63:応援する弟
もし仮に、彼の目的がヴァーリックだったとしたら、どこでヴァーリックのことを知ったのだろう。
わたしは自分の守護獣がドラゴンであることを公表していない。ほとんどの人はわたしの守護獣は白いコウモリだと思っているだろう。
ヴァーリックの正体を知っているのは限られている。両親とアンディ、ディランとレナちゃん、そしてノア。
ルーカスもオスカー殿下もヴァーリックの正体は知らないはずだ。
ヴァーリックのことを知っているあの中の誰かがあの人にヴァーリックのことを言った──なんて、考えられない。アンディもレナちゃんも口は硬いし、何より信用している。両親に関しては言わずもがなだ。
ディランは……他の人にヴァーリックの研究をさせたくないだろうから、絶対に口外しないと自信を持って言える。
あとは考えられることは……ヴァーリックが変化しているところを偶々見てしまった、とか?
食べ物に釣られやすい単純なヴァーリックだけど、そこまで間抜けだとは思えない。あんな感じでも意外と抜け目ないんだよね、ヴァーリックって。
考えても、どこでヴァーリックの存在を知ったのかまったくわからない。
それとも、ヴァーリックが目的だというわたしの予想がそもそも間違っていたのかも。
でも、ヴァーリック以外でわたしに接触するメリットが思いつかないんだよねえ……。わたしの知り合いと言っても、今よく交流しているのはアンディとかレナちゃんとかディランくらいだし……。
……ん? ちょっと待って。今挙げた人たちって、親しくするメリットがある人たちばかりなのでは?
アンディは次期皇帝になると言われている人だし、レナちゃんはまだ公式な発表こそしていないけれど、数百年ぶりの光魔法の使い手。ディランは諸外国でも有名な天才魔法士。
よくよく考えてみるとすごいメンバーだった……わたしの知り合いすごい……。
一番接触しやすそうなわたしに近づき、彼らと親しくなろうとしていたのかな。その可能性も高い気がする……。
そんなことを考えているうちにいつの間にか家に着いた。
……やめよう、偶然出会った変な人のことを考えるのは。今はジャックの居場所を突き止めなくては。
わたしはそう決意し、頭の上で『早くなにか食わせろ』と喚いているヴァーリックを無視しながら部屋に戻った。
クリス様記念館で出会った彼のことを考えるのはやめようと決意したにも関わらず、いつの間にか彼にことを考えているわたしがいる。
言っておくけれど、これは「どうしてあの人のことが気になるのかな……これってもしかして……恋?」とかしちゃう少女漫画的な話ではない。純粋に、怪しすぎてついつい考えてしまうのだ。
偶然出会った人物が自分の名前を知っている確率がどれくらいあるだろうか。有名人ならともかく、わたしは普通の貴族令嬢で、特になにか優れた特技があるわけではない。
まあ、わたしの名前を知っている人は一定多数いるかもしれないけれど……さすがに顔までは知らないと思うんだよね。
気になる……なんでわたしの名前を知っていたんだろう?
またって言っていたということは……いつかまた彼に会うってこと? それはいつ?
ああ、気になる……なんなの、あの思わせぶりなセリフは! 気になって気になって仕方ないじゃないの!
そんなモヤモヤを抱えながらわたしはレナちゃんとディランの魔法訓練の様子を眺める。
どうやらレナちゃんは一通りの魔法を使えるようになったらしく、今日から光魔法を使ってみるんだって。
遠くからでもわかる、ディランの目の輝きが。ワクワクしている顔が。
クリス様記念館を訪れてから今日で一週間。その僅かの期間にここまで成長するとは……才能とは恐ろしい。わたしにも少し分けてほしい。
「じゃあ、光魔法を使ってみて」
「使ってみてと言われましても……」
困った顔をするレナちゃんにディランはそうだな、と辺りをキョロキョロとする。
そしてなにかを見つけたらしく、小さく頷く。
「じゃあ、まずはあの花を元気にして見せてよ。ほら、元気のない花があるだろ?」
「は、はい。やってみます」
レナちゃんは花に近寄り、屈む。そして祈るように両手を前で組んだ。
すると、レナちゃんから淡い光が発せられる。遠くてよくわからないけれど、見た感じではその光が元気のない花に吸い込まれているように見えた。
レナちゃんから光が消えるのと共にディランが「おお」と思わずと言った感じで声をあげた。
「すごいな……! 本当に元気になっている。これが光魔法か……興味深い」
「え、えっと……私、ちゃんと使えていました?」
「うん、見た感じではね。花もちゃんと元気になっているし」
「あ、本当だわ……! よかった」
そう微笑むレナちゃんをディランは凝視して、フイッと顔を背ける。
不思議そうにディランを見るレナちゃんからは見えないんだろうけれど、わたしの位置からはばっちりディランの赤くなった顔が見えた。ほほう、青春だねえ。
微笑ましいレナちゃんとディランをみていると、いつの間にかルーカスが立っていた。
「あら、ごきげんよう、ルーカスさん」
「こんにちは、レベッカ様。姉さんの様子を見に来たのですが……ぼくがいたら邪魔かな」
そう言ってルーカスは目を細めてレナちゃんとディランを見る。
ルーカスもレナちゃんたちのこと気づいていたんだ。微笑ましそうに見守る顔は、弟っていうよりお兄さんみたい。
「あら、ルーカスさんもお気づきでして?」
「それはまあ……ディラン様の様子を見ていたらわかりますよ。なんか変でしたし」
わかるかなあ……ディランの態度ってどっちかっていうとわかりにくい気がするけどなあ。
それはやっぱりディランに憧れているルーカスだからこそわかるものなんだろうな、たぶん。
「ぼく……ディラン様を応援しているんです」
「まあ」
なんと、意外。姉に憧れの人を取られて嫉妬しそうな感じだったのに。
ルーカスはいい笑顔を浮かべてこう続けた。
「だって──姉さんとディラン様が結婚すれば、ぼくはディラン様の義理の弟になれますからね!」
「……」
早くディラン兄さんって呼びたいなあ、とうっとりした目で虚空を見つめるルーカスにちょっと引く。
なんというか……ルーカスはルーカスだった。




