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フルングニル再戦ー5

 結果から言えば、ギルベルトの心配は杞憂だった。変針が命じられたのは敵空母が全く別の場所にいたからでは無かった。敵空母は予想より僅かにずれた位置にいただけだったのだ。

 それだけではない。

 

 (ほう、これは)

 

 対艦攻撃隊の指揮官は目の前の光景を見て、自らの幸運が信じられない思いだった。巨大な空母がほぼ停止状態で虚空に浮かんでいる。

 予想位置が実際の位置と僅かに違っていたのは、敵空母の停止を考慮しなかった為のようだ。

 


 そして空母の巨体には、スピアフィッシュの群れが纏わりついていた。直衛機ではない。着艦を待つ帰還機だ。

 『共和国』軍攻撃隊は敵機を尾行したお陰で、着艦作業中の敵空母を攻撃する機会を得たのだ。

 



 「全軍突撃せよ。ここで外したら末代までの笑い者だぞ」

 

 各航空隊の隊長が興奮した口調で部下を鼓舞する。

 その言葉通り、着艦作業中の空母は、対艦攻撃機にとってこれ以上ないほどに仕留めやすい相手だ。着艦中は回避運動ができないし、周囲の味方機を誤射する危険があるので、対空砲の射界も制限される。

 

 相手も窮状に気づいているのか、保用機を無理やり組み立てたと思しき直衛機が、編隊もまともに組まないまま向かってくる。その中には、着艦を行おうとしていた機体まで幾らか混ざっていた。

 


 だが所詮は無駄なあがきだった。『共和国』軍はかなりの犠牲を払いながらも、『連合』側の防空網を突破した。そこで今更数十機のスピアフィッシュが現れても大勢に影響は無い。

 

 



 必死の抵抗を受け流しながら、『共和国』軍の攻撃隊は40隻ほどの空母群に接近していった。

 空母は戦闘艦艇と違って、ずんぐりとした箱型のシルエットを持つ。その空母に向かって対艦攻撃機の大群が突っ込んでいく様は、家畜に飛び掛るコヨーテの群れのようだ。

 敵空母が停止中であることが一層、無力な鈍牛という印象を強めている。

 


 だが空母は家畜と異なり、無抵抗の獲物では無かったし、周囲には「番人」が存在した。『共和国』軍のパイロットたちはすぐにその事実を思い知ることになった。

 空母の周辺から驟雨を思わせる光の束が放たれ、攻撃隊に襲い掛かったのだ。いうまでも無く、空母を護衛する巡洋艦や駆逐艦から放たれた対空砲火である。

 軍艦の対空火力強化は『連合』軍も行っているらしく、十数機の『共和国』軍機が瞬時に爆散した。

 




 (ASM-15pが間に合っていればな)

 

 対空砲による被害を見ながら、『共和国』側のパイロットの何人かは舌打ちした。

 

 ASM-15pはASM-15の弱点だった反応炉の安定性を高めた新型対艦ミサイルである。

 性能的には元のASM-15とあまり変わらないが、特筆すべきは専用の格納設備が不要になり、空母の格納庫のような場所でも保管と整備が出来ることだ。

 このミサイルが完成すればこれまで不可能だった、敵対空砲の有効射程外からの航空攻撃が可能になるはずだった。

 


 だがASM-15pの開発は難航しており、現時点ではただの無いものねだりに過ぎない。『共和国』軍機は有効射程や威力の面でかなり見劣りがする、ASM-16を使って対艦攻撃を行わざるを得なかった。

 

 パイロットたちが唇を噛む中、空母の手前から巨大な影が幾つも現れ始めた。今まで空母の周辺にいた巡洋艦と駆逐艦が、攻撃隊と空母の間に入るように針路を変えたのだ。

 まるでわが身を盾にして、空母を守ろうとしているかのようだ。

 



 「何?」

 

 その次に起きた出来事を見て、『共和国』側のパイロットたちは顔色を変えた。敵の対空砲火の密度が明らかに向上し始めたのだ。

 

 驟雨を通り越して豪雨と化した光の束は巨大な壁のように立ち塞がり、そこに突っ込もうとした『共和国』軍機を片っ端から撃ち落としていく。

 先程『共和国』軍の艦隊を襲った『連合』軍攻撃隊に起きた惨事が、互いの立場を逆にして再現されているようだった。

 


 「そういうことか!」

 

 攻撃隊指揮官は舌打ちした。巡洋艦と駆逐艦の移動の意図に気づいたのだ。


 『共和国』側は今まで、護衛艦が移動してきたのは空母の盾になる為だと思っていた。

 こちらに迂回もしくは正面攻撃を強要して時間もしくは戦力を空費させ、空母への攻撃圧を弱めるのが彼らの狙いであると。

 


 だがそうでは無かった。彼らは対空火力を全力で指向するために移動したのだ。

 

 敵空母部隊は現在、攻撃隊の収容作業を行っている。つまり空母は自由に針路と速度を変更できず、その周囲には燃料切れ寸前の機が大量に存在するということだ。

 この状況では、護衛の巡洋艦や駆逐艦は満足な対空戦闘が出来ない。下手に全力で射撃を行えば、周りの味方まで撃ってしまう可能性があるからだ。

 


 だから護衛艦群は空母と攻撃隊の間の位置に移動してきた。その位置なら思う存分対空砲火を展開し、『共和国』軍攻撃隊を叩き潰すことが出来るからだ。


  

 「急げ! 奴らが展開を終える前に叩き潰すんだ!」

 

 各指揮官たちは絶叫した。

 敵空母を撃沈する千載一遇のチャンスは急速に萎んでいるが、まだ完全に手が届かなくなったわけではない。

 敵護衛艦艇は迎撃態勢を整えきっておらず、空母は着艦作業を続行したままだ。対空砲火は強力になっているが、敵空母が無防備という状況自体は変わっていないのだ。

 

 逆に言うと、ここで手をこまねいていれば機会は永遠に失われてしまう。ここは若干強引な手を使ってでも攻撃をかけるべきだと、各位の指揮官やパイロットたちは本能的に判断していた。

 



 自らの言葉に鼓舞されたかのように、『共和国』軍機たちは対空砲火の中に突っ込んでいった。

 流星群を思わせる宇宙航空機の航跡と対空砲火の網目が交差し、時折発生する被撃墜機の爆散が華を添えていく。

 

 


 「致命傷ではないな」

 

 『共和国』軍機は次々と対空砲火によって撃墜されていくが、指揮官たちは敢えて笑みを浮かべた。

 開戦前に比べれば強化されている『連合』軍の対空砲火だが、その改善幅は『共和国』軍に及ばない。 

 砲火の密度はともかく精度において、『連合』軍の対空火力は『共和国』軍と比べて明らかに劣っていた。

 


 或いは『連合』軍は大規模な航空攻撃を好む一方、自らが空襲を受ける可能性についてはあまり考えたことが無かったのかもしれない。

 『共和国」宇宙軍の航空戦術は基本的に防御主体であり、空母部隊を攻撃的な用途に用いたことは少ない。そのため『連合』軍が防空に対する投資をあまり真剣に行わなかったということは、十分に考えられる。

 


 『共和国』軍のパイロットたちが会心の笑みを浮かべる中、戦場には今までとは違った色彩の光が発生し始めた。

 攻撃隊の先鋒が『連合』軍の巡洋艦、駆逐艦に向かって発射したミサイルが命中し始めたのだ。


 ミサイルを食らった艦は最低でも戦闘力を大きく削り取られ、多くは機関出力の低下によって隊列から落伍していく。

 中には致命部にミサイルを食らったのか、轟沈する艦の姿もあった。


 それに合わせ、初めは鉄壁に見えた対空砲火も、砲数の減少によって次第に疎らになり、豪雨から細雨に変わっていく。その間を『共和国』軍機は軽やかにすり抜けて言った。

 



 「よし!」

 

 『共和国』軍攻撃隊パイロットのほぼ全員が歓声を上げた。空戦と対空砲火で攻撃隊は戦力の4割近くを失ったが、その犠牲は決して無駄ではなかった。

 今目の前では着艦作業中の空母という、パイロット垂涎の目標が無防備に立ち並んでいる。

 


 「突撃!!」

 

 まだミサイルを残している『共和国』軍機は、命令というより激励のような絶叫とともに、最大速力で空母に突っ込んでいった。


 空母自身の対空砲火が疎らながら展開し、周囲には新手のバラグーダも迫っているが、誰も気にしている様子は無い。パイロットたちの意識はただ、空母撃沈の戦果を上げることに集中していた。

 



 ミサイルをぶら下げたPA-25、および少数のPA-27の大群が、ダム決壊後の奔流のような勢いで敵空母に向かっていく。やがて空母の艦上に、明らかに対空砲の発砲とは異なる光が連続して出現し始めた。

 

 

 








 「第二航空打撃群が壊滅した?」


 この場の『連合』宇宙軍における総指揮官を務める、ダニエル・ストリウス元帥はその報告に耳を疑った。

 

 ベルトランド・パレルモ中将の指揮する第二航空打撃群は、装備機が旧式のスピアフィッシュで、護衛艦艇も旧式艦が多かったのは確かだ。

 しかしそれでも、合計4000機以上を運用できる強力な空母部隊だ。その部隊が一撃で壊滅する等、まず有り得ないことだと思っていたのだが。

 


 「事実です。第二航空打撃群は空母21隻が沈没、残りも全てが損傷する被害を受けました。そのうち発着艦可能な空母は4隻のみであり、組織的な戦闘は不可能です」

 

 旗艦が通信不能になったパレルモに代わって画面に出たケネス・ハミルトン大将は、力なく報告した。 

 普段は海賊の頭目のような威風堂々たる雰囲気を漂わせている男だが、厳つい顔にはいつにない沈痛な表情が浮かんでいる。

 



 「我が隊はひとまず、第二航空打撃群と合流します。取りあえず、着艦不能になった艦載機をパイロットだけでも回収しなければ」

 「待て。いったい何が起きたのだ? 何故、第二航空打撃群は一撃で壊滅した?」


 ストリウスはハミルトンを詰問した。パレルモ中将を第二航空打撃群司令官に推薦したのは、他ならぬハミルトンだ。

 そのパレルモが犯した失策については、彼の口から説明を聞きたいところだった。



 「パレルモ中将の責任ではありません。不運、そして敵が一枚上手だったということです」


 ハミルトンが起きたことを手短に述べた。『共和国』軍は賭けに出た。『連合』側の攻撃隊の接近を確認した時点で、彼らは格納庫内の攻撃隊を全て発艦させたのだ。


 攻撃が空振りに終わればその時点で空母部隊が戦術的に無価値になってしまう危険な行為だが、空母の格納庫内で機体が破壊されるリスクと天秤に掛けた結果、『共和国』軍は敢えて即時発艦を選んだらしい。


 そしてその賭けは、『共和国』軍にとっては高額の配当を、『連合』軍にとっては悪夢をもたらした。 

 『連合』側の迎撃を皮一枚の差で突破した攻撃隊は着艦中で身動きの出来ない空母を攻撃し、その殆どを撃沈破してしまったのだ。

 敵が従来のPA-25だけなら何とか耐え切れたが、初見参の新鋭機が混ざっていたことで、防空隊及び護衛艦は空母を守りきれなかったのだという。



 「これで我が軍の空母戦力は半減、いや実質的にはほとんどが戦闘不能か」


 説明にひとまず納得したストリウスは唸った。敵新鋭機の威力と不運、どちらがより大きな役割を果たしたかは今のところどうでもいい。

 問題は2個航空打撃群のうち1つが消えてしまったことだ。各艦隊にも一応、防空や警戒を担当する空母が少数付いているが、これらを攻撃の為に投入するのは危険すぎる。



 「敵の航空戦力にも重大な打撃を与えています。何より、第一航空打撃群はまだまだ戦えます」

 「戦えるというが、もはや大規模な攻撃隊は出せまい。第二航空打撃群の残存機を回収している間に、戦闘が終わってしまうのではないか」


 空母が戦闘不能になったという言葉を聞いて心外そうに反論したハミルトンに、ストリウスはそう指摘した。

 辺境部隊の司令官をやっていた時に、空母部隊の運用についても一応は学んでいる。その知識が第一航空打撃群の戦闘続行は不可能だと言っていた。



 ハミルトンの第一航空打撃群は確かに、画面上では生き残っているように見える。被害は航空機の消耗のみで、軍艦は全て無傷だからだ。

 また航空隊も致命傷を受けた訳では無く、帰還機の機数だけを見れば十分に次の攻撃隊を出せる。

 

 しかし第一航空打撃群にはただ1つ、足りないものがあった。時間である。


 第一航空打撃群は攻撃隊の着艦を終えたばかりだ。しかもこれから、第二航空打撃群の所属機まで回収しなければならない。

 そんな事をすれば格納庫と発着甲板が艦載機で溢れかえってしまい、新たな攻撃隊の出撃どころでは無くなるはずだ。ストリウスは既に、今回の戦いにおける第一航空打撃群を戦力の帳簿から外していた。




 「いえ、格納庫に着艦した機体を運び込んで時間を浪費することはしません。そのまま発着甲板から機体を捨てて、パイロットのみを回収します。同時に格納庫で攻撃隊の準備を行えば、もう一度攻撃隊を放つことは十分に可能です」


 ハミルトンは既に沈痛な表情を消し、凄味のある笑顔を浮かべていた。「このままでは終わらない。何としても敵にもう一撃を食らわせる」、そんな闘志が感じられる表情だ。


 「その手があったか」


 ストリウスは膝を叩いた。

 攻撃隊の準備において、飛行甲板を塞ぐ邪魔な艦載機は捨ててしまえばいいという発想を、他ならぬ空母部隊のベテラン指揮官が行うとは思わなかった。

 だが考えてみれば合理的な戦術だ。戦場に投入できる2000機の艦載機は、戦場に投入できない4000機と比較して無限の価値を持つ。

 もちろん多数の艦載機を破棄するのは損失だが、それに見合う戦果を上げれば十分な補いは付くだろう。



 「攻撃隊の発進時間と攻撃目標については貴官に一任する。『共和国』軍に一泡吹かせてやれ」


 ストリウスはハミルトンを激励して通信を切った。双方の空母部隊が相手に大打撃を与えた後、航空戦は一旦下火になっている。後は艦隊戦だった。










 ディートハルト・ベルツ元帥は複雑な表情で、空母部隊からの報告を受け取っていた。

 

 入電によれば戦果は「空母50隻以上、撃沈確実」となっている。戦闘中につきものの誤認や過大報告はあれど、攻撃隊が大戦果を上げたのは事実だろう。


 しかしその代償として、『共和国』側の攻撃隊もまた壊滅した。攻撃を成功させた直後、もう一群の敵空母部隊から発進したバラグーダの大群に襲われたのだ。

 帰還機は総数の5割を切っており、その中で使用不能な機体は更に少ない。『共和国』軍が万を持して送り出した航空隊は、結果的に敵空母と刺し違える形になったのだ。


 

 「既に発生した損害のことを気にしても仕方がありません。とにかくこれで、わが軍は航空優勢を確保しました。敵空母が活動を再開する前に勝負を決めましょう」

 

 ノーマン・コリンズ首席参謀が、戦闘指揮所内の微妙な空気を振り払うように言った。死者を悼むのは遺族がやればいいことであり、前線にいる軍人がやるべきことでは無いと言いたいらしい。

 言い方はともかく正論であることは、誰も否定できなかった。


 「敵の推定数は2200-2700隻か」


 次にミシェル・ポラック参謀長が唸った。最初から分かっていたこととはいえ、『共和国』軍は数的劣勢下にある。

 航空戦の結果は引き分けないし辛勝といった所だが、艦隊戦がどうなるかは全く持って楽観できなかった。



 「戦術は第3案を採用しましょう。輸送船にこれ以上の被害を出さないためには、こちらから仕掛けるしかありません」


 一方コリンズの方は、そんな危惧とは全く無縁の口調でこれからの戦術について提案した。少なくとも敗北主義者では無いという点では、コリンズは軍人としての資質を満たしていると言えるだろう。

 

 「それで行くか」

 

 ベルツは複雑な感情を飲み込みながら頷いた。コリンズが主張する第3案は、敵が輸送船団を射界に入れる前に艦隊が急進し、船団手前で撃破するというものだ。


 この案は『共和国』側が敵艦隊を早期に発見している状況でのみ可能だが、航空優勢を獲得したお陰で条件は満たされた。

 偵察機を自由に行動させることが出来る『共和国』軍は、敵艦隊が船団に到達する遥か手前で、その位置と針路を掴むことが出来たのだ。



 少なくともこの点において、航空戦は『共和国』軍の勝利だったかもしれない。

 敵空母部隊が健在なら、『共和国』軍は偵察機を満足に行動させることが出来なかった。多大な犠牲と引き換えに敵航空戦力を半減させたことで、『共和国』軍は情報上の優位を得たのだ。

 お陰で『共和国』軍は船団に張り付いた状態での防御戦ではなく、本領である機動戦を戦うことが出来る。



 ただし第3案には欠点もある。敵に別働隊がいた場合、艦隊戦の勝敗如何に関わらずこの作戦が『共和国』の敗北に終わってしまうことだ。

 本来船団を守るべき艦隊が、その船団から遠く離れた場所で戦うというのはそういうことである。



 だがそれでも固着防御で戦力を無益に消耗するよりはましだとベルツは判断していた。戦いに敗れれば、どの道船団は敵艦隊の餌食になってしまう。

 それならば、少しでも勝利の可能性を高くする方が作戦目的の達成に資するはずだ。











 リコリスの白衛艦隊は地球時代初期の基準で言えば名誉ある、ありていに言えば危険極まりない位置を進まされていた。全体の最前部、最も先に敵と接触し、最も逃げるのが難しい位置である。



 「失っても惜しくない部隊を先に進ませて様子を見る。全く以って合理的な戦術ね。わが軍の首席参謀殿の知性に衰えが見られないようで何よりだわ」


 リコリスは各艦隊の配置を決めたであろう人物、ノーマン・コリンズ首席参謀の端正な顔を思い出しながらぼやいた。

 

 白衛艦隊は半個艦隊という、主力の一角としては過小で、単なる前衛としては過大な戦力を持つ。

 またその乗員は大半が元『連合』軍捕虜と、6年前のアクリス将校団陰謀事件に関わった『共和国』軍人で構成されている。『共和国』軍上層部にとっては非常に扱いにくい部隊だ。



 そこでコリンズは、白衛艦隊を一種の威力偵察部隊として使う事にしたのだろう。

 内情が何であれそれなりの規模を持つ『共和国』軍部隊が向かってくれば、『連合』軍としては対応策を取らざるを得ない。

 つまり『共和国』側としては、敵の配置や手のうちを把握する機会を得られるという事だ。



 そして敵艦隊主力が白衛艦隊に吸い寄せられた時点で、かつてのフルングニル星域会戦で勝敗を決した重層同時打撃をかけ、敵艦隊全てを撃破する。それがコリンズの狙いだ。

 士官学校の同期として、リコリスにはその考えが手に取るように分かる。




 他の艦隊が白衛艦隊のずっと後ろを進んでおり、どう見ても援護する姿勢が見られないのもそのせいだろう。

 白衛艦隊は敵主力を出来るだけ多く引き付けるための囮であり、勝利ではなく孤軍奮闘を期待されているのだ。



 『連合』人と『共和国』人が混ざっている白衛艦隊幕僚たちもその事実に気付いているらしく、皆が一様に青ざめた顔をしていた。

 これがチェスなら捨て駒はしばしば妙手として称賛されるが、現実世界で自分たちが捨て駒として扱われることに納得できる人間などいないのである。



 かと言って命令無視も降伏も出来ないのが、白衛艦隊の立場だった。

 命令無視は軍令違反として厳罰に処されるし、降伏に至っては論外だ。白衛艦隊将兵は『連合』にとっては、祖国を捨てて敵国の走狗となった裏切者だからだ。

 それが今更悔い改めたと言っても信用されるはずが無い。白衛艦隊に入隊した時点で、その将兵たちは最後まで戦い続けることを強いられているも同然だった。



 この降伏できないという事実をも見越して、コリンズが白衛艦隊に囮役を割り当てたなら見事なものだ。リコリスは半ば本気でそう思う。

 参謀として重要な資質の1つに、前線部隊の逃亡や降伏等の想定外を最小化する能力が挙げられる。どんなによく出来た計画でも、前線部隊が勝手な動きをすればその時点で破綻するからだ。

 最も逃亡や降伏が予測される位置には、最もその手の行動を取りにくい部隊を置く。全くもって賢明な処置と言えた。



 だがリコリスにはもちろん、チェスの駒の1つに甘んじる気は無かった。白衛艦隊に与えられた命令はあくまで、「敵艦隊に脅威を与えよ」であって、「敵艦隊の内部に突入して玉砕せよ」ではない。

 流石にそんな命令を出せば、自暴自棄になった将兵が反乱を起こすかもしれないからだ。



 リコリスはこれを最大限に利用してやるつもりだった。命令には「脅威を与える」為の手段は明記されていない。ならばコリンズが望まない方法を採っても、命令違反には当たらないのである。



 もちろんそうすれば『共和国』側の計画は狂う訳だが、その程度は上層部が調整すればいいとリコリスは思っていた。

 白衛艦隊は別に利敵行為を行う訳では無く、命令の範囲内で命令者の暗黙の意図とは異なる行動を取るに過ぎない。

 

 つまりは司令部が予め想定しておくべき展開を作るだけであり、そのせいで負けるほど、コリンズは無能では無い筈だ。

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