72:練習台
まず、やらなくちゃいけないのは、ヴァーリックが汚染させていないかを確認すること。
ヴァーリックが魔獣化したら、この国は終わる。いや、国どころじゃなくて世界が終わるかも……ヴァーリックの他にドラゴンがいれば話は別かもしれないけれど……。
人気のないところに行き、人がいないことを確認してヴァーリックに話しかける。
「リック」
『なんだ、主? あの人間の言うことを間に受けたのか?』
「そういうわけではないけれど……でも、念のために確認させて。あなた──【黒の魔力】に汚染されているの?」
そう問いかけたわたしに、ヴァーリックは黙り込んだ。
お願い、そんなわけないって言って。
『正直に言えば……わからん!』
「……わからない?」
『ああ。我に自覚はない。だが、汚染されていないとも言い切れない。我の目の届かない場所が汚染されている可能性はある。我は一度汚染させているからな』
「そうなの……」
『そう心配するな。光魔法の使い手がいるんだから、あいつに浄化してもらえばいい。あいつの練習にもなるし、ちょうどいいんじゃないか』
ちょうどいいって……そんな自分のことなのに。
なにかあったらって心配にならないんだろうか。……ならないか。ヴァーリックだからなぁ……。
『失敗したとしても心配いらん。我はドラゴンの王の一族だからな。【黒の魔力】くらい自分で抑えてみせるさ』
「……わかった。信じているからね、リック」
『うむ!』
いつもと変わらず偉そうなヴァーリックに少しだけほっとする。
一番いいのはヴァーリックが汚染させていないことなんだけどね。
わたしたちは早速家に帰り、レナちゃんのもとへ向かった。
レナちゃんはディランとルーカスと一緒にいつも通り魔法の訓練をしていた。
「あ、レベッカさん。お帰りなさい!」
「ただいま、レナさん」
ニコニコと輝く笑顔で出迎えてくれるレナちゃんに癒される。お帰りなさいって、もう天使かこの子。ずっと我が家にいてわたしを出迎えてほしい。
……っと、レナちゃんに癒されるのもほどほどにして。
「レナさん、ご相談が──」
『ヴェーッ! ヴェヴェヴェーッ!』
近づこうとすると、光の精霊のペンギンがわたしを阻むように威嚇する。
「な、なに……?」
『ヴェーッ! 我が守護者に近づくな!』
「バード、どうしたんですか?」
威嚇して羽をバタバタさせる光の精霊を抱き抱えて、レナちゃんが首を傾げる。
ちなみにレナちゃんは光の精霊のことを「バード」と名付けた。まんま鳥。ペンギンなんですけどね……いやペンギンも鳥類か……。
『此奴らから悪しきにおいがするのだ! 守護者よ、近づくでない!』
「悪しきにおい……?」
レナちゃんは意味不明だと困惑しているけれど、残念ながらわたしにはその悪しきにおいとやらに心あたりがある。
おそらく、それはヴァーリックが【黒の魔力】に汚染されているから発せらるものなんだろう。光魔法は浄化の作用があり、【黒の魔力】とは対極な立ち位置になるのだと思われる。だからわたしたちにはわからない【黒の魔力】に光の精霊であるバードが反応している。
仕方がないのでわたしはヴァーリックを頭の上から下ろし、少し離れた場所に置く。
ヴァーリックは眠いと言って寝ているため、頭からおろしても抗議はないどころか、動かしても眠ったままだ。
そう言えば、最近ヴァーリックはよく眠る。これも【黒の魔力】に汚染されていることとなにか関係があるのだろうか。
「これなら近づいても大丈夫かしら?」
『……』
バードは用心深くわたしの周りをくるくる回ったあと、『うむ』と重々しく頷いた。
『良いぞ、許可しよう』
「ありがとう」
ありがとうってお礼言うのもなにか違う気がするけれど、まあいいや。
あ、そうそう。バードはようやくわたしたちに慣れてくれて、普通に会話ができるようになった。慣れって大事だよね、本当に。
閑話休題。
「どうして大丈夫になったんですか……?」
「リックと離れたからだと思いますわ。レナさんにお願いがあります。どうやらわたしの守護獣が【黒の魔力】に汚染されてしまったようなのです。どうかレナさんのお力で、リックを浄化してもらえないでしょうか?」
そう言って頭を下げると、三人が息を飲む気配がした。




