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34:魔法教室


 翌日、わたしは「研究室から出たくない……」と駄々をこねる引きこもりのディランの襟首をノアに持ってもらい、意気揚々とレナちゃんの元へ向かった。


 駄々っ子ディランはヴァーリックの変化したグリフォンの上に乗ったことで大人しくなった。


「ドラゴンは鱗があるはずだけどどう考えても羽毛の触感だ……どうなっているんだろう」などとブツブツ呟き、ヴァーリックの背を撫でたり叩いたり羽毛を抜いたりして楽しそうだった。

 やられていたヴァーリックは怒っていたけどね!

 でも、例のごとく食べ物を与えたら大人しくなったので、このドラゴンは扱いやすい。


 レナちゃんの家の近くで降りて、彼女の家に忍び込む。その様子にディランはドン引きしていた。

 不法侵入と呟く彼の口をノアに塞いでもらい、ついでに脇に抱えてもらって、レナちゃんの住む小屋に行く。


 ノックをするとレナちゃんが顔を出す。

 相変わらず細くて青白い顔。ちゃんと健康的な食事をとってもらわないと……今日は用意してきたけどね! 長持ちする食べ物やお菓子をもう少し持ってきてもいいかもしれない。


「ごきげんよう、レナさん」

「あなたは確か……レベッカさん……?」

「ええ、覚えていただけて嬉しいわ。今日はわたしのお友達を連れてきましたの」


 ディランさんです、と彼を紹介すると、ディランは「はあ?」と嫌そうな顔をした。


「誰がキミと友達だって? キミと友達になった覚えはないし、なりたくもないね!」

「まあまあ、そうおっしゃらないで。仲良くしましょう!」

「近寄るな! ポンコツが伝染る!」


 酷い! 確かに魔法に関してはポンコツですけれども、それでもそんな言い方はないと思う!


 言い争うわたしたちにレナちゃんは戸惑っている。


「あの……本当にお友達なのですか……?」


「友達ですわ!」

「友達じゃない!」


 見事にハモったわたしとディラン。これはもう友達といっても過言ではないのでは?

 言ったことは正反対ですけどね!


 ここで友達だ友達じゃないだと言い争っていても埒が明かない。

 仕方ないので、ここはわたしが引き下がろう。精神的にわたしの方が大人なはずだし。


「わたしは友達だと思っているのですけれど……でも、ディランさんとわたしが知り合いであることは間違いありません。それに、ディランさんは魔法についてとても詳しいのですよ」

「魔法について……?」


 レナちゃんは不思議そうにディランを見た。

 ディランはフンと感じ悪く鼻を鳴らし、「コイツ、天才であるボクのことを知らないのか?」という顔でレナちゃんを見返した。

 嫌なやつぅ!


「落ち着いて話がしたいので、家に入れていただけないでしょうか?」

「あ、はい……あっ、でも、レベッカさんたちが居てもいいような部屋じゃなくて……」

「わたしはどのような部屋でも気にしませんわ。もちろん、ディランさんも。彼の部屋は足の踏み場がないくらい汚いので」

「おい、ドラゴン娘。ボクにケンカ売っているのか?」


 ドラゴン娘ってなに!? ヴァーリックの主だから!?

 わたしにはレベッカという名前があるのに、本当に嫌な奴だな、ディランは!


 しかし、そんな挑発に簡単には乗らないのが大人。

 軽く微笑んで「あら、そう聞こえたのならごめんあそばせ」と澄まして堪える。


 とにもかくにも、レナちゃんの住む部屋に上がることができたわたしは、その部屋を見て呆然とした。

 部屋自体は綺麗に片付けられている。でも、そこかしこに穴が空いていて、それをいろいろ工夫して塞いでいる。

 隙間風も結構入ってきて、これでは夜になればかなり冷えるだろう。


 この感じでは雨漏りもしているのではないだろうか。ゲームの主人公の暮らす家がこんな劣悪な環境なんて……なにかのバグでは? と疑いたくなる。


「酷い部屋だな」


 取り繕うことを知らない男はそう言った。

 もう少し言い方がないのだろうか。無神経だ!

 レナちゃんは恥ずかしがって俯いている。それはそうだろうな……だからわたしたちを上げるのを躊躇ったんだ。


「だがまあ……この程度なら、魔法を覚えれば簡単に修繕できる」

「……え?」


 俯けた顔を上げ、レナちゃんは驚いた顔でディランを見る。

 ディランは得意げな顔をしてこう言った。


「──この天才ディランが直々に魔法を教えてやるんだ。大船に乗ったつもりでいればいい」


 レナちゃんは困った顔をしてわたしを見る。

 わたしは軽く頷いて優しく声をかけた。


「この国の貴族にとって魔法を使いこなすのは必須。ディランさんは魔法のスペシャリストですもの、きっとすぐに魔法を使えるようになりますわ。そうすれば、今までできなかったいろいろなことができるようになる。それって、とても素敵なことでしょう?」


 わたしもお付き合いしますから、と言うとレナちゃんは少し悩んだ様子だったけれど、意を決したようにわたしを見て頷いた。

 そしてディランに頭を下げた。


「よろしくお願いします、ディランさん」

「任された」


 そして、ディランによる魔法教室が始まった。


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