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77:学園の教師


 日傘をさし、丸い眼鏡をかけた長身の男性。

 サラサラとした黒の長髪を緩く束ね、切長の目の色は赤。

 研究者、もしくは神官のような雰囲気の彼はわたしの学園の教師だ。


「ロバーツ先生……」


 ダニエル・ロバーツ先生。

 物腰柔らかく温厚で、優しい笑顔をいつも浮かべている学園の人気者。

 その容姿も整っていることから、彼に憧れている生徒も多いのだとか。しかし、信心深いゆえに今でも独り身を貫いているらしい。ちなみに年齢は二十代後半ということしかわからない。


「デイヴィスさんも一緒ですか。なにやら楽しそうですね?」

「ええ……まあ」

「それはなによりですが、このような場所で他校の異性の生徒と一緒にいるのは感心しませんね」

「申し訳ありません……」

「まあ、今回は注意だけにしておきますが、次に見かけたら処罰を覚悟しておくように。そして最近はなにかと物騒ですから、早くお帰りなさい」


 先生にそう言われたらもう帰るしかない。

 わたしたちは「はい、先生」と頷き、挨拶をして家に向かう。


「ロバーツ先生……どうしてこんなところにいたんでしょうね?」


 不意にレナちゃんがそんなことを言う。


「見回りをしておられたのでは? 最近は物騒ですし……」

「そうかもしれませんけど……学園に通う生徒は送り迎えがあるか、寮暮らしの方がほとんどですよね? わざわざ見回る必要があるんでしょうか……」


 そう言われれば確かにそうだ。先生がわざわざ見回る必要はないし、そういう話も聞かない。

 なのに、わざわざ人気のないところに先生がいた意味は……。


「……わたしたちのような不真面目な生徒を守るために見回りをしているのですわ、きっと。真面目な先生ですからね」


 そう言ったわたしにレナちゃんは不思議そうな顔をしつつも、「そうですよね」と頷く。

 

 レナちゃんは一応ああ言ったけれど……いくら真面目な先生だからと言ってここまですることはない気がする。

 ロバーツ先生はとても評判のいい先生だけど、気をつけたほうがいいのかもしれない。

 人気のないところに先生がいた理由として考えられるのは『わたしたちを見張っていた』ということだ。どうして見張っていたのかはまったくわからないけれど、用心するに越したことはないだろう。



 ディランにアンディのことを頼んでから訪れた週末。

 わたしの家にいつものようにレナちゃんに魔法を指導しにきたディランはブスッとした顔をして言った。


「……キミ、本当になにしたの?」

「なにがですか?」


 なにかした記憶はないんだけど……。そもそもなにかってなに?


「殿下のことだよ。ボクがなに言っても取り付く島もなし。ここ数日はボクも意地になって言ってみたけど、まったく取り合ってくれなかった。あの殿下にそんな態度を取らせるなんて……キミ、相当なことをやったんじゃないの」

「そんな記憶はないですけれど……」


 ディランでもダメなの? というか、どうしてそこまでわたしに会うのを拒絶するの?

 なにかしたっけ、わたし…………だめだ、まったく思い出せない……いや、思い出せないんじゃなくて、なにもしていないから思い出しようがないんだ。きっとそうだ。


 ということは……アンディが一方的にわたしを避けているということになるわけだけど……。


「……アンディの様子はどうでした?」

「うん? いつも通りに見えたけど…………いや、待って。そういえば、いつもよりも覇気がなかったな。顔色も魔法で誤魔化しているみたいだったし」

「なんですって⁉︎」


 魔法で顔色を誤魔化すって、相当疲れているのでは?


「な、なにさ……魔法って言っても、ほら、女の人が使う化粧品に付属されているやつだよ……気にしている人は男でも使っているし……」

「……化粧で顔色を誤魔化しているのね……」


 魔法が付属された化粧品を使ってメイクをすると、落ちにくくなる。その分、特殊なメイク落としを使わないといけないんだけど、女子は大抵愛用している。わたしだって愛用している。

 ……そういえば、前にアンディがひどい顔をしているとき、忙しいときは隈隠しに使うといいよって化粧品いくつかあげたかも……それをアンディは今使っているの?


 きっとちゃんと休めていないんだ。それをわたしにバレないようにするために避けているんだ。きっとそうだ。


「レベッカさん……」


 レナちゃんが不安そうな顔をしてわたしを見ている。

 いけない、レナちゃんに心配をかけないようにしなくちゃ。


「心配なさらないで。あちらがその気なら、わたしにも考えがあります」

「え……? 考え……?」

「ふふふ……見てなさい、アンディ。絶対に捕まえてやるわ……!」


 ふふふふふと笑うわたしに、ディランもレナちゃんもとても不安そうな顔をしていた。


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