から持ってきて広まったらしい。経典を齧る鼠の妖怪と云えば[鉄鼠]だね! 聞いたことあるかい?」

「まあ、名前ぐらいは」

「ふふふ、さも今私は有名な名前風に鉄鼠を挙げたが、実際のところ鉄鼠なんて名前はこの鳥山石燕が名付けたものだったり! こうして地味に広めていくのだよ……!」

「おい」


 などと、雑談をしながら芝へ揺られて向かうのであった……。




 *****




 芝雑魚場に着いたのはまだ日も高いうちにであった。

 海沿いには簡易な作りで屋根と柱だけ建てている魚の卸売がずらりと並び、それを小売の棒手振りや屋敷の使いなどに売り捌いている。

 雑魚場と云う通り確かに小魚も多く売っているが、鮪などの大型魚も店頭に並び、それを刀のような大包丁で切り下ろしていた。

 海には板張りで内部を生け簀のようにした舟も多く、ここで購入して江戸の市中に運ぶ分もある。

 何より日本橋界隈の魚河岸と違って海に直接面しているので、大型の舟も乗り入れしやすく、またこの芝付近でも魚が多く取れるので活気のある魚市であった。


「よし! じゃあとりあえず情報収集をするかね九郎くん!」

「うむ……さて、どこに行くか」

「情報収集と云えば酒場だと古今東西で決まっているのだよ。さあ飲み屋に行こう」

「呑みたいだけすぎる」


 石燕は九郎の手を引いて汐待茶屋へと向かっていく。

 汐待茶屋と云うのは魚市で取れたての魚をそのまま料理してくれる店で、飲食店が江戸の市中で増える前から多く存在していた。

 当然、酒も置いてあるので江戸で飯屋か飲み屋に困ったのならば魚河岸近くに行けばよいのである。


「なあに折角九郎くんが財布をくれたのだから、たっぷりお金は持ってきた。遠慮せずに呑もうではないか」

「ううむ、まあ喉も乾いたしのう」


 とりあえず九郎も茶屋で酒を頼みながらここらで出る化け猫の情報を探ることにした。

 卸売の店は夜になれば誰も居なくなるが、茶屋ならば知っていることもあるかもしれない。

 多種多様な客も訪れる酒場はそこいらの情報を調べるには適しているのは万国共通だ。特に中国の武侠小説は殆ど必ず飲み屋で物語上の噂を耳にする場面などが入ったりする。

 特に看板も暖簾も無い茶屋に入ると、客の入りは七割と云ったところだろうか。ただ、昼飯時もそろそろ終えるのでこれ以上店に入る客は少ない雰囲気であった。

 前掛けを付けた男の店員が、


「こちらにどうぞ」


 と、空いている座敷へと促した。

 二人は上がり込んで座り、石燕が注文を取る。


「酒を冷やで五合ずつと、今日の良い刺し身はあるかね?」

「へい。大きい芝海老が入ってますので、海老の刺し身に平政ひらまさもとれたてですよ。あと値は張りますが、皮剥かわはぎを潰した肝と生醤油で絡めてどうです?」

「いいね、二人分それぞれ持ってきてくれたまえ」

「まいど」

 

 注文してまず酒が届き、お互いに一合徳利のまま喉を鳴らして酒を飲む。

 昼酒はやはり体調の関係だろうか、よく腹に染みわたる。臓腑から酒精が揮発するようにして、口から吐き出された。


「美味い」

「まったくだね」


 それから刺し身の盛りがそれぞれの膳に乗せられて出された。

 まず芝海老の刺し身から。市場で出るのは、天ぷらなどに使われるから三寸ぐらいの大きさで売られるのだが成長すれば五寸程には大きくなり、刺し身にし甲斐がある。

 薄切りの白いそれを一枚九郎が箸で掴み、生醤油をつけて口に入れるとぶつりと云う小気味良い歯ごたえと、蛋白な味わいが一瞬広がりそれが醤油の塩辛い味を混ぜて、甘いような風味を出している。

 さっぱりとした口触りで後味を残さずに、酒で綺麗に洗い流される。


(これならばいくら食べても、生臭さなどは一切感じないだろう)


 九郎は頷いて後でおかわりと頼もうと決め、ぐびっと酒を呑んだ、

 続けて平政の刺し身。切り身が照らりとしている良く脂の乗ったやつである。

 醤油皿につけると醤油の表面に薄く脂の皮膜ができるほどである。たっぷりと醤油を両面につけて、山葵をつけて食べた。

 噛みしめるごとに魚の旨味と脂がじわりと滲みでて、それを山葵の清涼が引き立てる。

 

「酒が進む」

「そうだね! 三切れっで一合ぐらいの配分が丁度いい」

「配分偏っておるのう」


 既に二合は徳利を空けている石燕を見ながら、


(いつも思うがあんなに飲んで頻尿にならぬものか) 


 そんなどうでもいい心配もする。余程膀胱が頑丈なのだろうか。ただ、しっかりと液体が腹には貯まるので迂闊に呑ませすぎると油断したアラサーの腹部と成り果てる。

 皮剥の肝はややくすんでいるが、新鮮そうな黄色をしていて、絹漉の豆腐をより柔らかくきめ細かくした感触だ。

 それを醤油皿に入れて、潰して混ぜる。

 肝の醤油和えにしたそれに、皮剥の刺し身を浸して食べる。皮剥自体は味が白身オブ白身と云った薄味なのだが、この肝と合わせると確変したようにねっとりとして膨らみのある肝の濃厚な味に合う。

 河豚の肝にも似ている、と九郎は自動解毒しながらモリモリと怪しい河豚の肝を食った記憶を思い出した。


「これはなんとも言い難い旨さがなんとも云えないね!」

「何も云っておらぬなあ」

「まあまあ、やはり新鮮なのはいいことだよ。……この鳥山石燕も新鮮だからね?」

「ああうん」


 雑に返事をしながら、九郎は刺し身と酒の賞味を続けた。

 それからも、芝で取れる浅草海苔を炙ったものや、一夜干しの魚などをつまみに頼んで二人は暫くその茶屋に居座ったのであった。




 *****




「化け猫? ああ、本当に居るよ。夜中になると雄叫びのような鳴き声が聞こえてきて、市場の備品を荒らすんだ」


「生け簀の魚もやられたってさ。見張りに出た仲買の用心棒は逃げ出しちまってねえ」


「糞なんかもそこらにしていくから臭くて臭くて……早く退治して欲しい」


「ちらっと見たけど、ぼんやりと赤く光ってたと思う。大きさはそれこそ人間ぐらいあって不気味だった」


「うっ……すまない。思い出したくはないんだ……まさに妖怪だったよ……」



 などと、茶屋の店員やこの辺りで商売をしている客らしい者達から話を聞いて、夜になった。

 芝雑魚場の夜は早い。夕市が終えれば店は閉店の準備を始めて、魚が無くなった市から片付けていく。翌日は明け方前から仕事が始まるので、早く終わらせて寝るのが卸しの日常である。

 市が終えれば客も引き、そこの魚を使った茶屋も閉める。特に化け猫が出るとなれば、雨戸まで急急と閉ざす店も多かった。

 九郎らは居座っていた茶屋から酒を買って、石燕と人通りの少なくなった市の近く──海辺の椅子に座って夕焼けの中であくびをしていた。

 店から出てからは石燕が酒の勢いでふらふらとあちこちを歩きまわって、それで酒が回ったのか彼女は九郎に抱きつくようにしていびきを掻いて寝ていた。

 

「うむ、この酒臭さと磯臭さといびきが完全に色気を消しているのう」


 残念な分析を口に出しながら、石燕の頬をむにむにと摘む。大丈夫。先生肌年齢は若い。肝臓の値が正常値に戻ったおかげだろう。

 程よい冷やし加減にした氷結符を彼女の額に触れさせる。空にしてある徳利の一本にも、精水符で水を用意しておいた。

 

「それにしても化け猫か……いつ現れるかのう」


 そもそも。

 妖怪なのだろうか、と云う考えもあるが。

 それらしい変質者が暴れているという可能性が一番高そうだが、どちらにせよ迷惑で依頼を受けているのだから辞めさせ無くてはならない。

 

「猫と云えば子興なのだが……酔っぱらいの相手に連れてくるべきだったか」

 

 猫耳めいた髪の結い方をしている猫作家が化け猫と云うと連想された。

 

「他にはスフィにゃんことか昔あったのう……」


 猫耳を付けた昔の仲間、ちびっ子なのでとても良く似合っていたのを思い出して頬を緩める。


「あれぐらい可愛げのある妖怪ならばいいのだが……」

  

 そう思いながら冷酒で口を湿らせて待っていると、徐々に太陽は海の方へ沈んでいった。

 買っておいた提灯に灯りをつける。江戸の夜では提灯をつけていないとほぼ犯罪である。完全に日が暮れる前に、見回りの番人が何をするでもなく座っている九郎に声を掛けたが、十手を見せて化け猫退治だと云えば納得された。ほぼ無給で仕事の手伝いをさせられる同心の御用聞きと云う身分だが、こうして身元保証が一発でできるのはかなりありがたい。

 近寄る蚊を暇つぶしに電撃符からの極小電流火花で撃ち落としていると、すっかりあたりは暗くなっていった。

 店じまいも早いから静まり返るのもすぐだ。特に市中から離れているだけあって人口密度も低く、品川に行けば遊郭で賑わっているのだが芝の活気は完全に眠っている。

 虫の鳴く声と、遠くから静かに聞こえる海の音がする。

 

「石燕。いい加減起きぬと、化け猫に取り殺されるぞ」


 ぺしぺしと彼女のアンチエイジング頬を叩いた。

 酒臭い息でうめきながら起きだした彼女にうがいをさせる。

 どうにかこうにか酔いの状態から復帰した石燕が眠そうに目元を揉んだ。


「化け猫は出たかね……?」

「もうすぐだろ。毎晩出るという話だからな」


 そう告げて、椅子から降り少し歩いて通りへと出る。

 幸い月明かりは出ているので、怪しい影が道に出ればすぐに見えるだろう。

 

「任せたまえ! この妖怪を見破る阿迦奢の魔眼が火を噴くよ!」

「噴くな」

「現在・過去の事象を把握し未来を予知する悪魔[ぐれもりぃ]との契約により、妖怪よ姿を現出させよ!」

「また設定変わっておらぬか」


 半眼で九郎が指摘するが、右眼を妙に光らせた石燕が周囲を見回して、通りの北側を指さした。


「私の超占いによればそこだ!」

「反対側からなんか来たぞ」

「……」


 固まって言葉を失う石燕はともあれ。

 南側へと九郎は目を凝らして見れば、何者かが歩いてきていた。

 それは徐々に月明かりで姿がはっきりと見え始めて───

  

「げ」


 呻いたのは九郎と石燕が同時であった。

 それは確かに噂にあった化け猫なのだろう。恐らく。

 二股に別れた尻尾がある。

 全身は鮮やかな紅色をしている。

 猫耳がある。

 等身大である。

 それらの、情報として集めた要素は持っていた。

 

 ただしほぼ全裸のおっさんであった。

 

「芝にゃんですぞ!」


 化猫おっさんは九郎と石燕の姿を認めて、そう悪びれもせずに告げた。

 そう、若干魚系で目元が離れた猫耳おっさんが、全身を赤色と顔から胸元周りだけを白く塗りたくり、下腹部から太ももの付け根辺り隠すようにして腹巻きをしていて、尻筋で(と、信じたい)尻尾のようなものを挟んでいるのだ。

 吐き気を催した。石燕などは咳き込んでいる。

 彼女は苦しげに指を向けて、


「ま、待ちたまえ……! なんだその危険な存在は!」

「何を心配しているかわからんが……吾輩は妖怪魚市ようかいうぉぃちの芝にゃん。権利的には合法な者ですぞ!」

「概念が違法だ! 九郎くんもヤバイと思うだろう!?」


 石燕が怒鳴って隣に居る九郎に同意を求めるが、彼はただ気味が悪そうに、


「確かにサイコパスかなにかかとは思うが」

「いやそれよりもねえ、くそう迂闊な突っ込みは藪蛇になりそうだ!」


 何かを不安がっている石燕であったが、版権的にはセーフだ。多分。九郎など元ネタを知らない。

 ともあれ九郎が提灯を向けて、赤く染まったほぼ全裸のおっさんと対面する。字面にすると酷い事を自覚して落ち込みたくなるが。

 

「お主、夜な夜な何の目的でこの市に現れ暴れておるのだ。迷惑をしているのだぞ」

「知りたいにゃん?」

「……」


 殺意と気分が萎えるのがほぼ拮抗して、変質者に対して電撃は放たれなかった。

 芝にゃんは腕を組んで仁王立ちしながら告げる。


「こうして昼間人通りが沢山あったところで、喧騒を思い出しながら全裸で歩きまわると気分が清々しくなるということに吾輩はある日気づいたにゃん」

「特に理由が無いのが最悪だな」

「あと脱糞とか堂々とすると凄い気持ちいい」

「駄目だ……こいつはもう妖怪だ」


 石燕を連れてきた意味なかったな、と思いながらも九郎は腰に帯びた刀を鞘ごと持ち、片手に対変態用の電撃符を用意する。

 意外なことだが、変態は電流に弱い。逆説的に電流に弱いのは変態なのだろうか。そう考えたりしながら──


「さあ芝にゃんと追いかけっこするにゃー!」

「うわ逃げおった! 待て!」


 即座に近くの路地に飛び込んで走りだす。裸足だ、とどうでもいいことを確認しながら九郎は追いかけた。

 建物と云うが小さな魚市の掘っ立て小屋である。だがそれが乱立していて、夜影に隠れれば姿は消える。

 

「ま、待ちたまえ九郎くん!?」


 取り残された石燕だが、まずは変態を追いかけることだ。九郎はぱりぱりと火花の灯りを明滅させながら路地に入る。


(いっそ焼却処分したいぐらいだが、火はヤバイ上に燃やすと臭そうだ)

 

 考えていると前方から、


「にゃーはははは!!」


 と、野太い声が聞こえて次に物が破砕する音。

 路地にあった木材などをなぎ倒して道を塞ぎながら移動しているようだ。


「ええい、面倒な……!」


 九郎は地面を強く蹴って空に浮かんだ。建物の影などに隠れたのか上から芝にゃんの位置は分からない。

 その時悲鳴と野太い笑い声が再び聞こえた。


「うわあああ! 九郎くん助けて本気で!」

「にゃなあああん! 猫対猫の縄張り争いをしてやるぁぁぁ!」

「しまった、石燕」


 九郎を引きつけつつ、芝にゃんは回りこんで石燕を襲い始めた!

 滅茶苦茶嫌がっている彼女の肌を、ケツで挟んだ尻尾でさわさわと撫でている。変態的行為だ。

 ここから更にハッテンする芝にゃんの攻撃によって多くの犠牲者が出ているのである。猫なのにタチだ!


「この害獣が!」


 九郎の語気も荒くなりながら、現場に高速で飛行してアカシック村雨キャリバーンの鞘で殴りつけた。

 しかしその手応えは軽く、殴られる直前に飛び退いていて当たったと思ったのは、九郎の振るった鞘の軌道を逸らす程度に受け流したのである。

 

「電撃符!」


 飛び退いた猫に中空を走る電流を飛ばし、それは当たったように見えたが──少し光っただけで芝にゃんは平気そうに逃走を再会した。

 変態にすら通じない術符を九郎は罵る。


「本当に使えぬ符だな! また効かぬのか」

「いや、よく見たら片方の尻尾で受け止めて、もう片方の尻尾は地面に付いていた──尻尾の内部で電流を通して地面に流したから本体は平気だったのだよ!」

「そんな馬鹿な」


 だが、確からしい。ともあれ一筋縄ではない変態だ。

 平凡な変態がこの江戸に居るのだろうかという疑問は、難しく考えると嫌になるからやめたが。


「石燕は襲われぬように逃げておれ。海沿いならば己れも駆けつけやすい」

「わ、わかった……九郎くん、足手まといで済まないね」

「足手まといなどと思うものか。己れとお主はコンビだろう」

「……うん」


 少しだけ弾んだ声で応えて、石燕は海の方に逃げていった。

 そこならば変態が襲ってくる方向にも限りがあるし、遮蔽物が無ければ九郎もひとっ飛びで駆けつけられる。

 その間に芝にゃんを捕まえようと九郎は追跡を再会する。


 しかしそれから──


「海の中から芝にゃん!」

「わあああ!」  

 

「屋根の上から芝にゃん!」

「ぎゃあああ!」


「この戸棚は満員だぜ……芝にゃんでな」

「きゃあああ!!」


 と、石燕は逃げたり隠れる度に回りこんで来て襲われまくる羽目になるのであった。

 変態は一人だと云うのに、まさに妖怪めいた動きである。

 結局九郎が捕縛に成功するまで、一刻あまりも掛かってしまった。

 顔をボコボコに腫らした変態を番所に叩き込んで、汗を掻いた二人は一息ついた。

 石燕など座り込んだまま動かない。

 九郎は心配して、


「あー……石燕」

「……」

「チビッてないか? 大丈夫か?」

「ああああもう! お屋敷帰るー! 帰ってお酒飲んで寝るー!」

「す、すまん」


 へたり込んだ女に失禁したのではないかと声を掛けるのは、軽口ではあったがいかにもデリカシーに欠けていた。

 機嫌を損ねた石燕を、深くは追求せずに彼女の屋敷に飛んで送る。

 どうも気まずいので酒の相手はせず、九郎も家に帰るのであった。

 その夜石燕は風呂に入り、浴びるように酒を呑んだ……。




 ******




 翌日の夕方。

 九郎が店で昼寝をしていると、夕鶴が訪ねてきた。


「失礼するであります、九郎君」

「夕鶴か。どうした?」


 彼女は棒のような身体を折りたたむようにして座敷に座り、何やら困り果てた顔で九郎に云う。


「……実は石燕さんのことでありますが」

「あやつがどうした? まだ機嫌が悪いのか?」

「いや、口止めされているのでありますが……九郎君が自分に厳しい尋問をして明かさざるを得なかったことにして話すであります」


 彼女はわざわざそう前置きして、云う。


「どうも石燕さんは、九郎君に貰った財布を早速昨晩どこかに落としてしまったようでありまして……」

「なに」

「今朝起きて石燕さんはそれに気づいてから取り乱して、慌てて探しに出たであります。それでまだ帰ってきていないし、心配しているのでありますが……」

「そうか、教えてくれて助かった」

「なんでも財布には五十両も入れていたとかで」

「入れすぎだろ! そんなに落としたのか……ううむ」


 五十両とは現在の価値に換算して約500万円ぐらいである。

 持ち歩く金額では到底無い。

 九郎から財布を貰ったのが嬉しくて、革をならす為にも大量に突っ込んでいたのだろう。

 だが夕鶴や店員のタマなどはじっとりとした目で九郎を見て、


「金額の問題じゃないと思うんだけど……」


 と、呟く。朴念仁に溜め息混じりだが──


「知っている」


 そう応えて九郎は、刀を持って草履をつっかけ編笠を被り、早速芝へ向かったのであった。


 

 姿を消して空から見下ろすと、芝雑魚場で石燕はすぐに見つかった。

 この暑い日差しの中、真っ黒な喪服はとても目立つ。笠も被っていない彼女は、昨日二人で座っていた海沿いの長椅子に腰掛けているようだ。

 朝からずっと外に居たのであろうか。九郎は心配になって、近くに降り立ち彼女の好物の酒を買ってから近づいた。

 落ち込んでいるように俯いたままの石燕の隣に九郎は座りながら、自分の笠を彼女の頭に被せた。日光でとても石燕の黒髪は熱を持っている。


「石燕」


 呼びかけに、彼女は肩を震わせて小さく笑った。


「笑ってくれたまえ。折角九郎くんから貰った財布を、一晩で失くしてしまった」

「そうか」

「店の者に聞きまわってあたりを探し回ったのだがね……何せ魚河岸は一日で何千人もの人が来る場所だ……落ちているのを私が見つけられるぐらいならば、とうに拾われているだろう」

「だろうな」


 短く返事をして、九郎は用意した湯のみ二つの酒を注いだ。

 

「……自分が情けなくてね。九郎くんの助手だ何だとでしゃばった割には、役に立たず逃げまわった挙句に財布も落とす。どじで嫌になるよ……」

「己れが無理に危なっかしい現場に連れ出したのもあるからな、すまぬ」

「いや……九郎くんのせいじゃないよ。私、浮かれていたんだ……だから大事にしないといけない物を、忘れてしまって」

「どちらにせよ失くしたものは仕方あるまい。あまり気に病むな」


 彼女に湯のみを渡して、九郎は緩い顔で云う。


「財布のことは酒を呑んだときに見た夢だったとでも思うことにせよ。どうせ一日の愛着だ。中の金は勿体無いがな、代わりにまた今度、別の物を見繕っておこう」

 

 慰める為にそう告げるのだが、石燕は落ち込んだまま酒を一気に呷って、憔悴した目を曇らせて呟いた。


「そうかね……私は、手にしたものを夢だったと思いたくない。他の物で代用可能だと、思いたくない。それは悲観的なのだろうか……」


 ──石燕の気分は良くならずに。

 九郎はしおれた彼女の手を引いて、屋敷まで連れ帰るのであった。

 帰っても、九郎を誘わずに石燕は一人部屋で酒を静かに飲んでいた……。




 *****




「またあの鮫の財布が欲しい……と云われましても」


 九郎に鮫革の財布をくれた仲買の組合長は困惑して応えた。

 彼が再び訪ねてきて、芝にゃんを退治したのはともかくもう一つ同じ財布をくれないかと言い出したのである。

 しかしそう簡単には用意出来ない事情もある。


「あの鮫革は、特別製でして。興行に用意した大きさ二間(約3.7メートル)の巨大な葦切鮫よしきりざめを使っていたんですが、そうそう手に入らない大物なんですよ。

 実際手に入って、特注の大型生け簀に入れていて──まあどんどん弱っていくんですが、それだから鮫対巨女を急いで始めないといけないってんでお嬢さんを誘う手段が強行になっていたので」

「そうか……」

「普通手に入る鮫だとほんの小型で取れる革も少ないから刀職人に回されますからね……財布を作って貰ったのも始めてのことで」

「いや、無理は云うまいよ。すまんな」


 日本でも大型の漁船が出る明治頃までは、流通する鮫は近海に居る大きさも1.5メートル以内ばかりだったという。 

 大型の鮫などはむしろ江戸湾に近づいてきたら、鮫追いの舟を出して追っ払う対象であった。漁場を食い荒らされるからだ。

 偶然とれた大型の鮫だからこそ余分な革で作れた財布だったのだが……。


「ところで、お主ら雑魚場あたりに顔が利くならば、例の財布が付け届けられてたり、拾った噂が無いか聞いたら教えてくれ」

「はい」

「中に大金が入っていてな。もし中身も無事だったら拾った奴に十両やると云えば少しは探してくれるかのう」

「十両は普通に多すぎですよ。五両で十分」

「そうか」

 

 そうして、九郎は界隈の者に頼んで於いた。

 数日経過しても石燕はどうも調子が上がらずに屋敷に居るらしいことはお房から聞いている。

 この場合は九郎がどんな言葉を掛けても、むしろ逆に彼女は自虐的に捉えるだろうことは経験上知っていた。

 時間が解決するか、根本的な解決をするか。

 

「いっそ鮫でも取りに行くかのう」


 鮫を寄せる餌などを釣り好きの知り合いに聞こうかと思っていた矢先に。

 組合の者から連絡があった。




 ******




 鳥山石燕は躁鬱の気がある女だ。

 何かと躁状態になりやすいのであるが、地味に心の傷は蓄積していく。

 それが閾値を越えるとひたすら落ち込みだして中々浮き上がらない。

 最終的にはそれらの不安や悲嘆を抑圧して井戸の底に沈めるようにして見なかったことにし、表面上は元に戻る。

 だから引き篭もっているのも、精神の安定を図る彼女なりの精神治療なのであるが。


「石燕。入るぞ」


 がらりと襖を開けて入ってきた九郎は部屋に篭った酒の匂いに警戒していたのだが──その匂いはしなかった。

 てっきり酒を呑んでいるのかと思っていたのだが、バッドトリップを恐れて石燕は酒ではなく水を飲んでいたのである。

 

「九郎くん……」

「また不健康な顔をしおって」

「ごめんね」

「あ、いやすまぬ。謝らせようとしたのではないぞ。ええい、ほれ」


 口ごもりながら九郎は彼女の前に座って、懐から例の財布を取り出した。

 石燕は目を丸くする。


「浅い海の中に落ちていたらしいが、さすがに鮫革だな。少しばかり乾かす手間がかかったが問題はなさそうだ」

「見つかったのかね……?」

「己れが見つけたのではないが、棒手振りのかつと云う男が拾っていたらしくてな。まあ話を聞け」


 九郎は組合の者から聞いた事情を石燕に語る。


「その勝と云う男は財布を拾って中に小判がたんまりと入っていて驚いたらしい。こりゃあ暫く豪遊できると思って家に持ち帰り、友達を呼んで宴会をした。だが次の日の朝に起きると、この財布は家から消えていたのだそうだ。

 嫁に聞いてみると、そんな財布は知らない、酔って夢でも見ていたのではないかと冷たく返されてしまった。

 実際のところは嫁が夜中に財布を持ちだして、大家と相談して番所に届け出ることにしたのだな。何せ十両盗めば死罪であり、更に目立つ財布に入っていた金だ。下手に持っているとすぐに話は広まる。

 何より、夫が拾っただけの大金で堕落してしまうのを恐れたのだな。そうして番所から話が来て、己れが受け取ってきた。礼金として五両は渡したが、嫁は夫が更生するまでへそくりにするそうだ」

「ははあ……」


 落とした財布でそのようなことが起こっていたのだと伝えられて、石燕は唸った。


「と、云うわけで戻ってきたからな、お主の物だ」

「……いや」


 その財布を見ながら石燕は、少しだけ悲しそうな顔をして否定の言葉を出す。


「私の間抜けで失ってしまった財布だよ。それを受け取っても、また失くすかもしれないと思うとどうも……怖くてね」

「そうか? まあ、安心せよ」


 九郎は掌を向ける石燕の手を取って、財布を持たせる。


「今度失くしてもまた己れが──いや、お主も共に探せば良い。失くしたものを諦めたくないというのはその通りだな。だがこうしてひょんなことから出てくるかもしれぬから、見つからずとも気長に探そう」

「九郎くん……」

「それでも見つからなかったら、まあ笑って誤魔化すがのう。大体、そう難しく考えるな」

 

 肩を竦めて九郎はそう告げて、石燕に財布をしっかりと握らせて、渡した。


「可愛い石燕に、贈りたくなっただけだ」


 その言葉に、石燕は顔を赤くし口をあわあわとして、そっぽ向いた。

 頭が湯だつような感覚である。九郎の何も深い意味はなさそうな、緩い笑みが憎らしく思えるほどに。


「さて、財布が戻ってきたから祝に酒でも飲むか?」


 そう九郎に誘われたが──石燕は首を横に振った。


「いや、今日は酒は我慢しておくよ」

「ほう。珍しいな」


 彼女は頬を染めて少女のような微笑みを浮かべて、云う。



「だって、酒を呑んで見た夢にはしたくないからね」

 


 彼女の笑顔が戻ったことで、九郎は一安心して石燕の為に持ってきた酒を見せびらかすように呑み干した。


「真面目に聞きたまえよ九郎くん!?」


※石燕先生は少女

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