83:魔力の波
ディランよりもオーラが大きくなるときがある……? わたしに?
でも、一体どうして? 普段は普通の人と変わらないのに?
「詳しいことはわたしにも分かりかねますが……ディランさんならなにかわかるかもしれません」
「ディランさん、ね……」
そういえば前に、ヴァーリックがわたしの守護獣だと知ったときになにか言っていたような……。なんて言っていたかは覚えていないけれど……自分の記憶力の無さが恨めしい。
「今日会ったときに相談してみますわ」
「……はい!」
そして帰宅後、我が家にやって来たディランにそのことをさっそく相談してみた。
「魔力に波があるねえ……」
憮然とした顔をして言うディランにちょっとムッとする。
レナちゃんの言うことが信じられないのか! レナちゃん大好きマンのくせに!
「でもまあ……キミの魔力が人よりも多いんじゃないかって言う説は信じるよ」
「……信じてくださるんですか?」
「そりゃそうだよ。だってキミはドラゴンを守護獣とした前代未聞の人物だよ? そんな人物の魔力量が普通以下なんて言われた方が信じられないよ」
「……」
なんだろうな……言っていることはもっともなんだろうけれど……なんか腹立つな……。
というか、人を問題児みたいな言い方をしないでほしい。
「ボクにはその波っていうのがよくわからないけど、もし本当に波があるのなら、なんでそうなるのか要因を調べないと。……ボクの考えでは、キミの魔力は波があるんじゃなくて、なにかに阻害されているんじゃないかって気がするけど」
「阻害……?」
魔力を阻害って……どういうこと?
まったくわからないんだけど……。
「キミにでもわかりやすく説明してあげると、キミの魔力は常になにかで塞がれている状態……例えるなら、川が大きな岩で塞がれてしまったっていう感じなんだと思う。川の水が塞がれると、その分だけ水量が増えていく。そしてやがては決壊して大災害が起きる……ボクの考えが正しければ、いずれキミもそうなる可能性がある」
ええ……それってかなりまずいのでは……?
人の体で言えば、血管が詰まってしまったようなものだよね。詰まったところが破裂したり、最悪の場合は壊死したりする……それと同じことがわたしの魔力でも起きているかもしれないってことだよね……。
「……決壊って……魔力暴走するってことですか……?」
「そういうことだね。まあ、可能性の一つっていうだけだから。今はまだ」
意味深な言い方しないでほしい……。
でも、もし本当にディランの言っていることが正しいとしたら、わたしはどうすればいいの?
「まずは、ボクの考えが正しいかどうかを確かめたいところだけれど……今のところ、確かめる術はない。レナの言う、波が大きくなったときのキミがどういう状態のときなのかをまずは調べようか。いいよね、レナ」
「はい、もちろんです。レベッカさんのお役に立ちます!」
キラキラ笑顔で頷くレナちゃんは実に頼もしい。
でも……光魔法のことでレナちゃんは手一杯のはず。それなのに、わたしのことで煩わせてしまっていいのだろうか。たぶん、すぐにすぐ魔力暴走が起きるわけじゃないだろうし、わたしのことは後回しでも……。
そう伝えると、レナちゃんはムッとした顔をした。
「レベッカさんは私の大切な人です。これでレベッカさんのことを後回しにしてなにかあったら、私は絶対後悔します。私が後悔しないためにも、そしてご自分のためにも、後回しでいいなんて言わないでください!」
珍しく語尾を強くして言うレナちゃんに驚く。
……そんなふうに思ってくれていたんだ……怒られているんだけど、なんだかちょっと嬉しくてくすぐったい……。
「あ……ありがとうございます……それでは、お願いします」
「お任せください」
胸を張って答えたレナちゃんを心強く思う。
わたしは本当にいい友達を持った……。
「じゃあ、波が大きくなったときのレベッカの状態を詳しく書いて。ちなみに……波が大きくなるのはどれくらいのペース?」
「そうですね……今までは月に一度あるかないかくらいだったので、気のせいかと思っていたんですが、最近は結構波が大きくなることが多いです」
「最近ね……その最近って言うのは具体的にどれくらい?」
「えっと……半月くらいだと思います」
「半月……なるほど」
「なにかわかったんですか?」
期待した目で問いかけたレナちゃんにディランはちょっと戸惑ったように目線を揺らした。
おや、動揺している。
わたしの目が笑っていることに気づいたのか、ディランはギロリと睨んだあと、わざとらしい咳払いをして言った。
「わ、わかったってほどのことじゃないけど、半月前はちょうどドラゴンが眠った頃だ。つまり、ドラゴンとキミの魔力に波があるのは、なんらかの関係があるんじゃないかと推測できる」
ヴァーリックがわたしの魔力の波と関係がある?
それはヴァーリックはわたしの守護獣だし、魔力とは無関係じゃないけれど……。
もしそれが本当なら、ヴァーリックはそのことについてなにか知っているんだろうか?




