43:思い過ごし
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。アンドレアス殿下、レベッカ様」
礼儀正しくそう言って一礼をしたルーカスは、報告書通りの容姿だった。
健康的な食事を摂っているお陰で人並みの体型になったレナちゃんとよく似ている。さすが姉弟だなあ。
「こちらこそ、急に呼び出して悪かったね。今日は君の姉君のことで話があるんだ」
「姉のこと……ですか」
ルーカスは戸惑った顔をしている。
これは補足をした方がいいかな。
「現在、レナさんは我が家に滞在いただいており、一緒に学園への入学に向けて予習をしておりますの。それで魔法を──」
「姉に魔法を使わせようとしているんですか? やめた方がいいと思いますよ」
ルーカスはわたしの言葉を遮ってそう言った。
彼は感情を読ませないポーカーフェイスでこう続けた。
「姉は魔法を使うのに向いていません。学園に入るのも時間の無駄だと思います」
そこまで言う?
それは昔、レナちゃんのせいで大怪我を負ったルーカスからしてみれば、レナちゃんに魔法を使わせるのは恐ろしいことだろうけれど……。
「勉強もろくにしていないのに、そう決めつけるのは早計ではありませんか?」
「姉が魔法を使うのに向いていないのは確かですから」
取り付く島もない!
そんなにレナちゃんのことが嫌いなの? 実の姉なのに……。
「……ぼくは昔、姉の魔法で大怪我を負いました」
「だから、レナさんに魔法を教えるのは反対なさっている?」
「いえ、違います。姉が魔法について学ぶのいいと思います。でも……魔法を使うのはだめなんです」
……はい?
魔法について学ぶのはいいけれど、魔法を使うのはだめ……? それってどういう意味?
「姉は特殊な体質で……本人の意思に関わらず傍にいる人の魔法威力をあげてしまうようです。そのせいでぼくは魔力暴走を起こしかけ、止めようとした姉の魔法で大怪我を負いました。あの人は優しい人ですから、また魔力暴走を起こすことがあったら、自分を責めるでしょう。そうしたら今度は魔法が使えなくなるどころではなくなるかもしれない……だったら今のまま、魔法を使えずにいた方がいい」
ポーカーフェイスのままだけど、ルーカスは彼なりにレナちゃんのことを考えているんだな。だからこそ、魔法が使えなくていいと言うんだ。
彼がレナちゃんのことを恨んでいる可能性も考えてはいたけれど、この様子ならそれはなさそうだ。それはそれで良かった。
でも……逆に厄介かも。レナちゃんのことを想うからこそ、協力できないと言われてしまいそうだ。
いや、でもアンディの事前情報では、ルーカスは典型的な貴族のような性格だという話。その情報に間違いがなければ、アンディが頼めば応じてくれるだろう。
……まあ、その情報自体が少し怪しくなってきたけれど……。
アンディに目配らせをすると、彼は頷いた。そしてルーカスに話しかける。
「ルーカス、君の姉君は久方ぶりに現れた光魔法の使い手なんだ。今、魔獣が増えているのは君も知っているだろう? この状況で光魔法があればどれだけの人を救うことができるか、想像に難くないと思う。だからこそ、レナ嬢には魔法が使えるようになってもらわなければならないんだ。そのためにぜひ君に協力してほしい」
皇子様にここまで言われて断わるなんて、普通の貴族はできない。
そのはずなんだけど……嫌な予感がする……。
「恐れながら、ぼくではお役に立てないかと思います」
──断った!
ちょっとどういうことなの、アンディ!
事前情報と性格が全然違うじゃないの!
……というような文句の意を込めてアンディを見ると、彼も戸惑っているようだ。
ということは……アンディもあの報告書通りの性格だと思っていたのね。つまり、報告書の情報が誤っていたと……。
それって結構問題なのでは?
まあ、今は報告書の精度のうんぬんよりも、ルーカスの説得が重要だ。
「そんなことありませんわ。ルーカスさんの応援こそがレナさんの力になるでしょう」
「それは絶対にありえません」
キッパリと、堂々答えたルーカスに一瞬言葉を失う。
その自信はどこから来るのだろう……?
「……どうしてそう言いきれるのです?」
「姉はぼくのことを嫌っているからです」
……はい? レナちゃんがルーカスのことを嫌っている……? そんなバカな……。
「……思い過ごしでは……?」
「思い過ごしではありません。ぼくは姉に嫌われています。ぼくはここ数年、姉にずっと避けられているのですから」
ルーカスの言葉にわたしとアンディは顔を見合わせた。




