75:連絡がつかない
「一日に一度が限度……」
そのペースでは、とてもではないけれど、魔獣の減少には繋がらないだろう。
魔力回復薬は乱用すると中毒症状を起こすことがある。だからそうそう使えない。
「殿下の考えていることは今の段階では実現不可能だろう。まあ……もう少し魔力の効率化はできそうな気がするけどね。そうでしょ、バード」
問いかけらたバードは重々しく頷いた。
『うむ。おぬしの言う通りだ。レナ殿の使う光魔法には無駄が多いようにお見受けした。その無駄を省ければ、魔力消費もある程度抑えられるだろう』
「そうなんですか……」
問題はその無駄をなくす方法だけど……そこはディランとバードがなんとかしてくれそうだ。
バードはとにかくレナちゃんのことを第一に考えているからね。魔力消費が激しすぎて光魔法を使うたびにあんな顔を真っ青にさせるのは危険だと判断したのだろう。ディランもきっと同じだ。
「でも、実践はすごく大事だって今回の件でよくわかりました。植物相手とはやはり勝手が違います。リックさんは魔獣化する前の状態で、しかも大人しくしてくれていたから集中して魔法を使えました。でも、魔獣相手ではこうは上手くいかないでしょう」
「その通りだ。殿下の魔獣浄化の日がいつになるのかまだ連絡が来てからなんとも言えないけれど、それまでには今よりももう少しマシな魔法を使えるようにしないと」
「はい! ディランさん、バード、どうかご指導をお願いいたします!」
頭を下げたレナちゃんにディランもバードも頷く。
ディランの目がとても優しくて、思わず顔がにやけてしまう。
「……なに変な顔しているの? 気持ち悪いんだけど」
ニヤニヤしているわたしに気づいたのか、本気で嫌そうな顔をしてディランが言う。
気持ち悪いって失礼な! レディに向かってなんてこと言うんだ!
「とりあえず、姉さんも疲れているみたいだし、今日はもう休んだ方がいいんじゃない?」
ルーカスがそう口を挟み、その日は解散ということになった。
今日のことはアンディに報告しないと。連絡取れるといいんだけど……。
部屋に戻って指輪を使ってアンディに連絡を取ってみたけど、案の定、アンディは出なかった。
最近、こんなことばかりだ。すごく忙しいのはわかる。でも、なにかあったらすぐ連絡するようにと言ったのはアンディなのに、これじゃあ連絡の取りようがない。
どうしよう……とてもじゃないけれど、手紙に書けるような内容ではない。アンディに届くまでの間に誰かに見られたら困るような内容だし。
はあ、と思わずため息が出てしまう。
考えなくてはならないことが多すぎる。わたしは頭がいい方じゃないのに、なんでこんなに考えなくちゃならないことが多いのか。前までなら、こういうときはアンディに話してアドバイスをもらったりできたのになあ。
レナちゃんのことはもちろんだけど、ジャックのことも考えないとならない。
ジャックの言っていることが本当なら、アンディは魔獣浄化のときにドラゴンに襲われて死ぬ。まあ、ヴァーリックが魔獣化する可能性は今日でなくなったわけだけど……可能性は低いけれど、ヴァーリック以外のドラゴンが魔獣化してアンディを襲うということも考えられる。だから、その日はアンディの警護を万全なものにして置かなければならない。
それも相談したいんだけどな……アンディにまったく連絡つかないんだもの。困ったものだ。
ジャックは未来を知っている、と言った。彼にはわたしの知らない未来のことが見えているんだろうか。そして、なんのためにわたしに近づいたのか。目的がまったく読めない。
そもそも敵なのか味方なのかもわからない。敵ならわたしにアンディの未来のことを教える必要はない。でも……味方という感じでもなかった。
それにジャックはとある組織に所属していると言っていた。その組織のことは教えてくれなかったけれど……まあ、いくつか心当たりはある。おそらくはなんらかの諜報機関に所属しているのだろう。それが国なのか神殿なのかそれともまた別の組織のものなのかはわからないけれど。
彼が味方になってくれたなら、こんなに心強いことはない。だって未来がわかるんだもの。どの程度の未来が見えるかはわからないけれど、前世の知識というアドバンテージをまったく活かせていないわたしよりもはるかに役立つ能力だ。
未来がわかれば、最悪な未来を回避することだってできるはずだ。絶対にこの国を滅ぼさせたりなんかしない。
そのためにはまずアンディを守り抜くことが大事だ。ジャックがいうには、アンディが死ぬことによってこの国は滅びの道を歩み出すらしいから。
なんとしてでも、アンディに会わなくちゃ。会って、話をしないと。
そのためにまず……お父様に話をして、アンディに会うにはどうしたらいいか聞いてみよう。




