表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/137

45:憧れの人


 アンディがいないことがこんなに心細くなる日が来るとは……せめて能天気な空気読めないノアか食欲の化身となりつつあるヴァーリックがいてくれたら…………いや、やっぱりアンディがいい。一番この状況をなんとかしてくれそうだし。


「問題に決まっているでしょう。あなたがレベッカさんに取り入るなんておこがましいにも程があるわ。早く帰って。今後一切レベッカさんに近寄らないで」


 ぎゅっとわたしを抱きしめて威嚇するレナちゃんは可愛い。

 でも、ルーカスに関してはわたしから近づいたんだけどな……。


「……言われなくても帰るさ。ぼくは無理やり連れて来られただけだし」


 まったくもってその通りです……。なんか、申し訳ない……。


 ルーカスはレナちゃんを睨んだあと、わたしに対しては礼儀正しく「では、ぼくはこれで失礼いたします」と一礼をして去っていく。

 見送りをしないと、と彼のあとを追いかけようとしたとき、レナがすごく大きなため息をついてしゃがみ込んだ。


「……はああああ……どうしてこうなっちゃうんだろう……?」

「レナさん……? 大丈夫ですか?」

「見苦しいところをお見せして申し訳ありません……実は私、弟に対してはなぜかあんな物言いしかできなくて……」


 がっくりと項垂れるレナちゃん。

 あれはレナちゃんの本心じゃなかったの……? そうだよね、あんなのレナちゃんのキャラじゃない。

 でも、どうしてあんな態度を取ったのだろう? なにかの呪いかな?


「大変申し訳ないのですが、弟の様子を見てきてもらえないでしょうか……? 私は大丈夫なので」


 そう言ったレナちゃんは心から弟を心配しているように見える。

 ここはレナちゃんの言う通りにして、ルーカスの様子を見に行こう。なんとなく、彼もレナちゃんと同じような気がする……。


 それに、帰りの車の手配をしてあげないと。彼、うちの車でここまで来て、自分が乗ってきた車は返してしまったからね。


 小走り玄関の方に向かうと、ドアの付近でルーカスがレナちゃんと同じようにしゃがんでため息を吐いていた。


「どうして毎回こんなことに……」


 言っていることもほぼ同じ。これは……やっぱりなんかの呪いなんだろうか。それとも魔法の作用? どちらにしてもディランを呼ぶんだ方がいい気がする。


「ルーカスさん」

「レベッカ様……見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


 同じように謝る姉弟になんだか笑ってしまう。

 本人は笑い事じゃないんだろうことは重々承知しているけれど。


「レナさんも同じように謝ってくれましたわ。先ほどのレナさんとの会話は、本心ではないのですよね?」


 そう問いかけると、ルーカスは頷く。


「……はい。怪我を負ったあとから、姉に今のような態度を取ってしまうようになり……姉に会うたびにあのような言い合いばかりなのです」


 だからレナちゃんはルーカスを避けていたのかな。

 それよりも怪我のあとからということは、その怪我が原因なのでは?


 そう問いかけると、ルーカスは首を横に振った。


「わからないんです。いろいろな人に診てもらいましたが、魔法や呪いを掛けたられた痕跡はないと言われて……」

「なるほど」


 やっぱりディランの出番かなあ。

 彼なら張り切って調べてくれそう。でも……ディランでわからないとなると、お手上げだ。これが解決しないと、レナちゃんは魔法を使えるようにならないだろう。


「……ルーカスさんはレナさんと普通にお話できるようになりたいですか?」

「それはまあ……あんな不毛な言い合いはするだけ無駄ですから」

「……なら、まずはディランさんに見てもらいましょうか。彼ならこの状況を何とかできるかもしれない」


 そう言うと、なぜかルーカスは驚いた顔をした。

 そしてわたしにぐいっと近づき、食い気味に聞いてきた。


「ディラン? もしかしてそのディランという人は、ディラン・テイラーのことですか!?」

「え、ええ。そうですけれど……?」

「レベッカ様はディラン・テイラーとお知り合いなんですか!?」

「ええ。レナさんはディランさんに魔法を教わっていますよ?」

「姉さんがディラン・テイラーに魔法を!? なんて羨ましい……!」


 羨ましい?

 も、もしやこの子……ディランに憧れている?


「もしかして……ルーカスさんはディランさんに憧れているのですか?」

「はい! 天才魔法士ディラン・テイラー! ぼくとほとんど年が変わらないのに数々の上級魔法を使いこなすだけではなく、数々の研究成果をあげた天才!」


 ……うわあ、すごい熱い口調……今日一番声張っているんじゃなかろうか。

 確かにディランはすごい。すごいけれど……性格がアレだからねえ……。


「ディラン・テイラーに会えるなんて……! 夢みたいだ!」


 興奮気味のルーカスに、ディランと会わせて大丈夫だろうか、と心配になる。

 憧れのまま、会わないでいた方が幸せなのでは……? 実物に会ったら失望しそう。


 まあ、勝手に想像を膨らませている方が悪いのかもないけれど、数々の功績を出してきた天才があんな嫌味たらしいネクラなんて思いたくはないよね。気持ちはわかる。


 ディランについて熱く語るルーカスに、彼がただ、ディランに失望するだけではなく、生気まで奪わないことをわたしは祈った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ