44:デイヴィス姉弟の仲
レナちゃんがルーカスを避けている──。
それが本当なら、いったいどうして? 怪我をさせた負い目だろうか。それとも本当にルーカスを嫌って……?
いや、ルーカスを嫌っている、というのはないはずだ。たぶん。
レナちゃんはあまり自分のことを話さないけれど、前に一度聞いた弟の話をしたときのレナちゃんの顔は慈愛に満ちた顔をしていた。だからきっと、弟のルーカスのことは大切に思っているはずだ。
本人からちゃんと聞いたわけではないから確実ではないけれど……。
可能性が高いのは負い目を感じているから、かな。
レナちゃんの性格的に一番ありえそう。
「だから、ぼくにはどうすることもできません。お力になれず、申し訳ありません」
まったく申し訳ないと思ってなさそうな顔をしてルーカスはそう言った。
これは……厄介だな……。この調子だと協力はしてもらえなさそうだし……どうしよう。
そろそろ失礼します、と言うルーカスに焦る。
なにか……なにかないだろうか。ルーカスを引き止められるようななにか……もしくはレナちゃんを応援したくなるような…………そうだ!
「──お待ちになって、ルーカスさん」
「なんですか?」
訝しげに尋ねたルーカスにニッコリする。
「家にお帰りになる前に、わたしの家に寄ってくださらない?」
「レベッカ様の家に……? なぜ?」
「レナさんのお顔を遠目からでも見ていかれたらどうでしょう? 心配されているのですよね?」
「そんなことは……」
キッパリ否定しないあたりがいい子なんだよねえ。
ここは強引に押し切ろう。
「さあ、行きましょう。ね?」
「は、はい……」
読み通り、押しに弱い。
よし、このままルーカスを家に連れて行って、偶然レナちゃんと再会させよう。
解決にはならないかもしれないけれど、この状況を打破する一歩になると信じたい。
「では、殿下。わたしたちは失礼いたします」
「ああ」
アンディは不安そうな顔をしている。
そんな心配しないで! 大丈夫。レナちゃんとルーカスを絶対会わせてみせるから。きっとこの姉弟は一度会って腹を割って話をした方がいいと思う。
小さな声で「また連絡するわ」とアンディに告げ、ルーカスを連れて城を出る。
ルーカスは居心地悪そうにずっとしていた。
ごめんね。もうすぐお姉さんに会わせてあげるからね!
家に着き、ルーカスを案内する。
この時間ならたぶんレナちゃんはお茶をしているはずだ。毎日この時間は休憩を取ってもらうようにお茶を淹れてあげてほしいとばあやに頼んでいるからね。
となると、たぶんレナちゃんが泊まっている部屋か、東屋かなあ。
東屋と言っても皇宮にあるような立派なものではない。ちょっとした屋根の下に小さなテーブルと椅子が置いてあるだけのものだ。
ここって一人で考え事するのに向いているんだよね。
今日はどっちかな……魔法の練習するって言っていたから、東屋にいる可能が高いか。とりあえずそちらにルーカスを案内しよう。
そしてルーカスを案内していると、本当に偶然、ばったりとレナちゃんと出くわした。
これはラッキー!
「レベッカさん、おかえりなさい」
「ただいま、レナさん。あのね、今日、皇宮で──」
あなたの弟に会ったの、と言いきる前にルーカスがずいっと前に出てきてこう言った。
「久しぶりだね、姉さん。へえ? レベッカ様に媚び売った甲斐あって楽しく暮らせているようで。……いいご身分だね」
……は? なに言ってるの、この人。
いや、待ってよ。さっきまでレナちゃんのことを案じているようなそぶりしていたのに、どうしてこんな喧嘩腰なの?
どうにかしないと、と必死に頭を回転させていると、レナちゃんの表情が能面のようになった。
そして、ルーカスにこう返した。
「その通りだけど、あなたに関係ある?」
……この姉弟、どうなっているの。
どういう関係なの、この姉弟。レナちゃんの口からこんな冷え冷えとしたセリフが出てくるなんて信じられない……! 実際に聞いた今でも幻聴かな? なんて思いたくなる。
「残念なことに、関係あるんだよね。なぜなら、ぼくはあなたの実の弟になるからね、一応」
一応ってなに? 正真正銘の弟でしょ?
「あら、そうだった? ところであなた、なんでこんなところにいるの? まさか……レベッカさんに取り入ろうとしているんじゃないでしょうね?」
「そうだとして、なにか問題でも?」
……この姉弟仲、バチバチじゃないか……。
ルーカスの言う通りだった……この二人、会わせたらいけない二人だったようだ。
この展開は想像していなかった。
どうしよう……誰か助けて……。
ああ、アンディも連れてくれば良かった……!




