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私の家族

残念ながら乗馬は、テオリオの乗馬服が準備できて居なかったためまた今度という事になった。


わざわざ来てもらったのだからと、タイロン家三人は今日はゲストルームに泊まることとなり使用人に案内をされていくと……


「ねえ、エヴィ。少し散歩をしないかしら?」


「…構いませんよ。でも、テオリアには変なことを聞いたりしないでくださいね」


「あら、愛する息子の事を知りたいと思うのは当然でしょう?」


楽しそうに笑う母上の手を取って、エスコートをする。どうやら目的地は外らしく庭園を二人で歩いていく。


………初めてであった頃から華奢ですぐ壊れてしまいそうな母上だったが…今は私より身長も低いため、より一層その気持ちが強くなった。


実際は昔よりも心も身体も健康になっているはずなのに、私の中で母上はいつまでも守らなければならない女性だ。


「どこに行くのですか?」


「ふふ、あちらよ」


庭園を半分ほど歩くも、まだまだ目的地が分からない。


「それにしてもエヴィは大きくなったわねえ。魔法も得意なんですって?」


「得意と言えるのは火魔法くらいですよ」


「あら、じゃあ冬場の暖炉はあなたに任せようかしら?」


「私は薪の代わりですか」


「しょうがないわねえ、私が寒くなったら抱きしめるというお仕事も命じるわ」


「それは光栄ですが、父上に恨まれそうなのでやめておきます」


「あら、あの人には抱かれ飽きたわ。わたくしは可愛い子供たちに抱きつかれたいわ」


穏やかな顔で、穏やかな声だったため初めは気づかなかった。

けれど…庭園が終わり、整備されてるとはいえ林の中に足を踏み入れると血の気が引いた。


「母上、こちらは石畳が敷かれていないので靴が汚れますよ」


「あら、エヴィがそれを気にするなんてね?小さな頃はエセルと一緒に泥だらけになって居たのに」


ふふふ、と楽しげに笑う母の様子はいつも通りだ。

……だが、この先は……母上……もしかして…。



「花壇の花を沢山ちぎって怒られたりもしたわね」


「………」


「エセルはよく抱きついて来たけれどエヴィはいつもなかなか来てくれなくって…何度わたくしが捕獲したかしら?」


「………」


石畳は敷かれてないものの……定期的に人通りがあるこの道は、地面が踏み固められているので足を取られることは無い。


木々の間から漏れてくる光が赤色に変わると……開けた場所に到達した。

私は、そこを知っている。


何度も、何度も兄上と父上と……一人でも、来た。

庭園の庭の花を積んできた回数はもはや数え切れない。



開けた場所には夕陽が差し込み、そこに咲く花々と……墓標を赤く染めあげていた。


「おまたせ、あなた」


「ああ。大丈夫か?」


「エヴィがエスコートしてくれたから歩きやすかったわ」


『イブリンデの宝』


そう墓標に刻まれたここは……本物のエヴィルレーラのお墓だ。


そこには兄上も父上も居て、私から父上へとエスコートが変わると母上は私に背を向けて父上の手を取ってピッタリと寄り添った。


そして、墓標の前に兄上がシートを敷くとそこに母上が、父上が、兄上が座り込んだ。



母上と、父上と、兄上と……本物のエヴィルレーラの墓標。


『本物の家族』の後ろ姿をじっと見て、やはりなと思う。


母様は喪われたエヴィルレーラのことを思い出したのだ。

穏やかな表情だったけれど……母様は大丈夫なのだろうか。


嘘つきって言われるのは構わないが母上の心が乱れるのは……


「あら、早くこっちに来なさいエヴィ」


歯を食いしばっていると、こちらを振り返った母上がぽんぽんと隣を叩いた。

父上も兄上もこちらを見て……何故来ないのか?と言った顔で見ている。


…行っても、いいのかな。


躊躇いつつも母上の隣に腰掛けると、隣に座った兄上に後頭部をパシンと叩かれた。


「ようやく家族が揃ったわね」


「……そうだな。だが、エヴィに説明をしてあげた方が良いんじゃないか?だいぶ混乱しているぞ」


「私も説明して欲しいですけどね。父上は『母上は大丈夫』しか仰って下さらなかったので」


「……ある日突然エヴィのドレス姿が見たいと言い出したのだ。息子で娘なんて、二度お得ねと突然言われた私も混乱したからな、お前たちにも混乱してもらった迄だ」


「父上…」

「迄だって…」

「あらあら、大人気ないこと」


ころころと楽しそうに涼やかに笑うと……母様はほっそりした綺麗な指先を伸ばして墓標に触れた。

そして優しく、優しく墓標を撫でて……ふんわりと柔らかく微笑んだ


「違和感はずっとあったのよ?あの子が居なくなった慟哭も絶望も記憶にあるのに……あの子が傍に居るのだもの。何でわたくしはあんなに苦しかったの?息子はここにいるのに、って……」


そう言われて脳裏に思い浮かぶのは、寝台の上から転げ落ちるように私に抱きつき嗚咽をあげた母様だった。


『ああ、エルヴィレーラ!貴方が死んだなんてやはり悪夢だったのね!』


希望に追いすがるような、あの声を忘れることは生涯無いだろう。


「違和感があってもエヴィ、貴方がそばに居てくれて…違和感はどんどん小さくなっていって……息子たちが学園に行ってしまって寂しくなって、子供がもう一人欲しいと思った時にふっと繋がったのよ。『息子』だけじゃなくて『娘』も居るって」


「……私、母上に女って言ったことはないはずですが」


「あら、目さえ曇ってなければ気づくわよ。ずっと傍に居た『家族』なんだもの」


壊れた母上に『家族』と思われていたのは理解していた。

でも、治った母上にいつか『偽物』と言われるんじゃないかと、ずっとずっと怖かった。


怖かった、



怖かったんだ。


目から涙が込み上げるのが、止められない。


「あらあら、泣き虫さんねえ」


優しく華奢な腕に抱きしめられて、ぶっきらぼうに頭を撫でられて、母上と兄上ごと後ろから抱きしめられる。


「……ははうえっ!」


「なあに、エヴィ」


優しい声で私の名前を呼ぶ母上。

その日、私は母上に抱きついたままわんわんと泣きじゃくった。


そんな私を

母上は

父上は

兄上は


優しく、涙がかれるまであやしてくれた。

そう、『家族』としてーーーー。




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