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70:ナンパは時と場所を選ぶべき


 わたしはジャックと共に彼の指さしたお店に入り、お茶とケーキを注文する。

 きちんと味を楽しめるといいんだけど……まあ、期待はしないでおこう。


「それで、あなたの目的は?」

「まあまあ。そう焦らずに。お茶とお菓子が来てからでも逃げたりはしないよ」


 それはそうかもしれないだけど、わたしは一秒でも早くこの場を立ち去りたいんだってば。

 具体的に言うと、ジャックと一緒にいたくない。なぜなら……。


「お姉さん可愛いね! 今度俺と一緒にお茶しない?」

「あらやだ。お上手ね」

「あ、冗談だと思っている? 俺は本気だよ?」


 ……という具合で、年上の女性が通るたびにナンパをするのだ。

 本当に勘弁してほしい。居た堪れないじゃないか、わたしが。


「そんなことばっかり言っていると、彼女に愛想尽かされちゃうわよ」


 じゃあね、とお姉さんは伝票をひらひらさせて去っていく。

 残念だなーと呟くジャックをジロリと睨む。でも、彼は気にした様子はない。ジャックはとんでもなく図太い神経の持ち主なのだ。ヴァーリックといい勝負だろう。

 ノアはあれでいて、意外と空気読めるんだよね。空気は読めるんだけど、よっぽどのことがないと読もうとしない。

 ……あれ? ノアも十分図太い神経しているのでは……?


「そんなに睨まないでよ、レベッカちゃん」

「睨ませるようなことをなっている自覚がおありですの?」

「ぜんぜん」


 ニコッと笑ったジャックに文句を言おうと口を開きかけたけれど、こいつになにを言っても無駄だと思い直して口を閉じる。本当に腹の立つ奴!


「ほら、そんな怒った顔しないでよ。お茶とお菓子もきたし、食べようよ」

「……」


 ふん、とジャックから顔を背けたあと、しっかりとお茶とケーキを食べる。

 あ、どちらも美味しい。頼んで正解だったわぁ。

 ひとときの間だけ、ジャックといることを忘れてお茶とケーキを味わった。


 心の中でご馳走さまでしたと唱えて前を見ると、ニコニコしている奴が目に入る。

 そうだ……わたし、こいつと一緒にいたんだった……できればずっと忘れていたかった……。


「……ケーキも食べ終わりましたし、そろそろ話してくださる?」

「もう少し君と楽しく会話をしていたかったけど……まあいいや。うん、話すよ」


 ようやく真面目な雰囲気になったジャックをじっと見て、彼が語り出すのを待つ。


「俺はね、とある組織に所属しているんだ」

「なんていう組織なのかお聞きしても?」

「それはまずいかなあ。まあ、そこまでその組織に義理立てているわけじゃないけど、言うのはやめておく。とにかく俺はその組織の命令でいろんなことをしているわけだけど……それも今は置いておく」


 ……は? 置いておく?

 その組織の命令でわたしに接触しているんじゃないの?


「俺、小さい頃から未来のことが見えるんだよね。小さい頃から見えた未来では、一人の女の子を中心にこの国を救ったり滅ぼしたりしていた──って言ったら信じる?」


 未来のことが見える……。そうか、そうなんだ。転生者ではなくて、ジャックは未来視ができるんだ。

 でも……それとわたしに一体なんの関係があるのだろう?


「……信じますわ」

「へえ?」


 ジャックは眉をピクリと器用にあげたあと、にこりと笑い「ありがとう」と言う。


「その力のおかげで俺は組織に引き取られることになったわけだけど、その未来はいくつか枝分かれがしているんだよね」


 きっとそれはゲームの分岐だ。

 攻略対象者によっても未来が多少は変わるのだろうし。


「でも、その途中まではどれもほとんど同じなんだよ。不思議でしょ?」

「そうですね」


 攻略対象者のルートに入るまでは微妙な違いこそあれ、おおよそ同じ内容の話だったはず。

 ジャックの言う未来はゲームの内容のことでほぼ間違いないだろう。


「俺の見た未来通りにこの世界は進んでいた……でも、今は違う。具体的には───六年前から、俺の見た未来と違う方向にこの世界は進んでいる」


 六年前……それって、わたしが前世の記憶を思い出した頃だ。


「その違いは君なんだよ、レベッカちゃん。君だけが、俺の見た君と違う行動を取っている」

「……」


 ああ、そうか。だからジャックはわたしに接触してきたんだ。

 前世の記憶が蘇ったわたしが行動したことで、いろいろなことがゲームとは変わってきている。一番顕著なのは、レナちゃんとディランの関係性だろう。入学初日でディランとここまで仲良くなるのは、ゲームでは不可能だ。


 ディランはじっとわたしを見つめてこう問うた。


「レベッカ・キャンベル──君は一体、何者なの?」


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