66:入学式
──懐かしい夢を見た。
わたしの家は飲食店を営んでいる、どこにでもある普通の家だった。お店は常連さんがそれなりにいて、両親とも忙しそうにしながらも、楽しくお店を経営しているようだった。
ある日、わたしが学校から帰ってくると、見知らぬ高級そうな車が店の前に停まっていて、店の中に入るとお客さんがちょうど帰るところだった。
「いいお返事、期待してますよ」
そう言ったお客さんの顔つきは、なんだかとてもいやらしかったのを覚えている。
困った顔をしているお父さんとお母さんに、「どうしたの?」と聞くと、なんでもないと二人とも笑う。
そのときはふうんと言うだけだったけれど、少しだけ嫌な予感がした。
わたしの勘は当たるほうではないから、その予感が数ヶ月後に当たることになるなんて、夢にも思っていなかった。
* * * * * * *
今日からレナちゃんと一緒に学園に通う。
第一印象は大事だ。だから念入りに身だしなみを整える。見かけだけでもちゃんとしていれば、多少ポンコツであってもなんとか乗り切れるものだ。
……と、アンディと過ごす日々で学びました。
いやあ……アンディから嫌味を言われるのはまだよくて、ものすごく可哀想な子を見る目で優しく指摘をされるのは心にきました……。それまで手を抜いていたわけじゃないけれど、もっと頑張らないとって心から思ったもんね……。
それはさておき、学園初日は入学式とオリエンテーションを行う。そこで簡単な学園案内と説明が行われ、翌日からは早速授業が始まる。
わたしは事前にしっかり学園についてのリサーチとゲームの知識で学園のことについては完璧だけどね!
「き、緊張してきました……」
いつもよりも表情が固く、不安そうなレナちゃんに笑いかける。
「ふふ。実はわたしもです」
「レベッカさんも?」
レナちゃんは驚いた顔をする。
緊張しているように見えないって? それはそうだ。そう簡単に隙を見せてはいけない──と昔からアンディにキツく言われているので、顔を取り繕うのは得意になった。
わたしが緊張している理由いくつかあるけれど、その中でも大きく占めているのは、いつジャックが接触してくるか、だ。
彼が接触を図ってくるタイミングはおそらく通学中だ。確か、ゲームでもレナちゃんとの出会いは通学中だった。
だからわたしは四六時中レナちゃんに張り付き、ジャックに会う機会を窺う。彼が一体何者を知るためにもね。
「レベッカさんも緊張しているなんて……なんだか少しホッとしました」
「誰でも緊張しますわ。よく知らない場所で会ったこともない方々と共に生活することになるのですから」
特に学校の初日ってすごく緊張するよね。前世でも、クラス替えのたびに緊張していたし。クラス替えは友達一人もいなかったらどうしようってなるし、席替えは気になる子の席と近くなれ~って必死に念込めたなあ。懐かしい。
「私たち同じクラスだといいですね」
「たぶん一緒のクラスだと思いますわ。わたしは無属性ですし、レナさんも……。それに無属性の方ってあまりいないのですって。なので、例年一クラスくらいしかないそうですわ」
「そうなんですね。レベッカさんと一緒のクラスなんて心強いです!」
ニコッと笑うレナちゃんにわたしも釣られる。
太陽みたいな笑顔だ。日に日にその笑顔は輝きを増すばかり。
それもこれもディランのおかげなんだと思う。最近のディランとレナちゃんは本当にいい感じなんだよね。心無しかディランの態度とか雰囲気も丸くなっているし。
お互いがお互いにプラスの作用を与えている。本当に素晴らしい関係だ。
このまま二人が壁を乗り越えてくれることを祈るばかりだ。その壁がなんなのかは忘れたんだけどね!
ただ気になるのは……ゲームの前にこの関係値になって大丈夫なのかな? ということだ。
わたしのメモによると、ディランのルートでは学園に入学したものの魔法が上手く扱えずに悩むレナちゃんに、男子校に天才魔法士がいるという話を聞いて彼に魔法を教えてもらおうと突撃する──というのがディランとの出会い。
そこでディランのルートに入るのか、それとも師弟関係のままで行くのかはプレイヤーの選択によるんだけれど……。
ゲームで今のレナちゃんとディランの関係値になるのは二ヶ月後くらい。それが前倒しになっているけれど……なにか影響が出ないことを祈るしかない。
「さあ、会場へ参りましょう」
「はい!」
心配ばかりしていても仕方ない。
今はただ前に進むだけだ。




