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53:進む魔獣化


「ぼくに伝えたいこととは?」


 アンディも真剣な顔で問いかける。

 オスカー殿下はいつになく暗い声音で語り出した。


「私のいた辺境ではここ最近、魔獣被害が増えている」

「それは伺っています。皇都近郊でも魔獣の目撃情報や被害情報が上がってきています」

「皇都近郊でも……」


 オスカー殿下はアンディの話に痛ましい顔をした。

 しかし、すぐに真顔に戻る。


「魔獣への対応で騎士団も人員が足りていない。皇都へ応援要請を出していたが……その状況では難しいかもしれないな」

「まだこちらではそれほど被害は出ていません。大人数は無理でも、一個小隊程度なら応援に出せるでしょう」

「それは有り難いな」


 オスカー殿下の顔が僅かに明るくなる。

 一個小隊だから三十人。三十人でも有り難いと言えるくらいに辺境は厳しい状況なんだな……。

 本当なら、もっと人員を投入して対策にあたるべきなんだろうけれど、今は皇都にだって魔獣が出るありさま。皇都は地方よりも人口が密集しているし、魔獣被害も大きくなりやすいから、人数が割けないんだろう。


「兄上が伝えたかったのはそのことですか?」

「いや。もちろんこれも伝えたかったことではあるが、わざわざ私が帰ってまで伝えるような状況でもない」


 魔獣被害のことを伝えたいわけではない……?

 じゃあ、オスカー殿下はなにを伝えたかったのだろう?


「……これは内密な話だ。少し失礼」


 オスカー殿下は小声で呪文を唱えると、部屋の温度が少しだけ下がった。

 これは……氷の魔法? なんの効果があるのだろう?


「氷の結界魔法ですか」


 アンディの言葉にオスカー殿下は頷く。

 えっ!? 結界魔法? しかも氷の?

 氷は水の上位属性にあたり、扱いが難しい。オスカー殿下の魔法属性は確かに氷だけど……魔法から逃げてきたオスカー殿下がこんな簡単に結界を張れるようになるなんて……!

 辺境で、本当にがんばっていたんだな。


「もう以前のように簡単には魔力暴走なんて起こさないさ。おまえの手を煩わせることはない。言っただろう? 私がおまえを守る、と」

「兄上……」


 アンディを見るオスカー殿下の目は優しい。

 お兄ちゃんとして弟を守るために、その約束を果たすために苦手な魔法すら扱えるようになった。オスカー殿下は本当にすごい人だ。


 ……六年経っても初歩の魔法しか使えないわたしとは大違いだな……。


「話が逸れたな。これでまず人は近づけない」


 結界を張ってまで伝えたいことってなんだろう?

 というか、今さらだけどわたしここにいていいの?


「……魔獣被害が増え、その分だけ怪我人が増えている。だから気づくのが遅れてしまったのだが……騎士団員や辺境の住人が複数人消息不明になっている」

「……!」


 アンディが息を飲む。

 わたしも目を見張る。それって、もしかして……。


「最初は魔獣退治の際に怪我を負ったのだろうと、何人かがいなくなっても気づかなかった。入れ替わりも激しくなっていたからな……だが、その数が増えていき、騎士団内部でもおかしいという話になって調べた。その結果、十名程度が行方知れずになっていることがわかった」


 十人が行方知れずに……。でも、それは騎士団員だけの話で、その近辺の住人たちを含めれば、もっと人数は増えるだろう。

 そして恐らくそのほとんどが魔獣化している。


「……とある魔獣を退治した際、騎士団員の行方不明になっていた者の一人が身につけていた物が発見された。彼はその魔獣に襲われた……と、普通なら考えるんだろうが……」


 オスカー殿下は言い淀む。

 ……ああ。オスカー殿下は疑っているんだ。その行方不明になった人が──魔獣になってしまったのではないか、と。


 でも、そんな事例は報告されていないし、そんな憶測を言ったところで誰も信じないだろう。

 

 行方不明になった人全員が魔獣化したわけではないと思う。特に騎士たちは本人が魔獣化したよりも、彼らの守護獣が魔獣化して食べられたのがほとんどがではないだろうか。

 でも、中には魔獣化した騎士もいるかもしれない。一般の住民にいたっては、魔獣化した可能性も大いにある。庶民は守護獣を持っていない人が多いからね。

 もしくは……人気のないところで魔獣に襲われたか。そのどちらかの可能性が非常に高い。


 わたしとアンディは目配りをして、小さく頷く。


「兄上……これも内密な話なのですが、実は守護獣が魔獣化する例が報告されています」

「なんだって……? 守護獣が魔獣化?」


 アンディの調査により、確かに守護獣が魔獣化した例が報告された。それもごく最近の出来事だ。

 恐らく黒の魔力の影響だろう。


「黒の魔力というものが存在するらしいのです。それの影響により、守護獣が魔獣と化すのだとか」

「黒の魔力か……そういえば、やたらと魔獣が多い場所があると噂を聞いたな」


 そう呟いたオスカー殿下にわたしは思わず食いつく。


「それはどこですか!?」

「あ、いや……そういう場所があるという話を聞いただけで、詳しい場所までは……」

「そうですか……」


 黒の魔力が溢れ出る場所がわかれば、なにか対策ができるかもしれないのに。

 でも、黒の魔力は目に見えないものだ。そう簡単に見つからないだろう。


 ……やだな。なにを焦っているんだろう、わたし。

 なにか……わたしはその場所に早く行かないといけないような……そんな気がしたんだ。


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