47:事件の経緯
後日、ディランの住む家はまだ補修工事中のため、わたしの家にディランとルーカスを招いた。
また言い合いになるといけないから、最初にディランと二人でレナちゃんから話を聞き、今からルーカスに話を聞くことになっている。
ルーカスが家にいる間はレナには部屋にいてもらうようにお願いしておいた。
またあんな感じで落ち込む二人を見たくないからね。
少ししてやって来たルーカスを出迎える。
「いらっしゃいませ、ルーカスさん」
「お邪魔いたします、レベッカ様」
相変わらずルーカスは礼儀正しい。
アンディが用意したあの報告書、本当になんだったんだろうなあ。今、アンディが詳しく調べているようだけど……。
「ご紹介いたしますね。こちらはディラン・テイラーさんです」
「……どうも」
人見知り全開、といったふうに愛想悪く答える。
愛想良くしろと、事前にあれほど言ったのにこの根暗魔法オタクが……!
「はっ、はじめまして、ディラン様。ルーカス・デイヴィスと申します。ぼく、ディラン様にずっとお会いしてみたいと思っていて……!」
ルーカスはディランに会えた興奮で、ディランのが態度が悪いのも気にした様子はない。
心なしかわたしと話しているときよりも声のトーンが高い気がする。やっぱり憧れの人に会えたのが嬉しいのかな。中身こんななのにね……。
テンション高めなルーカスに対し、ディランは低め。面倒な奴に会っちゃったな……とか思っているのがありありとわかる。
……お願いだから態度に出さないで……! 興奮しているルーカスがそれに気づいていないのは幸いだけど!
なんともいえない微妙な空気をなんとかしようと、わたしはわざとらしく咳払いをし、改まった顔をしてルーカスに話しかける。
「ルーカスさん、今日お呼びしたのは他でもありません。あなたが昔怪我をしたという事故のことについて教えてほしいんです」
「……はい」
ルーカスはキラキラしてディランを見ていた顔から、真顔に戻って話し出す。
「レベッカ様には前にも言いましたが……姉は傍にいる人の魔力効果を高める特異体質です。ぼくは早く魔法を使えるようになりたくて、こっそり練習をしていたところを姉に見つかってしまいました。心配だからとそれからは姉も見守ってくれることになったのはいいのですが……今度は父に見つかってしまいました。父はぼくではなく姉を叱り、自分のせいで姉が父に怒られているという罪悪感から魔力暴走を起こしました」
ディランに憧れていることから、ルーカスが魔法について興味があるのはわかっていたけれど……なるほどねえ。勉強熱心だな。だからこそ、起きた悲劇でもあるのだけれど。
「その魔力暴走は姉の特異体質もあって、とても酷いものだったと聞いています。そのときの記憶はぼんやりとしかないので、はっきりしたことは覚えていないのですが……すごく強い光を見たような……そんな気がします」
その強い光というのはレナちゃんの光魔法だろう。どんな魔法かはわからないけれど、魔力暴走を止めるくらいの威力のある魔法だったのは間違いない。
その余波でルーカスは怪我をしたのだろうか。
「ルーカスさんは怪我をしたと聞きましたが、その怪我というのは?」
「酷い打撲が主でした。ところどころ骨が折れている箇所もあったみたいです」
「なるほど……」
魔力暴走を起こしてその程度の怪我で済んだのは幸いだろう。
打撲が主ということは……やっぱり魔法の余波で怪我をしたと考えるのが自然かな?
ディランはどう感じたのだろうかと見ると、難しい顔をして腕を組んでいた。
「ディランさんは今のお話、どう思いますか?」
「……レナから聞いた話と食い違うところもないし、概ね事実なんだろうね。二人とも記憶が曖昧なのは、光魔法の効果だと考えるべきだろう。それにしても……傍にいると魔法の効果があがる体質、ねえ……? どういう仕組みなんだろう。興味あるな」
ニヤリと笑ったディランにゾワゾワッと鳥肌が立つ。
まさかだけど……レナちゃんに人体実験するつもりじゃないだろうね? そんなこと許しませんからね!
「あの……ぼく、お役に立てましたか……?」
もじもじとしながら、ディランをチラッと見てルーカスは言う。
自分の世界に入りかけているディランの脇を肘でつつき、現実に引き戻す。
「ああ。とってもたすかったよ」
あからさまな棒読みセリフにも、ルーカスは嬉しそうな様子。
ルーカスくん……君、それでいいの?
「ディラン様……と、レベッカ様のお役に立てて嬉しいです!」
ついでのように呼ばれたことに少し悲しくなる。
まあいいんですけどね……。




