42:ルーカス
まずはルーカスについて調べる。
できるだけ早く彼に接触し、レナちゃんの心の傷を癒すまではいかなくても、少しだけでも心が軽くなるような話をしてもらわないと。
問題は……彼が両親と同じようにレナちゃんを疎んでいた場合、だ。その場合はレナちゃんとルーカスを会わせても逆効果になる可能性が高い。
そもそも、どういう経緯でレナちゃんは弟に怪我をさせてしまったのだろう。言いたくなさそうだったからレナちゃんには聞かなかったけれど……その経緯によっても対応は変わるかもしれない。
とにもかくにも彼に会わなければ話は始まらないけれど、それにはある程度彼についての情報も必要だ。
残念ながら、ゲームでは主人公ちゃんの弟の出番はなかった……と思う。弟がいることは描かれていた……気がするけれど、弟が登場したことはない……と思う。
歯切れ悪いのは記憶がないからだ。
このゲームの話自体、曖昧にしか覚えてなかったからね……詳細な情報はまったく記憶にない。
つまるところ、ルーカスについて知っていることはほとんどない。だから、情報を入手しないと。
その情報に関してはアンディに頼んでいるから、きっとすぐに手に入るだろう。使えるものは皇子様だって使ってやる。
まあ、アンディがルーカスと親しければそんなことしなくてもよかったんだけど……デイヴィス家は下級貴族に属しているから、皇子であるアンディとは現時点で接点すらないので親しくなりようがない。
一日もかからず、アンディからルーカスについての情報が届いた。ご丁寧に最近の写真までついている。
ルーカス・デイヴィス。デイヴィス家の長男で、少し傲慢なところが鼻につく十三歳。あ、もうすぐ誕生日みたい。
レナちゃんと同じ色の薄い金髪に、春の空のような淡い青色の瞳。少し勝ち気そうな口元に彼の傲慢さが現れているよう。
うーん、顔がいい……これなら攻略対象者になってもおかしくはなさそう。実は主人公とは血の繋がりがなくて……みたいな展開がある年下枠。ありえそうだけど、記憶にないんですよね……。
まあ、アンディの調べだと彼とレナちゃんは血の繋がった姉弟だ。容姿も似ているしね。
性格は何度も言っているけれど傲慢。自分より弱い相手には強気だけれど、強い相手には媚びへつらう。典型的な悪い貴族のような性格……。
いや、でもこの報告書、なんとなく悪意がある気がするな……嘘はついてないけれど、ちょっと誇大して伝えているような……気のせいかな。
報告書のお陰でルーカスの基本情報は手に入った。強い者に弱いというのなら、わたしに対しても弱いだろう。だってわたしの家の方が身分高いし! それにわたしは第二皇子の筆頭妃候補。わたしにも媚びてくるに違いない。
あとはルーカスと会って、彼を丸め込んでレナちゃんの心の重りを少しでも軽くしてもらうだけ。
問題はルーカスと会う方法だけど……まさかデイヴィス家に乗り込むわけにはいかない。
となると、ルーカスがよく足を運ぶ場所を調べて、偶然を装い会う──というのがいいのだろうけれど、まどろっこしい。
ここはアンディの名前を使って彼を呼び出そう。
名前は使っていいって本人の許可はもらっているし、皇子の頼みを断るなんてことはきっとしないだろう。……ディランならわからないけれどね。
「……それで? 僕の名前を勝手に使ってルーカスをここに呼び出したと?」
「ええ、そうなの」
ニコッと作り笑いを浮かべたわたしに、アンディは半眼を向ける。
やだー、こわーい。
「確かに名前は使っていいとは言ったけどね……僕の都合も考えてほしいな」
「あら、あなたの都合も考えたうえで今日にしたのよ? だから事前に会う約束をしたんじゃない」
「ルーカスが来るとは聞いていない」
「そうだった?」
ごめんあそばせ、と言うとアンディは深いため息をついた。
「そもそも、ルーカスが大人しく彼女を勇気づける言葉をかけるかどうかもわからないのに」
「やってみなくてはわからないわ。なにごとも挑戦あるのみ!」
「挑戦するのは勝手だけど、僕を巻き込むのはやめてくれ……」
ごもっともだけれど、わたしだけじゃ弱い気がしたんだよねぇ。ダメ押しでアンディからも頼めばなんとかなると踏んでいる。
そんな話をしていると、ルーカスが来たと衛視が伝えに来た。
アンディはもう諦めたらしく、「通してくれ」と言う。
いよいよルーカスとのご対面。
絶対にレナちゃんを勇気づけさせてみせる!




