37:悪役令嬢っぽい
そして迎えたお茶会当日。
同級生となる貴族令嬢の皆さんを招き、おもてなしをする。
次々と招待客が到着する中、レナちゃんの姿は未だない。
ドタキャンとかないよね……? さすがにうちに喧嘩を売るようなことはしないと思うけど……。
少し心配になってきたとき、「レベッカさん」とレナちゃんの声がしてホッとする。
よかった、来てくれた!
笑顔でレナちゃんを見て、「ようこそ、おいでくださいました」と言おうとしたのだけど──。
レナちゃんの姿を見て、思いっきり固まった。
レナちゃんは乙女ゲームの主人公らしい、とても可愛いらしい容姿の女の子である。
しかし、今わたしの目の前にいるのは……ものすごくケバい女の子だ。
来ているワンピースは体型に全然合っていないのを無理やり合わせていて、化粧もレナちゃんの顔の良さを隠すかのように厚く濃く施されている。チークも濃すぎだし、口紅の色もレナちゃんには似合っていない。まるでおかめみたい。
ワンピースもかなり前に流行した形や柄だし……もしかして、母親のお古なんだろうか。
というか、なにを思ってこんな姿にしたのか。レナちゃんの評判を落としたいの?
「あ、あの……レベッカさん。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
挨拶を口したレナちゃんにハッとする。
招待した他のお客様がレナちゃんを見てこそこそとなにか言っているのを感じる。
いけない。この場にいるのはみんな学園に通う人たちだ。このままだとレナちゃんが浮いてしまう……!
スっと息を吸い込む。
落ち着け、落ち着くんだ。まずはレナちゃんをなんとかしないと……!
近くにいた給仕係から水をもらって一口含む。
オロオロとしているレナちゃんにわたしはニコリと微笑みかけ、そして──バシャリと水をかけた。
レナちゃんは驚いた顔でわたしを見つめる。
周りもますますザワザワする。
レナちゃんに対して罪悪感でいっぱいだ……ごめん、本当にごめんね。でも、その姿でお茶会に参加させるわけにはいかないの。流行も知らない芋娘って思われてしまうから。
「──あら、ごめんなさい。手が滑ってしまいましたわ。わたしったら緊張してしまったのかしら……? 本当にごめんなさいね、レナさん。今、着替えの用意をさせますから」
近くのメイドにレナちゃんの服の用意と化粧直しをばあやにしてもらうように頼む。
わたしは主催側だから、ここを離れるわけにはいかない。ばあやならきっとレナちゃんに似合う服と化粧をしてくれるだろう。頼んだ、ばあや!
レナちゃんはメイドに連れられて別の部屋へ移る。それを見送りながら、わたしは再び笑顔を作る。
「皆様も、お騒がせして大変申し訳ございません。しばしの間、ご歓談くださいませ」
そう言えば、皆興味を失ったかのようにお喋りを再開させる。
なんとかなったかな……。ああ、このことでわたしは性悪女として陰口を叩かれるようになるかもしれない……まあ、気にしないけれど。そんなの気にしていたら皇妃になろうなんて思わないし!
……って、開き直れたらよかったなあ……。
でもまあ、舐められるよりはマシか。ちょっと近寄り難いくらいでちょうどいいのかも。
そんなことを考えながらお客様の相手をしていると、着替え終わったレナちゃんがやってきた。
レナちゃんに似合う柔らかいピンク色のワンピース。胸元も袖にあるレースが可愛いらしい。ちなみに、わたしのワンピースです。わたしより似合っているんだから、もうこれレナちゃんにあげようかなあ。
化粧も先程みたいな分厚さはなく、薄めのナチュナルメイクに変えられている。うんうん。このくらいの年頃はファンデーションとおしろいで肌を塗りつぶすのではなくて、若いツヤツヤの肌を見せる化粧がいい。今しかできないからね、そういう化粧。
「レベッカさん……あの……」
「まあ! レナさんはこういう淡い色合いの服がとてもよくお似合いですのね。素敵な発見をしてしまいましたわ」
そう普通のボリュームでレナちゃんに言って、耳元で「水をかけてしまって本当にごめんなさい」と謝る。
レナちゃんはふるふると首を横に振る。
「そんなこと……レベッカさん、お洋服を貸してくださり、ありがとうございます」
「いいのですよ。わたしのうっかりミスのせいですもの。このくらい当然ですわ」
うっかりじゃなくてわざとだけどね!
目でアイコンタクトを送ると、レナちゃんに上手く伝わったのかわからないけれど、彼女は少し恥ずかしそうにはにかむ。
可愛いな~! さすがは主人公ちゃんだ。
この笑顔を向けられていることが誇らしい。
そんな感傷にこっそり浸っていると、背後から声がかけられた。
「──楽しそうになにを話しているのかな」




