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49:巻き込み作戦


 光の精霊を捕まえる作戦当日。

 わたしはルーカスを我が家に呼んで、レナちゃんと会わせた。

 二人には事前に事情を説明し、協力を頼んだ。


 ……うん、頼んだんだけどね……。


「まだ懲りずにレベッカ様へ迷惑をかけているの? 本当に図太い神経の持ち主だね、姉さんは」

「それはこちらのセリフだわ。あなたこそ、まだ懲りずにレベッカさんに取り入ろうとしているの? レベッカさんはいずれアンドレアス殿下の妃となられる御方なの。あなたが相手にされるわけないのにわからないのね、かわいそう」


 相変わらずバチバチです……それに挟まれているわたしは泣きたい……。すごい居心地悪いんだよ。言うならもう吹雪と雷がいっぺんに来た感じ。

 ……自分で言ってよくわからないたとえだと思う。


「ぼくはレベッカ様に取り入ったことなんてないけど? 邪推だよ、姉さん。レベッカ様に対して失礼なんじゃないの。ねえ、レベッカ様もそう思いますよね?」

「え? ええっと……」


 唐突に振られて戸惑う。

 なんて答えるのが一番角が立たないだろう……なに言っても結局同じな気がするけれど。


「そんなこと聞いてもレベッカさんがお困りになるだけだわ。そんなこともわからないなんて……この先どうやっていくつもりなのかしら。ねえ、レベッカさんもそう思いますよね?」

「ええっと……」


 どっちの質問も困るわ!

 この調子でずっとこの姉弟の言い合いに巻き込まれなくてはならないの? 勘弁して……。

 早く光の精霊を見つけてください……頼みます、ヴァーリック様、ディラン様……!


 一応、協力はしてくれるつもりはあるようで、二人は時折言い合いをしながらも部屋に留まり続けてくれた。

 二人の相手は大変なんですけどね……会話をすると言い合いになるとわかっているから、二人ともわたしに話しかけるんだけど……わたしは一人しかいないので、やっぱり「今私が話しかけているのだけど?」「はあ? ぼくの方が先だった」なんて言い合いが始まる。


 アンディを誘えば良かったかなあ……。

 なんて、思っていると、それはタイミングを狙ったかのようにアンディが急にやってきた。

 心配してきてくれたんだ! きっとそうに違いない! さすがアンディ!


 そう褒めたたえて出迎えたのだけど……やってきたアンディの顔色が悪い。

 なにかあったのだろうか……。


「レベッカ……急に訪ねて申し訳ない」

「いえ、それは構わないけれど……どうかしたの?」

「……助けてくれ……」

「え?」


 助けて……? アンディがわたしに助けを求めるなんて、ただ事じゃない。

 いったいなにがあったの?


「…………つが…………んだ……」

「え? なに?」

「あいつが……オスカーが帰ってきたんだよ……! 助けてくれ、レベッカ! 僕を匿ってほしい」

「ええ!?」


 オスカー殿下が帰ってきた!?

 確か帰ってくるのはまだ先なのでは……?


「まだ帰ってくるのは先だと油断していた……! 僕としたことが!」


 珍しく取り乱しているアンディを見て、逆に冷静になる。

 アンディには悪いけれど、オスカー殿下はいいタイミングで帰ってきてくれた。おかげで、一人であの姉弟の言い合いに巻き込まれずにすむのだから!


「……とりあえず、部屋で一度落ち着きましょう?」

「ああ……」


 にっこりと微笑んだわたしにいつものアンディなら違和感を覚えるのだろうけれど、今のアンディはそれに気づけないくらい動揺している。

 ふふ……これならば部屋に入るまで、自分が巻き込まれたことに気づかないだろう。


「レナさん、ルーカスさん、アンドレアス殿下が遊びにきてくださいましたわ!」


 部屋に戻るなりそう言ったわたしを見て、アンディはしまった、という顔をした。

 ふっ。時すでに遅し。もう君は巻き込まれてしまったのだよ、観念したまえ。


「アンドレアス殿下……?」


 姉弟は二人揃ってアンディを見て固まる。

 瞬きの間に揃って動き、一礼をする。


「大変失礼いたしました、殿下」

「あ、いや……そう畏まらなくていいよ。今日は私的な用事で来ただけだから」


 そう言ったアンディに、姉弟は肩の力を抜く。


 アンディ効果は絶大だ。

 さっきまで言い合っていたのが嘘のように、姉弟は静かにしている。さすがに皇子様の前で言い合いなんてできないのだろう。


 ……なんてね。アンディ効果もそう長くは続かないんだろうな。理屈なんてなく、話すだけで喧嘩腰になってしまうんだから。


 アンディ効果が持続しているうちに、ヴァーリックとディランが光の精霊を捕まえてくれればいいのだけど……。


「……これどういう状況なの?」


 二人にバレないようにアンディは小声で聞いてくる。簡潔にアンディに状況説明をすると、ギロリと睨まれる。


「君……これ幸いと僕を巻き込んだんでしょ?」

「なんのことかしらぁ」


 おほほほと笑って誤魔化す。

 ……誤魔化されてくれるアンディじゃないのはわかっているんだけどね。


「……あとで覚えておきなよ……」


 ハハハハ。……どうもすみませんでしたー!


「殿下とレベッカさん、本当に仲が良いですよね」


 コソコソ会話しているのを勘違いしたのか、レナちゃんがそんなことを言い出す。

 いや、仲は悪くは無いとは思うけれど、良いとも言いきれないような……わたしとアンディの関係性は一言で言い表せない。

 だからわたしは曖昧に「そうですか?」と言っておく。


「お二人だけに通じる空気のようなものがある気がします」

「それはぼくもわかります」


 ……おや。姉弟の意見が揃ったぞ。

 二人はお互いに顔を見合わせ、そして──。


「……ちょっと、私の真似しないでいただける?」

「は? 真似なんてしていないけれど?」


 また言い合いを始めました。

 アンディは喧嘩を始める姉弟を少しの間だけ興味深そうに見て、そしてすぐに眉間に皺を乗せた。


「……なるほど。これが話に聞いていたやつか……。うん……君が僕を巻き込みたくなった気持ちはわかったよ」


 わかっていただけてなによりです。


 ああ……ヴァーリックでもディランでもどちらでもいい。早く光の精霊を捕まえて、わたしを解放してほしい……。


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