46:光の精霊
6/24 光魔法の使い手の記述について訂正しました。
「なにそれ? そんな事例聞いたことがないな」
研究室に引きこもっているディランのもとを訪れ、レナちゃんとルーカスの事を話すと興味深そうに呟く。
「一緒にいると思ってもいないことを言ってしまう、ねえ……? 魔法の誤作用だとしても、そんな精神的な作用なんて起こらないだろうし、呪いだとしたら相手が限定する理由がわからない。そして恐らく相手を限定することなんてできない」
そうなんだよねえ。
仮に呪いだとして、思ってもいないことを口にするのがルーカスだけというのがおかしい。そんな呪いかけたところで誰になんの利益がでるかという話だ。
やるなら無差別にやった方が圧倒的に精神的に追い詰められるだろう。
「呪いじゃないとすると……魔法と考えるのが妥当かな。ボクの憶測だけど、あの姉弟が起こした事故が原因でなんらかの魔法が働いたんじゃない? 普通の魔法じゃそんなこと起きないだろうから、恐らく光魔法の作用だろうね」
浄化作用のある光魔法が姉弟仲を拗らせている原因……? いや、まさか。浄化でなんでそうなるの。
「光魔法自体が解明されていない。どんな効果のある魔法なのかも本当はよくわかっていないんだ。なにぶん、使える人物がほとんど現れない。光魔法に浄化作用があることはわかっているけれど、それ以外にもなにか特性があるのかないのか、それすらもわからない。今回の件だって光魔法が関わっている可能性はあるんじゃない?」
それは……確かに。
もう何百年光魔法の使い手は確認されていない。数百年に一人しか現れない貴重な魔法。その魔法が他の魔法のように研究されても、実証ができないのだからその効果だってわかりようがない。
光魔法かあ……光魔法の由来はその魔法を発動させるとき、他の魔法には現れない光が放たれることからつけられた、と古い歴史書には書かれていた。
光魔法と言うくらいだから、光に関わる魔法なんだろうとは思っていたけれど、実際には違うのかもしれないな……。
この世界にはそれぞれの属性を司る精霊がいて、その精霊の力を借りることにより魔法が使える。たとえば、火の属性を持つ人は火の精霊に愛されており、逆に水の精霊からは嫌われるため、初歩的な魔法でも使えないことが多い。
ちなみに、無属性の場合はどの精霊にも好かれても嫌われてもいないからどの属性の魔法も使える。
それでいうと、光魔法にも精霊がいるはず。だけど光の精霊の存在は確認されていない。
『我らも光魔法についてはよくわからん。だが、光の精霊がいることは知っている』
「光の精霊がいる……!?」
ディランから与えられたお菓子を大人しく食べていたヴァーリックが口を挟む。
そのセリフにディランが驚いたのと同じく、わたしも驚いた。光の精霊っているんだ。
「リック、光の精霊はどこにいるの?」
『知らん』
にべもない!
まあでも、光魔法自体が珍しいのだし、光の精霊がいるということを知れただけでも収穫なのかも。
「光の精霊が実在するならぜひ会わないと! レベッカ、今すぐレナを連れてきて。……いや、ボクが行く方が早いか?」
「なにをする気ですか……? まさかですけど、光の精霊を探しに行くとか言わないですよね?」
「はあ? なに言ってんの?」
はー、良かった。さすがのディランもそんな無茶は言わな──。
「──探しに行かないわけないでしょ。ほら、早く行くよ」
「ええっ!? ま、待ってください! 探しに行くってどこに!?」
いつになく活動的に外へ出ようとするディランを慌てて追いかけたとき、ヴァーリックがあくびをしながら言った。
『……光の精霊の居場所は知らんが、恐らくレナとかいう娘たちの問題は光の精霊のせいだ』
「え?」
「なんだって? どういうことなの、ドラゴン」
わたしとディランの足が同時に止まり、ヴァーリックに注視する。
ヴァーリックはわたしたちの視線なんて気にしてないようで、人の姿から白いコウモリの姿になり、定位置であるわたしの頭の上に乗る。
『光の精霊がレナという人間を守ろうとしているんじゃないか? 我も詳しくはわからんが、光の精霊は光魔法を扱う人間を他の精霊たちよりも大切にするという。レナの弟はレナに危害を加える存在だと光の精霊たちは認知し、レナに近づかないようにしている……というようなことだと思うぜ』
……なんか適当っぽい。でも、もしヴァーリックの言う通り、光の精霊が絡んでいるのだとしたら、光の精霊を見つけ出して、レナちゃんとルーカスの仲を悪化させるようなことをやめてもらわないといけない。
やめてもらうためには……。
「ドラゴンの言うことが事実なら、まずはレナと弟になにがあったのかを知らないと、どうして光の精霊がこんなことをしているのかわからないね。理由もわからないのに説得なんてできないし」
「そうですね……レナさんとルーカスさん、両方にお話を聞きましょうか」
レナちゃんは言いたくなさそうだったから、無理に聞くのは気が咎めるけれど……あの事故の詳細について知らないと、なにも進まない。
ディランもわたしとは別の理由で気が重たそうだった。
「気は進まないけど……光の精霊に会えるかもしれないし我慢するか……」
憂鬱そうに言うディランに、ふと思い出した。
キラキラとした目をして憧れを語った少年のことを。
「ディランさん……」
「なに?」
「あまり残念なことは言わないでくださいね……特にルーカスさんの方には」
「はあ?」
ボクがいつ残念なことを言ったのさ、と眉間に皺を寄せるディランにわたしは曖昧に微笑む。
頼むから、ルーカスの憧れを壊さないであげてね……。




