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ファブニル後半戦ー12

この会戦では『連合』軍に臨機応変な対応能力の欠如と各部隊の連携の悪さが目立ち、『共和国』軍はそれに随分と助けられた。だが最後になって、見事な連続攻撃を加えてきたのだ。


 (感心している場合ではないな)

 

 沈没艦こそ出なかったものの、被害はかなり深刻だ。武装の一部を破壊される程度ならまだいい方で、機関の一部を破壊されて一時停止を余儀なくされた艦も出ている。現時点で頼れる兵力がほとんど戦艦部隊しかいない状況で、その戦艦多数が損傷したのはかなり痛かった。

 

 


 「接近中の敵部隊に対しては、第18分艦隊を投入して迎撃に当たらせましょう」

 

 ノーマン・コリンズ主席参謀が進言した。それを聞いたミシェル・ポラック参謀長は何か言いたそうな表情を浮かべたが、結局は黙り込んだ。

 

 「その案を取ろう」

 

 ベルツは即答した。ポラックの逡巡の意味をベルツは理解している。第18分艦隊はこの場の『共和国』軍艦隊で唯一対艦ミサイルを残している部隊であり、敵に止めを刺すために用意されていた予備兵力だ。 この部隊を投入すれば敵艦隊の撃滅は不可能になる。つまりコリンズの提案は、国力に劣る『共和国』が得なければならないはずの完全勝利の放棄を意味する。

 

 だが他に方法はない。戦艦部隊と補助艦艇部隊は大きく傷つき、空母部隊は遥か後方、敵の迎撃に当たることが出来るのは第18分艦隊だけだ。

 



 ベルツの命令を受け、第18分艦隊は突出してきた『連合』軍2個分艦隊の迎撃に向かった。一個分艦隊と二個分艦隊では明らかに不利だが、第18分艦隊には空襲の被害が軽微なもので済んだ戦艦部隊の一部が臨時編入されている。総合的には敵艦隊に十分対抗できる戦力のはずだ。

 

 一しきり荷電粒子砲のビームと対艦ミサイルが虚空を交差し、両軍の隊列の内部に直撃の閃光が走る。第18分艦隊は何とか敵を撃退し、多大な損害を与えて潰走させたが。

 


 (もう無理だな)

 

 ベルツは内心でそう思っていた。先の戦闘で第18分艦隊もまたかなりの被害を受け、対艦ミサイルも撃ち尽くしてしまった。一応隊列を保ってはいるが、『共和国』全軍の戦闘力は尽きかけている。

 巡洋艦や駆逐艦はミサイルを撃ち尽くし、戦艦の多くは航空攻撃で損傷、空母艦載機のうち出撃可能なものはほとんどない。『連合』軍が反撃してくれば、返り討ちに合う危険すらある。

 

 一方目の前の『連合』軍は僅か600隻弱の小兵力に落ちぶれてはいるが、秩序を保ったまま後退を続けている。しかも彼らの主力兵器である戦艦主砲は、ミサイルと違ってほぼ無制限に発射する事が出来る。このまま戦闘を続ければ、『共和国』軍の被害ばかりが大きくなる事が懸念された。

 もともと『共和国』軍はミサイル攻撃に特化した編成を取り、砲撃戦はあまり得意ではない。その事は実戦でも証明されているし、こちらの戦艦がほとんど傷物になっている現状ではなおさらだ。

 

 「損傷艦を後退させよ。戦闘能力を残した艦は後退を援護すべし」

 

 ベルツは事実上の戦闘中止命令を出した。この状況でこちらが全滅するリスクを冒してまで、敵艦隊の殲滅を目指す必要はない。相手も後退を望んでいるなら行かせてやろう。



 


 


 「敵艦隊、追撃を停止しました」

 「何とか助かったか」

 

 『連合』軍第二統合艦隊臨時指揮官のダニエル・ストリウス中将は安堵の息を吐いた。各艦の戦闘力自体は敵より残っているかもしれないが、このまま戦いを続けて勝てたとは思えない。

 艦隊運動の能力が違い過ぎる上に、こちらは3個艦隊の壊滅とその後の追撃戦で将兵の士気もどん底まで落ちている。敵の指揮官が追撃を断念したのは天祐としか言いようがないとストリウスは思った。

 

 安堵もつかの間、屈辱と後悔と不安がストリウスの胸を焼いた。どう言い繕おうと、この戦いは『連合』の敗北だ。8個艦隊、2000隻近い艦船を投入した挙句、数的には劣る敵によって返り討ちにされた。 しかもだまし討ちを食らったわけでもなく、正面からの決戦で惨敗を喫したのだ。この一世紀における『連合』宇宙軍最悪の敗北と言えた。

 

 旗艦ユーフラテスの周囲には、出撃時と比べて激減した艦船が集まっている。それは旗艦を守る動きというよりは、単なる集合本能の表れに見えてならなかった。

 なおひどい損傷を受けた艦は意外に少ない。そのような艦は戦場に取り残されてしまったのだろう。最終的な損害、中でも完全損失した艦がどれだけいるかは考えただけで恐ろしかった。


 



 「本国に打電、我に天祐なし。第二統合艦隊は奮戦するも、兵力の6割を喪失。惑星ファブニル周辺の制宙権確保は望みなしと判断」

 

 遠ざかっていく惑星ファブニル、『連合』のフロンティアとなるはずだった豊かな惑星を見ながら、ストリウスは通信科に命令を出した。

 「兵力の6割を喪失」というのは大袈裟な表現では全くない。現にユーフラテスの周囲にいる艦船の数は、出撃前の1/3にも達していないのだ。無論他のルートで撤退した艦も多いにせよ、帰還率が50%を上回る事は考えにくかった。

 

 


 「第六十二分艦隊より通信が入っております」

 

 思わぬ報告が届いたのはその時だった。第六十二分艦隊は戦闘終盤で敵艦隊に果敢な航空攻撃を敢行した、ケネス・ハミルトン少将の部隊だ。

 ストリウスはすぐに回線を繋ぐよう命じたが、実際には数分の時間がかかった。旗艦ユーフラテスと第六十二分艦隊旗艦オンタリオでは、通信機の規格が異なるためだ。ストリウスにとってみれば、『連合』軍の指揮系統の問題点を、敗北後も確認させられた格好だ。

 

 ようやく画面に現れたハミルトン少将は尚も意気軒昂そうだった。海賊の頭目を思わせるいかつい顔にはめ込まれたどんぐり眼には、強烈な闘志の光が残っている。ストリウスは少しだけ救われた気がした。惨敗の後でも、闘志を失わない者はいるのだ。

 

 「司令官代理閣下。我々に復讐戦の機会が与えられるのはいつですか?」

 

 ハミルトンは宇宙軍の高級将校というより陸戦隊員のような筋肉質の巨体を誇示するように仁王立ちになりながら、ストリウスに質問してきた。

 

 「そうだな。今回の被害の回復には少なくとも半年はかかる。本国に残っている兵力を投入すれば、今一度の戦いは可能かもしれないが」

 

 ストリウスは言葉を濁した。第二統合艦隊は大損害を受けたものの、『連合』にはまだ15個艦隊、3000隻以上の第一線級艦艇が存在する。だからもう一度今回と同じ規模の戦いを行うことは不可能ではない。


 (だが問題は、政府の連中がそれを認めるかだ)

 

 ストリウスはそう思っていた。ファブニル星域会戦は『連合』の方が「若干」多い兵力で行われたが、本来の国力差を考えればこんなことは有り得なかった。

 『連合』の常備兵力は22個艦隊。対する『共和国』は最近まで10個艦隊で、最近の軍拡で増えたといっても16個艦隊。しかも無理な建艦政策と政治的に疑わしい軍人の粛清、『共和国』ー『自由国』戦争での消耗のせいで、その一部は乗組員の数が足りないという話だ。

 つまり『連合』軍は圧倒的な戦力で『共和国』軍を押しつぶすことも可能だったはずなのだ。

 

 それが何故ほぼ同じような兵力で戦う羽目になったかというと、政府が『大内戦』のトラウマからか、艦隊の大部分を『連合』の政治的中心地であるリントヴルムや、精神的な中心地である地球に止めたせいである。

 もっとも、首都防衛部隊の腐敗を考えれば、彼らがやって来ても大した戦力にはならなかったという見方もあるが。

 

 「そうですか。それは心強いですな。新鋭のガリラヤ級空母も就役するころでありますし」

 

 ストリウスの内心を知る由もないハミルトンは、そんな言葉を口にした。いや実際には全て分かって言っているのかもしれない。敗戦で意気消沈する司令部幕僚の気分を盛り上げようとして。昔から外見の印象に似合わず、神経に細やかなところがある男だった。

 

 「バラグーダ戦闘機も昨年試作機が飛行しましたし、今度こそ『共和国』軍に勝って見せますよ」

 「分かった。貴官の闘志は貴重なものだ。私としても、貴官が空母部隊の指揮を続けられるように努力する」

 

 言いながらもストリウスはどこかで虚しさを感じていた。そうではない。そうではないのだ。いくら新兵器が配備されようと、今の『連合』軍ではどうしようもない。高級指揮官のほとんどを財閥の係累が占め、国家全体の利益ではなく個々の財閥の利益に従って動くような軍隊に何が期待できようか。

 更なる問題がある。『連合』の現政府はおそらく、『共和国』のクラーク独裁政権にも劣る支持しか受けておらず、しかも国土の掌握度は比較にならない程低い。

 『連合』の巨大な国土はその軍隊の力によって何とか、分離独立や外国からの蚕食を防いでいる状態だ。ファブニル星域で軍が無力を露呈した今、かなり高い確率で何らかの反乱が発生するだろう。

 

 中でも可能性が高い集団とその長の顔を、ストリウスは思い浮かべた。グアハルド大将やストリウスが勤務していた辺境宙域では、その地の財閥及び「彼ら」がほぼ完全に政権を掌握し、政府から派遣された役人はその事に見て見ぬふりをしていた。

 あるいはそれも…悪くはないかもしれない。ストリウスはそう思い始めていた。








 『連合』宇宙軍主力の戦場からの退去を以て、それまでの人類世界で最大の宇宙戦闘であるファブニル星域会戦は、『共和国』の勝利と言う形で幕を閉じた。

 

 敗北した『連合』宇宙軍は最終的な集計によると、投入した戦闘艦艇1922隻のうち、1152隻を撃沈ないし鹵獲されるという惨状を呈していた。

 部隊を構成していた8個艦隊のほとんどは戦力を分艦隊レベルまで減らしており、戦力再建には途方もない時間がかかる事が予想された。生き残った将兵の一部は戦闘神経症に陥り、『共和国』軍艦から放たれた恐るべき対艦ミサイルの雨を思い出しては恐怖に震えていた。

 

 一方の『共和国』宇宙軍もまた、手ひどい損害を受けていた。

 沈没ないし放棄を余儀なくされた艦の数は269隻に上り、沈没には至らずとも大きく損傷した艦も同じ位存在した。『共和国』は後にこの戦いを「我が国の一方的勝利」として喧伝するが、実態としてはむしろ「肉を切らせて骨を断つ」に近いものがあった。

 

 艦隊の後方にいた病院船は予想をはるかに上回る数の負傷者を受け入れた事で大混乱に陥り、治療の甲斐なく死亡した将兵の遺体はそのまま宇宙空間に捨てられていた。

 普通は艦内の冷凍庫に収容して故郷に輸送するか、少なくとも簡易的な葬儀を行うのだが、そのような事をする余裕が無かったのだ。

 

 病院船との合流もままならず、助けられるはずの将兵多数を失った『連合』軍に比べれば、『共和国』軍の状況はかなりましではあったのだが。

 

 

 またこの戦いから、両軍はそれぞれに戦訓を導き出していた。

 

 『連合』宇宙軍は通信能力の不足と複雑な指揮系統、及び戦艦とそれ以外の艦の速度差が敗因であると位置づけた。ダニエル・ストリウス、ディーター・エックワート等の高級将校たちは、これらの問題の改善と復仇を誓いながら、惑星ファブニルを後にしていた。

 


 勝利した『共和国』宇宙軍もまた、戦闘結果に慄然としていた。奇襲と長射程ミサイルの利によって敵艦隊を一方的に撃破するはずが、実際には何としても避けたかった正面からの殴り合いを行わざるを得なかったからだ。

 そして事前の予想通り、『共和国』宇宙軍は砲撃戦においては『連合』宇宙軍が誇る戦艦部隊に手も足も出なかった。敵戦艦への強襲を行って甚大な被害を受けた補助艦艇部隊からは、「艦の防御力の不足、及び戦艦部隊の支援能力の不足」に対する報告が多数寄せられ、上層部は対応を迫られる事になる。

 


 ともあれ、双方の宇宙軍にとっての戦いは終わりを遂げつつあったのだが、会戦は完全に終結した訳では無かった。第1艦隊群本隊とは別行動を取っていた偵察巡洋艦オルレアンの乗員は、その事を思い知る事になる。


今回で「ファブニル星域会戦」は一応終了となります。次回からはサブタイトルが「第二次救世教動乱(仮題)」となりますが、今後も本連載にお付き合い頂ければ幸いです。


7/3 その後少し予定が変わりました。「ファブニル星域会戦」がもう少し続きますが、ご了承ください。

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