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64:とある可能性


「ところで……それ、似顔絵ですか?」


 少しの間、ルーカスの『ディランの義理の弟になったらしたいこと』語りを、作り笑いを浮かべて適当に頷いていると、ルーカスが話を変えるように尋ねてきた。

 よかった……あのままルーカスの話を聞いていたらわたし、きっと表情筋が固まっていた。


「え、ええ……少し前に、気になる人に会ったので」

「へえ、レベッカ様が気になった方ですか。見せてもらってもいいですか?」

「あまり上手ではないですけれど……どうぞ」


 レナちゃんとディランの様子を見守りながら、この間出会った彼の顔を忘れないように描いたものだ。

 なぜか彼の顔は思い出そうと努力しないと思い出せない。だから絵にすることにしたのだ。


 ……そう言えば、今、ルーカスにジャックに似た人物のことを聞くチャンスなのでは?

 ルーカスが来ることを期待して似顔絵も持ってきていた。よし、聞こう。


「あの、ルーカスさん。この──」

「あれ……ジャックさん?」

「え?」


 ルーカスの口から出た思いがけない名前にわたしは目を見開く。

 今、ジャックって言った……?


「今、ジャックって言いましたよね?」

「え、はい。レベッカ様の描かれた絵の方が知り合いのジャックという人に似ていたので」

「そうなんですか」


 これは思わぬ収穫だ。

 でも……これがジャック? ジャックってこんな感じだっけ。

 前に描いてみた似顔絵と見比べて、初めて気づく。

 ──確かに、今わたしが描いた人物とジャックはよく似ている。


 どうして今まで気づかなかったんだろう。

 目の前にジャックに似ている人物がいても、ジャックに似ているとすら思わなかった。

 まるでなにかに彼を認識するのを阻害されているようだ。


 いや、それについては今考えるべきことじゃない。

 今はルーカスからジャックの情報を聞き出すことが先決だ。


「そのジャックさんという方とは親しいのですか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……彼はたまに父の仕事の関連で家に来ていたんです。今はすっかり来なくなってしまいましたけど……そういえば、なにをしている人だったのかな……」

「いつ頃に彼と出会ったのですか?」

「そうですね……二年くらい前でしょうか。ここ数ヶ月は彼を見ていません」


 二年前からデイヴィス家に出入りをしていたジャックという男性。

 これは……偶然なんだろうか。偶然にしてはできすぎている気がするな……。


「ジャックさんは魔法についても詳しいんですよ。それにディランさんにも憧れていると言っていました」


 嬉しそうに話すルーカスには申し訳ないけれど、多分それ、ルーカスと親しくするための嘘なんじゃないだろうか。

 魔法に詳しくてディランに憧れているなんて、ルーカスが好みそうなタイプじゃないか。


「ディラン様のことも詳しくて、ぼくも知らない情報を教えてもらえたんです。ジャックさんと話すのは楽しかったけれど……いつの間にか来なくなってしまって、それっきりです」

「そうでしたの……寂しいですね」

「はい……でも、今はディラン様と直接お話ができるので、満足です!」


 しゅんとした顔をしたのも束の間、すぐに輝く笑顔になったルーカスにさすがだなと思う。ディランに関することはまったくブレない。

 とうとう我慢できなくなったのか、ルーカスはわたしに一言声をかけてディランとレナちゃんのもとへ向かう。仲良し姉弟がわあわあとなにか言い合って、それにディランはすごく迷惑そうな顔をする。

 うん、いつもの風景だな。三人仲良くてなによりです。


 それにしても……ジャックの目的は一体なんだろう。

 わたしに接触してきた彼も、レナちゃんがオスカー殿下と散歩をしているときに見かけたという人物もジャックだろう。そしてこれは推測だけど……ディランの兄弟子のジェームズとジャックは同一人物ではないだろうか。

 世の中に自分に似ている人は三人いるというけれど、こんなに近くに何人も似ている人物がいるとは考えにくいし、同一人物だと考えた方が色々スッキリする。


 二年前からレナちゃんの家に出入りをし、ルーカスともそれなりに仲良くしていたらしいけれど……レナちゃんが光魔法の使い手であることをジャックは知っていた? 二年も前から?

 それこそそんなことは未来予知ができるか、わたしのように前世の知識がなければ不可能だ。レナちゃんの存在は二年前にはもう秘匿されていたのだから。


 前にヴァーリックは転生者はわたしだけはない可能性があるということを言っていた。だから、【黒の魔力】が溢れているのだと。それを聞いたときはゲーム通りに進んでいる状況を見てそれはないと思ったけれど……。


 でも、もしかしたら──ジャックもわたしと同じ転生者なのかもしれない。



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