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89:アンディとジャック


 ジャックがどういう出方をするのか、わたしは注意深く見つめた。

 彼はアンディの迫力ある笑顔に呑まれた様子はない。相当肝が据わっている。そこだけは評価してもいい。わたしなら挙動不審になる自信があるし。


「……」


 ジャックが口を開かないのは、なんと言えばいいのかを考えているからか。それとも、未来を見ているからだろうか。

 どちらにせよ、アンディの機嫌を損ねないように思案しているのだろう。


「俺は……俺には、未来が見えます」


 ジャックはそう口にし、普段の軽薄さを捨てて、真っ直ぐとした目でアンディを見て言った。


「未来がどんなふうになるのか、俺は知ることができます。きっと俺のこの力は殿下のお役に立てるはずです。だからどうか、俺を殿下の臣下にしてください」


 深く頭を下げたジャックをアンディは静かに見つめる。

 なんて答える気なのかな。わたしの見立てでは、アンディはジャックの提案を受け入れるはずだ。未来を知ることができるって言うのは大きい。これから先、その力がアンディの役に立つのは間違いないことだ。

 ただ……能力が役立つからと言って、わかった君を臣下にしようと言うには、ジャックには信頼がない。そもそもどこかの組織の諜報員だ。彼がアンディを裏切らないと言う確約は絶対にほしいと思う。


「未来が見える、ね……それはとても素晴らしい能力だ」


 アンディはそう答え、ジャックは顔を上げて期待したようにアンディを見る。

 だが、アンディの表情は変わらない。


「そんな力があれば、きっとこの国をよりよくできるだろうね」

「殿下……!」

「──でも、それだけだ。僕は君のことをなにも知らない。そんな人を簡単に信じられるほど、僕はおめでたくなくてね。僕の臣下になりたいのならば、まずは僕の信用を勝ち取ることだ」

「……もちろん、承知しています。今日は俺という存在を知ってもらうこと、そして俺があなたの臣下になりたいと言うことを知ってもらえれば十分です」


 ジャックは一度息を吸う。

 そして、勝ち気な笑みを浮かべた。


「──俺は必ずあなたからの信頼を勝ち取って見せましょう」

「へえ……? 楽しみにしているよ、ジャック・マーティン」


 アンディは面白そうにジャックを見て言い、このあと用があるからと部屋を出た。

 そのときにジャックになにか言っていたようだけど、わたしの耳には届かなかった。なにを言ったんだろう?


「……殿下っておっかねえなあ」

「そう? ……いえ、そうですね」


 一瞬首を傾げたけれど、よくよく考えてみればアンディはおっかない人だった。

 この六年間でアンディのおっかなさはわたしが一番身にしみてよく知っている……たまにすごい怖い笑顔浮かべるんだよね。あ、この人、絶対なにか悪いこと企んでいるなっていう感じの。そしてその笑顔のあと、恐ろしい目に遭うんだよね……具体的には、胃にくる系の怖い目に遭う。


「でもまあ、これで一歩前進だ。ありがとな、レベッカちゃん」

「いえ、わたしはなにも……。ところで、ジャックさんは組織に追われているとおっしゃっていましたけれど、そちらは大丈夫なんですか?」

「大丈夫って言い切りたいところだけど、ちょっと厳しいな……ま、でもなんとかなるさ。俺の能力があればね」

「……」


 そう言って笑ってみせたジャックを見て考える。

 確かにジャックの能力を考えれば、逃げ切ることは容易いだろう。でも……。


「……あなたの能力は、一日に何度も使えるものなんですか? なにか副作用的なものがあるのでは?」


 ジャックの能力は強力だ。それゆえに、能力を使うにはなにか条件がいる、または副作用があるのではないか──とはヴァーリックの言葉だ。

 未来視できるのがランダムな未来で、能力が制御不能であるのなら条件や副作用はないかもしれない。でも、そうではなく、狙った通りの未来を見ることができるのならば、なんらかのペナルティ的なものがあるはずだ。制御装置と言い換えてもいい。


 わたしの問いにジャックは困ったように笑った。


「……鋭いねぇ」


 やっぱり、なにかあるんだ。ヴァーリックの言葉は当たっていたようだ。


「ああ、その通りだ。俺の未来視はあまり使い過ぎると体に負荷がかかる。具体的には頭痛だとか、目のかすみとか……酷いときにはそれが同時に起きて鼻血が出て気を失ったこともあったな」

「それでは、追手から逃げ切るのは厳しいのでは……?」

「まあね。でもなんとかするさ」


 ふうん、わたしを頼ろうとしないんだな。

 たぶん、ジャック自身、自分にそこまで信頼があるとは考えていないし、それこそ信用を得るためにわたしを利用するようなことは避けているのだろう。それはそれで好ましい。嫌いなのは変わらないけれど。


 ……そうだな、ここでジャックに取引を持ちかけるのがいいかもしれない。

 安心な寝床を提供する代わりに、わたしの未来について見てもらう──なかなかいい取引では?

 まあ、ジャックが追手に追われているというのも嘘な可能性があるわけだけど……それを詳しく調べる余裕はわたしにはない。


 よし、決めた。

 ジャックに取引を持ちかけよう。

 追手の話が嘘だったらそのときはそのときだ。まずはジャックの能力が本物かを確かめないと。そして、そういう調べごとに適しているのは……。


「──ジャックさん。わたしと取引をしませんか?」


 にこりと笑みを作って、わたしは彼に取引を持ちかけた。


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