71:最悪の未来
さて、どう答えたものか。
正直に前世の記憶を話す──という選択肢はない。ジャックのこと信用ならないし、する気もないし。
かといって誤魔化すのも上手い手ではないと思う。はぐらかすのが一番なんだろうけれど、果たしてそれが通用する相手だろうか。うーん、悩ましい……。
「なるほどね……やっぱりそうか」
「やっぱりとは?」
黙り込んでいただけなんですけど? それでなにが「やっぱり」になるの?
「答えに悩むっていうことは、君は普通の人じゃないか、もしくは、俺を利用したいと考えていることだ」
「……」
どっちも当たっている。
わたしはジャックを利用したいと思っている。だから、迂闊な返事はできない。彼に興味をなくされたら困るからね。
「当たりなんだ?」
「どうかしら」
にこりと微笑む。アンディ直伝だ。この微笑みを浮かべればわたしの考えは読めないだろう。
「君は俺と同じなんだろ? 未来のことを知っている。だから自分の都合のいいように変えた」
「……」
自分の都合のいいように変えた、ね……今のこの状況はまったく都合よくないんだけれど、まあそう思われても仕方ないだろう。レナちゃんたちに関してのことはわたしのせいだって自覚はあるし。
「君がどこまで未来のことを知っているかどうか知らないけれど、これだけは言っておく。このままでいくと──この国は滅ぶよ」
「……この国が、滅ぶ?」
いったいどういうこと……?
そうならないために、わたしは動いているはずなのに。
「あれ……? 本当に驚いている? 俺と同じだと思ったんだけど、勘違いだったかなぁ」
「そんなことはどうでもいいわ! それよりも、国が滅ぶってどういうことなの⁉︎」
「ああ……うん。この国第二皇子アンドレアス殿下──彼が死ぬんだ。それが滅亡の始まりになる」
「アンドレアス殿下が……死ぬ?」
どうして? だって、アンディが死ぬのはオスカー殿下のルートだけなのに。レナちゃんは明らかにディランルートに入っている。だからアンディが死ぬことはないはず。なのにどうして……?
──自分の都合のいいように変えた。
そう言っていたジャックの言葉が蘇る。
もしかして……アンディが死ぬのは……。
「そうさ。本来なら、アンドレアス殿下は死なない。死ぬ未来もあったけれど、もうそれはない。でも彼は死ぬんだよ──魔獣に襲われてね」
「アンディが、魔獣に襲われる……? そんな、まさか。アンディは……アンドレアス殿下には守護獣がついているもの。あの守護獣がそこらへんの魔獣に負けるなんてことがあるわけがないわ」
なにせアンディの守護獣はフェニックス。そしてアンディ自身も魔法の修練度は高いし、それ以外の武術の訓練だって怠っていない。そんなアンディが易々と魔獣にやられるなんて考えられない。
「ところがあるんだなあ。なにせアンドレアス殿下を襲う魔獣はドラゴンだからね」
「ドラゴン……?」
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。
そして頭の上にいるヴァーリックを意識する。
まさか……そんなことが……。
前にヴァーリックの鱗は黒くなっていた。それは【黒の魔力】に汚染されたからだと言っていた。
もし、その汚染は鱗を取ったくらいではなくならないものだとしたら……?
そうだった場合、非常にまずい。
「近い未来、君たちは魔獣の浄化にでかけるんだろ? そのときにドラゴンに襲われ、アンドレアス殿下が命を落とす。そういう未来がね、俺には見えるんだよ」
魔獣浄化のことも知っているなんて……どうやらジャックの言っていることに信憑性が増してきた。
なら、アンディがドラゴンに襲われるのも本当なのかもしれない。
「俺は忠告したよ。どうするかは君次第。魔獣浄化のあとに、また会いにいくよ。そのときにもっと先の話がしたいな」
「……ジャックさん、あなたの目的はいったいなに?」
もう一度尋ねたわたしに、ジャックは笑う。
「俺はただ、毎日楽しく過ごしたいだけさ」
それじゃあね、と伝票を持ってジャックは去る。
自分の分を出そうとする前に会計を済ませて、彼は文字通りに消えた。
わたしの頭に、アンディと過ごした日々が浮かぶ。楽しいことばかりではなかったけれど、思い出すのは楽しかったことばかりだ。
アンディがドラゴンに襲われて死ぬ──その未来だけは、絶対に回避しなければならない。
この国ためにも、わたし自身のためにも、絶対に。




